西部貴族と南部貴族5
俺たちがバイゲリング伯爵の邸でスケルトンと戯れていた頃、黒幕のグラディス侯爵は同派閥の貴族からかき集めた兵士と共に王都の西にある森を進軍していた。
数にして2万。それだけの大軍で王都に押し掛けられたら相当な圧力になるだろう。
そこでバイゲリング伯爵が早馬を出してスケルトンの話を各々の貴族に伝えたところ、それは明らかにおかしいという話になり、預けた兵を撤退させるついでに直接抗議しようという展開に。
俺たちはバイゲリング伯爵と共に他の貴族と合流し、グラディス侯爵の部隊に追い付いたんだが……
「おやおや、早馬を使ってまで貴族様のお出ましかな? この旗印を見て通り、我々はグラディス様の私兵。進軍を邪魔するのであれば、例え同じ派閥とて容赦はせんぞ?」
前に出てきた隊長らしき甲冑野郎がハルバードの矛先を向けて威嚇してきた。
その言動を見た貴族たちは無礼だ非礼だと罵詈雑言を浴びせるも、隊長が怯む様子はまったくない。それどころか後方に控える部隊に手で合図を送り、一斉に兜を外し始めた。
「スケルトンだ、やっぱりコイツもスケルトンだったんだ!」
「やはりバイゲリング殿の話は本当だった。グラディス侯爵は魔物に魂を売り渡したのだ!」
「そ、そこの人間、ここは貴殿に任せるザマス。その間にあてくちは逃げるザマスよ!」
集った貴族が兵を連れて逃げ帰っていき、その場には俺たち3人とバイゲリング侯爵が残され――
「ふ~ん、コイツらがグラディスの手下ね」
訂正。何故かバイゲリング伯爵の娘ラーシェルまでついて来てた。
「――ってなんでアンタも居るんだ!?」
「決まってるじゃない。コイツらに嫁入り前の身体を気安く触られたのよ? やり返さなきゃ気が済まないわ」
こりゃとんだお転婆だ。伯爵も目を逸らしてるし、察しろって事なんだろう。
「聞きなさい、そこの骨野郎。雑魚兵の分際であたしに楯突くなんて生意気よ! アンタら全員火葬して二度と化けて出てこれないようにしてやるんだから!」
「カカカカ! たかが小娘が吠えよる。やれるものならやってみろ」
「言ったわね? アンタらなんかこのマサルがケチョンケチョンにしてやるわ!」
「俺かよ!」
「当たり前でしょ? グラディスに頭垂れてるパパなんか充てにならないんだら、代わりにやっちゃって!」
「言われなくてもやってやるよ」
こき下ろされて涙ぐむ伯爵を尻目に、俺たち3人はスケルトンの群を粉砕にかかる。ゴブリンと同等の強さな上に甲冑を外さなきゃ使い物にならない連中なんざ俺たちの敵じゃない。
「はいはいは~~~い、三枚に下ろしちゃうよ~!」
「へ、こんな奴らは素手で充分だ!」
いつものようにシュワユーズとカルロスが切り込んでいき、瞬く間に群は瓦解していく。
「な、なんだと!? 甲冑を外してる間に襲いかかるとは、貴様らは人の心があるのか!」
「うっせぇわ! テメェら魔物に言われたくねぇ! つ~かお前は外さないのか?」
「フッ、他はスケルトンだが俺は違うのでな。このままでも戦えるのだよ――フン!」
シュパッ!
「――っと、テメェこそいきなり斬りかかってるじゃねぇか!」
「カカカカ! それとこれとは話しが別だ。諦めて我がハルバードの餌食となれ!」
甲冑を着たままなのにスピードが落ちないだと!?
「カカカカ! どうした若造、避けてばかりでは倒せんぞ?」
チッ、リーチの長いハルバードのせいで迂闊に近付けやしねぇ。まさかコイツの中身は生身の人なのか?
「な~に苦戦してんのよマサル。そんなリビングアーマーなんかさっさと倒しちゃいなさい!」
リビングアーマー!? な~るほど、ようやく合点がいった。隊長ポジに1体だけ混じってやがったのか。
一応補足すると、リビングアーマーとは中身の無い甲冑の魔物って奴で、魔物のランクにしてDランクだったはずだ。つまりはジャニオと同等に強いって事になる。
「どうりで捌くのが上手いはずだぜ。まともに挑んでちゃ苦戦するのは当たり前だわな」
「どうした、もう諦めるのか?」
「いんや、まともに挑まないで倒すだけさ。こうやってな!」
ググググ……
「な、なんだ? 体が勝手に――グワァ!?」
リビングアーマーの全身が地面にめり込むようにして動かなくなる。いや、正確には動こうとしても動けないってのが正しい。
「グ……ア……ァ……地面に、吸い込まれる……いったい……俺に何をした!?」
「な~に、テメェの足元で強力な魔法を発生させてんのさ。鉄でできてるテメェにゃ地獄の苦痛だろけどな」
「な、なん……だと?」
伯爵とお嬢様が見てるからな。露骨なダンジョントラップは控えて魔法を使ってるように見せたんだ。今ごろ奴の足元ではメッチャ強い磁石が存在感をアピールしてる事だろう。
「じゃあな、鉄クズ野郎」
「ア……ガ……」
最後は呆気なく土へと還っていった。
「ふふ~ん、さすがはあたしが見込んだ人ね。そこらの剣士より余程強いわ。でも奥のスケルトン、隊長がやられたのに全然動揺してないわね?」
「む? 言われてみれば……」
奥ではシュワユーズとカルロスが善戦しているが、尚もこちらに向かって来ている。ダンジョンを出たダンマスがあれだけの数を指揮できるのは異例だ。だとすると、グラディス侯爵は上位のダンマスって事に。
そんな不安が脳裏を過る中、バイゲリング伯爵の兵がこちらに合流してきた。
「伯爵様、駆けつけるのが遅くなり大変申し訳ありませんでした! お怪我は御座いませんでしたか!?」
「大丈夫だ。それよりグラディス侯爵はどこだ?」
「そ、それが、他の領主が兵を引き上げ始めたのを境に誰も姿を確認できておりません。我々も何とか本隊への接触を試みましたのですが断固として拒まれてしまいましたし、それどころか侯爵の部隊が突然スケルトンへと身を変えたのです。いったい何が起こっているのか見当もつかなく……」
拒まれたって事は見られたくない何かが有るって事だ。
「伯爵、俺らが侯爵を問い詰めて来ますんで、スケルトンの対応をお願いします」
「うむ、承知した。貴殿らが接触し易くなるよう引き付けておこう」
「じゃあパパ、ここはお願いね」
「うむ、承知し――」
「「「――はい?」」」
俺と伯爵と隊長の声がハモる。まさかとは思うがこのお転婆、俺に付いてくる気じゃ……
「なに呆けた顔してんのよ? グラディスだかグラディウスだか知らないけど、アイツの部下が気安くあたしに触れた責任は取らせるつもりよ」
「ラーシェルよ、それは……」
「あ"? 文句あんのパパ?」
「い、いや、気をつけて行くのだぞ?」
「大丈夫でしょ、こんなに強いマサルがいるんだし。ね?」
「うん、まぁ……はい……」
ラーシェルの後ろで伯爵が手を擦り合わせてやがる。言わんでも分かるぞ? ズバリ「すまん」って事だろう。
こうなりゃしゃ~なしって感じにラーシェルを後ろにしてスケルトンの群に切り込んでいく。
しかし雑魚とはいえ1万近くの群は易々とは行かない。
「あ~もう、数が多いなぁ。マサルくん何とかならない?」
「そうだなぁ……」
後ろのお転婆がいなけりゃド派手にかましてやるんだがな。何故だか期待の眼差しを向けられてるし、変に追及されたくない。つ~かラーシェルも戦えよと思う。
「なぁお嬢様、何か得意な攻撃魔法とかないか?」
「何々、手伝いが必要? でもねぇ、風魔法なら得意だけど、周りの木とか巻き込んじゃうから危険かもよ?」
「いやいや、それって凄い威力だし是非ともやってほしいんだが」
「ゴメン、嘘ついた。微風しか吹かせられない……」
「おい! 微風じゃ意味ねぇ――」
――と思ったけど、寧ろこれは使えるかもしれない。
「お嬢様、今からアンタの魔力を増幅するから、群に向かって微風を放ってくれ」
「え、いいの? 増幅させたところで大した効果は……えい!」
ドッッッシュゥゥゥゥゥゥ!
「ヒィ!? な、何よこれ、凄い勢いでスケルトンが巻き上がっていくんだけど!」
ラーシェルが放ったタイミングに合わせて突風トラップを地面から発動させてやった。これにより一気に100体近くのスケルトンが舞い上がり、地上に叩きつけられ消滅していく。
「なかなかやるじゃない、貴族のお嬢さん」
「オイラたちも負けてられないぞ!」
「ならあたしはもっと倒しちゃうもんね!」
こうなりゃ後は流れ作業だ。気を良くしたラーシェルが微風を連発し、シュワユーズとカルロスもそれに加勢。
すると2000体は倒したかってところで唐突にスケルトンの動きが止まり、貴族の爺さんが躍り出てきた。
「おのれぇ……貴様らか、ワシの邪魔をする不届き者は!? ワシは西部貴族の柱と呼ばれているグラディス侯爵だぞ!」
この天辺が薄くなった落武者ヘアーがグラディスか。
「アンタには聞きたい事がある。このスケルトンはアンタが召喚したんだよな? どうやってダンマスに――」
「フン、決まっている。ワシはある御方から天命を授か――」
「えい!」
「ふぐぁ!?」
会話の途中でラーシェルが微風を発動。やむ無くトラップ発動で、グラディスは10メートル以上の高さから地上に叩きつけられピクピクと痙攣し始める。
「うぉ……ぐ……ぅ……」
「あら、せっかく締め上げてやろうと思ったのにもう死にそうね?」
「そりゃそうだろ……」
これでも一応は西部貴族の代表だし死なれちゃ困るんじゃとも思ったがそうでもないらしい。
あ、このまま死なれちゃ情報が引き出せないやんけ!
「お~~~い、起きろ爺さ~ん!」パシパシパシパシ!
「うわぁ……マサルってドS?」
「そだよ~。あたしらより容赦ないもん」
「オイラのハンマーが霞んで見えるぞ」
「うるさいぞお前ら。そんな呑気な事言ってる場合じゃ――あ、この爺さん、必死に懐を指してるぞ?」
気になって調べたところ、グラディスの懐からポーションが出てきた。これ幸いと頭からブッかけると……
「――――ブハァ! た、助かった……」
まともに喋れるのを見て、とりあえず安堵する。
――と、そこへとっても耳障りな声が聴こえてきた。
「いいや、助かっちゃいないぜ?」
「誰だ――って、その声は!」
いつの間にか木の上から見下ろしていたのは、ネクロマンサーからダンジョンコアを引ったくりやがった高遠って野郎だ。
なるほど、それなら話が早い。コイツがグラディスを唆したんだな。
「ったくよ~、足が止まってると思ったらまたテメェかよ……」
「そりゃこっちの台詞だ。何度も面倒な事を引き起こしやがって。今度は逃がさねぇぜ!」
シュルシュルシュル――――ガシィ!
「な!? 急に蔓が――――ゴフッ!」
伸びた蔓を高遠の片足に巻き付かせ、地面へと叩きつけた。
「さて、テメェには聞きたい事が――」
「クソッ、そうはいくかよ!」
ズバッ!
「お、お前、自分の足ごと!?」
斬られる事を予測して斬撃に耐性がある蔓にしたんだが、自分で足を切断して片足で器用に距離を取りやがった。
「さっきの蔓は斬れそうになかったんでな。足を消しちまったのは痛いが……なぁに、そのうち生えてくるだろ」
「はぁ? 失くした足が生えるだと!?」
「フッ、お前らとは身体の造りが違うのさ」
また聞きたい事が増えちまった。
「じゃあな、アバ――」
「お、お待ちくださいタカトー様! どうかこのグラディスにお力を!」
「あん? テメェが勝手にしくじったんだろうが。他人の尻拭いなんざ御免だね」
「そんな!?」
「ま、どのみちダンジョンコアは回収してくんだ。コアを失ったお前は死ぬしかねぇよ。そんじゃアバよ」
「タ、タカトー様、どうかもう一度チャンスを! タカトー様――ぐ……あぁぁぁ!」
ダンジョンを失ったダンマスが死ぬってのはこの世界じゃ常識だ。グラディスも例外ではなく、徐々に肉が腐っていき、やがて骨と成り果てた。
「マサル、一応は解決か?」
「まぁ……な」
カルロスの問いかけに反射的に答えたが、まだ南部貴族が残っている。
後はロージアが上手くやってくれればいいんだが……
キャラクター紹介
グラディス侯爵
:ラーツガルフにおいて西部貴族の顔とも言える人物。頭頂部が禿げていて左右に流した黒髪であったために、マサルからは落武者ヘアーと呼ばれている。
高遠に唆されてダンジョンマスターになるも、マサルを前にして呆気なく敗北してしまう。
その後に高遠がダンジョンコアを持ち去ったためグラディス本人は死亡。魔物を操っていた事もバイゲリング伯爵に吹聴され、欲に溺れた反逆者として彼の一家は没落した。




