閑話:ダンジョンのある生活4
突然なのですが、あたしはダンジョンマスターのユーリ。今は次にお披露目する衣装をどうするのかを悩み中なのです。
「う~ん、新しい衣装は水色がいいかなぁ。それとも安定のピンクにすべきか……。いや、いっそのことエメラルドグリーンで行っちゃうって手も」
んん? お披露目とか言ってコスプレイベントでもやる気かって? 当たり前じゃないですか。例え異世界転生しようともコスプレは止められません。こう見えても前世の日本では名の知れたコスプレイヤーだってんですから。
しかしですね、イグリーシアに転生して分かった事なんですが……
「この世界は遅れています! どうしてコスプレが流行ってないんですか! オタッキーな貴族やコスプレしながら戦う冒険者がいたっていいはずなのに! オマケに誘拐した女の子にコスプレさせて喜ぶ盗賊の頭とか、そんな話が全く無いなんておかしいです!(←盗賊のくだりはありそうな気がする)」
フゥ……。ひとしきり叫んだら喉が渇きました。薄めたカツ○ンで喉を潤すとしましょう。すみませんね、貧乏性なもので。
「お~いユーリ、さっきから何をそんなに叫んでんだ?」
「あ、マサルさん」
大家さん――もといマサルさんがやって来ました。実はあたしのダンジョンは諸事情により引き払ってしまいまして、今はこのマサルさんのダンジョンに居候させてもらってるんです。
「何を悩んでるのか知らんがあんま叫ばないでくれ。ロージアからの苦情が俺に飛んでくるからさ」
「す、すみません。少々コスプレ衣装で悩んでまして」
「そういやユーリも転生者だったな。コスプレは生前の趣味か?」
「そうなんです! あ、マサルさんも興味あります? それか実のところカメラ小僧の側だったり?」
「いや、そういうんじゃないって。つ~か俺を巻き込むな……」
ちょっとした世間話からお互いが転生者だと分かり、自然と会話が弾みます。同じ日本出身というのもあり、何かとお願いし易いというのもありがたいところです。
コラそこ、ダンジョンに居座る時点で図々しいとか思いませんでしたか? そんなこと言われなくても分かってますとも。初日にダンジョンの住人全員から言われてますからね!
はい、すみません。居候らしく静かに生活していきますです、はい……。
「あ、そういや知り合いの女の子を紹介してくれるって話はどうなったんだ? その後の進展がないんだが」
チッ、覚えてましたか。そのまま忘れてれば良かったのに……。こうなったら誰かに犠牲になってもらいましょう。
「も、もちろん覚えてますよ? ちょうど誰を紹介しようか悩んでたところなんです。こちらをどうぞ~」
「おお、可愛い子が勢揃いやん!」
名前と顔写真を貼った手帳を見せると、マサルさんは大喜び。食い入るように品定めをし始めました。
ここで一番可愛いのはユーリだと言ってくれれば良かったんですけどそうは上手くいくはずもなく、代わりに指名したのは……
「この子にする! 絶対この子だ!」
「え……」
マサルさんの指先を見て、あたしは凍りつきました。その子はあたしより年下ながらもしっかりした性格のダンジョンマスターで、ダンマス界では知らない人がいないと思われるくらいに強い存在だからです。
当然あたしなんかが指図できる相手ではないし、男の人に紹介したと知られたら何を言われるか分かったもんじゃありません。
「あ、あの~、大変申し上げ難いのですが、他の子を選択していただくわけには……」
「それは無理だ。だってめっちゃタイプだもん。ややつり目で凛々しい雰囲気を出しながらも優しさを感じさせる自然の笑み。茶髪にポニーテールってのもポイントが高い。アイリって名前も似合ってるし年齢も俺と同じく20歳かそこらだろ? ぜって~話題も合うって。さぁレッツカマ~~~ン!」
「oh……」
どうやら無理そうです。諦めて本人に相談することにしましょう。
そう腹を括ったその日の夜、ダンジョンコアを通じて打ち明けてみると、意外な反応が返って来ました。
『ふ~ん? 別にいいわよ』
「ほへっ!?」
逆に素っ頓狂な声を上げてしまいました。会うって言いましたか? ホントにマジで言ってますか!?
『ロージアから話は聞いてたし、いつか話してみたいと思ってたのよ』
「なるほど、ロージアさんとはお知り合いでしたもんね。けどいいんですか? マサルさんって好青年っていうよりスケベ青年だし色んな女性に目移りする性格ですよきっと。アイリさんだって見た目で選んでましたからね!」
『見た目で選ばせたのはアンタでしょ』
「言われてみれば……そうですね」
『はぁ……。とにかく、本人と話してみたいから、そのうち――』
ガチャ!
「お~いユーリ、昼間の続きだけどさ~」
「って、マサルさん!?」
最悪ですこの人! レディの部屋をノックもなしに開けるなんて!
「せめてノックくらいして下さい。マナー違反ですよ?」
「おぅ、わりぃわりぃ。んでさ、昼間に話した女の子なんだけど」
「いえ、ですからね、他人のプライベートルームにズカズカと入り込んでくるのは――」
「別にいいだろ。ユーリだし」
「はいぃぃぃ!? それってどういう意味ですか!? いくらマサルさんでも許しませんよ!」
「んん~? 許さないとどうなるってんだ~? ここは俺のダンジョンだぜ~?」
「あ、余裕ぶってますね!? そういう態度ならロージアさんに報告しちゃいますから!」
「ンゲ!? そ、それだけはご勘弁を!」
ロージアさんの名前を出したら途端に小さくなりました。マサルさんを威圧する時はこの戦法でいきましょう。
『プッ――クククク――』
「「んん?」」
ドタバタとしているとダンジョンコアから笑い声が。振り向くと、アイリさんがお腹を抱えて笑ってました。
『アッハッハッハッ! なんなのよその変わり身の早さは。そんなにロージアが怖いっていうの? それなのに他の女に目移りするとか……クククククク!』
「な、なんだ、ユーリの通信相手か? というかロージアを知ってる?」
『ええ。ロージアは元々私のダンジョンに迎え入れた客人だもの。今は旅先のアンタのダンジョンにいるみたいだけどね』
「え……」
なんでこんなに知ってるんだと言わんばかりの険しい顔をあたしに向けてきましたが、アイリさんを見て鼻の下を伸ばしたのは紛れもないマサルさんです。
「ほら、マサルさんが指名した相手ですよ? もっと喜んでくださいよ」
「指名って……あ!」
ダンジョンコアを覗き込んで気付いたようです。話してる相手がめっちゃタイプのアイリさんだという事に。
「こ、ここ、これは……は、はじめまして。おおお、俺はダンマスのマサルって言います!」
『聞いてると思うけどアイリよ』
「いやぁ、ははっ! まさかこんなに早くアイリさんと会話ができるなんて!」
そこから日本にいた時の話題なんかも織り交ぜて会話が盛り上がっていきました。昔話に花が咲くって感じですかね。
特にマサルさんは大はしゃぎといった感じでアイリさんの連絡先を聞き出そうと必死です。ダンマス同士なんですから普通にダンジョン通信を使えばいいだけなんですがね。
というかマサルさん。貴方はアイリさんのダンマスランクを聞き流してましたけど、彼女はSランクの猛者ですからね? 対してマサルさんはド素人のFランク。もう天と地の違いがありますよ。
え? あたしのランクですか? そりゃもちろん泣く子も黙るDランクですよ。
すみません。泣く子は見向きもしないランクです。Dランクなんて……。
……コホン。それはそうと会話が途切れたタイミングで、アイリさんが意味深な笑みを浮かべて言いました。
『ところでマサル、アンタはロージアに告白したんじゃなかったっけ?』
「えっ!? う、え~と……まぁ……」
『だったら私よりロージアとの時間を大事にしてあげなさい。その方が彼女も喜ぶわ』
「う……で、でもですね、ロージアは返答をはぐらかしてばかりで、中々本音を聞き出せないというか……」
『そりゃ女の子にはいろいろ秘密があるんだもの、中々明かせない事実もあるでしょ。そういう時は粘り強く待っててあげなさい。そのうち話してくれるから』
「そういうもんすかね?」
『ええ。そういうものよ』
「そうか…………よし!」
決意を固めたような顔のマサルさんが徐に立ち上がりました。
「ちょっとロージアと話してくる。ありがとうアイリさん!」
礼を述べて部屋から出て行きました。なんだか恋愛相談みたいな展開でしたけど、意外に丸く収まりましたね。
『中々面白い男だわ。あれならロージアを任せていいかもね』
「ふむふむ。よく分かりませんが、マサルさんとロージアさんって友達以上恋人未満な関係だったんですね~」
『そうなのよ。まぁロージアもあの性格だから中々進展しないのも頷けるけどね』
だったら尚更アイリさんに目移りしたらダメな気はしますけどね。そこは見なかった事にしたのかな? まぁアイリさんは美人だからそういう目で見られるのは慣れてるのかもしれないですけれど。
それにしても上手く行きますかね~? マサルさんはお調子者だしロージアさんは生真面目な感じがするしでお互い正反対に思えるんですが。いや、もしかしたらお互いのマイナス部分をかけあわせてプラスになるのかもしれませんし(←謎理論)、案外上手く行くのかも?
「キャーーーーーーッ! 何してるんですかマサルさん!」
「ち、違う、誤解だ!」
「ノックもせず堂々とシャワー中に入って来て何が誤解ですか!」
バチバチバチーーーーーーン!
「いっっってぇぇぇぇぇぇ!」
「…………」
『…………』
あたしだけじゃなくアイリさんにも何が起こったのか伝わったようです。
『進展するのはしばらく無理ね』
「あたしもそう思います」
頑張れマサルさん。けど堂々と覗きは禁止です。
あ、部屋に鍵かけとこ。




