十三言目 責任能力
精神疾患の話をします。
s よくニュースで鑑定留置いう言葉を耳にしますけど何故そんなことをやる必要があるのですか。現行犯ならそのまま裁判にかけても良い気がしますけど。
k よく話題になる鑑定留置という言葉はエピソード2でも語ったように、犯罪を犯す意思が認められなければ原則として無罪となる原則を確認するためのもの。たまに聞く過失致死とか過失傷害は防げたはずのことを己の怠慢で起こしたから処罰されるから怠慢がなければ処罰はない。例とすれば運転でスピード違反で人を轢いたら過失致死傷罪で安全運転でそれが起きれば無罪だ。
s 推定無罪の原則はここでも生きるのですか。
k 裁判で有罪判決が確定するまでは無罪の扱いだよ。鑑定留置は相当厳しくて、まず本人の聞き取りから始まって家族への聞き取り、友人への聞き取り、職場への聞き取りなど多くの人に聞き取りを行い二十四時間体制で本人の様子を確認する。詐病は極めて困難でそれぐらいの確認だからドラマで見る精神病を偽って無罪でのうのうと暮らす……という展開はないに等しいよね。
s でも詐病で騙しきったら無罪になるんですか。だとしたら精神疾患でも有罪にすべきでは?
k なってしまうのが今の司法。でも考えてご覧。自分の意思で行ってもいないのに勝手に有罪にしたって反省は促せない。それが大多数でそれを処罰するのは意味がない。詐病は許されないが、もしあったとしても無罪判決が確定すれば一事不再理の原則で有罪の再審にはかけられない。前提として詐病は現代においてまずありえないから詐病のことは気にしなくて良い。
s 精神病患者が危ないというイメージがありますけど、心神喪失者は罰しない規定が関係しているのですかね。
k ズルい、という感覚があるのかもね。ちなみに精神病の割合では事件で話題になる統合失調症はパターンが色々あって、うつ病と似ているものもあるしで千差万別。というか精神疾患全体に言えることだけどそういう人が犯罪を犯すということ自体極めて稀で大半の人がまず行動を起こす気力が蝕まれているから相当他人に気にかけられていない限り、まずそこまでの状態であれば入院できる。
というか精神疾患は日本で診断されているだけでも400万人いる。だから身近な存在ではあるしうつ病とかみたいな動くのがまず無理みたいな病気もあるし、犯罪を犯す精神疾患の人はほとんどいないよ。
もちろん放っておいたら悪化する危険もあるから犯罪が起きたとすれば社会全体が見放していたという事実が突きつけられているということでもある。そういう意味では心神喪失者は保護されていれば未然に防げるもので精神疾患患者を否定してはならないよ。
s となると精神疾患患者は基本的に無罪なんですか?
k 精神疾患だからといって無罪というわけではない。「心神喪失」という状態にあるかどうかで決まる。これは裁判官が決める。ちなみにだけど大半は検察が不起訴にしているパターンばかりだから心神喪失を争う裁判はあまりない。話を戻すと、例えば癲癇(脳の電気信号の異常で起きる発作)という脳の疾患がある。本人の意思で起きるわけではない。だが運転免許取得のときにで発作の事実を隠して運転免許を取得して運転して事故を起こして歩行者を大怪我させたらどうなると思う?
s 有罪でしょ。
k そうだ。過失運転致死傷か悪質であれば危険運転致死傷罪が適用される。この喩えは脳の疾患だったけど精神疾患についても同じことが言える。それに犯罪当時にどういう状態だったかが問われる。精神疾患でもその時に症状があったと認められなければ罪を問われる。大事なのは犯罪を犯すか犯さないかを選択できるのに犯すを選択して罰するのが刑法で選択できなかったかどうかを調べるのが鑑定留置ということなんだ。少年法の回でも語ったけど、刑罰は更生と報復の意味があるが責任能力がなければ刑罰を科しても意味がない。刑期が終わればそのまま社会に出て罪を犯したことへの理解ができないまままた繰り返すかもしれない。だとしたら別の処置を施すべきではないかな。刑法が心神喪失者を罰しないから怖いのではなく社会のために何ができるかを考えていく必要がある。
s 精神疾患が悪いというわけではないのはよく分かりました。それにいつ自分が精神疾患を発症するかわかりませんしね。
k 精神疾患は僕にとって国民病の一つだと捉えている。国が対策していっていく必要がある重要な傷病の一つだ。犯罪を犯すかもしれないから対策するということではなく、一人の人間の幸せを願って国は対策してほしい。精神疾患は誰でもなる。それは自力では治せない。それをみんなにも理解してほしい。精神疾患が悪いというわけではなく、彼らを放っておいた僕ら社会に一因があるということを理解しておきたい。
s でも犯罪被害者からすれば本当にやるせないと思います。
k 国は給付金などで対応はしているが充足していないと感じる。もちろん、民事裁判で保護者(家族に限らずその人を監督すべき人、病院であれば医師や看護師、病院そのものなど)に損害賠償を求めることができる。その人にはその傷病者が犯罪を犯すことを予見できる立ち位置にあるから対策をしていて防ぎようがなかった場合でなければその保護者に損害賠償できる。
しかし、犯罪被害者に自分で裁判を起こせとか気力的にも知識的にも無茶な話で、国は日本司法支援センターや犯罪被害者支援団体などと協力しながら犯罪被害者を支援する義務を負っているからさらなる犯罪被害者への支援が求められている。責任能力無しで無罪になったとしてもその人は自分のやったことを考え続けていく。この問題は彼らだけの問題ではなく、社会がこの問題の重さについて考えていくべきだと思う。心神喪失者による犯罪被害は防げるし支援もできる。
一人だけの問題ではない、いつどっちになるか分からない現代社会で精神疾患患者による加害者側と被害者側を未然に防ぎどうやって支援するか。起きてしまったらどうやって更生や被害者支援をするか。お金以外での様々な支援方法など考えなければいけないことはたくさんある。考えることを止めるのは止めてほしい。考えるだけでもそれは社会に対する幸せの向上だと思うから。
重い話です。批判があれば受け付けます。




