復活と決別
「……ん? ここは……」
気付けば辺りは真っ暗だった。夜って訳じゃない。何もない空間に俺だけが漂っている感じだ。
何故こんな場所に居るのか、俺は静かに記憶を辿ることに。
「確か……ジャッチメントを倒してジャスティスと対峙していたシゲルに加勢したんだったかな? そんでもって…………ああ、ジャスティスを氷漬けにして、カルロスがカチ割ったんだ」
これにて戦闘は終了。負傷したシゲルをロージアが手当てして、それから……
「思い出したぜ、あのえげつない魔法を」
今思えばアレはメテオスプラッシュだな。広範囲に隕石を落とす魔法で、そこらの魔法士でな使えない。しかもそれを1ヶ所に集中させるハーミットは余程の手慣れだ。
「……で、どこにいやがるハーミット! 隠れてないで出てこい! この暗闇もテメェの仕業だろ!?」
『それは違います』
「はぁ? 何が違うって――」
いやまて、ハーミットはこんな喋り方じゃなかったぞ? もっとこうアダルティで相手を挑発する感じだったはず。
「……テメェは誰だ?」
『それは貴方の想像のままに。ここで私が誰なのかは意味を成しません』
「意味がないなら話し掛けるなよ。俺は一刻も早くロージアたちのところへ戻らなきゃならないんだからな」
『フフ……』
この女、俺をバカにしてやがるのか?
「おいテメェ、何がおかしい?」
『フフ、滑稽だと思ったのですよ。あれだけ世界に混乱をもたらしておきながら、まだ飽きたらないのかと。なるほど、それだけ幸せな思考を持っているからこそ、自分が死んだことすら気付かないと』
「おい待て!」
コイツ、さらっとトンでもないこと抜かしやがったぞ!?
「おい、俺がいつ死んだって? 何年何月何日、何時何分何秒、地球が何回まわった頃だ!? ついでにゴールデンタイムで放送していたドラマやアニメは!?」
『私が知るわけないでしょう。そもそも美容特集にしか興味はありません。次の特番はいつになることやら』
「テレビ見れるんか?」
『……コホン。とにかく、貴方は死んだのです。今さら足掻いたところで無駄ですよ? ご覧なさい、常闇の奥を。ハーミットの術が貴方を捕らえようと動き出したようです』
「ほへっ!?」
見れば空間がグニャリと歪み、触手のようなものがこちらに迫っているのが分かる。
「な、何だよアレ……アレはモンスターなのか?」
『いいえ、死んだ者を取り込むための魔法です。予め貴方が死ぬ事で発動するよう仕込まれていたのでしょう』
いつの間に!? ハーミットも油断ならねぇ奴だ。
シュルルルル!
「やべぇ、加速した!」
『慌てずに。貴方はそこから動かぬよう』
ビシィ!
グッ!? 身体が――動かねぇ!
「おいテメェ、俺に何しやがった!」
『大袈裟ですね、動きを制限しただけだというのに。今片付けますから黙っていてください――――ハッ!』
バシュゥゥゥゥゥゥ……
「嘘だろ!? 触手が勝手に消滅したぞ!」
『私が消し去ったのです。これ以上仕事を増やされたくはありませんので』
「仕事だぁ?」
『はい。貴方の存在はイグリーシアに混乱をもたらす。本来世界の行く末に干渉すべきではないのでしょうが、これでも神の一柱。滅び行くのを黙って見ているのは心苦しい。故にお前を天界へと連行します』
「ちょちょ、ちょっと待った!」
いろいろ急展開過ぎるぞ? まずは俺が混乱をもたらすという点には声を大にして反論したい。俺は冒険者として異世界生活を謳歌したいだけだ。
次に天界に連れてくって? まだ俺が死んだとは認めてねぇぞ。勝手なことすんな!
最後にテメェ、神なのかよ! 声が女だから女神ってやつか? いや、んな事より……
「まるで俺が全ての元凶とでも言いたげじゃねぇか。自慢じゃないが、冒険の片手間で色々と人助けもやってんだ。文句言われる筋合いはねぇ!」
ハッキリと言ってやった。そもそもが盗賊や悪徳貴族なんかよりよっぽど世界に貢献してんだからな。
だが女神からの台詞は、そんな行いをも無に返すかのようなものだった。
『残念ですが、貴方が災いをもたらすのは決定事項です。覚えていますか? どうやってこの世界へやって来たのかを。貴方はキックボードという奇妙な乗り物に乗っている最中に事故に合い、イグリーシアへと転生しました』
「そりゃ覚えているが……」
あの時の俺はキックボードの乗り方を従兄弟に教えていたんだ。夢中になったがために駐車場の奥から突っ込んで来た車に気付かず、そのまま終わっちまったんだが――
ちょっと待て、そんな訳はない。駐車場の奥はマンションで、数メートルの空きしかなかったはず。車が猛スピードで突っ込んで来るのは不可能だ。
「おい、どうなってんだよ。俺の記憶がおかしいのか?」
『おかしくはありません。正にそれが貴方の身に起こった出来事であり、強制的に誘われた結果、そのような事象として貴方の世界で再生されたのです』
「つまり何か? 俺は何者かによって召喚されちまったとでも言うのか?」
『そうですね。正しくはワールドの意思――とでも言いましょうか。世界そのものの意思により強制召喚させられた、それが貴方です』
「世界の意思……」
不思議だな。姿の見えない女からの声なのに、全てが本当だと分かる気がする。やっぱりコイツは本物の……
『ええ、神ですよ?』
「!?」
『一応言っておきますが、神に対してコイツ呼ばわりは不敬と見なします。以後は慎むように』
心の中まで読むってか!? 恐ろしい存在だ。俺は今、モフモフのアニキやアンジェラなんかより、更に上の存在と対峙してるんだ。
いや待てよ? 神なら俺をロージアたちのところへ送り返すのも容易いんじゃないか? だったら――
『それはなりません。貴方は既に肉体を失った身。それを改変して無かったことにはできません』
「そこを何とか!」
『言ったはずです、貴方という存在は周囲に混乱をもたらすと。そのような者をイグリーシアに戻すのは愚行でしかない。最初の宣言通り、貴方を天界へと連行します。ついて来なさい』
「ちょっ!」
有無を言わさず天界へ連れて行こうとする女神。身体の自由が利かなくなり、暗闇から少しずつ消えようとしているのが分かる。
「待て、待ってくれ、ロージアを残して行けるわけがない!」
『抵抗は無駄です。叫んだところで徒労に終わるだけです』
くっそぉぉぉ、身体が動かなけりゃトラップも使えない。こんな終わり方を受け入れろってのか!? 冗談じゃねぇぞ! 俺はまだロージアとのキスすら済ませてねぇんだ。このまま死んでたまるかよ!
自由が利かないながらも脳裏で必死な抵抗を試みた。こうしてる間にも、自分が消えようとしているのが手に取るように分かる。その恐怖を頭の隅へと追いやっていると、急に身体を引っ張られた気がした。
グイィィィ!
「な、なんだぁ?」
何とも力の抜けた声を発してしまう俺。しかし、俺以上に驚いている奴がいた。
『バカな、神である私に干渉している!? そんなことはあり得ない! いったい何が起こっていると……』
驚愕する女神を他所に、心安らぐ声が暗闇に木霊した。
『マサルさん、こちらへ!』
「ロージア!」
そう、俺を引っ張っているのはロージアだった。
『ロージアですって!? たかが人工物が私に干渉していると言うのですか!』
「るせぇ! ロージアを作り物みたいに言うな! ――待ってろロージア、今すぐそっちに戻るぜ!」
俺は女神の力から抜け出し、まばゆい光に包まれた。
★★★★★
グニャァァァァァァ……
――って何だこりゃ!? 暗闇から脱出したと思ったら、俺がやられた瞬間から逆再生で戻ってくぞ! そう狼狽えていたら、ロージアが答えてくれた。
『時を巻き戻しているのですよ。ハーミットがメテオスプラッシュを放つ前まで戻すつもりです』
『んな事ができんのか!』
『私1人では不可能でしたが、時のダンジョンを創作できるユキノの力を借りることで可能となりました。彼女には念話で指示を出しています』
『そうなのか』
ロージア、それにユキノには助けられちまったな。
『それよりマサル、そろそろですよ?』
『ああ!』
メテオスプラッシュの最後の1つ(←最初に放ったやつ)がハーミットの手に収まっていく。この女、ジャスティスが生きていた時から狙いを定めてやがったのか。
『では行きますよ? 解除すれば即座に動き出します』
『問題ない。準備は万端だ』
場面はジャスティスが凍った直後だ。カルロスが巨大ハンマーでスタンバっている側で、俺は遥か上空のハーミットを見据える。
『行きます!』
スゥゥゥ――
「うおぉぉ!? 身体が氷漬けに!」
喚くジャスティスに背を向け、俺は瞬時に飛び上がる。ハーミットはすぐにでも発動できる体勢だ。噴射トラップで更に加速し、ハーミットの真ん前まで飛ぶと……
「なっ!? フール、いつの間に!」
「たった今だよ。テメェの思い通りにはさせねぇぞ!」
「フフ、でも飛んで火に入る何とやらかしらぁ? 来たところで結果は同じよ。おとなしく押し潰されなさい――メテオスプラッ――」
俺は慎重にタイミングを合わせ、発動直後に……
「――シュ!」
「反射ぁぁぁぁぁぁ!」
フィキ~~~ン!
ゴォォォ――――ドッ!
「うぎゃあ!?」
弾き返した最初の1つがハーミットに直撃し、体勢を崩して後方に仰け反る。結果残りのメテオは明後日の方向へと飛んでいき、ロージアたちの安全は守られた。
「ぐ……こ、このぉ……フールの分際でこの私に傷を負わせるなんて……」
「残念だったなハーミット? テメェが狙ってやがったのは最初から気付いてたぜ」
死んだ後に知った事だけどな。
「悔しいけどこの場は見逃してあげる。心優しい私に感謝することね!」
「あ、待ちやがれ」
シュン!
「クソォ、逃げられたか……」
まぁいい。今回はかなりヤバかったし、生き残れただけでもよしとするか。
★★★★★
「ミネルバ様!」
アレクシス王国の某所――エーテルリッツの地下施設にて、ミネルバ様に直談判するためやって来た。
「騒々しいぞ、ザ・サン」
赤く巨大な水晶玉の前に、瞑想を行っていた黒髪の女性が背を向けたまま発する。彼女こそエーテルリッツのトップにしてイグリーシアの導き手を自負するミネルバ様である。
「お前にはタワーの攻略を命じていたはずだが?」
「攻略? そんなことをやっている場合か! すでに半数の大役職を失っているんだ、すぐにでも対策を練るべきだろう!」
「…………」
「ミネルバ様!」
「はぁ……」
声を荒らげるボクに対し、タメ息と共に蔑んだ視線を向けてきた。そして聞き捨てならない発言も!
「欠員したなら補充すればよいだけのこと。慌てることではない。それとも墓が必要か? 立てるのなら勝手に立てるがいい」
「な……」
まるでどうでもいいと言いたげな台詞。いや、現にボクたちリードロールのことは気にも止めてないのだろう。これが導き手の台詞とは……
「貴女は言った、本来のイグリーシアを取り戻すために力を貸して欲しいと。あの言葉は嘘だったのか!?」
「嘘ではない。だが人が行使できる力には限界があるのだ」
「ではどうすると!?」
「人知を超えた力を獲る。そのためにタワーを攻略させているのだ。古からその姿を変えていないとされるタワー。そこは試練を与える場とも言われ、制した者には願望を実現できる力が与えられるという」
タワーにはそのような秘密が……。
「だったら皆で挑むべきではないか! そうすれば――」
「ならぬ。力を解放し過ぎては、テンパランスに動く理由を与えてしまう。現にフールはテンパランスに目を付けられたようだ」
「え!?」
世界のバランサーであるテンパランス。一説には神そのものであるという説もあり、奴を敵に回せば身を滅ぼすとも言われている。マサルさん――いや、フールはそれを承知で戦っているというのか? だったらボクは……
「ミネルバ、ボクはこれ以上貴女に加担することはできない。無関係な人たちを構成員になるよう洗脳しているのだってそうだ、貴女がやっている事は平和とは程遠い。ボクはボクのやり方でこの世界を護ってみせる!」
シュン!
「フン。ザ・サン然り、ハングドマン然り、フール然り。やはり転生者は信用ならん」




