マサルVSラフィーネ
迷う必要なんてなかったじゃないか。俺にはロージアが必要だ。彼女が居たからダンジョンだって上手くいってるんじゃないか。そのロージアを見捨てる? そんな選択肢はない!
いや、それだけじゃない。俺はまだロージアとは恋人らしい事は何もしちゃいねぇ。恋人取られて黙ってられるわきゃねぇだろ!
「待ってろロージア、今助けに行く!」
神が何だってんだ。例え全ての神を敵に回したとしても、俺はロージアを助け出す。
「ん? 魔物とは比較にならない反応がミリオネックの上空にあるな。すぐ側にロージアの反応も感じる。よし、一気に加速だ!」
靴底に噴射トラップを仕込んで急加速してやった。時折ぶつかる野鳥には目もくれず、ただ一点を目指して飛び続けた。そして……
「――見つけたぜぇぇぇ!」
ミリオネックを通過した辺りでラフィーネを視認。体当たりするつもりで一気に迫るも流石は女神。ひらりとかわしてやり過ごされてしまった。
――が、それでいい。動きを止めただけでも目標は達成だ。俺はラフィーネの前に立ち塞がり、堂々と宣言する。
「ロージアは返してもらう。例え神でもこれだけは譲れねぇ!」
「マサルさん……」
今にも泣き出しそうなロージア。だが感動の再会はラフィーネをどうにかしてからだ。
「愚かな。神に刃向かうつもりですか?」
「おぅよ! 神だろうが何だろうが、ロージアを好きにはさせねぇ」
相手は女神。勝つにはアレしかない。
「テメェには付き合ってもらうぜ? 決戦の舞台という頂上決戦でな!」
ピシィィィィィィ!
宣言直後、留まっていた空だけが無限大に広がり、ロージアが姿を消す。
「これは……」
「文字通りのクライマックスだ。勝敗が決まるまで脱出はできねぇ。そして今の俺は――」
バキッ!
「はぐぅ!?」
「テメェと同等のステータスを得ている!」
晴れ上がった頬を撫で、信じられないといった表情のラフィーネ。そりゃそうだ。常人なら神に触れることすらできないだろうからな。
「バ、バカな、神に対抗する力を持っているというのですか!」
「ああそうさ。テメェの同類か知らないが、オルドって爺さんに貰った能力だ」
「オルド様が……」
あの爺さんがくれた理由は分からねぇ。だがくれた以上は使えるんだ、神に使っても問題はねぇはずだ。
「やはり貴方の存在は危険。ここで排除させていただきます、――戒め招雷!」
さすがは神のステータス。放ってきたスキルは神以外は強制拘束(←回避不可)で体力を半分以上減らして抵抗する気力を奪う上に、永久的に脱け出せない封印を施すだとよ。
普通なら無理ゲーだが、今の俺なら対抗できる。何せ神と同等なんだからな!
「そっくり返すぜ――反射ぁぁぁ!」
バチバチバチィィィ!
「そ、そんな、神の能力が――キャア!?」
俺に延びていた雷の鎖がラフィーネに巻き付いた。
「よう、自分のスキルを食らった気分はどうだ?」
「クッ! 下等な人間め、このような事をしてただで済むと思わない事です!」
「言いたい事はそれだけか? 俺にとっちゃヤクザの恫喝くらいにどうでもいい脅しだけどな。それより敗けを認めたらどうだ? おとなしくロージアを解放するってんなら命までは取らねぇ」
「…………」
「……フッ」
コイツ、鼻で笑いやがった!?
しかし直後、笑った理由がすぐに判明することに。
バチン!
「あ……」
「自分のスキルを制御できないとでも? 実にめでたい考えですね。下等なお前にはピッタリの思考能力でしょう」
ラフィーネを拘束していた雷の鎖が消し飛ぶ。
そうだよ。コイツ女神なんだから拘束効かないやん……。
「さて……」
ギロリと睨まれ、反射的に距離を取る。
しかしラフィーネは戦闘を続ける気はないらしく……
「今回は私の敗けです」
「……え?」
そう、あっさりと敗けを認めたんだ。そうなると決戦の舞台も解除され、元の空間に戻って来たんだが……
「え……ロ、ロージア!?」
「…………」
そこではある異変が起こっていた。どこから取り出したのか、ロージアがメタリックな白色のスーツに身を包んでいたんだ。しかも無表情で目の焦点が合ってないという異常さに、俺はとてつもなく嫌な予感を感じた。
「おいラフィーネ、ロージアに何しやがった!?」
「私が原因ではありません。あの妙な空間に引きずり込んだ貴方が原因です」
「んだとぉ!?」
「私が側を離れてしまったためです。彼女を抑えていた力が解消され、宇宙として目覚めてしまいました。この先何が起こるかは――――はっ!?」
ドシュゥゥゥゥゥゥ……
少し目を離した隙に、ロージアは無言のまま飛び去ってしまった。
「なっ!? ロージアァァァ!」
クソッ! よく分からねぇが早く追わないと!
「お待ちなさい」
ガシッ!
「な、何しやがる! ロージアを見失っちまうだろうが、手を離しやがれ!」
「そうは行きません。宇宙も厄介ですが、原因を作ったお前は更に厄介。この場で断罪させていただきます」
「ふざけんな! 決着はついただろうが!」
「それはお前が仕掛けてきた戦いです。言うなれば宇宙を解放するための。しかしお前自身は違う。神に刃向かった報いを受けなさい――断罪!」
ズダン!
「うぐっ!?」
落雷が俺を直撃すると、直後に絶望的なメッセージが脳内に流れ込む。
・剣技を封印されました
・体術を封印されました
・ダンジョン機能が封印されました
・設置済みトラップが消滅しました
・ダンジョンとのリンクが遮断されました
・念話が封印されました
・感知能力が遮断されました。
「これが神に刃向かった者の末路です。自分の行いを悔やみつつ寂しい人生を送るのですね。まぁ生きていればの話ですが。……フッ」
「チッ――」
「――クショーーーーーーッ!」
ダンジョン機能が使えなきゃトラップも使えねぇ!
俺は重力に従い、そのまま地上へと落下していった。
★★★★★
ビュゥゥゥゥゥゥ……
「ん…………寒っ!」
全身を針で刺すような寒さで目覚めた俺は、身震いをしつつ飛び起きた。辺り一帯は膝上まである雪原で、しんしんと降り注ぐ雪で視界も悪い。風が強くないのが幸いだ。
「雪がクッションになって助かったようだ。ったくあのクソ女神め、今度会ったらただじゃおかな――へっきしょん! う"ぅ寒い寒い。とにかく暖をとらないと――つぅぅぅ痛ぇぇぇ!」
めったクソ寒いし落下ダメージで全身も痛ぇし、こりゃしばらくは戦えないぞ。こんなところで魔物にでも出会したら――
「グルルル……」
「――って、真下に居たのかよ!」
冬眠中だった(←世間では真夏のはずだが)熊の真上に落下したようで、眠りを妨げられ怒り心頭なデケェ熊が「何しとんじゃボケェ!」と今にも言い出しそうな顔で睨んできた。
つ~か今の今まで寝てたのかよ!
「クソッタレがぁ!」
「グルルァァァ!」
そして熊との死闘が始まる。爪を立ててくるのを剣で必死にガードしつつ、拳と蹴りと時折剣という不細工な戦闘を繰り返し、ようやく仕留めた時には息を切らして仰向けに倒れていた。
「ハァハァ……ク、クソ女神が剣レベルまで封印しなきゃ、ハァハァ……熊なんかに苦戦しないんだが。ハァハァ……」
この戦闘で獲られたのは熊の生肉と上昇した体温だけ。魔物に見つかる前にここを離れるべきか?
そう思い、もう一度起き上がって辺りを見渡す。木々が生い茂ってる場所もあるが、やはり雪原だ。方向も分かんないし、移動するにしてもどこに向かえば――
「――ん? 敵か!?」
遠くの空から炎上した何かが降ってきた。警戒したが俺の頭上を通り越し、離れた場所に落下。ズシッ――という音以外は何も聴こえず、追加で何かが降ってくる様子もない。
「敵じゃないっぽいし、少し調べてみるか。もしかしたら暖をとれるかもしれねぇ」
重い身体を引きずり、無理やり移動を開始する。数十メートルしか離れていないのが幸いし、何とか落下地点へ到着――が、穴を覗き込んで思わず叫んだ。
「おま――リュウイチじゃねぇか!」
そう、落下してきたのはザ・サンことリュウイチだった。しかも全身血だらけボロボロの瀕死な状態でな。
「うぅ…………」
「おい大丈夫か!? しっかりしろ!」
「…………マ、マサル……さん?」
辛うじて生きてるな。いや、本来敵同士なんだが、どうにも親近感がな。それに敵とはいえ弱ってる奴を無駄に攻撃したくはないんだ。
「フフ……最後が貴方で良かった。さぁ、一思いに殺……して……」
「いや、殺さねぇからな?」
そこから何気なしにお互いの有り様を語り合った。ちょうど狩りたての熊肉もあるしな。火はリュウイチに起こしてもらい、炙りながらかじりつく。
「はぐ……で、あれにあられたって(誰にやられたって)?」
「戦車です」
「んくっ……っふぅ。チャリオット? ソイツはアレか、リードロールってやつか?」
「はい。ミネルバの元を去ることにしたボクは、塔を攻略中の親しい仲間である法王の下へ急ぎました。彼とは戦いたくはなかったので、互いに不干渉でいる事を直接伝えるためです。しかし……
」
そこでチャリオットに襲われたと。
「けどミネルバは死んだ。もうエーテルリッツは崩壊したって事だろ? なら戦う理由はないだろう」
「いいえ、エーテルリッツは崩壊していません」
「……は?」
エーテルリッツが健在?
「あの組織にはまだ大役職が残っています。隠者、力、法王、戦車、そして皇帝。恐らく中心となっているのはハーミットかエンペラーでしょう。彼ら2人を倒さない限り、組織としての活動は止まりません」
5人も残ってんのか。――ん? でも数が合わないな。
「ラヴァースとザ・スターは居ないのか?」
「イグリーシアの歴史上、恋人は一度も確認されていません。今後も誕生することはないだろうと思われています。そしてザ・スター。コレに関しては少々レアケースで、世界の中心を創ったとされる勇者の血統を持つ5人で1つとされています」
よく分からんが敵ではないらしい。
「なるほどな」
だがやる事が多すぎる。只でさえロージアが心配だってのにエーテルリッツは崩壊してないときた。
「それにしてもマサルさんは凄いですね。女神が相手でも果敢に挑んだのですから。それに引き換えボクは……」
「そう自分を責めるなよ。挑んだ結果がこんな有り様じゃ、俺だって自慢にはならねぇ」
「ダンジョンを利用できなくなったんですよね? ユキノたちは大丈夫でしょうか」
「少しの間なら大丈夫だ。食料ならため込んでたはずだからな」
万が一侵入されてもブローナやルカーネロがいる。防御面も問題ない。けど長く空けるのは危険だ。まずはダンジョンに帰還しなきゃな。
「アオ~~~ン!」
「「!?」」
狼の遠吠え!?
「ガゥゥゥ!」
「ウ~~~」
「グルルル……」
最初の遠吠えに反応し、複数の唸り声が周囲から上がる。やがて姿を現したソレを見て、俺たちは絶望した。
「ホワイトウルフ! それにグレーウルフまで!」
「魔物の群か。あのホワイトウルフがリーダーっぽいな。でもって俺たちを包囲してるのが手下のグレーウルフか」
参ったな。せめてホワイトウルフを退けりゃ助かる見込みも出てくるってのに、決戦の舞台は日を跨がなきゃ使えねぇ。リュウイチも満身創痍とくりゃ、蹴散らすのも不可能。
「チッ、たかがDランクごときに殺られるってのか……」
「悔しい……ですね。せめてもう少し魔力が残っていれば……」
俺と一緒に苦々しい顔を作るリュウイチ。もうどうにもならないと悟り、せめて最後の抵抗をと身体を起こしたその時!
ズバズハズバズバァァァァァァ!
「「……ええ?」」
突如血溜まりに沈むウルフの群。ホワイトウルフでさえ無抵抗に首を刈られ、力なく横たわる。残り数体が蜘蛛の子を散らすように逃げ出すと、カルロスの数倍はありそうな体格をしたドワーフが姿を現した。
「こんなところに人間が迷い込むとは珍しい。立ち上がれるか?」
この男、只のドワーフじゃない。まるで小柄なオーガじゃないかってくらいゴツイ体格をしてやがる。
「どうした、魔物はもう居ないぞ?」
おっと、ジロジロ見るのも失礼だな。
「あ……あ、す、すみません。お陰で助かりました!」
「ほら、手を貸すぜ。お前さんも」
「あ、ありがとう御座います……」
しかしこんな雪原にドワーフってのも不釣り合いだな。武者修行でもしてるんだろうか?
いや、今は助かった事を素直に喜ぼう。
「ところでお前さんらは何もんだ? どこから来た? ここらは気象が荒くて作物も育たないせいか、人が住み着いていない未開の地だ。こんなところに来る奴なんざ、余程の物好きか単なるバカかどちらかだぞ?」
もう少しで単なるバカとして終わるところだった。このドワーフに助けられた俺たちは幸運だな。
「俺はマサルです。理由はまぁ、色々とありまして」
「ボクはリュウイチと申します。ボクも同じで色々と……」
「ふむ……まぁなんだ、俺の小屋に案内してやる。詳しい事はそこで話せ。傷の手当ても必要だろうしな」
そいつは願ったり叶ったりだ。
「ところで貴方の名前は?」
「俺か? 名乗るほどのもんじゃないんだが……まぁいいだろう。俺の名はグロウスだ」
グロウスか。どっかで聞いた事があるような……どこで聞いたんだっけな?
キャラクター紹介
ラフィーネ
:イグリーシアを守護する神の1柱で、エメラルドグリーンの美しく長い髪が特徴。世界各地で降臨したところを目撃されており、一部の者からは大役職の1つでもある節制と呼ばれている。
いずれマサルが死神になる事を予知し、間接的な妨害を行うも全て不発。そんな時、隠者によってマサルが死亡した事実をなくすためにロージアが禁じ手を使用したのを感知。ロージアを庇うマサルに対して殆どの力を封印するという特大ペナルティを課した。




