No.44 曲者の最適解
散々好き勝手やられた仁野は、今度は自ら攻め込む。
「うちが女の子だからって...肉弾戦なら勝てるなんて思わないでよね....。うちはマジでトレーニングしてきたんだからっ」
かつてのフィジカルを全面に押し出す戦闘スタイルとは一線を画すスタイルの変更。それは素人が玄人の技術を学ぶというシンプルな答え。
すり足のような無駄のない体重移動から明海の懐に入るように急接近する。
「『ステラ・インパルス』!!!」
ボディ目掛けて放つ渾身の一発。
「っ...。ごめんね、それは散々さっき見たよ」
しかし、それを読んでいるとばかりに無駄なくひらりとかわし、次の一撃の準備をすでに終えている。
「こうやってるのかなっ」
仁野の渾身の突きを見様見真似でこれ見よがしに攻撃の終わり際に合わせて放つ。
「だからっ、なめないでよ!」
その突きを回し受けでいなし、がら空きとなった脇腹に反撃を撃ち込む。
「ぐあっ」
フィジカルをコピーしていようとも同等のフィジカルステータスとなれば、その防御は絶対無敵ではない。
「『エターナル・クライン』っ」
その一撃による身体的怯みに追撃を叩きこむ。その連撃は洗練された空手道の型のように付け入る隙を与えない。
「ぐあぅう。っ!!」
「無駄だしっ」
攻撃を食らいながらも無理やりに放った明海の反撃すら、その流れの一部のように冷静にいなされ連撃は途切れることなく継続する。
「うああああああああありゃあああああああ!!!」
普通なら一撃で消し飛ぶ仁野の全力の攻撃を、フィジカルで超高速の連撃として放ち続ける。何千発にもなる連撃が数秒のうちに叩きこまれる。明海から漏れ出た連撃の衝撃波だけで周辺の死人兵や大地は蹴散らされ、吹き飛ばされる。
「『プロミネンス・レイ』!!!」
連撃を締めくくる渾身の蹴りは明海の体を穿ち、その勢いのまま死人兵の群れまで吹き飛ばす。その衝撃は砲弾のようにその着弾地点を吹き飛ばした。
「はぁ....はぁ.....はぁ.....」
仁野は数瞬に詰め込んだ全身全霊の攻撃により、肩で息をするほど息切れしていた。いくら仁野と同じフィジカルを持っていても、集中攻撃により完全に体を穿つほどのダメージは与えていた。
「.....このゾンビはあの人がコピーしてたって.....言ってたっけ.....。なら.....これで能力は」
辛うじて回している思考で仮説を立て、それが正しいかどうかを確かめるために周囲を見回してみる。
「.....うそ.....なんで」
しかし、その仮説は立証されなかった。変わらず仁野に向かって攻撃態勢をとり、吹き飛ばしたはずの死人兵たちは道具ごと復活している。
「なんだ.....無敵じゃんとか思っていたけど、君の能力も限界はあるんだね」
「.....え」
その体を完全に穿ち、吹き飛ばしたはずだった。しかし、それが幻想だったと考えてしまうほどに、体は完全に修復していた。貫いた衣服すら元通りだ。
「.....っ、ああ.....ちょっとしんどいな。あそこまで思いっきりやってくれればもはや痛くないんだけど.....やっぱ痛いのは嫌だね。あの人は本当に頭おかしいんだな」
明海が指したあの人とは、その再生力、不死性と猟奇的思考から危険因子として認定されている中国軍のグレード1。No.999のことである。自軍こそ能力の宝庫。グレード1ともなれば貴重な複写候補だ。
そう、仁野は確実に攻撃を命中させ、通常であれば絶命するダメージを明海に与えていたのだ。しかし、それを上回り、上書きするほどの再生力を明海はすでに持ち合わせていた。
「っ....あぁ。さすがにいろいろ使いすぎたな。気分が悪いわ。...まあ、君も結構しんどそうだね」
「っ...。バカ言わないでよ。うちはまだまだ全然平気だから!マジ余裕だし、てかなんならこれからが本番でしょって感じっ」
明らかにから元気ではあるが、仁野にとってはそれに意味はある。自分がこれまで買ってきた敵は一撃で終わるか、もっても数発で吹き飛ぶことがほとんどだった。逆に負けてきた、勝負できなかった敵は通用しない敵がほとんどだ。つまり、能力が通用する敵で、なおかつ数発どころか何千発を撃ち込んでも倒れない敵は初めてだった。そう、ここが仁野にとってまさにターニングポイントなのである。
「ふんっ」
仁野は自分の両頬を叩いた。ヒリヒリと痛むそれが自分を鼓舞する気合につながる。
「うちだって...強いんだからっ」
能力の練度とそれに対応した訓練による研鑽は圧倒的に仁野のほうが上である。反射神経が向上してもそれに対応して受けまで組み立てられるかは別の話。拳を全力で振りかぶって殴るのと、腰の回転を軸にして体全体で放つ突きでは威力が違う。それぞれの格闘技にそれぞれの強みとそれぞれの技術があるように、それらを知るか否かは雲泥の差だ。
「いっぱい勉強して訓練したんだから....今こそ、それを魅せなきゃっ」
その精神を体に伝達させるように仁野は走り出す。その全力の数歩でお互いの距離を無視するほど速く、一瞬で仁野は明海を自分の間合いに捉える。
「学なんてない人間に見えるかもしれないけど、さすがに接近戦だけってわかれば予測だってできるよ」
「『エンジェル・ムウ』!!!」
「ごふっ」
明海の目の前で止まることなく、さらに急加速することで近接戦闘に持ち込んだというブラフをかまし、その勢いを満遍なく活かした体当たりをぶちかます。
「ぶっ飛んじゃえ!!」
そのまま雲浮かぶ空に向けて明海を蹴り上げ、はるか上空までその体を浮かせる。
「ぐ...はあ」
「『ステラ・インパルス』っ」
空に浮かぶ雲ごと吹き飛ばす全力の一撃を遮蔽物の無い空中で回転する明海にお見舞いする。空の雲が円筒状に穴が開いたように青空をのぞかせる。
「ぐぐぅううっ。知ってるかい...っ。君らが戦ったロシア軍には...隕石を落とす能力者がいたらしいよね」
空中で抵抗することなく衝撃波をくらったまま回転しながら、明海は不気味に呟く。
「一個落とすくらいなら...僕にもできるかな」
明海は空中にいながら大地に向けて巨大な塊を落とす能力を行使する。
「え...マジ?....あの人の能力、何でもありすぎない?」
明海が発動した能力はその練度の低さが故に、隕石の雨ではなく、仁野が空に開けた雲の穴を埋め尽くすような隕石一つを地上にぶつけるという形で顕現する。いくらNo.999の能力を複写していようとも、自軍丸ごと消滅させては本末転倒であり、この場でその規模の隕石が地面に衝突すれば中国どころかアジア圏に甚大な被害が出る。今が夜であればアジアは隕石の白熱で明るく照らされていることだろう。
「あ~あ、僕が使うとやっぱりこんなもんだよね、僕が使うんだから仕方ないよな」
いつまでも自虐的に自責思考を繰り返す明海の表情は、ずっと昔から諦め続けているような開き直った顔をしている。
「ふざけないでっ、こんなの考えもしないでっ」
目の前の無責任な能力行使に仁野は憤りを覚える。死人前提とはいえ、かつての仲間を無視し、後の被害すら考えない行為にヒーローとしては黙っていられない。
その怒りは奇しくも、仁野が理性で無意識にかけていたリミットを解放する。誰かを助けるために使いたいと願う仁野の優しさが作っていた壁を叩き壊した。
「『ステラ・インパルス』」
仁野の放つその一撃はその踏み込みで大きく大地を割った。まるで地割れのような亀裂が叩いたガラスの様に一瞬で広がる。隕石に向かって放たれた突きの衝撃波はその軌跡上に月があればそれすらも砕いていただろう。拳から放たれたとは考えられない範囲でその軌跡上にあるあらゆるものを雲散霧消させた。空を赤く照らしていた隕石は大部分が塵すら吹き飛ばされ、残った残骸が小石の様に地面に降り注いだ。
「うっわ、すご。同じ能力使ってもこれできる気がしないって...」
「なっ」
隕石に気を取られ、仁野は明海の接近に気づけなかった。明海は全力で突きを撃ち込んで隙だらけの仁野の背後で、それを待ち受けていた。
「よいしょっ」
「ぐっ」
一撃を撃ち込むだけではないと仁野の動きを見て学んだ明海は数発の連撃を仁野に撃ち込む。仁野は咄嗟に防御を取るも、まともに受けた腕や足にはダメージが残る。
「『エターナル・クラ』っ」
「技名言うのかっこいいけど、何が来るか僕でもわかるよ」
連撃で応戦しようとした仁野を嘲笑うかのように強化された脚力で跳躍し、距離を取る。
「逃がさないっ」
「このくらいなら...要領よさそうだ。えっと...『隕石』、『加速』、『回転』、『増大』っと」
跳躍で追撃を狙う仁野に向け、今度はタイヤサイズ程度の隕石を複数形成し、別の能力を併用することでその威力と速度を向上させた。能力によりステータスを上げられた隕石たちはまるで砲弾のように射出される。
「そんなのっ」
「もちろん、それだけじゃないよ。...えっと『効かないからこそ、ダメージを受ける』」
「えっ、うああ!?」
傷をつけるどころか迎撃せずとも、仁野の体に衝突すれば一方的に粉砕される岩石の塊は、驚異的な跳躍で飛ぶように追いかけてきた仁野を撃ち落とした。
そう、それは仁野の天敵とも言える、憂希が辛うじて勝利した天叉傘の能力である事象逆転だった。
「ん~...彼ほど....頭よくないから、ちょっと使い方....難しいんだよな...これ....」
「ぐぅ...あぁ...」
隕石に被弾した仁野はそのまま地面に叩きつけられ、転がる。落下のダメージはなく、隕石が直撃した場所から出血している。仁野の強靭な皮膚を引き裂き、裂傷を起こしていた。
「君の....肉弾戦に付き合ってあげても.....いいんだけど.....僕も正直疲れたから、さっさと.....終わらせちゃうね。君もその方が....いいでしょ、こんな奴と戦い続ける....より死んだ方がましだよね」
息切れを隠すように話すが、その消耗は隠し切れていない。能力行使が拙いからこそ、非効率的な消耗は避けられない。
「いくら君が強くて、頑丈でも、無敵ではないでしょ。...これなら、君だって倒せると思うんだよ」
中国との戦闘で得た情報は憂希の能力だけではない。No.999との戦闘を含め、最前線で確認できた能力は日本軍だけではなかった。増殖した死人兵と増大する能力を行使する能力兵をまとめて屠ったのは米軍のグレード1。
「空間ごと削り取ったら関係ないよね」
本来は味方のはずの能力が自分たちに牙をむく瞬間。それこそ、想定したくない最悪の事態の一つ。
人の力を借りなければ何もできないと明海は自分を卑下するが、この戦争において危険因子に匹敵する戦場の制圧力と臨機応変さは確実にグレード1に該当する。
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