アンセの告白
「来てくれたのか。」
石は捨てたはずなのにアンセの口から出る言葉が暗い。まだカケラでも残っているのか。
「あのねアンセ、なかなか言えなかったけど、私…アンセに感謝してるの。ここに来てアンセに沢山救われたから。ありがとう。」
ずっと言いたかった言葉が自分で口にして初めて分かって、そして伝えられて良かった。
アンセが私のことが不要なのだという事実は辛いけど、感謝の気持ちは別だ。
今ここで頑張れているのはアンセのおかげだ。
「感謝か。そんなことは何一つしていない。全て俺のエゴだ。なんでお前が樹の力を隠していたのかは知らないが、そもそもここに呼ばれた連中はどんな方法で来たにしろ樹の才能が少なからずある。
ちなみに俺はここに来た時お前と同じくらい樹の力があった。シャドーが見えたし、樹々の声も聞こえた。樹にも後継者として色々教えてもらった。」
なるほど。色々と腹落ちした。
アンセは私の力のことを私以上に知っていたのだ。
「一方で博士からはミレニオを見つけるという課題を課せられた。探してみるとすぐに分かるが、見つかるわけがない。どんな物か誰も知らないんだからな。博士は期待していた分、酷く落ち込んで俺を逆恨みした。ミレニオを隠しているのだろうと、拷問を受けた。」
博士は自分勝手だ。勝手にアンセを呼び出して期待して…
アンセにとって博士はトラウマになっているのかもしれない。
「そうこうしているうちに俺の樹の力はどんどんなくなっていった。俺が本物の樹ではないからだ。でもそれを信じて貰えなかった。嘘をついていると罵られ更に詰問された。」
アンセが一息つく。
その時を思い出したのだろう。次に口を開くまでに時間がかかる。私は続きを聞いてもいいのだろうか。
「その後、地上から連れて来られる人の面倒を見ることになった。新しい人の動向を探って樹かどうか、ミレニオを見つけられそうかを定期報告するんだ。一方で俺の中では博士に対する監視の意味もあった。俺の時のように尋問しないように来た人を守りたかった。」
そうか…私はアンセから守られていたんだ。
裏切られたとあの時思ったけど、本当は違ったのかもしれない。
「俺たちのように人為的に呼ばれた者は完全な樹にはなれないんだ。だけどそれが博士には分からない。いや…本当はあの人も分かっていると思う。でも辞められない。何かが壊れているんだ。」
アンセはそう話すと夕飯の支度を始めた。
私は無言で手伝う。私から言えることは何もない。アンセの相変わらずの料理の手際の良さに私は隣で見ているだけになる。
「咲が…今までで一番鈍臭いやつがやって来て、色々と振り回された。監視というより、本当に天界でやっていけるのか心配で世話を焼くようになった。レイやカレンの時は、ある程度時間が経ったら監視していることを伝えていたのに咲には言えなかった…その結果、更なる監視が呼ばれ咲を怯えさせた。それが分かっていながら知らないふりをして、相談に乗っている自分がとても嫌になった。」
パスタが茹で上がって、作業に集中すると話が一時中断される。
机にご飯を並べて食べるように勧められる。
「咲の樹の力は、俺以降にここに来た奴の中では一番強かったと思う。だからお前は目をつけられたんだ。あの日、俺はもう監視役を辞めたいとグネルに話していたんだ。でも咲が樹ではないことを証明してから辞めないと咲が尋問される。だから樹にも事前に相談して咲が樹ではないと証言して欲しいとお願いしてあったんだ。どこから聞いていたのか分からなかったけど、咲がショックを受けているのは見てとれた。顔に全部書いてあるからな。」
そう言って、寂しそうにアンセは笑う。
なんで私が樹の力があると分かったんだろう。
シャドーが見えていると分かったんだろう。
どうしてアンセは私のことをそんなに分かっているのだろう。
「初めて天界に来た時、グネルに枝が邪魔になるけど突き抜けろって言われたの覚えているか?あれは一つ目のチェックポイントだったんだよ。樹であればすんなりと通れる。咲も知っての通り樹ではなくても通れる奴はいる。樹に愛されていれば通れるからな。とにかく咲はその第一関門を簡単にパスした。そして第二のポイントは樹々の声が聞こえるかどうかだ。博士の家で誰もいない部屋で時計草と話しただろう。博士が目撃している。ただ大いなる力からの知恵がないことが分かって、保留となったが咲に期待がかかった。」
そんな罠があったとは!全く気が付かなかった。
とはいえ、ここにきた初日にできることは何もなかったと思う。
「あとは俺の観察判断次第となった。毎日見ていればすぐに分かった。樹々に愛され、そして咲もまた同じように大切に思っているんだって。シャドーを見つけた時も放っておけば良いのに自ら首を突っ込んで倒れて、見ているこっちがもどかしかった。シャドーと関わったせいで樹の力が減って樹々の声が聞こえなくなって悲しんでいるのを俺は知っていた。」
アンセは目を伏せて声を落とす。
「…俺が止めれば咲はまだ樹の力が今も残っていたかもしれない。でも同時に樹の力をなくして欲しかった。俺と同じ辛い思いを咲にさせたくはなかった。」
シャドーは完全に不可抗力だ。私は助けたくて助けたんじゃない。避けられるなら避けたかった。
「だとしてもだ、そのおかげでカレンは精神を保つことができたんだ。他の人のために樹の力を失った咲を博士なんかに尋問させる訳にはいかない。」
前にグネルがアンセの時のように樹かどうかの証明を私にさせると言っていた。
それは尋問のことだったのか。アンセはそれを予想して先に樹に助けを求めてくれていたんだ。私は何も知らなかった。
どこまでも私はアンセに守られていた。
「それにしても、こんな仕事を辞めようとしたらまさか殺されかけるなんて思ってもみなかったな。悪いことはするものじゃないな。」
アンセはへらっと笑う。
ここは笑うところではない。
アンセは何も悪くない。
ここに来たみんながアンセに救われたはずだ。そして私はアンセを誤解していた。
申し訳ないと思いつつ、嫌われてなかったと安堵している自分が居た。
話を聞けてよかった。
「ありがとう。咲に嫌われたと思っていたから話せて良かった。飯食べよう。」
いつもの私の知ってるアンセだ。
私は極秘情報は伏せて今の仕事の話をした。アンセも水に関してそんな分析をしているとは知らなかったようで驚いている。
アンセは自分の本業について教えてくれる。
窓枠やドア、屋根などの装飾デザインをしているという。最近はそれに合う家具のデザインも頼まれることもあるらしい。
アンセのセンスはいいものねと褒めると珍しく顔を赤らめて照れている。
照れ隠しか、今度アンセが外装を手がけた店に連れて行ってくれるというのでお願いする。
無視して来た心の穴がようやく埋まってほっとして、ようやくアンセを正面から見ることができた。




