西部貴族と南部貴族1
「コホン。付かぬ事を伺いますがマサル、ラーツガルフにおける貴族と王族の関係をご存知かしら?」
「はぁ?」
「あら、ご存知ないんですの? でしたらわたくしが特別にお教えしますわ。そもそもラーツガルフは大きく分けて三つの勢力が合わさった国でして――」
突然部屋に押し掛けてきたブローナがわざとらしい咳払いを見せつけ、何やら自慢気に語り出した。
「おいおいおいおい、珍しく自分から来たと思ったら昼間ッから歴史の勉強か? もう学生じゃないんだから勘弁してくれよ」
「いいえ。すでに国の中枢に食い込んでしまったのですから、知っていただく必要がありますわ」
「言うほど中枢かぁ?」
「シルビアお姉様やその婚約者であるカルバーン殿との接点を持っておきながら何をほざいてやがるのです? マサルが中枢でないのなら、貴族連中は総じてモブ以下ですわ」
言われてみてそりゃそうかと納得した。初っぱなからシルビアと関わったんだもんな。
「確かに一理ありますね。マサルさん、良い機会ですからブローナに教鞭を振るってもらうとよいでしょう」
「むぅ、ロージアがそう言うなら……」
「決まりですわね。では続けますわよ。そもそもラーツガルフとは――」
そこから退屈な時間が続いたため話の大半は聞き流した(←おい)が、ロージアが分かりやすくまとめてくれた。
ざっくり言うと、ラーツガルフの内部は北方の王族、西部の貴族、南部の貴族の三つで成り立っていて、南東に隣接している大国アレクシス王国に対抗した知識人が多いのが南部貴族で、海賊や魔物の侵入を沿岸で防いでいる荒くれ者揃いの西部貴族、そして双方の間に立って上手くバランスを保っているのが北方の王族なのだという。
でだ。文面でも想像がつくと思うが、西部貴族と南部貴族は折り合いが悪い。そりゃそうだ。一方は武官揃いで一方は文官揃い。クラスの優等生と不良が衝突するようなもんだしな。
「……で、なんだってそんな話を俺に?」
「今朝方ジャニオ様とのデートを楽しんでいたら、カルバーン殿からマサルへの使いが冒険者ギルドに送られてきたんですの」
「デートなのに冒険者ギルド?」
「受付嬢の悔し涙を堪能するためですわ」
相変わらず性格悪いなコイツ……。
「まあいいや。で、その使いとやらは何だって?」
「この書簡を渡して来ましたわ」
「どれどれ……」
【拝啓マサル殿。現在我が国では西部貴族と南部貴族が結託し、現王家に対抗する兆しが有り。これまでにはない動きのため、当方としては大変困惑している。アンデッド騒動で王都は消耗しており、兵で対抗するには非常に危うい。可能な限り原因を調査し、彼らの関係が元に戻るよう協力してほしい】
「今度は貴族の反乱かよ。これもうお祓いでもしてもらった方がいいレベルだな」
「お祓いなら教会に依頼済みですわ。残念ながら効果は無かったようですけれど」
そりゃ悪霊云々の話じゃないもんな。自分で言っといてあれだが。
「ではしっかりと伝えましたわよ? フフ、これでジャニオ様もわたくしが知的美人だと認めてくださいますわ」
ウンウンと頷くブローナがスキップしながら部屋を出ていく。自国の有り様を語るだけで知的とはならないが、本人が納得してるならいいんじゃないでしょうか(←他人事)。
「さて、今度は内戦になりそうな勢いだな。ロージアはどう思う?」
「下手をすると国内全土を巻き込む大騒動になるでしょう。カルバーン殿は貴族側が兵を動かしてくると察したようですし、急いだ方がよいかもしれません。西部と南部の二手に分かれ、各々に楔を打ち込むのを推奨します」
「時間は有限だもんな。よし、俺は西側に行ってくるから、ロージアは南側を頼む」
こうしてまたもやラーツガルフの危機に立ち上がる事になった俺たち。軽く話し合った末に、俺とロージアの二手に分かれての行動を開始した。
もうしばらくはラーツガルフで活動するつもりだし、国家危機じゃおちおち冒険もしていられないからな。
「お~いマサル、戦はまだか? 早く腕試しをしたくてウズウズするぞ」
「慌てるなよカルロス。まだ戦いになるって決まったわけじゃないんだからな」
「え~、迫りくる兵士をバッタバッタと薙ぎ倒すんじゃなかったの~?」
「それも相手次第だ。でも安心しろ。西部貴族は荒くれ者が多いらしいからすぐ取っ組み合いになると思うし、そうなったらシュワユーズたちの出番だから」
「「よっし!」」
ガッツポーズをするなガッツポーズを……。
まだ出発して1日しか経ってないのに、この血の気の多さは何とかならないもんかな。跨がってる馬も引いてる気がするし。
あ、一応説明しとくが、俺が乗馬できてるのは俺が召喚した馬だからだ。念話で伝えるだけで思うように動くから中々楽しいぞ。
「マサルくん、沿岸の街――ベルトロンドが見えてきたよ~」
「おお、1度しか来てないけど懐かしいな~」
前に来た時は海軍に追われてて観光どころじゃなかったしな。
あ~いや、観光する気はないぞ? これから俺たちは領主と会って、真意を聞き出さなきゃならないんだからな。見物したりお土産買ったりはその後だ。
そんな言い訳を脳裏で展開しているうちに、入場待ちしていた俺たちは門番に呼ばれた。
「よし、次の者!」
「はい」
俺たちは各々でギルドカードを提示した。犯罪者ではないのでそっちは問題なかったが、ここの門番はやたらとは書物をチェックしてきやがる。
「おい、その手に握っている紙も見せろ」
「これですか? この街の地図ッスけど……まぁどうぞ」
「……うむ、異常はないな」
こんな調子だ。もしかして手紙マニアだったりするのか? いや、まさかな。でも気になってくるし……
「あの~、なんでまた書物ばっか調べてるんスか?」
「そりゃお前、領主のバイゲリング様と接触しようとしてくる――――コホン。お、お前たちが気にする事ではない。さっさと通れ!」
「は~い、あざま~す!」
無事に入場できた。ついでに門番が探してる書物も検討がついたぜ。
「あの門番、何だったんだ? まさか調理用のメモまで見られるとは思わなかったぞ」
「それな。多分だけど、探してたのはコレだろ」
カルロスに見せたのは、カルバーンから貰った書簡だ。
これにはシルビア本人の直筆サインが記されていて、領主に見せれば面会を拒否できないという強制権が込められている。
つまりアレだ。シルビア王女の命令なんだから逆らうなよってやつだな。
「貴族連中も接触してくる要人を警戒してるんだろう。所持してるのがバレたら連行されたかもな」
「最悪は無き者にって感じですね~。でもマサルくん、どこに隠してたの? 門番が見落としただけ?」
「ダンジョン機能の一時保管庫だよ。調べられてる最中は異次元に保管しといたんだ」
簡単に言うとアイテムボックスに近い感じかな? 好きな時にしまい、好きな時に取り出せる――ってな。
普通のダンマスは使えない。ロージアが優秀だからこそ使える、俺専用のスキルってわけさ。有りがたいねホント。
「けどこの様子だと領主が素直に面会してくれるか疑問だぞ?」
「だろうな。でも牽制にはもってこいだ。シルビア王女の手先が警戒網を掻い潜って足元に潜り込む。かなりのプレッシャーは与えられるだろ」
「なるほどね~」
しかもここの領主は西部貴族の中心人物の1人――バイゲリング伯爵だ。足並みが乱れれば万々歳ってな。
「このまま乗り込んで直接対決――と行きたいところだが、だいぶ日が落ちてきた。今日のところは――」
「冒険者ギルドでひと暴れか? 望むところだぞ!」
「――っておい、そんなことしたらギルドからペナルティ食らうだろ」
売られた喧嘩は買うけど、こっちから売りつけたりはしないからな。ギルドからの危険人物扱いも御免だ。
「そうだよカルロス。やるならギルドの外にしないとね~」
「おお、そいつはうっかりだ」
そういう問題でもないんだが……。というか宿に直行しようと思ってたのが行き先が変わったさちまったよ。まぁいいんだけど。
――と、多少の不安を抱えつつもギルドへとやって来た俺たち。しかし、問題を起こすまいとしながらも、周りがそうは行かないらしい。
ギィィィ……
「おい、アイツら……」
「見ない顔だな。新顔か?」
「まさか王家の回し者じゃないよな?」
「これから登録するところなんだろ」
冒険者ギルドの扉を開けた瞬間、中にいた連中の視線がこちらに集中する。俺たちが見かけない顔だと分かるや否や、ヒソヒソと話し始めた。
会話の内容は先の通り。予め潜入させていたクロコゲ虫がバッチリと音声を拾ってくれたからな。
そして内容から察するに、完全にギルドを懐柔してる感じ――と。俺はそんな有り様を鼻で笑いつつ、そっと二人に耳打ちをする。
「喜べ二人とも。待ちかねた戦闘が発生しそうだぞ」
「「…………」」グッ!
透かさずサムズアップで返しやがった二人に安堵しつつ、受付の男に話しかけた。
「依頼を探してるんだけどさ」
「斡旋か。すまないが今は時期じゃない。悪い事は言わないから早く他所へ移れ」
「どういう意味だ?」
「黙って立ち去るなら見逃してやるって意味だ。知ってるだろ? 王家と貴族が衝突するかもしれないって話を。領主のバイゲリング様は神経をとがらせててな、怪しい奴らは全員捕まえろって仰せだ。分かったら素直に引き下がるこった」
片手で追い払う仕草までしてきやがった。さも面倒事は御免だとでも言いたげに。
だが俺としても「はいそうですか」とはいかない。
「フッ、アンタじゃ話にならなそうだ。ギルマスを呼んでくれ」
「その必要はないぜ? 俺がギルマスだからな」
おのれかい……。
「へぇ。なら仕方ない。ここのギルドは領主と結託していると、シルビア王女に報告することにしよう」
ざわっ!
周囲のざわめきが一際大きくなり、ロビーにいる全員が俺たちを注視する。成り行きを見守ってるって感じだ。
「理解してもらえず残念だ。可哀想だが身柄を拘束させてもらうぞ」
ギルマスの一言により、俺たちを含む全員が戦闘態勢を取った。しかし入口は塞がれ、どこにも逃げ場がない状態に。
「緊急クエストだ。倒した奴1人につき金貨30枚出そう。その他協力者には別途で1枚。乗るか?」
「「「乗った!」」」
その瞬間、金に目が眩んだ連中が殴りかかってきた。奴らにしてみりゃ金の塊に見えた事だろう。だが――
「食らえぇ、大車輪撃!」
ガガガガン!
「「「ゲハァ!」」」
「見たか、怪力ドワーフの全力を! 重戦士の家系は伊達じゃないぞ!」
両手でハンマーをフル回転させ、半数の冒険者をフッ飛ばした。さすがドワーフだぜ!
「残りは任せて~、横薙波動!」
「フグッ!」
「オゴッ!」
「ゲフッ……い、意味分かんねぇ技にやられたぜ……」
「コラコラ~、退きなさいの意味くらい分かるでしょ!」
いや、シュワユーズの名付けセンスが悪いんだよ……。
ってそれはともかく――
「これで形勢逆転だな」
「そうだぞ? マサルは何もしてないけど」
「一言余計!」
しかしギルマスは表情を崩そうとはせず、それどころか……
「少々甘く見ていたようだが状況は変わらん。周りを見てみろ」
「んん? ――あ!」
気付けばギルマスを含むギルド職員が三角形の宝石のようなものを掲げていた。
「マジックアイテムか!」
「その通り。使い方はこうだ」
シューーーン!
四方から伸びたワイヤー状の光が俺たち3人に絡みついた。
「!? これは……」
「大変だマサル、体が動かないぞ!」
「あたしもです~。これじゃあ剣が振れないよ~」
なるほど。冒険者に気を取られてる隙に準備を整えたと。フン、舐められたもんだな。
「もうすぐ領主様の私兵が来る。それまでおとなしくしていろ」
「もうすぐってどのくらいだ?」
「せいぜい20分ってところか」
「ハッ、悪いがそんなに待てねぇな」
「だがちょっとやそっとじゃその光からは逃れられんぞ? 例え足掻いても無駄に体力を消耗するだけだ」
「光だけを見ればな。でもこれならどうだ」
ガゴゴ~~~ン!
「何っ!?」
ギルド職員の頭上に巨大なタライを出現させ、おもいっきり落下させた。これにより職員たちは全員気絶し、マジックアイテムを手離した事で拘束が解けていく。
あ、召喚したタライはちゃんと消しといたぞ?
「さて、これでも形勢逆転とは言えないか?」
「い、いや、我々の負けだ。こうなったら潔く……」
「「「潔く?」」」
「金貨100枚で拘束させてくれ、頼む!」
「「「アホか!」」」
初日から何とも言えない展開になってきたな。こりゃロージアの方も苦労するぞ~。




