冷たい案内人
「今日来たのか?ご愁傷様。家まで案内するからついてこいよ。」
ご愁傷様って…
そんな不安になるような言葉をかけなくても…
ここ以外行く場所もないのに。
大体さっきの丁寧な言葉使いはどこにいったのだ。体格の良いイケメンだからって騙されないからね…
アンセは指輪をじゃらじゃらつけていて、よれたTシャツにダボついたパンツをはいている。チャラい感じを受ける。
アンセについて行くと歩道橋のような階段があった。これを上るのかと見上げていたら、真ん中の踊り場から人が空に飛び込んだ。
「あ、危ない!!!」
驚いているのは私だけで、空中に飛び出した人ではなく私に注目が集まる。え、私?
「これは風通路と言って風の力で移動する乗り物なんだよ。」
アンセは迷惑そうな顔で教えてくれる。
何もないように見えたが透明な筒状のものが道に沿って続いていた。
「早く乗るぞ。…エスカレーターみたいなものだ。乗ってタイミングを掴め。」
アンセが私の背中に手を回して軽く推すが、足が進まない。
行くぞ、と今度は強く押された。抵抗できずに筒の中に踏み出すと、足が取られて倒れそうになる。すっとアンセが支えてくれる。
「…どれくらい乗るのですか。」
「橙になり始める頃には着くだろう。」
「橙って何なんですか。」
私が聞きたいのは時間で色の話じゃない。
「ここでは時計草の色で時間を表すんだ。」
時計草…色…ああ!
博士の家にあった花だ。
時計だったのか。
部屋に馴染まなくても時計は必需品ではある。ちょっとだけ謎が解けて嬉しくなる。
「…そういえば、私、これからどうやって生きていけばいいのでしょうか。」
「仕事はスクエアを散策して何するか考えてみれば。」
ぶっきらぼうにアンセが言う。
イケメンだが親切な人ではなさそうだ。
風通路を降りると目の前には石造りで真ん中がアーチ状にくり抜かれた建物が立っていた。幅広い凱旋門みたいだと思った。
「素敵な建物ですね。」
「ここは専門店が色々入っている。ここをくぐり抜けるとスクエアがあって昼は出店が沢山並んでいる。誰でも店を出せるから、しばらく食い繋ぐのにはちょうど良いはずだ。」
簡単そうに言うが、商売なんてやったこともない。どうしよう。
広場を見回していると花の咲く塔があってその周辺に人だかりができていた。見ていると突然その中央が光に包まれた。
みんなが光の方に向かって祝福の声を掛けているので結婚式だろうか。
すると光が…正確には光っている人が空に昇っていく。
そして急に光が強くなり眩しくて目を瞑る。再び目を開くとその人は光と共に消えていた。
見守っていた人たちは良かったねと喜んでいるように見える。
なんだったんだ。
光っていた人は消えたように見えたけど…いいことなんだよね?
アンセは何も言わないところを見ると特別なことではないらしい。
乗り換えた風通路の三駅目が私たちの目的地だった。
「ここが今日から君の家だよ。」
石造りの平屋の一軒家で小さな庭もある可愛い家だった。庭に砂利が敷いてあって歩くとジャリジャリ音がする。ドアを開くと大きめの石のテーブルが真ん中にあって左手には別の部屋のドアが一つ付いている。
「この部屋は靴を履いたまま使って、左の部屋に入る時は靴は脱いでな。」
アンセは入り口に立ったまま口だけで説明する。
「全て石造りなんですね。」
「まあな。」
玄関のドアに寄りかかって面倒臭そうにアンセが話す。
石は素材として良いのかもしれないが、家全体が冷たい感じがする。
「木を家具にしないのですか?」
「樹々を切ったら生きて行けないぞ。嫌われて仕事も難しくなる。」
「木って偉いんですか。」
「…偉いっていうか、天界の主みたいなもんだから天界そのものを敵に回すことになる。」
「天界って何なんですか。この場所のことかと思っていましたけど、違うんですか。」
一瞬の間があって私をじっと見ながらアンセが答える。
「間違ってはいない。天界はこの場所のことだけど、それには意思みたいなものがあると言われている。俺らはその手の中なのさ。その意思を大いなる力って呼んでる奴らもいる。誰もそれには抗えない。」
アンセは一瞬私を警戒しているように見えた。
人が光って消えたのにアンセは何も言わないなんて…聞きたいけど聞けない雰囲気に、咲は緊張してます。




