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アクティブダンジョンマスター・俺は外に出る!  作者: 親方、空からゾンビが!
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ユキノの危機!? エーテルリッツの罠!

「おっし。今日も張り切って行くかぁ!」


 清々しい朝を迎え、パパッと着替えて素早く朝食を済ませた。ユキノとクリスティーナはロージア以外の仲間たちと先に闘技場へ向かったらしい。

 ちなみにジャニオとブローナはダンジョンに隠ったままだ。ブローナにとっちゃ大会はどうでもいいらしく、ジャニオと2人きりの留守番を満喫していることだろう。

 いや、ユーリたちがいるから2人だけでもないか。


「マサルさん、私たちも早く向かいましょう。応援される側が遅れては不満をぶつけられますよ?」

「分かってるって。左腕の調子も良くなったし、今日も全力で――」


 ――が、そんな清々しい気分を台無しにしてくれた輩が現れたらしく、焦った様子のクーガから念話が届く。


『おい、ヤベェぞマサル、ユキノが何者かに拐われちまった!』

『何だって!?』


 ユキノが誘拐されたと聞き、真っ先にエーテルリッツを思い浮かべた。


『後ろを歩いてたユキノがローブを着こんだ奴らに連れ去られたんだ。気付いた時には走り去るところだったから直ぐに捕まえようとしたんだ。そしたら奴ら、どこかに転移しやがって――ちきしょう!』


 やはり単なる人攫いじゃない。エーテルリッツが絡んでるのは間違いなさそうだ。


『今シゲルたちと手分けして捜してるから、マサルは大会に専念しろ』

『専念しろ――って、ユキノの命が危ないんだろ!? だったら俺も捜索に――』

「お待ちくださいマサルさん。試合に専念するのはユキノの延命に繋がるようです」

「――え?」


 そう言ってロージアは一枚の紙切れを見せてきた。


「これは……」


 紙には俺に対しての要求――というより脅迫めいた内容が書かれていた。


「なになに……ユキノの命が惜しくば次の試合は絶対に勝ってはならない。わざとらしくない程度に戦い降参すること。これを守らなければユキノの命はないものと思え。……って、ふざけたこと抜かしやがって! ロージア、いったい誰がコレを!?」

「つい先ほど宿の従業員から手渡されました。通りすがりの者から私たちに渡すよう頼まれたようです」


 クッ、卑怯なことしやがって!

 それにリュウイチ、これはお前が望んだことなのか? 敢えて実力行使に出ることで俺にユキノを護れないのだと非難するつもりか? お前は理想のためなら義理の妹ですら犠牲にするつもりか!


「ロージア、俺はどうすりゃいい? 負けるだけなら簡単だ。優勝より仲間の命を優先するのは当然だからな。だが……」

「そうですね。従ったところで「はい終わり」となる未来は予想できません。次の要求が待っていることでしょう」

「じゃあやっぱりユキノを!」

「はい。救出しましょう、私たちの手で!」


 こうしてロージアたちにはユキノの捜索と奪還作戦をやってもらうことになった。手掛かりは少ないがロージアには考えが有るらしく、今はそれに頼る他ないだろう。

 一方の俺はできるだけ試合を長引かせるつもりだ。奴らは次の試合を負けろと言った。つまり対戦相手が絡んでる可能性が高いんだ。もし可能なら目的を問い質してやろうと思う。



★★★★★



 会場はいつも通りの賑わいを見せていた。俺と相手が舞台に上がり、より一層の歓声が沸き上がる。

 どうせ観客の中に見張っている奴がいるんだろう。例の視線もエーテルリッツの奴らじゃねぇかと思えてきた。

 くそっ、見つけたらただじゃおかねぇ!


「それでは第1801試合を始めたいと思いま~す! 両者とも用意はいいか~!?」


 さて、観客席も気になるが対戦相手にも注意したいところだ。

 そこで目の前の相手をマジマジと観察すると、高そうな装飾が施されたローブに上位の権力者を彷彿(ほうふつ)とさせる黒いマントを風で(ひるがえ)している若い女エルフだ。左手にも高そうなロッドが握られている。


「では始めましょう! トラップマスターマサル選手VS癒しの女皇プリーステス選手! レディ~~~」




「ファイティィィィィィング!」



 ザッ!



 まずは離れて様子を(うかが)おう。勢い余って倒しちまったら厄介だし、成るべく回避に専念する方向でいくか。


「ほらいいぜ? いつでもかかって来いよ」

「…………」


 無愛想な女だ。いや、エルフだけに人見知りをしているのか? 俺としては来てくれた方が対処しやすいんだけどな。



 スッ…………



「……片手を上げて何の真似だ?」

「すぐに分かります。貴方が()()()()()()()には逆らえないということを」

「なっ!?」


 この女もエーテルリッツのメンバーか!


「んのやろう、仲間を誘拐するたぁふざけたことを!」


 勝たないまでも、一発くらい殴らなきゃ気が収まらねぇ。せめて無表情な面を苦痛に歪ませてやろうと思い、剣を使わず殴りかかる。



 バチィ!



「ってぇ! ――ちっきしょう、この邪魔くさい光の壁は……結界か!」

「ご名答。貴方の無礼で汚らわしい拳はこの結界が阻むことでしょう」


 涼しい顔で言ってくれるなコイツ? だったらトラップで――


「断っておきますが、トラップの使用は禁じ手とさせていただきます」

「!?」


 トラップを駆使していることに気付いてるだと!?


「これまでの試合は全て拝見させていただきました。剣技だけでは説明がつかないヶ所が幾多にも登る試合。一定量の魔力が放たれているものの、魔法そのものを使った形跡は皆無。では何処(いずこ)に魔力が使われているのか。答えはダンジョン特有のスキルに変換し、トラップとして発動させている。違いますか?」

「…………」


 トラップのことまではリュウイチには話していない。この女が自力で突き止めやがったんだ。


「フッ、無言は肯定とみなします。何よりわたくしの()は全てを見透すのですから」



 …………ギン!



「っ!」


 プリーステスの目が怪しく光る。これまでの射るような視線、コイツが原因か!


「ではさっそくですが貴方を拘束するとしましょう。――美しき緑よ、聖域を蝕まんとする輩に大地の裁きを――シードパニッシャー!」



 メキ――メキメキメキ――



 な、なんだ? 周囲の地面が膨れ上がってくぞ?



 ――ボゴボゴボゴボゴォォォ!



「じ、地面から樹木が生えた!?」

「わたくしの魔力を分け与えた木々です。美しく成長しているでしょう?」


 美しいかは別として、瞬く間に周囲を立派な樹木に囲まれちまった。このままだと逃げ回ることは困難か、――なら!


「フン、こんな木なんざブッた斬って――」



 シュルルルル――ガシガシィィィ!



「な!? 蔓が巻き付いてきやがった!」

「当然です。彼らにも防衛本能が備わっているのですから、彼らを害する貴方は敵でしかありません。もちろんわたくしにとっても」


 クッソォ……、両手が持ち上げられるように固定されてて身動きができねぇ! しかも両足まで地面に縫い付けられてやがる。トラップさえ使えればこんな拘束!


『ロージア、ユキノの救出はまだか?』

『申し訳ありません。何分手掛かりが少なく、逃走ルートすら特定が困難で……』

『そうか……』


 参ったな。当分はなすがままか。

 そう呑気に構えていたが、相手のプリーステスは強行手段に出てきた。



 ググッ!



「ガァッ! テ、テメェ、首に手をかけるとか何考えてやがる?」

「真意を問うためです。こうすれば本音を語っていただけるでしょう? これより問い掛ける内容は、嘘偽りなく答えていただく必要がありますので」

「……答えなかったら?」

「もちろん死んでいただきます」


 コイツ、目が本気っぽいぞ? というか本気でそう考えてやがるのか!?


「んなことすりゃ失格確定だぜ? それに殺人罪で投獄されるっておまけ付きだ」

「構いません。使命が果たせるのなら」

「……だが俺が降参すりゃその時点で試合終了だ。あくまでも殺そうってんならギブアップするぜ?」

「フッ、ギブアップをしたところで拘束からは逃れられない。ギブアップをした後に死体になるだけです」


 ああ、マジだ。コイツは本気だ。本気でイカれてやがる。

 そんでもってこの女、とんでもないことを要求してきた。


「ですが安心してください。貴方がエーテルリッツに加わり、心からミネルバ様に忠誠を誓うというならば命までは取りません。さぁ答えて下さい。忠誠か――死か」


 開始早々詰んじまった。エーテルリッツに加担なんざ100パー有り得ねぇ。


「さぁどうします? 抵抗しても構いませんが、その瞬間あの娘の命は失われます。それでよいのなら抵抗してみなさい」

「できるかよ、んな事!」


 俺は仲間を切り捨てたりはしない。でもってロージアたちが救出するって信じてるぞ。絶対にな!


「抵抗の素振りは無し。では改めて問いますが、ミネルバ様への忠誠を誓いますか?」

「…………」

「だんまりですか。しかしわたくしも暇ではありません。貴方1人に割いている時間はとても惜しい。ですから――」


 ググッ!


「グェッ!」

「このまま首を絞めてしまえば貴方は終わり。知性の低い人間でもこの意味は分かるはず。ですのでこれが最後の質問――いえ、命令です」

「命令……だと?」

「そうです。これから先はミネルバ様のためだけにその能力を発揮すると誓いなさい。従わないのなら貴方は不要。今この場で死んでもらいます」


 くっ! 時間がねぇ、どうする? ダメ元でトラップを発動するか?

 いや無理だ、この女には冗談が通じそうにねぇ。躊躇(ちゅうちょ)せずユキノを殺すだろう。


「……強情ですね。たかが小娘1人、そうまでして助ける価値がありますか?」

「テメェらだってユキノを捜してたんじゃなかったのかよ。リュウイチから聞いてるぞ、俺が保護しなければユキノを迎え入れるつもりだったってな」

「リュウイチ……ああ、ザ・サンの事ですか。彼はそのつもりだったのでしょうが、実際は違います。ザ・ムーンを欲していたのはザ・サンの私情。我らエーテルリッツの目的はフール、貴方です」


 俺がフールってか? アルカナでいう愚者ってやつか。


「へぇ。俺がフールならミネルバは何て――」



 バシン!



「――ってぇなこの!」

「黙りなさい。ミネルバ様を呼び捨てにするなど許しがたい行為。やはり貴様は殺すしかないようですね!」



 ググググ……



「ガ……ア……この……サイコパス女……が……」

「フッ、サイコパスですか。ミネルバ様のためならば狂人にだってなりましょう。あの御方はイグリーシアを導いてくださるのですから」


 くそったれぇ! コイツこそエルフの面被った化け物じゃねぇか。


「フッ、苦しいですか? いま楽にして差し上げましょう」


 これ以上の時間稼ぎは無理だ。ロージア、早くユキノを……




『マサル! ユキノって女は救出した、さっさと反撃しやがれ!』


 そ、その声は……




『モフモフのアニキ!』

『おうよ、ロージアに泣きつかれちまってな、仕方ねぇから手を貸してやったのさ』


 さっすがアニキ、後光が差して見えるぜ!(←いや見えないだろ……)


「クク!」

「……む? この期に及んで何を企んで――」

「ぐらぇ……焼き畑ぁ!」



 ボォォォォォォ!



「な、なんですかこの炎は――ひゃっ!?」


 周囲の樹木が突然燃え上がり、プリーステスは驚きのあまり手を離す。更に火の粉までもが降りかかり、パニックになりながらバタバタと払い始めた。


「焼き畑トラップの威力はどうだ? このトラップは対植物用のトラップでな、植物にのみ有効なんだ。まぁ火の粉は自力で払う必要があるけどな」

「お、おのれフール! 貴様の愚かな行いにより、捕えた小娘は消えてもらうとしよう」


 そう意気がったプリーステスだが、次の瞬間には顔が青ざめる事に。


「な、仲間が応答しない? 貴様まさか!」

「そのまさかさ。ユキノはすでに救出した。もうお前に遠慮する必要はないってこった!」



 バキッ!



「あぐっ!」


 積もり積もった鬱憤(うっぷん)をプリーステスの顔面に叩き込んでやった。パニくってる今なら結界が解かれてると思ってな。思惑通りってやつだ。


「よ、よくもわたくしの顔に傷を!」

「なんだぁ? 感情が無いのかと思ったら良い顔してるじゃねぇか」

「黙れ! 貴様のような輩はエーテルリッツに相応しくない。今この場で朽ち果てよ――パニッシャーウィップ!」


 辛くも焼き畑トラップを逃れた樹木が枝を伸ばし、俺に向かってフルスイングをかましてきた。


「フン、トラップを使えりゃなんてことはないぜ――障壁!」


 石壁により枝の鞭を完全にガード。その隙に真上へ飛び出すと、くたびれかかった枝を一刀両断。そのままプリーステスに斬りかかる。


「刃を潰してることに感謝しな!」



 ガキン!



「チッ! また結界か」

「これ以上汚らわしい手で触れられたくありませんからね。わたくしは結界の中からお前が朽ちるのを見届けるとしましょう」



 ググググググ……



 一度は焼き払った樹木が再び生えてきやがった。


「これでも癒しの長と呼ばれた存在です。わたくしが居る限り、緑を枯らす事など不可能だと知りなさい」


 何度燃やしても堂々巡りってか?


「なら結界の内側から狙うまでだ――剣山!」



 ザクザクッ!



「ギャァァァァァァ!? わ、わたくしの足がぁぁぁぁぁぁ!」



 短剣ほどの長さで両足をくし刺しに。プリーステスはその場でのたうち回り、やがて激痛により気絶した。



「癒しの女皇プリーステス選手の戦闘不能を確認! よってこの試合はトラップマスターマサル選手の勝利で~~~す!」

「「「おおおっ!」」」


 ちょっと痛々しいけどな。仲間の命を奪おうとしたんだ。寧ろこの程度で済ませたんだから感謝してほしいぜ。


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