九言目 緊急事態条項
一ヶ月くらい経ってしまいました。本当にすみません
s 結構久しぶりになってしまったけど最近は改憲議論がすごいよね。
k 物価高対策のほうがもっと重要だとは思うが……今回なされている議論は自衛隊の明記と緊急事態条項の追加だ。
s 自衛隊の明記は議論が割れそうですけど、緊急事態条項って何なんですか?
k 簡単に言ってしまえば政府が法律を国会の審議無しで出せるものだ。
s 今と変わらないじゃないですか。自◯党が三分の二の議席を持っているし衆議院でいくらでも法案を再可決できるじゃないですか。
k 本来であればそれすらも三権分立を危うくする相当まずい事態なんだけど。今回審議されているのは大規模災害や戦災によって国会が動けない状況になったときに国会議員の任期を延長できるようにするというものや、政府が法律と同じ効力を持つ緊急政令を出せるようにする。などの議論が白熱しているよ。僕から言わせてみればはっきり言って歴史を学んでいない感覚があるね。
s 歴史を学んでいないってどういうことですか?
k ナチスドイツは民主主義から生まれている。その大きな原因とされるのは緊急事態条項。当時、ナチスと対立していた共産党を大統領の緊急事態条項発動によって排除したんだ。ナチス党と利害が一致したからね。これによってナチスを阻む政党は消えて国会で過半数を奪い取れたという経緯がある。現在のドイツではその事もあって色々厳しくなったけど。緊急事態条項はそんな歴史を持つのだから任期を長くするというのはそれだけでも独裁政治に近づく危うさを孕むんだ。
s でも実際に大規模災害で選挙ができなくなったらヤバくない?
k 憲法が想定していないとでも?参議院の緊急集会を内閣は召集できる。参議院の全員が同時に改選されない理由はそれだ。緊急集会でできた法案は国会と同じ権限を持つ。そしてそれは緊急のものであるから改めて国会で審議されて承認されなければ無効になる。緊急集会は過去に二回あるけど全部承認されている。このことを踏まえて、緊急事態条項そのものに意味があるのかという議論もある。
s そういう意味では二院制でも意味はあるんだね。
k そうだね。一院制では緊急事態条項があることが前提になってしまう。そもそもの話、立法権(法律を作ることのできる権利)は国会だけが有する。政府が暴走しない内容にするためにね。
s どういう意味ですか?
s 政府が自由に法律を作れたら裁判所以外に政府は止められない、それどころか憲法は無効という法律も作れる。これは極論とかそういう話ではなく実際にナチスドイツの全権委任法にあった内容だ。そうなったら権力は完全に暴走する。それを防止するために法律を作る権利とそれに基づいて実行する権利は完全に分離させてある。緊急事態条項は確かに必要かもしれないが、もしあるにしても国会がそれを制限する力を強力にしなければならない。それほどに政府が自由に法律を作れるというのは諸刃の剣の権利なんだ。
s 権力の暴走は本当に恐ろしいですね。
k そのとおり。憲法事態が権力の暴走を抑えるものなのにその憲法に権力の制限を外す機能をつけてしまうと本末転倒。政府がマジで独裁者を作れてしまう。実際に過去にあった出来事を繰り返さないわけがない。人間はろくに過去を学ばないのだから憲法で最初っから暴走しても抑える機能を憲法というシステムに組み込んである。三権分立の釣り合いを取るためにも絶対に緊急事態条項は軽々しく使ってはいけない。
緊急事態条項があるにしても国会が政府に委任するというような制度(衆議院と参議院の総議員の三分の二以上でなど)にして、いつでも国会や裁判所がそれを中断させたり緊急政令を無効と審判する権限を作らないとならない。自衛隊と政府の関係も政府の命令より、国会や裁判所の判断が上になるようにするほうが良いだろう。そして前提に緊急集会で解決できる議案であれば原則として緊急事態条項は禁止という条項も必要なはずだ。そして一番重要なのは例え緊急政令であったとしても憲法に反するものは無効という原則を堅持すべきだ。
s もはや使えないような気が……そんなに国会や裁判所の権限を強くして良いのですかね?
k それぐらいに緊急事態条項は権限が強いんだ。歴史的に見てもね。そもそも大規模災害があったとしても大丈夫な体制を作って欲しいものだけど。
s 三権分立は本当に重要なのですね。
k 民主主義は三権分立から生まれるからね。三権を一人が有する政府はファシズム(全体主義)と変わらない。緊急事態条項なんてあってもろくなことに使わない気がするんだ。最初は役に立っても最後は悲惨な結果になる。韓国の戒厳令事件もそうだけど国会を大統領一人の権限で制圧できそうになっていた。国会議員が必死に抵抗したから最悪の事態は避けられたけど下手すれば韓国は民主主義を喪失していた。戒厳令ですら相当厳しい審議のもとで発動される。それがたった一人の判断でああも悲惨な結果になったのだから日本が全く同じことをしないとは言い切れない。国民性があるから大丈夫だとか油断していたら本当に痛い目を見ると思う。緊急事態条項は正規の手段で発動されるとは限らない。それを踏まえたうえで徹底的に審議しないといけない。
数の暴力で議論してはならない。きたる選挙でそれを真剣に考えてほしい。それが僕ら国民にできる最強の手段だから。
新聞の社説のように書いています。多くのご意見お待ちしております。この小説は一つの意見として感じ取ってくれると嬉しいです。
余談ですがエピソード3にある回にもあるように憲法は国民ではなく公務員と天皇、国務大臣、国会議員などが守るものと言うことを忘れないでほしいです。




