女皇再び
「ユキノ、無事でよかった!」
「マサルさん! ボクのせいで迷惑をかけてしまい、大変申し訳ありませんでした!」
試合終了後の闘技場の外で、救出されたユキノを含むロージアたちと合流した。
ユキノは必死に謝ってくるが、正直彼女は悪くない。
「迷惑じゃないから大丈夫だ。それに悪いのはエーテルリッツの連中だからな」
「いや、あたいらも不注意だった。武術大会だからって浮かれちまった……」
「そうですよね。注意していたら敵の接近にも気付いていたでしょうし……」
クーガとシュワユーズが揃って肩を落とす。当時はこの2人がユキノにもっとも近い位置だったらしいからな。
そんな2人を庇うように、モフモフのアニキが口添えをしてきた。
「落ち込むこたぁねぇぜ? どうも連中、妙な転移方法を使ってるらしくてな、即座に感知するのが難しいんだとよ」
「らしいって……アニキが見つけてくれたんじゃ?」
「いや、俺はスキルの特殊迷彩使ってユキノを救出しただけで、見つけたのはアンジェラだな」
「アンジェラ?」
「俺と同様、アイリの姉御の眷族だ。俺たちの中じゃもっとも強ぇぜ……」
遠い目をして語るモフモフのアニキ。そのアンジェラという人物に余程ひどい目にあわされたんだろうか?
「そうか、会ったら礼を言わないとな。ところでアニキ、頬が腫れてんのはどうしてだ?」
「あ! そ、それはボクが……」
聞けばアニキがユキノに接触した時、襲われたと勘違いされたらしい。
「うん、そりゃアニキは強面だからな。もう少し見た目を気にした方がいいぜ?」
「るせぇ!」
ゴツン!
「いってぇ!」
「ったく、すぐ調子に乗りやがって。まぁあれだ。とにかくお前ら、これからはエーテル何とかって連中には充分注意するこった。いつでも助けてやれるとは限らないからな」
「そうですよね。ボクなんか助けに来てくれたのに怖くてビンタしちゃって……。本当にすみません!」
「い、いや、今のはお前に言ったんじゃない。つ~かな、あれは俺も悪かった。うん、いきなり抱えようとしたら驚くよな。俺は気にしてないから気にすんなよ!」
そう言ってモフモフのアニキは照れ臭そうに去っていった。
これでめでたしめでたし――とは行かず……
「しかしだぞ、マサルが戦った奴は生きてるんだろ? それって危険じゃないか?」
カルロスの言うことはもっともだ。命を狙われてる状態で武術大会に専念なんざできるはずもない。
「ですがせっかくの大会ですし、ユキノとクリスティーナにはダンジョンで待機してもらい、他のメンバーで警戒に当たるのがよいでしょう」
「え~!? ちょっとロージアは~ん、それは厳しいんとちゃいます~? ウチとユキノも観戦楽しみにしとんねん」
「だけどクリス、今回ユキノさんは助けられたけど、次も救出できるとは限らないよ。ボクとしても極めて安全なダンジョンにいて欲しいんだけど……」
「Boo! なら現場から中継してや。コアルームのごっついモニターに繋いでな」
「こらこら、勝手にダンジョン機能を使うなよ」
これで明日からの行動は決まった。できれば邪魔をされないのが一番なんだが。
★★★★★
バチィィィ!
「うっく!?」
その日の夜遅く、あらかじめ張っておいた結界が何かを弾いた音で飛び起きた。寝込みを襲われる可能性を危惧していたら、案の定って感じだ。
「くっ! この蛮人め、小癪にも結界を張り巡らしているとは!」
そして予想通りに襲撃者はプリーステス――っと。
「エルフのくせに卑怯な手段を使うんだな。同胞が泣いてるぜ?」
「黙れ! 我が同胞の心はわたくしと共にある。今は星となって祖国の復興を見守ってくれている!」
「あっそう。そっちの事情はどうでもいいよ。けどな、俺は仲間を殺そうとした奴を許せるほどの器じゃねぇんだ。落とし前はキッチリとつけてもらうぜ」
立て掛けていた剣を掴み、瞬時に戦闘態勢をとる。
バタン!
「マサルさん、無事ですか!?」
異変を感知したロージアも直ぐに来てくれたな。
「残念だったなプリーステス。テメェの夜襲は失敗だぜ!」
「クッ!」
パリィン!
形勢は不利だと悟ったプリーステスは、苦虫を噛み潰したような顔をして窓を突き破って逃走した。
「あ、待ちやがれ! テメェが逃げたら俺が修理代を請求されちまうだろうが!」
「そんな心配より追跡に専念して下さい」
俺とロージアも直ぐに後を追う。表通りとはいえ通行人は殆ど居ない。多少のトラップなら騒ぎにならないだろう。
「逃がねぇぞ――スプリング!」
ダン――――スタッ!
「!?」
回り込むため大ジャンプを決行。上手く正面に着地して見せた。
「逃がさねぇっつったろ!」
「フン。しつこい野蛮人め、だがこれなら追跡できまい」
ブゥン!
「ああクソッ! どっかに転移しやがったか!」
「マサルさん、落ち着いて。プリーステスが使用したのは独自に組み立てられた術式です。転移石とは違い魔力痕が色濃く残っていますので、解析することで追撃が可能ですよ」
「ホントか!?」
「すぐに解析するので少しだけ待ってて」
目を閉じたロージアにお預けを食らうこと1分。
「見つけました。さぁ追いかけましょう!」
「おぅ!」
ロージアに手を引かれる形でプリーステスの追跡を再開。夜のデートじゃないのが少々残念だが、手を離してしまわないよう少し強めに握り返す。
「そんなに強く握らなくとも離したりはしませんよ?」
「いや、分かってるよ。なんつ~かほら、つい力んじまってさ。こっちはユキノが危機に晒されたんだし」
「それで先程から頬が赤いのですね」
「!!!」
ヤバヤバ。夜のデートを想像してたのが顔に出てやがったのか。今はそれどころじゃないんだ、余計な妄想は後回しだ。
「着きました。どうやらこの邸のようです」
「でもここって……」
城詰めの貴族が集まる高級住宅地のど真ん中だ。
「まさかプラーガ帝国の貴族にまで触手が伸びてやがんのか?」
「それか知らずに協力しているかのどちらかでしょうね。いずれにせよ放置は好ましくありません。プリーステスを捕えてから尋問するとしましょう」
「え!?」
温厚なはずのロージアからまさかのフレーズが。
「ロージア、なんかキャラが変わってない?」
「普段と変わりませんよ? 強いて言うのなら、主に染まったという事でしょう」
「んな人聞きの悪い……」
「フフ、冗談です。けれどもマサルさんを亡き者にしようとしたプリーステスは、許しがたいと言わざるを得ません。さぁ、トドメを刺しに行きましょう」
シュバ!
ロージアに手を引かれて空高く舞い上がっていく。邸を前に何処へと思いきや、向かった先は邸の屋上。すると屋上の床に魔法陣を展開しているのが見え、魔法陣の前でブツブツと唱えているプリーステスを発見した。
「見つけたぞ、プリーステス!」
シュタ!
「チッ、予想以上に速い」
「ったりめぇだ、もう二度と仲間を危険な目にゃ合わせねぇ!」
キィン!
「言ったはずです。野蛮な者の刃は届かないと」
着地早々に斬りかかるも、やはり結界によって阻まれた。
「それなら今朝みたいにトラップで――」
「ダメです、魔法陣に影響を及ぼせば暴走しかねません。少なくとも今はダメ」
「ならどうすりゃいい!?」
「プリーステスを結界の外に引きずり出すか、魔法陣そのものを封印する。二つに一つです」
だが引っ張り出すならどうしても魔法陣に触れちまう。
「封印……頼めるか?」
「やってみましょう」
魔法陣はロージアに任せることにし、俺はプリーステスの注意を引き付ける役回りに。
「バカめ、そう簡単に封印できると思うな。我らエーテルリッツの実力、ここで披露してやろう――ウィンドボルトカッター!」
ヒュヒュヒュヒュ!
殺傷能力の高い風魔法だ! 通常のウインドカッターより刃も回転も鋭い。それが複数放たれ、自分の防御とロージアの護衛を強制させられる。
ただの石壁だと危険だ。ここは……
「鉄壁!」
カカカカカカン!
ロージアを庇うように鉄の壁で囲った。さすがの高位魔法も分厚い鉄は切れなかったようだ。
「貴様……石の壁だけではなかったのか!」
「コスト節約で普段は使わないだけだ。そんな事よりもう諦めろ。今のお前じゃ俺たちは殺せない」
「…………フッ」
ん? 俯いて笑ってるだと?
「フハハハハハハハ! 確かに、確かに貴様らは殺せないだろう。ああ、その通りだろうとも! だからこそフール、貴様の息の根を止めるためだけに用意したのだ――」
「――死の樹海をな!」
ググ……ググググググ……
「――こ、この揺れは!」
「どうしたロージア!?」
「この揺れ、魔法陣とリンクしている!」
「何だって!?」
「発動した以上、止める術はありません!」
魔法陣の封印は失敗か。
「おいテメェ、死ぬ前に答えろ。いったい何をしようってんだ?」
「フッ、言ったであろう? 貴様の息の根を止めると。もう間も無くデッドエンドツリーは完成する。見るがよい、さっそく芽生えてきたぞ?」
地面の至るところから木々が生えたかと思えば、建物に寄生するよう纏わりついていく。それでも木々は成長を止めず、建物を覆い尽くすと上へ上へと延び続け、ついには1つの巨木へと成り果てた。
「な、何だよこれ……魔物……なのか?」
建物に根を張り、その上に成長した巨木って具合に出来てやがる。巨木の真ん中にはご丁寧に人の顔のようなものまで浮かんでんな。
「フッ、驚いたか人間よ? わたくしの持つ知識と魔力の全てが詰まった結晶だ。さぁ貴様らも寄生されるがいい!」
シュルルルル!
デカイ枝が俺とロージアに伸びてきた。他の建物と同じく取り込むつもりだろう。
「そうはいくか! ――ロージア!」
「分かってます――フリーズストーム!」
迫る枝が凍りつき、それ以上の侵食を阻害する。そこへ……
「止まってりゃただの的だぜ――要切断!」
侵入者を地面で待ち受けるチェーンソートラップだ。それを極太の枝に向けて放ち、ズバズバと心地好い音と共に切り落としていく。
「どうだプリーステス、テメェの植え付けた樹木なんざ――」
ニョキニョキニョキ……
「――って、また生えてきただと!?」
「恐らく何処からかエネルギーを供給されているはずです」
エネルギー、つまり栄養か。
いや待て、根っこにあるのは貴族街の建物だ!
まさかと思い視線をプリーステスに戻す。すると案の定やつは口の端を吊り上げた。
「気付いたか? ここには貴族共が見栄で飾っているマジックアイテムが多数あるのだ。それらから魔力を吸収すれば、幾らでも再生が可能ということだ」
この女、だからここを選んだのか。
「チマチマやってたんじゃ再生されてやり直しだ」
「ええ、一気に決めましょう!」
狙うは顔が浮かんでやがる巨木の真ん中――
――から下に延びている根っことの境目だ。
根っこから栄養を吸収されてるだろうからな。そこを断てば再生出来ないって訳さ。
「させるか! やれ、デッドエンドツリー!」
ウザい枝が伸びてきた。そんなに寄生したいんならダッチワイフを用意してやる。
「ほらよ、案山子だ」
ヘノヘノもへ字の人形が枝に向かっていき、俺たちの代わりとして自ら取り込まれていく。
「デッドエンドツリー、何をしている!? そんな玩具は放って置け!」
デカイが故に細かい命令を受け付けないようだ。最後に欠点が分かってよかったな。つってももうすぐ無駄になるだろうが。
「今だ、ロージア!」
「分かりました。今度は私が仕留めましょう――」
「――アイシクルブレーーード!」
宙に舞った氷の粒が巨大な剣となり、高速回転で巨大に向かう。巨大は今も案山子と戯れていて、ロージアの魔法に対処できず……
ズバズバズバズバッ!
「そ、そんな! わたくしの樹海が……。お、おのれフール、貴様だけは許さん!」
根を断たれ崩れ落ちる巨大を背に、プリーステスがロッドを構える。
まだ戦う気か? その根性は買うけどな。
「これで終わりだ、プリーステス!」
ザクザクザクザクッ!
「ガッハァ!?」
試合を再現したように剣山でくし刺しにしてやった。
「ふぅ、ようやく終わったか……」
「では急いで戻りましょう。誰かに見られては厄介です」
「だな」
死体を何とかしたいが今は眠い。それに何より下では大騒ぎになってるからな。後は衛兵に任せよう。




