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アクティブダンジョンマスター・俺は外に出る!  作者: 親方、空からゾンビが!
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マサルVSエンプレス

「我に仇なす愚かな人間よ、我がハルバードを受けてみよ――ウィンドスカッシュ!」


「遠距離から!? ――グァッ!」


 リーチの長いハルバードでのフルスイングだ。風を(まと)った斬撃は充分な距離を取っていた俺をも軽々と弾き、後方の樹木へと叩きつけられた。


「終わりだ人間――デッドストライク!」


 よろめく俺にハルバードの投擲だ。バカが、自ら武器を手離してくれるとは感謝しかない。


「そう簡単に当たるかよ!」


 一転攻勢だ。転移トラップでエンプレスの背後へと移動した。武器のない今なら確実に――


「終わるのはテメェだ!」




 バチィィィ!




「なっ!? 剣が……弾かれ……た?」


 障壁はない。なのに俺の剣は奴に届かず、反動を受けて後ろへと押し戻された。


「我には精霊の加護がある。何人たりとも我に触れる事はできぬ!」


 厄介だ。障壁なら強引に破れるだろうが、精霊なんてどうすりゃいい? 少なくともコイツの怒りに同調してるんなら懐柔は無理か。

 やっぱリオンさんの策に期待するしか――



 いや待て! リオンさんはどうした、なぜ動かない? 作戦ではこの辺りで罠を張っていると聞いた。だったら何らかのアクションがあるはずなのに。


 唐突に焦る俺。それが顔に出ていたのか、エンプレスが不適に笑う。


「フッ……」

「……何がおかしい?」

「哀れだと思ったのだよ、来るはずのない助けにすがる事ほど滑稽(こっけい)なものはないとな」


 まさかコイツ、リオンさんの策を見破りやがったのか? この余裕っぷりはその裏付け。だとしたら……


『ロージア聞こえるか? 作戦は失敗だ、すぐ来てくれ。……ロージア?』


 応答がない!? まさかロージアたちがやられたとは思えないが、何か想定外の事が起こっているのは間違いない。


『ジャニオ、この際お前でもいい。応答してくれ、ジャニオ!』


 ジャニオにも通じないだと!? こりゃ本格的にマズイ!


「フハハハハハ! 貴様の焦りが手に取るように分かるぞ? 今の貴様は孤立無援で我に立ち向かわねばならない。そういう事だ」

「……テメェが何か仕掛けたのか?」

「仕掛けたのは貴様らだがな。まぁいい、教えてやろう」


 そして自信満々に語り出すエンプレス。その内容に対し、俺は徐々に顔を曇らせていくことに。


「この辺りは緑が濃い。そのため精霊たちも活発になる。恐らくはエルフの協力者がいたのであろうな、先客として別の精霊が待ち構えていた。だがそれも折り込み済み。エンプレスの力を得た我の前に全て屈した。件のエルフは大いに焦っていることだろう。用意した精霊が手のひらを返したのだからな」


 リオンさんの策が逆に利用されたのか。


「なら念話が繋がらないのも……」

「我の精霊が阻害しているのだ。今この場は我の精霊たちが取り囲んでいるのでな、外部への視認も不可能となっている。我を除いてな」


 状況は理解した。この上なく最悪な状況ってことをな!


「さて、お喋りは終わりだ。プリーステスの命を奪った貴様を許すわけにはいかん」



 スッ……



 エンプレスの手元にハルバードが戻ってきた。聞くまでもない、精霊が運んだとかだろう。


「今さら許せ――なんて言わねぇよ。こっちだって譲れないもんがあるんだ、テメェらエーテルリッツの好きにはさせねぇ」

「ならば交えよう――」




「――互いの矛を!」

「望むところだ!」


 ――と言っても真っ正面からぶつかったりはしない。力負けするのは目に見えてるからな。



 シュン!



「また転移か。小賢しい真似を」


 小賢しくて結構。


「無策で突っ込むバカじゃねぇんだよ!」

「フッ――」



「――後ろを取りながら声でバラすのは三流のする事だ!」



 ザン!







「手応えがないだとぉ!?」


 振り向き様の横薙ぎが空を斬る。当たり前だ、音声トラップを背後に仕込んだんだからな。

 本物は真上でスタンバってたぜ?


「これでも食らえ――吊り天井!」

「上かっ!」



 ジャラララララ!



 トゲ付きトラップが急速落下。いくら精霊でもトラップまでは防げないだろう。



 ガチィィィィィィ!



「クソッ、トラップまで止めやがるのか!」


 直撃コースだった吊り天井がエンプレスに触れる寸前で急停止。難なく脱出されちまった。


「言ったはずだ、我に触れる事はできぬと。精霊が健在である限り、我に敗北はない――サイクロンスカッシュ!」


 ウィンドスカッシュの比にならない渦潮(うずしお)のような斬撃だ。食らったら一溜りもない!


「反射ーーーっ!」



 バチィィィ!



 上手く弾き返すも効果なし。精霊の守護が強すぎる。()()に頼るしかないか。


「お前が強いのは分かった。でもそれは精霊の強さだ。精霊の存在がお前を強く見せている、それだけだ」

「フン、言いたいことはそれだけか?」

「いや、まだあるぜ? こっから先は1対1で勝負してもらおう。俺とお前の――」




「――決戦の舞台(クライマックス)でな!」




 ヒュン!




「ん? 空気が……変わった?」

「ああ、劇的なくらいにな」


 周囲の風景は変わらず。だが小動物や昆虫なんかの一切の邪魔が入らない特別な空間だ。


「何が変わったかは身を持って味わうんだな――」




「――射的!」


 地上から飛び出した弓矢がエンプレス目掛けて飛んでいく。


「フン、学習能力のない奴め。ちゃちな弓矢なんぞで我を射貫くことなど――」



 グサグサグサグサグサグサ!



「――ガハァ! な、なぜだ、精霊の守護を無力化したとでも言うのか!?」

「無力化したんだよ。合理的な方法でな」

「なん……だと?」

「これが俺の切り札――決戦の舞台(クライマックス)だ。このスキルが発動しているうちは互いのステータスは互角になり、第三者からの妨害は一切発生しない。つまり第三者である精霊はこの場にはいないって事だ」

「バカな! 精霊が消えるなど……」


 信じてもらう必要はない。絶対的な優位性がなくなったのは事実だからな。


「クッ! ならば確かめてやろう。我と同じ強さを得たというのなら、我のスキルにも対抗できるはず。かつてこのスキルを受けて生存できた者は居らぬ。――受けてみよ、シャイニングゥゥゥ――」



 パシ――パシパシパシ!



 妙な光が俺の身体中に張り付いてきやがった。それこそ目印か何かのような……



「――ストラァァァイク!」



 グウォン!



「んげっ!?」


 ハルバードが巨大化してやがる!? しかも妙な光のせいで動けない! ああそうかよ、この状態なら避けられないし、生き延びた奴もいないだろうな!


「今度こそ終わりだ、我がハルバードの餌食となれ!」


 だが断るがな。


「断固拒否させてもらう。こんな物騒なハルバードはテメェに返すぜ――反射ぁぁぁ!」



 ググググ――――グウォン!



「なんだと!? ハルバードがこちらに返ってくる!」


 巨大化したハルバードがグルリと向きを変え、エンプレスに向かっていく。しかも妙な光がエンプレスを固定し、成す術なく……



 ズガァァァァァァ!



「グッフゥゥゥ!?」


 遠慮のえの字も知らないハルバードがエンプレスを貫く――いや、潰したと言った方が正しいかもしれない。何せ巨大化した状態だ。貫けるほどの図体じゃないからな。

 エンプレスの絶命により決戦の舞台(クライマックス)が解除され、恐らくは最初から居たであろうリオンさんと、駆けつけてくれたロージアたちが姿を現す。

 そして真っ先に気付いたロージアが泣きながら抱きついてきた。


「マサル、無事でよかった!」

「お、おぅ? そんな泣かんでもいいんだぞ? こうして無事だったわけだし」

「何を言っているのです、無事でなかったら二度と会えなかったのですよ!? こっちはハーミットと名乗る者に散々妨害されたのですから」


 聞けばエンプレスの仲間であろうハーミットという女がロージアたちを足止めしていたらしい。リオンさんも同じだったらしく、逆に危険な目に合わせてしまって申し訳ないと謝罪されてしまった。


「万全に備えたつもりでしたが、相手の方が一枚上手でした。大変申し訳ない……」

「まぁ強敵には違いなかったですし、それは仕方がな――」

「そうですよ? 下手するとマサルさんを失うところだったんです。断固抗議させてもらいますからね!」

「――っておい、ロージア」

「私にとってマサルさんに代わる存在など居りません。最愛の人を亡くしたら一生恨みますよ!」


 何とも小っ恥ずかしいことを垂れ流してくれた。いや嬉しいけどさ、これじゃ公開処刑だって。


「ところでハーミットって奴はどうしたんだ? 倒したのか?」

「あら? そういえば……」


 ロージアと仲間が周囲を見渡す。どうやらいつの間にか居なくなっていたようだ。大方エンプレスが死んだから分が悪いと察して逃げたんだろう。


 しかし今回の戦いで気付いた。このまま戦い続けるのは流石にしんどいと。もう少し余裕を持って戦えるくらいじゃないとこの先は危険だ。今日のところは助かったが、まとめて襲撃されたら全滅もあり得る。何か考えておかないとな。



★★★★★



「ようやく見つけた。コレがタワーか……」


 ボクの目の前には禍々(まがまが)しかさを醸し出している古めかしい巨大な塔が、雲を突き抜けんとする高さまで(そび)えている。

 ミネルバ様が言うには、タワーを攻略した者には常人では手に入らないであろう栄光もたらされるらしい。


「へぇ、コレがタワー? どうにも不気味な建物ネ」

「ハイアロファントか……」


 仲間の1人――中国人の転生者であるハイアロファントが物珍しげにタワーを眺める。ミネルバ様の命令でやって来たのだろう。


「でもおかしいネ。ここって魔導国家ガルドーラだよ。前にも探索したはずネ」


 そう、一度は探索を済ませたのだ。しかし世界中どこを探してもそれらしいものは見つからない。そこで再度探索を行ったところ、真夜中の僅かな時間のみ視認できる塔があるという噂を耳にし、こうして見つけられたわけだ。


「視認できるのは僅かな間だ。時間が経てば再び消える。今のうちに入るぞ」

「分かったネ。けどもう少しでストレングスもくるよ。一緒に攻略するネ」

「ストレングスか……」


 戦力としては申し分ない。タワーには予測不能な相手が待ち構えているとミネルバ様は仰っていた。レペルの高いストレングスは適任だろう。

 だが奴に協調性は皆無。どうせ1人で突っ込むだろうな。


「はぁ……。まったく、骨の折れる事だ」

「ハハハハ! ザ・サンはお疲れネ。けどこの世界を安定させるためには頑張らないと駄目ネ」


 ハイアロファント。この様子だとエンプレスが殺られた事は知らないのだろう。ボクよりも仲間思いな彼のことだ。知れば気が滅入るに違いない。この事実はしばらく伏せておこう。


 しかし気になる事もある。ハーミットは何をしていた? 問い詰めたところではぐらかすのだろうが、奴が本気を出せばエンプレスが死ぬことはなかったのではないか?


「…………」

「どうしたリュウイチ? 身体の具合でも悪いか?」


 今さらだな。タラレバより未来の事を考えるか。


「いや、なんでもない。それより呼び名を間違えるなよ。今の私はザ・サンだ」

「あ~そうだったネ、失敬失敬。でもこのニックネーム、あんまり好きじゃないネ。せっかく知り合ったんだから本名で呼びたいよ」

「おい包辛(ほうしん)、間違ってもミネルバ様の前では言うなよ? 気分を害されるからな」

「分かってるネ」


 このニックネームに関しては俺も思うところがある。ミネルバ様ご自身はフォーチューンであられるが、その名で呼ぶのは禁じられているのだ。噂では運命を定められているようで抵抗があるらしいのだが。


 ダメだな、どうもネガティブな部分が目についてしまう。ボクはミネルバ様を支えると決めたのだ。こんなところで愚痴るのは恥ずべきことだ。今はタワーの攻略に集中しよう。


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