本選開始!
「よくぞ集まってくれた皆の者。これより毎年恒例となる武術大会本選を開催する! 今大会の優勝者には――」
闘技場の上部一角で、やけに若い金髪の皇帝陛下によるお言葉が発せられる。観客席の雰囲気としては「さっさと始めろ」感が凄まじいのだが、皇帝陛下にヤジを飛ばすバカはさすがに居ないようだ。
俺はというと他の参加者と一緒にステージでズラリと整列させられ、顔は皇帝に向けるよう予め指示されていた。粗相すると投獄されかねないしな、クーガ共々おとなしく従ってるよ。
「あんな遠くに居るってのに良く聴こえるなぁ。マジックアイテムでも使ってんのか?」
「ん? あ~アレだ、皇帝が持ってるマイクのお陰だろ」
何気ないクーガの一言でマイクの存在が明らかになる。アイリが色んなもの召喚して取引してるって言ってたからな。あのマイクもその内の1つなんだろう。スピーカーもどっかに付いてるのかもなぁ。
「う~む……」
「なんだよマサル、キョロキョロし出して田舎もんみてぇだぜ?」
「いやな、スピーカーがどっかに――」
ジ…………
「……?」
なんだ? 妙に視線を感じるぞ?
「ってお前な、いくらなんでもキョロキョロしすぎだ。あたいまで田舎もんだと思われんだろうが!」
「いや、違うって。今誰かに見られてたんだよ」
「アホ抜かせ。だ~れがマサルなんか見るかよ。どう考えても自意識過剰だろ」
「っかしぃなぁ……」
確かに見られてたんだが、今はもう視線を感じない。気のせいだったか?
「さぁ、沸き立つ闘志を秘めし者たちよ、存分に力を示すがいい!」
「「「おおおっ!」」」
開会式が終わり、参加者たちがゾロゾロと引き上げていく。俺も腹が減ったとブー垂れるクーガに押されて会場を後にしようとしたところ、行く手を遮る影に足を止める羽目に。そして直後に聞きたくはない声が聴こえてきた。
「よ~ぅ、クソジャップのマサルじゃねぇか。こんなところで出会っちまうとは思わなかったぜ」
「……ビガロか」
そう。同じ転生者でありながらも、主義の違いから協力関係を解消したあのビガロだ。さっき感じた視線はコイツだろうな。
「見たところ別の女を連れてるようだがロージアはどうした? 別れたってんなら俺が貰ってやるぜぇ?」
「勘違いすんな、ロージアは別行動だ。それにクーガとはそういう関係じゃない」
「フッ、そうかい。ならクーガでもいいぜ? 俺の女に――」
バシッ!
「気安く触んじゃねぇ、クソ野郎が」
肩に触れるか否かというタイミングでビガロの手が叩き落とされ、逆にクーガの爪が喉元に当てられる。
一方のビガロもクーガの腕をガッチリと掴み、それ以上は動かないよう押さえていた。
「へへ、こいつぁ驚いた。瞬時にここまで動ける奴ぁ見たことねぇぜ」
「はっ、テメェみたいな一般人に褒められたところで嬉しかねぇよ」
「そうかい? お前さんさえ良ければいつでも受け入れるんだがなぁ?」
「バカ言え、あたいより弱い男に興味はねぇ。どうしても欲しけりゃ実戦で証明しな。話はそれからだぜ!」
「フッ」
フッ……て、ビガロの奴やる気かぁ? クーガも以前より強くなってるいし早々勝てる相手じゃないはずだが。
「なら好都合だ。俺と当たるのを楽しみにしてな。そうすりゃ嫌でも認めるしかねぇだろうよ。そしてマサル、これはお前にも当てはまる事だぜ?」
「そうだな。そん時は全力で叩きのめしてやる。俺だって優勝狙ってんだ。立ち塞がるなら倒すまでさ」
「ハハッ! 優勝ねぇ。そんなマサルに1つだけ良い事を教えてやる」
「……何だ?」
「今日はエイプリルフールじゃねぇってことさ。ガッハハハハ!」
バカにしたような笑い声を吐きながらビガロは去って行った。あの野郎、対戦で当たったら覚えとけよ!
★★★★★
ビガロの事は早々に忘れ去り、明くる日の俺の試合を迎えた。対戦相手はジョセフという弓使いの青年だ。
「それでは第32試合目を始めます。天翼のジョセフ選手VSトラップマスターマサル選手。レディ――」
「ファイティィィィィィング!」
ダッ!
相手が弓使いなら接近戦に持ち込むのが定石。一気に間合いを詰めようとするが……
シュバッ!
「地上で張り合う気はありませんよ?」
「何っ!?」
背中から急に翼が生え、上空に逃げられちまった。
「お前、翼獣人か!」
「ご名答。空はボクら翼獣人の領域。地を這う貴方たちとは世界が違うのです」
翼獣人とは、文字通り翼が生えた獣人の事を指すんだ。空からの狩りを得意とし、上位ランクの魔物ですらヒット&アウェイで倒すこともあると言う。
「フッ、これが避けられますか? ホットスクランブル!」
シャシャシャシャシャシャシャシャ!
「ちぃ!」
一度に大量の矢が降り注ぐ。動きの鈍い奴なら避けきれないだろう。
俺か? そもそも俺の場合は――
「障壁!」
この通り、避ける必要がないんだよ。
「その障壁は厄介ですねぇ。ボクの乱れ打ちが意味を成さない」
「その通りだぜ? 分かったら降参しとけ。ケガしないで済むからな」
「ククク、それは有り得ません。何故ならボクら翼獣人が地を這う者に屈っしたりはしないのですから」
コイツ、言葉使いは丁寧でも心中で見下してやがんな?
「そうかい。だったら俺も本気で――」
…………ギン!
「――うっ!?」
まただ、またさっきの視線だ。さてはビガロの奴、俺に対抗するために動きを分析するつもりだな? こうなると初っぱなから手の内を見せるのは良くはな――
「クククク、よそ見はよくありませんよ? シュープクロスアロー!」
「やべっ!」
気を逸らした隙に奴の弓矢が間近に迫っていた。辛うじて避けたため、腕と脚に掠った程度で済んだが。
「やってくれたな? お返しだ!」
シュバッ!
「何っ!? お前も飛べるのか!」
修行のお陰でトラップ無しでも大ジャンプをできるようになったんだ。これでDPを気にせず、いつでも飛べるってわけさ。
「食らえぇぇぇ!」
ギュン!
「おっと、これは計算外。一時に戦略的撤退です!」
ササッ!
クソッ、あと一歩のところで大きく距離を取られちまった。もう少し速く動けたらダメージを与えられたんだが。
いや待て、そもそもなぜ遅い? いつもならもっと距離を詰められるはず。そうだ、そう言えばいつもより体が重い気もする。
「クククク、どうやら効いてきたようですねぇ?」
「効いてきたって……まさかテメェ!」
「クク、軽い神経毒ですよ。軽度の全身麻痺を引き起こすもので、ボクの部族では狩猟の際に多様するのです。直接死に至らしめるものではありませんし、今大会でも使用は認められています」
小賢しい奴め。だがこれは油断した俺が悪い。最初から集中していれば矢を受けることもなかったはずだ。
「テメェの考えはよ~く分かった」
「おや、分かってくれましたか? 貴方たちなような地を這う者とは格が違うと」
「そうだな。テメェみてぇに空を飛ぶことしかできない無能と一緒にされちゃ困るってことがなぁ!」
「なっ!?」
こっから反撃だ。余裕ブッこいてやがったツケを払わせてやる。
「いくぜぇ!」
シュバッ!
「フッ、何をするかと思えば、先ほどと何1つ変わらないじゃないですか。では望み通りに撃ち落として差し上げますよ――ホットスクランブル!」
シャシャシャシャシャシャシャシャ!
動きが鈍った俺に降り注ぐ弓矢の雨。今の俺に全てを避ける動きはできない。
だったら!
「避けなきゃいいんだよ――反射!」
「何だと!?」
避けずに突っ込んでいく俺に驚愕するジョセフ。しかし、その驚愕はすぐに別の要因へと変わる。
シャシャシャシャシャシャシャシャ!
「そそそ、そんな、ボクの矢が――ウガァァァァァァ!?」
まさか自分の矢が返ってくるとは思っておらず、避け切れずに被弾しまくっていた。
だがそれだけじゃ終わらない。最後は俺の手で決着させねぇとな!
「トドメだ、マサルスラァァァシュッ!」
バズッ!
「ゲハッ!」
払いのけを正面から受けたジョセフが地上へと落下していく。そして地面に叩きつけられたところからカウントが始まった。
「おおっとぉ、天翼のジョセフ選手ダウゥゥゥン! ではカウントに入るぞぉぉぉ! ワン! トゥ~! スリ~!」
続けて俺も地上に降りると――
「セブ~ン! エ~イトゥ! ナイ~ン! テェェェェェェン! 試合終了~~~! 天翼のジョセフ選手を戦闘不能と見なし、トラップマスターマサル選手の勝利としま~~~す!」
「「「おおおおおっ!」」」
ふぅぅぅ、何とか勝てたな。万全なら苦戦するはずもない相手だっただけに、反省点の多い試合だった。次はもっと集中しないとな。
しかし……
「…………」
見渡したしてはみたが、やはり視線は感じない。出場する準備でもしてるのか?
「続いて33試合目を始めます。西方より猪突猛進ガイラ選手、東方よりデストロイヤービガロ選手の入場だぁぁぁ!」
「「「ヒュ~~~!」」」
デストロイヤービガロだと? まさかと思い会場へと振り返ってみると、やはりあのビガロだった。
すると俺の視線に気付いたビガロが……
「フッ」ニヤリ
意味深な笑みを返してきた。もちろん好意的な笑みじゃない。あんな奴に苦戦するようじゃ俺には勝てねぇぞと言っている目だった。
いいだろう。そこまで言うなら観戦してやろうじゃないか。
キャラクター紹介
天翼のジョセフ
:本名はジョセフ。普通の獣人とは違い背中に翼が生えており、鳥のように自由に飛び回ることができる種族。
稀少種のためか飛べない者を見下す傾向がありプライドも高い。マサルに敗北した後に自分を責めているが、マサルも空を飛べる存在であると強引に定義付けることで何とかプライドを保っているらしい。




