本物の樹に出会う
「頭痛っ!」
起きたら頭痛がした。理由がすぐには思い出せなくてベッドに再び横になる。
ああ昨日飲んだんだった。
もう外は明るい。今何時?
おはよう 咲
ん,誰?誰かいるの?
アンセ 持ってきた
咲 一緒
よく見ると窓際に黄色い花を咲かせた時計草がいる。アンセは時計草もくれたんだ。全然覚えていない。
「おはよう!ん?もう黄色ってことはそろそろお昼?寝過ぎちゃった…」
かなり寝たはずなのにまだ頭が働かない。こんなに寝たのは学生以来だ。
起き上がって何とか一日を始めようと気持ちを整える。
そして時計草と目が合う。時計草はこれから毎日の相棒になるから名前があった方がいいよね!
部屋で唯一お話しできるお友達だ。安易だけど時を刻んでくれるトキ…
「トキ…名前トッキーってどうかな。」
トッキー 嬉しい
良かった、喜んでもらえたようだ。
起きてまずはクノーの実を一口食べる。
それからエネールの実も切り分ける。見た目通りの綺麗なオレンジ色の果実の中にアボカドのような大きめのタネが真ん中に入っている。
食べると元気になると言っていたが、エネールの性格そのものだ。
一口サイズにしたエネールを食べてびっくりする。とっても甘いオレンジのような味がパチパチキャンディのように口の中で弾けたからだ。
これはジュースにしたり、ジャムにしたりしても面白いかも。砂糖やハーブを買ってきて色々試してみよう!
段々楽しみになってきた。やっぱり美味しいものの事を考えるのは楽しい。
で、肝心の朝飯は…
アンセの家!
「お邪魔しまーす」誰もいないと分かってても一応声をかけて入る。
机には私の分と思われるご飯が残っていてメモ書きが一緒にあった。朝飯をありがたくいただきながらメモを読む。
『おはよう、昼飯食べていけ。今夜、青の花が満開の頃スクエアの時計台集合。ちゃんとした服装で来いよ。』
昼飯って…起きる時間を読まれてる。
今日の夜は外食かあ。
ちゃんとした服を着てこいということは素敵な場所に連れて行ってもらえるのかな。
そうだ、服を買いに行こう。
ご飯を食べてお皿を片付けるとスクエアに向かった。まずは樹の館で住民登録してお金を手にしなくてはならない。
風通路を降りてスクエアを左に行くと樹の館に着く。どちらの建物に行けばいいのか一瞬迷ったが、ガラスのドアが半開きになっていた右の建物にそっと入る。
樹がどんな人なのか聞いてくればよかった。せめて性別くらいは知っておくべきだったかもしれない。探すべき相手が分からないことを今更思い出して、途方に暮れる。
建物に入って一番手前の部屋はガラスの壁で中が見えるようになっている。
誰もいないけど『どなたでも、いつでも相談に来て下さい』と書いた札がドアにかかっている。
その先にもいくつか部屋があって突き当たりの階段を登ろうとすると女性が掃除をしていた。
その人が振り向いた瞬間、その人が樹だと分かった。
目の色とかではない。
直感的に分かったのだ。
「はじめまして。昨日天界に来た、咲です。登録に来ました。」
挨拶をすると相手も笑顔で返してくれる。
「ようこそ。待っていました。お部屋へどうぞ。」
最初に見たガラスの壁の部屋に案内された。
「咲さん、名前どうしますか。今の名前をそのまま使ってもいいし、好きな名前に変えても大丈夫ですよ。」
新しい名前でも良いのか。自分で自分に命名するなんて二度とない機会だけど、地上での自分を残したいと思った。
「三井 咲です。このままの名前でいきたいです。」
樹はちょっと困った顔をして、どう説明しようか言葉を選んでいるように見えた。
「ごめんなさい、名前ってここでは下の名前を指すの。あと苗字に当たる、何の力があるのかは自由に変えられないの。ここで力を自己申請してもらっているのでお願いできるかしら。」
私のように水とちょこっとだけ樹、みたいな半端な人もいるのだろうか。
「基本的には目を見れば分かるのですが、時々力が見た目と異なる人や、大人になって変化する人もいるのです。ですからここで正式に申請してもらうことになっているのでお願いします。」
「その…二つ力がある人もいるのですか。」
「そうねえ、子供の頃は主な力と補佐的な力を持っていることがありますが大人になる頃には皆一つになっていますよ。」
そっかそんなことがあるのか。
ある意味私はここに来たばかりの子供だから二つの力があるのかもしれない。そう思ったら気が楽になった。
「あなたは水に見えるけれど…どんなことが出来ますか。知っている範囲で構いません、細かく教えて下さい。」
私が、水に関して出来ることを話す。
他には、木々と話せるけどこれは今言うべきかどうか…
クノーは自分たちに会えることを樹に話してよいとは言わなかった。
…今はまだ秘めておこう。
言うのはいつでもできる。
「他に何か力はありませんか。」
樹は私の目をじっと見て問いかける。
樹の力を隠していると、バレている気がする。
「今のところありません。」
できるだけ平静を保って伝えたつもりだが、顔や声が少し強張ってしまった。
「…そうですか。」
樹は明らかに私の答えを疑っている。
…話を変えよう。
「あの…聞いても良いですか。樹、とは何ができる力なのでしょうか。天界に一人しかいないと聞いたのでもし良かったら教えて下さい。」
「そうですね。一般的に樹々と話し、彼等との調和を図り実りを助けることができる力、でしょうか。」
「他にありますか。」
「他、とは何ですか。」
「分かりません。一般的にと仰ったので他にもあるのかなと思いました。」
「いい質問ですね。私達は基本的な力の他に特殊な力を持つことがあります。通常はその力は秘匿とします。ここでは明かして頂きますが、勤め先や友人には決して言わない力です。結婚した相手には明かすのでプロポーズに使われることもありますよ。」
樹はさっきまでと違い仕事の顔ではない、優しい笑顔を見せた。
樹ではない私が木と話せるのはそれに分類されるのだろうか。
色々考えていると樹が私の心配をしてくれる。
「そういえば今生活はどうしていますか。仕事はありますか。」
待ってました!
ここで頑張って軍資金を手に入れなくては!
「今はアンセにお世話になっています。毎食ご飯を食べさせてもらったり習慣の基礎を教えてもらったりおんぶに抱っこです。出かけるのにもバッグがなくてこのバッグも買って貰いました。」
持っているバッグを樹に見せる。
「まぁ、アンセがバッグねぇ… それでは私からはここで仕事を見つけるまでの間のお金を差し上げます。その代わり五日に一度近況報告をお願いしたいのだけれど良いかしら。」
交渉することもなくここに話しに来るだけで、あっさりお金をもらえてしまった。
大丈夫かな。もう少し条件とか付けてもいいと思うのだけど。
でもそんな事は口にしない。
「もちろんです。とてもありがたいです。すみません、お金を頂く上にさらにお聞きしたいのですが仕事はどこに行ったら見つけられるのでしょうか、ハローワーク…えっと仕事斡旋所みたいな所ありますか。」
どうやらここは役所を兼ねているらしく二階の掲示板に仕事の募集があるらしい。残念ながら今は水の仕事はないようだが、定期的に確認すると良いとアドバイスを受ける。
それまではアンセの言ったように何かしら出店を出して食い繋ぐように言われる。
「ここの住人は優しいので新しいお店に一度は足を運んでくれますよ。」
クノーの意向も鑑みてあの実を上手く使った物を売り出したい。
ぐるぐると頭の中で作戦を立てていると「心も漫ろなようなので今日はお開きにしましょう」と樹との話は終わった。そして軍資金をもらって館を後にする。
目的達成!
晴れて天界人としてのスタートをきる。まずは今夜の準備のために服屋へ向かう。
重たい石の扉を開くとそこには沢山の衣装が並んでいた。
早速キレイめの上着を探す。髪も瞳の色も紺色なので濃いワインレッドが似合うかもしれない。色を基準に探していると背中に少し深めのVの字の切れ込みをレースで装飾したノースリーブと半袖のアンサンブルを見つけた。これなら組み合わせ次第でドレッシーにも普段にも使えそうだ。
下は実用性を重視して黒いフレアパンツを買うことにする。
「ありがとうございました。またお越しくださいませ。」
服屋を出て次は靴を買う。靴は悩むこともなくさっさと決まって次はいよいよお店の準備だ。
時間があるのでもう一度出店を確認しよう。クノーの実を使うならやはり食品だと思うのだけど、ジャムやお菓子では他のお店と被ってしまう。
色々見て歩きまわり喉が渇いてきたのでひと休みしようとお茶するところを探すが適当な店が見当たらない。
お茶する習慣はないのかな。
しばらくするとそれは時間帯の問題だったとわかった。緑の時間も半分くらい過ぎるとカフェが店を始めた。
お茶を頼むと「スッキリと、まったりどちらになさいますか」と聞かれてよく分からないままスッキリを注文する。
ガラスのコップに氷で冷やされた薄緑の飲み物はミントのようなレモンのようなスーッとする味で確かにスッキリする味だ。
「すみません、スッキリの茶葉は何なんですか。」
「市販のスッキリ茶と同じでシトラールが主な材料だね。まったりはリラクフラグランでできている。お客さんはウチのブレンドを気に入って来てくれたのかい。」
おお、まさかエネールが教えてくれた二つの葉っぱはお茶に使われていたのか!
「味がそれぞれお店で違うんですか。」
「何言ってんだい、当たり前さ。別の店に行ったことないのかい?」
しまったちょっと聞きすぎた。
「教えてくださりありがとうございました。」
怪しまれないうちにさっさと店を出る。
うーん、クノーって知恵をくれるんだよね?
知恵が欲しくて飲み物飲む人っている?
クノーで食べ物の店は難しいかな。
考えながら歩いていると時計台が目に入る。
まずい…もうすぐ待ち合わせの時間だ。
着替えないと…!
ダメ元でさっきの服屋で着替えをお願いすると快く貸してくれた。髪型も折角だから編み込みにする。
うん、結構いい感じじゃない。
ノースリーブだと外はちょっと寒いかもしれないけどおしゃれに我慢は付きものだ。パンプスを履いてお店にお礼を言って出る。
間に合った。まだアンセは来ていない。
「おい、どこ見てんだ?」
え?振り向くとシャツにジャケットを羽織り、前髪を上げたアンセがいた。
「誰かと思った。」
「馬子にも衣装だな。」
まだ会って間もないのになぜかアンセは距離感が近い。
昼間は暖かいけど夜風はまだまだ寒かった。ちょっと頑張り過ぎたかも。上着を着ようと手提げを探っているとバサっと肩にジャケットがかけられる。
「本当にアホだなお前。」
そう言って服の入った手提げ袋を持ってくれる。
「アホってひどい!おしゃれは我慢なのよ。」
「慣れない場所で体調崩したらどうするんだよ。だいたい風通路が怖い、初対面の相手と飲んで酔いつぶれる、二日酔いで起きれない、とろくて危機管理ができてないって危なすぎるだろ。」
反論の余地もない。
今日のことまでお見通しで悔しいけど、ぐうの音も出ない。
「分かればいいよ、ほら着いた。」
そう言って案内されたのは素敵な門構えのレストランだった。ロートアイアンで何かの実と葉っぱがあしらった看板が付いていて門も同じデザインが施されている。クノーリアンという店らしい。
店先には門と同じ木があってゆらゆらと枝を揺らして歓迎してくれているように見えたので小さく手を振る。
店に入ろうとするとすっとアンセが手を差し出す。「先にどうぞ」ということかと思って一歩踏み出すと笑われた。
どうするのが正解だったんだ?
何も言わないのでそのままアンセが開けてくれたドアの中に入る。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました。」
席に案内されると街で見かけるより着飾った人達が何組か座っている。私達はメインの場所から少し離れた窓際の席に案内される。
「内装も素敵ね。このお店はよく来るの?」
「まさか、ここはすごい人気でずいぶん前に予約していた順番がようやくきたんだ。」
「え?私が一緒でよかったの?一緒に来る人がいたんじゃないの?」
「いないよ。」
「いたけど振られたってこと?」
「違うよ!良いだろなんでも。これ以上追求するなら追い返すぞ。」
それは嫌だ。なかなか取れない素敵なレストランでの食事なんてこれから先ないかもしれない。
「失礼しました。誓ってもう聞きません。」
それならよい、と言うとアンセは飲み物リストに目をやる。
周りを見るとフレンチのようなお洒落に飾り付けされたご飯が提供されていて出店とは違う。
「ここのメニューは出店とだいぶ違うね。」
思わず小声になる。
「ここは大昔、樹が始めたレストランなんだ。オレも初めてだからよく知らないけどな。」
なるほど、フレンチのシェフだった樹が始めたのかもしれない。楽しみだ。
外を見遣ると逆光でよく見えないがこっちを見ている人がいる。料理が気になるんだろう。
「何見てるんだ?」
「ううん、何でもない。料理楽しみ。こういう所は記念日にきたいね。そういえばアンセは幾つなの?」
「百歳だよ。」
えええええ!そんなに年取ってたの?
ってか見た目若すぎないか?私と同じくらいかちょっと歳上くらいに思っていた。
タメ口でいいのかな…
歳の割に若い…と言いそうになって慌てて口を閉じる。
アンセが百歳って…ここでの寿命はいくつなんだ?
今更ですが、少し改稿。
アンセは若いの?年寄りなの?
咲はちょっとパニック




