8・まだ、違う
『また、別の魂を召喚したら良いじゃない』
――自分の言葉が、頭の中で反芻される。
なんて無責任な言葉を言ってしまったのだろう。
“別の魂”⋯⋯他人の事など、何も考えていなかった。
自分が嫌になる。
「⋯⋯ごめんね。今の言葉は⋯⋯」
「そんな事言わないでくれ」
魔王が遮る。それに慌ててしまう。
「うん、ごめんなさい。次に入る魂のこと、何も考えていなかった。でも本当に軽い訳じゃ――」
「エリーはお前でなければ駄目だ」
「⋯⋯え?」
驚きに目を瞠る――なぜか、魔王も目を瞠っていた。
そしてゆっくりと片手で口を覆い、こちらを見た。
見詰め合う間に流れる沈黙が、妙にむず痒い。
「⋯⋯中身、誰でもいいはずじゃなかったの?」
「⋯⋯」
「⋯⋯?」
「⋯⋯」
「⋯⋯??」
――あれ、これは石か何かかな?
「あのー、聞こえてる?目乾くよー?」
固まっている魔王の顔の前で、手をヒラヒラとさせてみる。
「⋯⋯は、あああっ!!すすすまない!!忘れていた仕事を思い出した!!」
「ひぃ!!びっくりした!!」
突然そう言い放つと、ザッ!と勢い良く立ち上がり、回れ右をして扉へ歩き出す魔王。
「とにかく!!また決まったら伝える!!」
「ねぇ、手と足同じ方向出てるよ?」
「修行の一環だ!!」
「そうなんだ」
もしかして、照れている⋯⋯?そうだとしたら分かりやす過ぎる。
⋯⋯エリーの中の魂は“私”が良い。そう思っていると受け取って良いのだろうか。
“私”自身を必要として貰えるなら――それは、すごく嬉しい。
魔王が出て行った扉を見詰めながら、そう思った。
***
――なんなんだ、これは!!!!
魔王は廊下を速歩する。
先程エリーへ言い放った、己の言葉が信じられなかった。
完全に無意識だった――故に、その言葉が真実であると、まざまざと突き付けられたのだ。
『⋯⋯そうなったとしても、新たな魂を用意すれば宜しいのでは?』
『⋯⋯また、別の魂を召喚したら良いじゃない』
アスタとエリーの言葉が耳に響く。
それをかき消すように何度も頭を振る。
いや――確かにそうだった。
元々、周りの奴らが、見合いだなんだとしつこかったから⋯⋯嫁代わりに、好みの生き人形を作ったのが始まりだったのだ。
その人形を可愛がれば、変な話も来なくなるだろうと⋯⋯だから、中身など誰でも良かった。手短で、害のない魂であれば。
――だが、いざ分離するかもしれないとわかった時。
あの表情や仕草、歩き方⋯⋯呼吸の仕方さえ、全てが変わってしまうと考えたら。
何としてでも失いたくない――そう思ってしまったのだ。
この気持ちはいったい何だ。
執着とでも言うのだろうか⋯⋯
自室へ入り、寝台に身を投げ出す。
「⋯⋯逆に、あの外見でなければ、どう思うのだろうか⋯⋯」
目を瞑るが、エリーの不安で潰れてしまいそうな――あの瞳だけが、離れない。
それと同時に胸の奥底に、くすぐったいような痛みを感じる。そしてそれは、喉元を詰まらせた。
「⋯⋯⋯⋯はぁー⋯」
息苦しさを吐き出す。
――いや、違う。
こんなものは、ただの執着だ。
消えるかもしれないとなれば、惜しく感じるのは当然。
我が手を掛けた器だ。情が移っただけに過ぎん。
バサリと絹の布団に潜るも、暫くは頭の中で答えを探し続けていた。
気付けばいつの間にか、空が白んでいたのであった。




