アンセとのランチ
「びっくりさせないで下さいよ。ここで何しているんですか。」
「折角買ってやろうってのに失礼なやつだな。昼飯を買いに来たんだよ。そしたらお前がずっとそのバッグを見ているから声をかけてやったのに。買ってやんないぞ。」
「失礼しました、買っていただけたら嬉しいです。こっちの大きい袋も買い物する時に便利かなと思うのですがどう思います?」
ちらっとアンセを見てダメ元でおねだりしてみる。お金が全くないのだからチャンスを逃すわけにはいかない。
「はあ、お前なあ。」
そう言いながら値段をチラッと確認すると今回は特別だ、と言って2つのバッグをお店の人に渡す。
「え、いいの?嬉しい!」
飛び上がって喜ぶとお店の人が、仲のいい恋人に私からもプレゼントだよ、と言って小さなお財布をおまけしてくれた。
「ありがとうございます!」
「おいおい、オレにはお礼まだだけど。」
「あれ?そうだっけ。ありがとうございます。」
「調子いいんだから。ほら、無くすなよ。」
買ってくれたバッグをちょっと乱暴に渡してくれる。
「飯は?腹減っているだろ?一緒に食おうぜ、お勧めの店教えてやるよ。」
お勧めのお店に着くまでに並んでいる出店を教えてくれる。基本的にご飯屋さんの紹介でその他の店はスルーする。そして彼のおすすめに店についた。確かに沢山の人が行列を作っている。
ここの握り飯は最高なんだよ、中の具がたっぷりと入っててさ、片手でたべられんだ、便利だろう?とご飯の紹介がされる。初めての屋台で味の想像がつかないので前の人達を観察して1番人気を頼んでみる。おにぎりをもらって食べるとやっぱり具は野菜の煮物だ。甘辛くてご飯に合う。
「美味しいです。肉とか魚とかもあるんですか。」
「魚はしばらく見てないな、南でなんかあったかな。肉はここで食べることはないな。」
「肉はないんですか。」
理由を聞いてもきっと木を切れないのと同じような理由に違いない。私が考えている間に二つ目のおにぎりをアンセは頬張っている。結構大きいおにぎりがまだもう一個アンセには残っている、結構食べるんだな、私は一個で十分だ。
「栄養不足にならないんですか。その、タンパク質は必要でしょう。」
「ここ数年魚食べてないけど今んとこ健康だけどな。どれかタンパク質になる物があるんじゃないか?オレにそう言う難しいことは聞くな。食べたい物食べてれば大丈夫だろ。」
分かった、ここではタンパク質は不要もしくはそれの含まれる野菜があるって事らしい。なんで?そうなの?って考えても無駄だと段々学習してきた。
「ところで、アンセは何の能力があるんです?」
「いってなかったか、オレは火だよ、火の力。」
「火でも、色々な力があると聞きました。」
「うーん、それな、あんまり大っぴらに聞かない方がいいよ、みんな良い奴だから教えてくれると思うけど、言いたくないやつとか言えないやつとかいるから。」
「何でですか。」
「能力に色々あるって知っているだろ、その中にちょっとした優劣が有るんだよ。生まれ持った能力でどうにもならないんだけどな。言えない奴らは、無から生み出す力を持っている奴等、逆に無にできる奴等。水と火に限られた数だけいるとされている。」
何も無いところから火や水を生み出せる力あるいはそれら無にできる力だと言う。役にも立つが危険でも有る。だからその能力は秘匿とされるらしい。土や風にもいるかも知れないがあまり知られていないと言う。色々見えない事情があるんだな、迂闊に会話も出来ないや。
「指輪、沢山してますね、好きなんですか。」
「良い所に目をつけるな、帰ったら教えてやるよ。」