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アクティブダンジョンマスター・俺は外に出る!  作者: 親方、空からゾンビが!
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相成れない存在

 エメローナの潜伏先へと突入した俺たちの前に、魅力状態の冒険者たちが立ち塞がった。魔物や犯罪者ではない彼らを殺すわけにはいかず、手間取りながらも奥へと進む。その最中、ダンジョンの危機をロージアが察知した。


「ダンジョン周囲に敵影!? ジャニオ、今すぐブローナとシュワユーズを連れてダンジョンに帰還しなさい!」

「かしこまりました。お二人とも行きましょう!」

「ジャニオ様となら何処へでも!」

「はぁ、せっかくの衣装なのに~」


 戦力ダウンか。つってもこのまま引き上げるわけにはいかねぇ。エメローナを倒さなきゃダンジョンへの侵入は防げねぇからな。


「「「侵入者を殺せ、侵入者を殺せ、侵入者を殺せ……」」」


 あ~~~ウゼェなもう! 魔物だったらこんなに苦労はしなかったんだけどな。


「ロージア、エメローナは地下か?」

「いえ、上の階に反応があります。どこかに階段が――」

「へ~イ、そこの姉ちゃん! 上に行くんなら手っ取り早い方法があるぜェ?」



 その声は!



「ビガロ!? どうしてここに!」

「ハハッ! お前らが面白そうなことに首突っ込んでるからヨ、こうして見物に来たってわけサ」


 何でここに居るのか知らないが、数が多い方が助かる。


「マサルさん、彼は……」

「例の劇場で助けてくれた男だよ」

「ピンチに頼れるホットな男――ビガロってんダ、よろしくな姉ちゃん」

「それよりビガロ、手っ取り早い方法ってのは?」

「フッ見てナ、こうやって派手にブチ上げるのサ――ライジングドリルーーーッ!」



 ズガガガガガ~~~ン!



 ビガロが拳を高速回転させて飛び上がり、天井に大穴を空けた。弾みで上に有ったものがドカドカと落下する中、上の階からビガロが手招きをしてくる。


「お~いお二人さんヨ、さっさと上がって来いヨ~」

「わ、分かった」


 ロージアの手を引いて上の階に飛び移る。しかしアレだ、転移者なだけあってビガロは強いよなぁ。コイツが協力してくれるんなら百人力だ。


「ビガロ、お陰で助か――」

「へ~い姉ちゃん、俺の技はどうだイ? しびれただろ~ゥ?」

「いやお前、こんな時にナンパすんな!」

「分かってねぇなぁマサル~。こんな時だからこそ出逢いは大事なのサ。そして何時死ぬかも分からねぇ中に有る女神の微笑ミ。まさに戦場に咲く華じゃねぇかヨ」


 何言ってんだコイツは……。


「下を見てみろ、むさい男共をヨ。俺は最後の晩餐が野郎の顔なんざまっぴら御免だネ。もしも叶うんなら美女とのテクノブレイクが最高の晩餐サ」

「テクノブレイクってお前……」

「まだ分かってねぇみてぇだなマサル。いいか? ここは異世界ダ。元いた地球とは根本が違う。俺はアメリカでお前は日本。だがその二つとは決定的な違いがここには有る。何だか分かるカ?」

「魔法が使える……とかだろ?」

「ハッ、そうじゃねぇヨ。この世界は力の限り自由。法なんてもんはチートでどうにかなっちまう。ロス警察、FBI、ホワイトハウスでも俺の邪魔はできっこねぇ。自由の女神なんざ糞食らえダ。俺はこの世界で本当の自由を手に入れたのサ!」


 そうか。ビガロのやつ、チートの力に溺れてやがるのか。良い関係になれるかと思ったが、コイツと関わるのは危険だな。


「ビガロ、お前の手を借りるのは無しだ。ここから先は俺とロージアだけでやる」

「ハッ、女の前でカッコつけたいってか? だったらどっちが先にエメローナを倒すか勝負しようじゃねぇカ!」

「あ、おい!?」


 ビガロは部屋の壁を壊してどこかへ行ってしまった。チラリとロージアに視線を送ると、大丈夫と言わんばかりに力強く頷いた。


「エメローナの反応はこっちです。ビガロが向かった先とは反対方向ですので、私たちで先に倒してしまいましょう」

「ああ!」


 幸いにして二階は冒険者の数が少ないようで、避けて進むのは難しくない。

 が、すぐに問題が発生した。


「ギェッ!」

「ぐわぁぁぁ!」

「クッハハハハハハ! おいおいどうした冒険者共ぉ、そんなんじゃ俺様のゴッドハンドは止められねぇゼ!」



 ドゴォォォ!



「「「ギャァァァァァァ!」」」


 まるで断末魔のような悲鳴が邸に響く。まさかとは思うがビガロのやつ、冒険者を殺してやがるのか!?


「ロージア!」

「ええ。あの男を止めましょう」


 俺たちは反転してビガロの後を追った。通路には(もが)き苦しんでいる冒険者が転がっており、中には手足を失っている者も。

 いや、そいつらはまだ良い。最悪なのは首が跳ねられてる死体だ。


「どこだーーービガローーーッ!? 冒険者を殺すのはやめろーーーッ!」


 クソッ! あの野郎、邸を壊しながらデタラメに進んでやがる。あちこちから音が聴こえるが、肝心の居場所が分からねぇ。


『お~いマスター、エメローナとかいうやつはまだ倒せねぇのか!?』


 クーガからの念話だ。


『何だよクーガ、今忙しいんだから大人しく待ってろ』

『あたいは大人しくてもカルロスが聞かねぇんだよ! おまけに侵入者が押し寄せてきてるってのに、いつまでも抑えてらんねぇぜ?』

『分かった。善処するからもう少し待ってろ』


 時間がない――か。


「すまんロージア。勝手で悪いが、ダンジョンを優先するためビガロの事は放置しておく」

「やむを得ないと思います。先にエメローナを倒しましょう」


 再びエメローナを追い始めた俺たちの耳に、容赦なく断末魔が響く。

 冒険者の声だ。魅力されてても痛みが消える訳じゃないしな。猶予さえあれば難とかしてやるんだが。



「「「侵入者を殺せ、侵入者を殺せ、侵入者を殺せ」」」


 またか。しかも今度は魔法士かよ。


「「「ファイヤーボール」」」



 ボボボボン!



「っと危ねぇ。コイツらも殺さずに行くのは難しいな。トラップだとオーバーホールキルになりかねない」

「でしたら私が魔法で防ぎますので、強行突破しましょう」

「珍しいな? ロージアの口から強行突破が出るなんて」

「珍しいもなにも、この通路だけ魔法士で固めているのはあからさまでしょう。エメローナなすぐそこです」

「よっしゃ。その言葉、信じるぜ!」


 気合いを入れて魔法士に向かっていく。向こうも詠唱を整え、火の球を撃ち出してきた。


「「「ファイヤーボール」」」

「被弾するつもりはありません――アイスバリケード!」


 飛んできた火の球はロージアの氷魔法で完全シャットアウト。魔法士は次の詠唱に入るが……



 ドン!



「ぬぉ!?」

「くっ!?」


「悪いがお前らと遊んでる暇はないんだ。火遊びはほどほどにしとけよ~!」


 体当たりで詠唱の邪魔をし、そのまま駆け抜けていく。抜けた先には大きめの扉があり、走った勢いで蹴破った。



 ドガァン!



「エメローナ!」

「チィ! もうここまで来たというのか」


 貴族らしい広めの寝室の奥でエメローナが悔しげな視線を向けてきた。周りには冒険者がいない、チャンスだ!


「テメェを倒せば魅力された奴らは戻るはず。観念しやがれ!」


 ザスザスッ!


「ギャッ! ――クゥ、床から剣を生やすとは! 他の四天王を倒すだけはある」


 白っぽいオーラがエメローナを包み込んでいる。バリアでダメージを軽減されたっぽいな。


「お前以外の四天王とやらを知らないんだけどな?」

「何を言う。キャシュマーとオルロフを倒したのはお前だろう。――フッ、そうか。奴らなんぞ取るに足らぬ存在ということか」


 ちょっと待て。キャシュマーって四天王だったのか? それにしては大した事のないやつ、だったが。


「キャシュマーはいいとしてオルロフは知らねぇぞ?」

「ネクロマンサーのオルロフだ。記憶にないのならそれだけのこと。やはりナイトメア様が警戒している通り、お前は我らの障害となる存在。いずれ必ず――」



 ドドドドドド……



 会話の途中だが嫌な予感がした。


「この音は……後ろか!」


 振り向くと、通路の向こうで魔法士を撥ね飛ばしながら突っ込んでくるビガロの姿が。


「エメローナァァァ! 会いたかったゼェェェ!」

「な、なんだお前は――ヒャッ!?」


 ビガロが部屋に入るなり、エメローナへと一直線に突撃をかまし、押し倒した形で停止した。


「さぁエメローナ、大人しく俺の女になるってんなら助けてやってもいいゼ?」

「ふざけたことを。お前はディオスピロスの生き残りだろう!」

「何だって!?」


 ビガロがディオスピロスの一員!? そうか、エメローナはディオスピロスを利用していたからビガロのことも知ってるんだな。

 だがビガロのやつは豪快に笑い飛ばし……


「ガッハハハハ! あんな組織はどうだっていいのサ。所詮頭のイカれた連中の集まりだからナ。王都の闇ギルドに敗北濃厚となった時点で手切れ金代わりにムシリ取ってやったゼ」


 なるほど。俺がディオスピロスの拠点に入った時には先にビガロが暴れて後ってことか。


「ビガロ、テメェも頭のイカれた連中の1人ってことを忘れんな」

「へへ、言うじゃねぇかマサル。ま、否定はしねぇヨ。――それよりエメローナ。答えを聞かせてもらおうカ?」

「フン! 誰がお前なんぞに!」

「おいおいエメローナ、この絶体絶命でその台詞かぁ? そこは俺に抱かれて愛を誓う場面だろうがよぉ?」

「ぐどいぞ! お前に興味はない!」

「あ~はいはい、残念残念。残念ショーってナ!」



 ブシュ!



「グェ……」


 ビガロのやつ、あっさりとエメローナを絞め殺しちまった。


「せっかく力を示したのにヨ、それを認めないなんざバカな女だゼ! やっぱ女は頭も良くなくっちゃナ」


 そう言って振り向き様にロージアへと視線を合わせてきた。


「どうだいロージア? そんなヘボいジャップなんかより俺の方が頼りになるぜぇ?」

「貴方に興味は御座いません。女を物として認識している貴方には。ついでに言っておきますが、今後の付き合いもしたいとは思いませんので、これ以上関わって来ないでください」

「ハッ、つまらねぇ答えダ!」


 ビガロは心底つまらなそうに立ち上がり、やれやれと肩を竦めた。


「頭が良さそうなアンタなら分かるかと思ったんだがナ。エメローナも終始バカだったし、今日はトコトン不作だゼ。それにマサル、お前とは価値観を共有できると思ったんだガ?」

「冗談だろ? 何を見て思ったんだよ」

「んなもん決まってらぁ、お前の強さだヨ。俺は弱い存在には興味がねぇからナ。お前も俺と同じ考えを持っていたらと思ったのサ」


 改めて思った。コイツとは相成れないと。


「まぁいいサ。せっかくの異世界で力を誇示しようとしないヘタレなマサルにゃ堅物のロージアがお似合いだろうヨ。俺だってジャップにケツ振る女にゃ用はねぇ。弱い男にケツをフリフリってナ。そんな女の相手をするくらいなら犬の尻尾を眺めてる方がよっぽど有意義ってもんだゼ!」

「その台詞は逆に有り難いな」

「だが覚えとケ。俺はいずれ世界を手に入れる。邪魔するってんなら要旨はしねぇ!」


 俺に警告したビガロは窓をブチ破ってどこかへ消えた。


「ナイトメアも厄介だが今後はビガロも注意しないとな」

「ですね。ではエメローナは倒したことですし、ここから引き上げ――え?」

「どうしたロージア?」

「邸の下からも反応が……」


 引き上げるのは後になりそうだな。


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