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0 プロローグ
――知は力なり。(フランシス・ベーコン)
――フユちゃんは賢いね。だから賢さの使い方を間違えちゃいけないよ。
これは小学生の頃の担任の言葉。優しい先生だったけど怒ると怖かった記憶がある。
――知性とは本来的に罪なんだよ。知恵の実を食したアダムとイヴは、楽園を追い出された。
これは叔父さんの言葉だ。当時十歳のわたしにはよく分からなかった。
決して届かない、柊木冬の片想い相手。それが幼馴染の同級生、桜町春。
怖いとき、不安なとき、転んで怪我をしたとき、彼は優しく手を握って、わたしを安心させてくれた。
でもハルは、わたしの姉、セツカちゃんのことが好き。
姉は東京の大学に進学して、今はもう、この町にはいない。
三角関係の頂点が一つ欠けた今なら――
普通の女の子なら、考えてしまいそうなこと。狡くて、卑怯かもしれないけれど、そう思えるってことは、わたしの恋心は本物だってことだ。
自分に言い聞かせる。
わたしはどこにでもいる普通の少女なのだと。
「ふわあ」
欠伸をして、自室のベッドで目を覚ます。まだ寝ぼけた眼を、猫のように擦る。
(ああ、今日もハルにお弁当を作らなくちゃ)
ハルを振り向かせるチャンスは、セツカちゃんがいない今だけなのだ。




