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自由戦争  作者: 夜求 夜旻
第2章 世界大戦の引き金

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No.38 連鎖する暗雲

応酬の前線基地へ帰還し、憂希は功績を報告する。単身でグレード2以上と想定される能力兵が組み込まれた軍隊を撤退させた。まさにグレード1に値する功績だった。


「ふむ...。明言が難しい能力だね。条件は触れる限定でもなさそうだし。目立つのは攻撃面より君の能力と正面から対決して無傷という耐久力。...無敵にすら感じるね」


「...」


「正直、想定以上の功績だよ。これには感謝を伝えなければ」


「...感謝されるために戦ったわけではありません」


「そうだね、相変わらず用心深いというか大人だね。この場合はドライというべきかな。...君の条件提示は快諾しよう。引き続き君がコンタクトを取り、協力的な関係でいてくれるなら」


「...俺もいろいろ聞きたいことができました。関係は継続します」


「では、彼女も一緒に日本に帰すよ。再開は二人でじっくりしておくれ」


「はい」


「...それで、君はなぜそうなったんだい?...敵兵を一方的に屠ったことに心が痛んだのかい」


無気力な返事ではなく、明らかに怒りに近い感情が籠った声色にジェイムスと名乗る男性はたまらず質問した。


「...痛まなかったわけではないです。...ただ、また別の話です」


「...私に何か質問でも?」


「...いえ、今は。...ただ、いずれこの質問をするかもしれません。...でも、今あなたに聞くのでは意味が違くなってしまうので」


「...そうかい。じゃあ、今回は大変助かったよ。また、こちらから連絡を取らせてもらう。また無事に会えることを祈っているよ」


その言葉を最後に、憂希はなじみ深い自室に飛ばされた。


「...ん~おそらく、何か能力についての核心に触れたのかな?...やはり彼は、この世界における台風の目になりえるね。全てを知ったその時が...今から楽しみだ」


不敵に笑うその姿は、高齢の男性からみるみる姿を変えていく。いつの日かレイリーと共にいた一人の青年。


「仕組まれた英雄。他人の描いた冒険譚。...それだけではつまらないからね」


青年はただただ、楽しそうに微笑んでいる。



日本軍本部に戻った憂希は真っ先に美珠に会いに行く。頭を支配していたすべてを放り捨てて。


「神崎さんっ」


お互いに引き合うように、二人の部屋の中間で憂希は声をかけられた。


「...安楽堂さん」


「どうして、私」


「よかった...。本当に...」


その姿を見て、憂希はその場に崩れるようにしゃがみ込んだ。ずっと憂希を縛っていた何かから解放されたような感覚によって、無意識に脱力してしまった。


「だ、大丈夫?」


「うん、ごめん。安楽堂さんの解放を条件に、ひとつ欧州軍に手助けをしたんだ。よかった、本当に解放されて」


「え、そんな。っ...」


美珠は憂希に近づいてようやく気付いた。青白い顔や目の下の濃い隈。少し瘦せたようにすら見える。この短期間で尋常じゃないほどの擦り減りで、憂希は明らかに消耗していた。


「すぐ治すからねっ」


美珠はずっとできなかった仲間の治療を、ようやく行えた。その最初の一人が憂希だったことは、美珠にとっても救われたような感覚をもたらした。



二人は美珠の解放を和日月に報告するべく、司令室を訪れた。そこで事の顛末を報告する。しかし、敵対国の話はせず、作戦内容もテロ行為の鎮圧とぼかした。


「...なるほど。しかし、この解放を許す追加条件が君への接触だけというのは...いささか信じ難い。引き続き警戒を怠らずに対処するように」


「はい」


「これで君が作戦に集中できるようになったことは大きい功績だ。また、欧州軍が我々に対して敵対意識が薄いことも理解した。現状では協力的関係を目指し、交渉するのも現状打破の一手として考慮しなければならないか」


憂希は和日月を問いただしたい欲求を必死で抑え込んだ。はぐらかされれば二度と同じ質問は通用しない。様々な情報を探ることにした。


「しかし、我々の本部に好きに出入りされることはこれ以上、許容できない。君に再度接触があった際にはその報告も忘れぬように」


「了解」


憂希は最低限の会話のみで報告を終了した。変に気取られて、動きづらくなるのは避けたかったからだ。


元第一大隊メンバーへの報告に向かう道中で、憂希は美珠にいろいろ質問をした。


「え、じゃあずっと高級ホテルみたいな施設で過ごしていたんだ?」


「うん。なんか好きにしていいって言われたけど、後から何を言われるかわからなかったからほとんど何もしなかったけど」


「食事とかは?」


「レストランがいくつかあって、ほとんどビュッフェ形式だったからいつでも食べれる感じだったよ。普通に一般の人もいる感じだったから、ちゃんとおいしかったし」


これがジェイムスと名乗る男性が言っていた宣伝効果的なやつか、と憂希は納得した。能力者の待遇でも宣伝したかったのだろう。娯楽に溢れた環境の提供なんて、話だけでは詐欺としか思えない。


「私は落ち着かなかったな...。もともと拉致されて来たようなところだったし、逆に管理されないのは監視されているように感じて」


知らない強大な娯楽施設に放り投げられれば警戒は必至だ、中立とはいえ仮にも世界大戦中にそれを忘れてはしゃげる人間はいないだろう。


「...安楽堂さんの能力が攻撃型や通信型じゃないことも知っていたのかな。...なんにせよ、無事でよかったよ」


「今回だけじゃなくて、何回も欧州に協力してくれたんだよね。...本当にありがとう」


「当然のことだよ。時間がかかって申し訳ない」


「神崎さんが謝ることは何もないよっ。むしろ、神崎さんがいたから戻ってこれたんだから」


美珠は心の底から憂希に感謝した。少しだけ欧州軍の兵士から聞いていた憂希の行動で、美珠は孤独や不安から少しだけ解放されていたのだった。しかし、その事実は憂希に伝えなかった。


振動と傀に合流し、元第一大隊の特殊兵装部隊生存メンバーが全員揃った。


「そんな...錐生少尉が」


美珠の無事を分かち合った後の会話は、ここにいないメンバーへの疑問となった。いない理由は単純。この世界での役目を終えたからに他ならない。


「私が...拉致された後の戦闘で...。すいません、私がその場にいれば応急処置を」


「いや...そんなレベルではなかった。敵の攻撃が米軍を狙ったものだったから私や傀は生きていた。我々は熱線や放射線ではなく、衝撃波で吹き飛ばされた。錐生は即死だったと聞いてる」


各国との戦争が激化する状況で、憂希や振動らは数回前の戦闘がずいぶん前に思えた。しかし、それは一瞬一瞬のリソースが高すぎる戦闘を越えたことによる錯覚だった。


「...すいません。私がいれば救えた命もあったかもしれないのに」


「安楽堂一等兵。それは君の驕りだ。救えるかどうかはその状況にならないとわからない。現にその場に君はいなかった。君が出撃していない作戦にまで、君が責任を感じることはない。これから、君の活躍を期待している。それでいいんだ」


「っ...はい」


「無事で何よりだ。これまで何回も君に救われた我々としては、君の無事は何よりも心強い。気負わずにまた共に戦おう」


振動の温かい言葉は美珠以外にも深く浸透していた。その中で、憂希は考えざるを得ない事柄が頭をよぎり続けている。それにたまらず、憂希はその場にいる全員に質問する。


「皆さんは...どうやって能力者になったか覚えていますか?」


「あ?なんだよ急に。いきなり何の質問だ」


「私は...スカウトみたいな感じだった記憶だけど」


「傀さんは?」


「俺も同じ感じだ。お前もそうだろ。俺ら三人は元々一般市民だろ」


憂希、傀、安楽堂は時期は違えど、皆が元々は戦争すら知らない一般人だった。銃の発砲音すら空想やデジタルの中でしか知らない平和な世界の住人だった。


「...振動隊長は?」


「私か?...私は適応試験のようなものがあったな。軍全体で新兵装についてのカウンセリングや様々な試験項目を通過したよ。...いきなりどうした」


「超能力を得た瞬間、その前後で具体的に何をしたのか、またはされたのか。俺は知らないなって思いまして」


「...」


その憂希の発言にその場にいた全員が黙り込んだ。誰も記憶にない。何を施術された結果、何が変化して能力を得たのか。少佐に位置する振動ですらその事実を知らなかった。


「やっぱ皆さん知らないですよね。...すいません、あんまり気にすることじゃないんですが、ふと頭によぎったもので」


憂希は何をされたかについてはそこまで重要視していなかった。何をされたのであれ、今は問題なく能力を行使し、生活も普通にできている。一番知りたいのはそのリスクがどういった結果を生み、それがどれくらいの確率で起きるのか。世間が何も知らない中で、どれくらいの規模で行われているのか。それを知りたかった。


憂希の質問に振動は思い出す。同時期に一緒に適応試験を受け、能力者になるはずだった同僚たちを。その中には能力を得てすぐに戦死した者もいた。いや、そう聞かされた者がいた。


美珠の解放を報告し、皆が一時的にも安堵や和みを得た時間を終え、解散しようとするときに、振動は憂希のみに声をかけた。


「どうしてあの疑問が頭をよぎったんだ。何かあったか」


「...いえ、疑問が浮かんだだけですよ。すいません、ご心配をおかけして」


「...」


振動も最近になって少しずつ理解してきた。憂希の態度や言動に隠れた真意を。振動には憂希の余裕の無さが違和感として映し出された。ずっと願っていた美珠の解放が叶ったのにもかかわらず、その前よりも酷く悩んでいるような雰囲気を。


「神崎。お前は背負いすぎだ。安楽堂のこともそうだが、君は上等兵。軍の指揮系統に限らず、責任を負う立場ではないんだ」


出しゃばるな、範囲外だろ。そんな風に突き放せば済む話かもしれない。状況によってはそう伝える選択肢を持ち合わせることが上官としての務め。しかし、今はまだその選択を取れない。


「...混乱することを避けたいので、いろいろと探っています。俺も...まだ本当にそうだという確証はありません。仮説にもなっていない空論です」


「それでも、話してみろ」


「...じゃあこれだけ聞かせてください」


「なんだ」


「超能力者に適応できなかった人間はどうなるか知っていますか?」


「...いや、知らない」


「...そうですよね」


「...お前は知っているのか。何か聞いたんだな」


「...コンタクトを取っている欧州の男ではありません。...全く別の兵士から、能力者に適応できない者が施術を受けると...即死すると聞いたんです。脳と神経の活性化に伴うリスクだと」


「なっ...」


「...ソースは不明です。ただ、その人物は嘘を言うような人ではないと...感じました。初対面の相手の情報を鵜吞みにするわけにはいかないんですが...無視もできないじゃないですか」


「...超能力者進化技術は、軍内部でも秘匿性が高い。私ですらその詳細は知らない。...変な話だな。自らに施術された内容を知らないというのも」


「証拠も何もないです。その人物の印象だけで、話を捨てきれなかっただけです。...だから、俺が探ります。結論はすぐには出ないので」


「...だが、それは神崎が悩むことでは」


「ありがとうございます。...でも、俺が悩むことです。俺が捨てきれないのも、探ろうとするのも、俺がそんなことは関係ないって。そんなことは絶対ないって、自分から外して考えられないからです。この結論を出さないと、俺は能力者として戦えない。俺が弱いから、気にして動けなくなっているんです。俺の問題は、俺が解決しないと」


「...」


「気にかけてくれてありがとうございます。...すいません。失礼します」


人に頼ることやすがることを勝手にその人にとっての迷惑だと決めつける憂希は、その愚かさをまだ知らない。自分だけで何かを解決することだけが美徳ではないと気付くにはまだ幼かった。

そのまま、憂希は自室に戻るためその場を後にした、その時だった。


『各隊員へ本部より伝令。米軍より協力要請有。連盟の連携強化ならびに双方の物資支援の拡大を念頭に、今後共同作戦が増加すると予想。各隊長は直ちに指令室に集合。これより米軍合同作成を含めた作戦会議を行う』


本部館内放送による全体伝令。その内容は、明らかに舵を切りなおした米軍側の主張を意味し、それに応じざるを得ない日本軍の状況を物語っていた。


「...こちらの要請が通っていないのに米軍からの一方的な要請だと......!?くそっ」


珍しく感情を表に出しながら、振動は指令室に向かった。しかし、その指令室で和日月から開口一番に言われた事実はまた受け入れがたいものだった。


「米軍は欧州軍の攻撃を受け、中隊が半壊。前線区域での戦闘は激化し、米軍は欧州軍と敵対を宣言。...同盟国である我々に正式な協力要請が入った。ここで断れば、米軍との敵対は必至。欧州軍との応戦は現状の戦力では不可能に近い。...明後日、米軍側との会議が設定された。...ここが我々の運命を定める分水嶺となるだろう」


「...っ」


その場にいる全隊長が奥歯を噛み締める。その状況はつまり、絶体絶命の危機が迫ってきているということだった。どちらを取るにしろ今よりも敵対国が増える。日本は消耗をさらに加速し、戦力を失うだろう。全滅する未来が色濃くなる中で、その選べぬ選択肢を前にただ立ち尽くしていた。








ご拝読ありがとうございます。

皆様の娯楽として一時を楽しんでいただくきっかけとなれましたら幸いです。


素人の初投稿品になります。

これからも誠心誠意精進いたしますので、ブクマや☆での評価・応援、どうかよろしくお願いします。

感想もお待ちしております。

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