私がアンセを守る
「咲さんは、私の父に会ったことあるでしょう?」
え?そうなの?誰?
「すみません、存じ上げず、です。」
「そうですか。父から貴女の名前を何度か聞いたので顔見知りなのかと思いました。父は古い樹の血縁なんです。街の様子を観察するのに出店で仕事をしています。」
「樹の血縁で出店をしている…ということは草木を扱う系ですか?もしかして…八百屋のトビーさんですか。」
「そうです。」
えええ!
じゃあ私の行動は樹に筒抜けで、何なら誘導されてお店始めたのか?
はあ、もう誰がどう繋がっているか分からない。
日々の行動には気をつけよう。
散々アンセとのことを揶揄われたのを思い出して、恥ずかしくなった。
「ふふふ、一旦寝てください。朝になったらまた忙しくなりそうですよ。アンセさんと同室にしてあげたい所ですが、そうそう特別にも出来ないので起きたら部屋を案内しますね。」
変なお気遣いは無用です!
起きたらちゃんと翌朝だった。病院で朝起きて浦島太郎になっていないことが嬉しい。
ご飯を終えると漸く冷静になり、南の街が心配になってきた。リノが部屋に来たので何か知っていないか確認する。
「ごめんなさいね、母からは何も聞いてないの。でも心配しないようにって事付けは預かっているから体が回復するまではここにいてくださいね。」
心配しないようにって言われても心配しかない。
「今回体は結構元気なんですが。」
「母は貴女の心を心配しています。最近も辛いことを忘れて寝込んだり、昨日も呻き声を上げていたりていましたよね。こう言う事が続くと心が壊れてしまうのです。体はいつか治りますが心が壊れると貴女が見たような酷い状況に陥ることになります。ですから心が安らぐまではここに居てください。私達が出来る限り引き継ぎます。まずはアンセさんに会いに行きませんか。まだ起きないのですよ。」
え、アンセが起きないの?
びっくりして、リノについていく。
アンセはベッドで横になって寝ていた。
本当に起きるのだろうか。
心配で顔を覗くが静かに息をしているだけで起きる気配はない。
リノがアンセの足を伸ばしたり曲げたりし始める。
「何しているのですか?」
「床ずれにならないように毎日こうして何回も体を動かすのです。アンセさんは貴女が寝ている間毎回手伝ってくれてとても助かっていました。」
「私もやって良いですか。」
「もちろん、お願いします。」
二人でアンセの足や手を曲げたり伸ばしたり、肌を撫でたりした。それから体を横向きにする。
時計草の色が変わったらまた向きを変えるのだそうだ。
アンセが大きいと言うのもあるが結構大変な作業だ。これを毎日アンセは私のためにやってくれていたから、十日寝込んでも体の動きが鈍ったくらいで済んだのだ。
今更ながら感謝しかない。
今度は私が返す番だ。
全く目を覚まさないアンセの手を握って声をかけてみるが反応はない。
体を横にしたことで首の後ろが見えて、ひどくただれていることに気がつく。そのままパジャマを少しめくって覗くと背中全体が酷いことになっている。
アンセはこんな火傷をしていたのに病院まで私を支えて歩いて来たのだ。
アンセの馬鹿…自分を大事にしなよ!
私だけ無事じゃダメなんだよ。
今までも今回も、アンセはずっと真摯に私を守ってくれていたんだなと改めて実感する。
時間が来てまた体の向きを変える。今度は反対向きにするとこちらに顔が向く。
安らかな顔で寝ている。顔を撫でると温かい。
良かった生きている。それだけが今の救いだ。
「ふふふ、二人ともとも同じ顔をするのね。」
振り返るとリノが立っていた。
「体位の変更ありがとうございます。アンセさんも今の貴女と同じような顔で、相手の顔を撫でたり手を握ったりして顔を見つめていましたよ。大丈夫、そのうち目を覚まします。広範囲ではありますが、ただの火傷ですからね。」
ただの火傷なの?
シャドーの炎だから特殊なわけじゃないの?
「火も炎を避けるように言霊を使わないと火傷するのですよ。遅くても数日で目を覚ましますよ。さて、点滴で栄養を入れますね。」
そう言うと手早く点滴を入れてくれる。
確かにアンセは構えれば大丈夫だと言っていた。つまりあの時油断したからやられたと言っていたが、そうでは無くて言霊を言う間もなく私を守ってくれたから火傷したのか。自分をもっと大切にして欲しい。
突然ドアが開いて樹が入ってくる。
「治療中にごめんなさい。でも咲の助けが必要になりそうなのでいいかしら。」
「樹、私が居ても良い話ですか。」
「大丈夫です。これからここも忙しくなる理由を知っている方が良いと思います。」
親子なのにその素振りを全く見せない二人に驚く。
「結論から言いますね。状況は想定より悪いです。注意を促したのですが、間に合いませんでした。かなりの人が汚染された水を口にしてしまいました。レイがありったけのクノーを水道に流してくれたのでその水を後から摂取出来た人達は大丈夫ですが、汚水を先に多めに摂取した人は、残念ながら注意が耳に入らずクノーを摂取しませんでした。」
危機を知らせたのはシャドーを混入してすぐだったはずなのに遅かったなんて。
「…各所でシャドーもどきを摂取した者が暴れ始めています。正直今の人数であればどうにかなりますが、おそらくこのままですとシャドーが作用しあって指数関数的に増殖し、周りにシャドーが広がるでしょう。」
そうたのだ、シャドーは病魔のように広がるのだ。
「残念ながら貴女の持っていたクノーは使い切り、彼らへの応急処置も出来ません。そして…プーレは私に会ってくれませんでしたので、プーレを使うことも出来ません。ですからいざとなったら貴女の浄化に頼るしかないのです。」
「なぜプーレは会ってくれないのですか。プーレを提案してくれたのは木々なのに。」
「樹々は沈黙を貫いています。貴女には何か話してくれるかもしれませんが。」
え、なんで?




