No.43 少女、戦場に立つ
ラプラスが能力を行使した瞬間、中国軍の動きは完全に停止した。能力対象を中国軍が存在する空間にしたことにより、放たれた砲弾や飛散する土砂もそのまま空中に停止している。まるで空間ごと写真で切り取ったようにそのままその空間は変化せずに存在し続けている。
想像に難くない状況だが、実際に目の前にするとその現実離れした奇妙さはどんどん強くなってくる。
「あの空間はオレの支配下だっ」
『全軍一斉掃射っ』
前線部隊も一斉に攻撃を開始する。敵の前の間に次々と命を穿つ数多の攻撃が整列していく。中国軍を蹂躙するための全力投球。
『神崎上等兵、仁野一等兵は爆撃後の残党殲滅および反撃に対する迎撃態勢で待機せよ』
「...」
『全弾発射完了』
一定範囲に砲弾やミサイル、能力者の攻撃が敷き詰められている。防御する暇もないほど瞬間的に殲滅される量だ。
「『Dawn of an era』」
世界は再始動する。放たれた様々な攻撃はその勢いを弱めることなく、再開した世界に容赦なく降り注ぐ。悲鳴を上げる暇もなく爆炎と衝撃が中国軍を蹂躙する。地獄のような炎と黒煙が視界に広がっていた中国軍をかき消した。
「っ...」
憂希は心を鬼にしてその黒煙と火炎を利用する。巻き起こった爆風をそのままからめとるようにその一帯を呑み込む旋風を発生させ、熱量をその場に閉じ込める
「.......。えっ!?きゃああ!?」
仁野が思わず悲鳴を上げた。その理由は一目瞭然だった。目の前で焼け、吹き飛ばされたはずの兵士たちが次々に体を取り戻し、立ち上がり進んでくる。憂希が展開している火炎の渦をものともせずに侵攻を継続する。
「まさかっ」
憂希はその能力に心当たりあがある。生存兵が死に絶えたことをきっかけに発動する死者使役の能力。しかし、前回は欠落した体や致命的な傷には死者になっても不自由が生じていた。しかし、今目の前に広がる死者は欠損した部位を再生し、その体を生前と変わらぬものにして復活していく。唯一欠落するのは魂のみだ。
「台湾戦と同じ、死者復活の能力です!敵軍の戦力は兵装を破壊できたこと以外、変わっていませんっ」
敵を死滅できたことに変わりはないが、それでも戦力に大きな変化はない。それが戦争において超重大なアドバンテージとなる。敵軍の攻撃を半分無効化しているような状態である。
『兵器による迎撃を継続し、前線部隊は後退せよっ』
たまらず日本軍は前線維持から距離を確保するため後退に切り替える。前線を維持するには消耗を知らない敵兵は相手が悪すぎる。
「なっ...そんな」
死人兵の大群が目の前に出現した今、それ以上に驚愕することはないはずだが、今、それを上回る事態が発生している。
破壊し尽くした兵装や武器が丸ごと新品の様に再生している。
「武器や兵装も復活しましたっ。こちらの攻撃は...無効化されましたっ」
その憂希の報告は振動から全体に伝えられる。全身全霊をもって放った攻撃に効果がなかった事実は日本軍の士気をかなり下げた。
「...ばかな。台湾戦線の戦術とかなり異なる。...台湾では物体の再生は確認できていない。別能力との併用か...」
振動は後退しながら敵軍をその視界に映し、現状を分析する。爆撃でも復活する死人兵は台湾戦では米軍のグレード1である神酒の能力で対応した。その対応実績の詳細は日本軍に落ちてきていない。
「振動、逆を言えばこの規模だ。能力行使のリソースは生半可ではないはずだ...。一度消耗戦の」
『花菱中佐っ、鈍化する兵士に能力は使えますかっ』
爆破規模が大きければ大きいほど、能力行使の消耗が増える花菱の爆破の能力。全体攻撃としては申し分ない攻撃力を誇る。
「振動さんっ。うちにやらせてほしいですっ」
その伝令に仁野が割り込む。
「うちならそんなへとへとにならないしっ、今なら味方が前にいないから好きにできるっ。うちなら武器とかも効かないからっ」
消耗戦となれば基本的に仁野の能力に勝る者はいない。フィジカルにおける全ステータスが群を抜いて秀でている超人化の全力を示す。
『仁野っ。矢場だ。...こっちで次の手を考える。それまで...存分に思い知らせてやれ』
「あっはは!矢場ちゃんマジヤバイ!ありがと!頑張ってくる!」
今まで感じていた自分の無力感と力を扱えていない不甲斐なさを払拭するように仁野は自らを鼓舞する。
「ニノっ」
憂希はその不安気な心情を隠し切れない声で仁野を呼びかける。
「憂希君っ、見ててね!うちが活躍するところ」
「っ....。うん、見てるよ。頑張って」
「っ!」
憂希の言葉に応えるように仁野は走り出した。その初速は姿がその場から消えたと誤認するような速度。その場には爆破のような暴風が巻き起こっていた。
「『エンジェル・ムウ』!!!!」
その勢いをさらに加速し、隕石のような衝撃波を放ちながら突撃する。その突貫は死人兵を軒並み薙ぎ払う。咄嗟に迎撃した弾丸や能力は衝撃波を前に成す術なく消え去った。敵陣の中央まで一気に攻め入り、中央で急停止する。
「『エターナル・クライン』!!!」
敵陣の中央で全力の近接戦闘。そのフィジカルをフルに活かし、まるで同時に全方位に攻撃を放っているかのように見えるほどの速度で死人兵を一撃で撃破していく。敵陣の中央からすべてをバラバラにしていく連撃の旋風が広がっていく。
「おりゃああああああああ!!!」
その速度は攻撃範囲を広げるほどにどんどん向上していき、広範囲で爆発的な突きや蹴りが炸裂する。再生や立て直しの暇もないほどに死人兵は木っ端微塵になっていく。
だが、それらは無尽蔵に修復する死人兵。その攻撃範囲から外れる位置で再生し、範囲外から仁野に向けて一斉掃射する。
「うちには効かないっ」
それらすべてを回避し、叩き落す。四方八方からの一斉攻撃を涼しい顔でいなしてみせる。回避した弾丸や跳ね返した弾丸が円形陣形の反対側まで届き、死人兵の同士討ちを誘発する。
「『プロミネンス・レイ』!!!」
その円形陣形を逆手にとって、円を描くようにすべてを薙ぎ払う蹴りを放つ。円盤状の衝撃波がギロチンのように死人兵の体を両断していく。
「『ステラ・インパルス』!!!」
その蹴りの回転を活かすように、蹴りの動作の延長で流れるような突きを放つ。その拳が向く先は中国軍の陣営側。容赦なく全力で穿ちにかかる。
「...えっ」
しかし、その衝撃は岩石や氷塊の壁に阻まれる。その防御の仕方には日本軍側は見覚えがある。
「っ!」
衝撃で空中に散乱した岩石と氷塊がそのまま研磨されたように鋭利さを持った槍と化し、仁野に襲い掛かる。
「っ....何その能力!そんなの訓練で手加減してくれている憂希君よりも弱いし!てかうちにそういう能力使うってなに!?マジむかつくんだけど!だれ!?」
仁野の問いに行動で応えるように仁野に向けて追撃が放たれる。それはかつてこの地で見せたような雷撃。落雷が空中から地上めがけてほとばしり、着弾点を大きく抉る。
「っ!それも当てつけ!?」
その稲妻を片手で受け止め、体を通して大地へ流し切る。訓練で受けた憂希の雷撃ですら仁野にはダメージを与えられなかった。
「こそこそとやるなら...隠れられないようにする!!...『エターナル・クライン』!!!」
今度はその場にとどまり、連撃を敵陣に向けて放つ。突き、蹴りから放たれる衝撃波はまるで機関銃のように死人兵の軍隊を薙ぎ払う弾丸になる。流れるように衝撃波を放ち続けるその姿はまるで歌姫が躍るような無駄の無さと型の美しさを魅せていた。
「はぁ.....はぁ.....」
連撃とはいえ、その一撃一撃すべてを全力で放っている仁野はそのフィジカルをもってしてもさすがに息が上がる。死人兵という手応えの無さが精神的にも消耗を加速させている。
「...っ」
仁野は向上している視力で、空中に浮かぶ影を捉えた。それが明らかに攻撃の主であると勘が告げている。
「...あんまり人の前に出たくないんだよね。第一印象って言葉があるけど、そんなの明らかに一方的だし、対策のしようがないガード不可の攻撃みたいなものじゃないか。どんな印象も持ってほしくないから...気づかないままでいてほしかったよ」
その声の主は超能力なのかまた別なのか不明な力で空中に停滞したまま、独り言のようにブツブツと何かを言っている。
「どうせ印象を勝手に持たれるなら、最低から入ったほうが減点がなくて気が楽だよね。だから...日本人が一番嫌だと感じそうなことをしてみたよ。どうだい、味方の真似って気に食わないよね」
「それで真似したつもりならセンスないけど?」
「っ....。そうだよね、それもそうだ。僕なんかが完コピできるような人いないよね。そうだよ、所詮猿真似だ」
「...何?やっぱ真似してたんだ。...なにそれ、どんな能力なの」
「ここまで来たら別に、今更ショックを受けることもないよな。僕は嫌われるべき人間だから」
ずっと空中を維持しているのかと思いきや、その青年は素直に地面に降りてくる。
「女の子に暴力を振るうことなんて今更躊躇することでもないよね。僕は最低なんだから」
その異常さ、異質さは気味の悪さがにじみ出てくる。まるで不審者を夜道に目撃したかのような違和感。
「っ...」
仁野はその異常さに年相応の拒絶反応を示す。体が跳ねるような反応と鳥肌が立つような悪寒でゾッとする。
「ああ...一応礼儀として名乗っておくよ。僕は明海。名の通り日本人さ。国籍は中国だけどね。人種のせいで中国にも居場所のない愚図だよ」
「うちは別に名前言わないからっ」
「そっか、どっちでもいいよ」
脱力からの緊張。まるで今までたるんでいた糸が急に張りつめたかのような瞬間的な動作に仁野は反射神経だけで反応していた。
「っ...え」
明海の攻撃。それは明らかに近接戦闘の肉弾戦。しかし、その速さと威力は仁野が一番身に覚えのあるもの。仁野の顔を掠めた腕の先で、拳から放たれた衝撃波が仁野の後ろにいた死人兵を吹き飛ばした。
「それ...うちの」
「そう、気色悪いでしょ。でもね、戦場で一番しぶといのは汚いことをする卑怯者だよ。...僕はこの能力戦におけるワイルドカードだ。...へへ、カッコつけて気持ち悪いな」
明海は中国軍におけるグレード1の一人。その能力は能力がなければ成立しない能力戦争オンリーのグレード1。その位置の理由は単純明快。能力を含めたあらゆる特性や特徴を複写するコピー能力。
「君の能力のほうが使いやすくていいね。天変地異の彼は単純な使い方だと通用しないから難しいや」
「そんな...っ」
「ほら、この能力なら君もさすがに効くだろ」
「ぐっ...」
動揺した隙を突くような鋭い拳が咄嗟に防ごうと体の前で構えた仁野の腕ごと体を勢いよく吹き飛ばす。フィジカルが随一の仁野が自分に対する衝突で負けるのは能力を得てからは初めての経験だった。
「かはっ....ぐぅ...うぅ....マジ?」
その衝撃はまさしく複写。まがい物ではない本当の衝撃を受け、腕が震えている。
「僕の能力が卑怯なところはね...どんな能力もデメリット無しで使いたい放題なところだ。まあ映像でもなんでも見ないと使えないけどね」
それが意味するのは他の能力では絶対に不可能な能力の併用が可能ということである。
「最強のフィジカルと変幻自在の天変地異。我が中国軍の死者使役と物体再生。他にも僕はいろいろ知っている。...君のフィジカルでどこまで耐えられるかな?...どう、悪役っぽいでしょ」
「そうだね、ヒーローに偽物はつきもの。主人公にライバルは必須。...ここがうちのターニングポイントってことだ」
その拳を今一度強く握り、仁野は己を奮い立たせる。数々のヒーローが偽物を穿ち、ライバルを越えるように、目の前に立ちふさがる強敵に挑む。
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