No.34 戦争の終着点
No.34 戦争の終着点
「俺は最大速度で移動する際にそのGに耐え切れなかった。また動体視力が追い付いておらず最大速度維持がかなり難しかった。常時最大速度を行使できるようにしながら、攻撃や防御の能力併用をできるようにしたい」
「うちはマジ近接じゃないとなんもできないから、遠い敵にも何かできるようにしたいっ」
「では仁野一等兵は最大速度を維持した神崎上等兵に効果的な攻撃を考案せよ。加減は任せるが、的確に当たる攻撃を放て。神崎上等兵は仁野一等兵の攻撃を回避しながら反撃せよ」
「「了解」」
模擬戦による実戦イメージに近い形での能力行使で気付きとその場での改善を重ねることで、成長速度を止めることなく経験値を積める。
「じゃあ、今から移動するね」
憂希自身、一番の近道は継続行使による慣れだと感じている。和日月に召集されなくても、自分自身で継続行使の訓練をしようとしていた。ただ、仁野の攻撃を回避しながら最大速度を維持するとなれば、それはさらに成長できるだろう。
「よしっ、手は抜かないからね!」
憂希は空気の対流を操作し、自分の跳躍に上乗せして、そのまま上空へ舞い上がる。地面すれすれを筋肉の過剰行使により、走り抜けて加速する。
「っ....」
戦場で経験したとはいえ、その重力加速度には消耗を感じざるを得ない。そもそも今の速度でさえ、訓練されていない人間では耐えることはできず、徐々に意識を失うことになるだろう。
「はっや!...マジ?いつの間にあんなことできるようになったの。よし!」
仁野は最近勉強中の空手の構えを取る。ゆるく肩くらいまで上げた左腕と、鳩尾くらいに控える右腕。左足を前に脱力して構える。
「『ステラ・インパルス』っ!!」
突きの練度が上がった仁野の拳は、今までの力任せの衝撃波ではなく、狙いに対して最大効率でその威力が放たれる一撃となっていた。
「っ...やっぱ当たんない」
軌道を予測して放つも、それを確認した憂希が軌道を変えて飛行するため、そう易々と命中しない。
「っ....この速度のまま...!」
憂希は低空飛行を続けながら迎撃を試みる。ロシア戦で使用した氷柱の一斉掃射を再現しようとする。
「っ....だめだ」
自分の移動速度に氷柱の生成速度が追い付かず、自分からかなり距離ができたタイミングで生成が完了する。停止している氷柱は自分の高速移動とは違い、視認が容易。対策されれば自分が止まって放つのと何ら変わらない。速度を活かし、かく乱を継続しながらその中で迎撃を織り交ぜる。それが憂希の思い描く理想像だった。
憂希の軌跡から通過後かなり遅れて発射される氷柱が仁野に向かう。
「ふぅ....。っ!」
息を整えて集中力を高め、そのまますべての氷柱を個々で叩き落す。連射される弾丸にも似た氷柱を一撃ではなく連撃で対応する。
「~~~~っ。よっしゃ!」
今まで一撃で迎撃してきた仁野は、その破壊力を発揮できない場所、状況における迎撃方法を試した。超人的な反射神経と動体視力、そして強固に氷結された氷柱を砕く破壊力は近距離戦闘で重要となる。
「じゃあうちもバババババッってやってみる!おおおおりゃああああああっ!!」
一般的な身体構造では到達しない速度で、連続の突きを放ち続ける。残像を生む速度でマシンガンのようなファイアレートの突きを放ち、衝撃波は弾幕のように上空に拡散した。
「っ...突きだけで」
憂希の能力で発生させるよりも圧倒的にファイアレートが高く、ほぼ面で放たれる衝撃波は砲弾よりも貫通力を持つ。
「だけど...俺には効かないよっ」
大気を押し出した衝撃波は所詮、空気の対流。すべてを消し去ることはできないが、それでも霧散による弱体化と軌道変更でそれらを憂希から外すことはできた。
「うっそ、マジ!?やっぱ速度が遅いか~。じゃあうちの速く動くっ」
その身体能力こそが能力行使となる仁野は、全力で走るだけで基本的に動体視力の範疇を越え、衝撃波を生む速度が出る。瞬間移動と錯覚するような移動速度で、すでに憂希の進行方向にいた。
「なっ!?」
「捕まえ...てない!?」
完全に捉えたと思った仁野はからぶった腕に戸惑う。
「でも場所はわかってるよ!」
今度は数ではなく、衝撃波の速度を意識した突き。威力を上げれば自ずと速度も上がる攻撃を拳の範囲のまま、拡散せずに撃ちだす。
「うあっ」
移動先を極限の動体視力で見極められ、憂希の衝撃波が体をかすめた。
「うわ、おしい!」
「ニノっ、これくらいなら大丈夫だよね!」
憂希は移動したまま雨を降らせる。
「そんなんへっちゃらだよ!」
「おっけ!」
憂希は雨粒すべてに伝導する電流を一気に流した。
「っ...雷だってうちは効かないんだよっ。これくらい」
「そこまでだ」
和日月が急に止めに入った。
「え、何で」
「水が電気分解され、仁野一等兵の周辺には酸素と水素が充満している。静電気程度で発火し、君は無傷では済まないだろう。致命傷でないにしても訓練の域ではない」
「うっそ...」
「神崎上等兵。ロシア戦での花菱中佐との戦術をうまく取り入れたようだな」
「もっとやれることを見つけた。...自分でも訓練する」
「賢明な判断だ。手段が大いに越したことはない」
「すごいね、憂希君」
「いや、ニノみたいな能力者にはやっぱりまだ弱いし、もっといろいろ考えないといけない」
「...うちも直接攻撃をしてこない能力にも対応できるようにならないと」
「仁野一等兵、君の持ち味は破壊力だけではなく、耐久力と瞬発力、あらゆる特性が基本的に他の能力をはるかに越えている。そこを活かすように考えるように」
「はいっ」
三人の訓練が終わり、輪廻の部屋まで戻る道中。
「輪廻ちゃんもあんな何もない部屋じゃなくて、もっとかわいくできたらいいのにね」
「確かにそっちの方がもっと人間らしく生活できるよね」
「んー??」
当人は何のことだかわかっていない顔で二人の顔を交互に見つめる。
「そうだ、うち輪廻ちゃんと買い物行ってくるよ!お洋服とか買ってあげたいし!」
「輪廻、ニノと一緒にいける?」
「んー?にの?うんっ」
「じゃあいこ!またね!憂希君!」
「またねーゆうきっ」
「またね」
二人は放課後に出かける学生のように無邪気に買い物に旅立った。輪廻は仁野ともかなり打ち解け、憂希の仲介がなくともコミュニケーションが取れるようになっていた。相変わらず化粧品や香水の匂いは苦手なようだが、そこは仁野側が気を遣ってうまくやっているようだった。
憂希は今日の訓練の振り返りと自分自身の能力の分析や仮説を整理するため、自室に戻った。
「っ....」
「やあ、久しいね。神崎 憂希君」
既に憂希の自室にはいないはずの先客がいた。
「...ジェイムスさん、でしたっけ」
「覚えていてくれてうれしいね。どうだい、最近は」
「...あなたなら知っていて来ているものかと思いましたが」
「社交辞令じゃないか。冷たいね」
特段傷ついていないどころか、気にもしていない様子で飄々と言う。
「何の用ですか」
「本当に冷たいじゃないか。君たちが困っているかと思って相談に乗りに来たんだが」
「相談ってされる側から来ることあるんですね。...俺に決定権はないので、特に相談しても日本軍として何か交渉や検討することはできませんよ」
「随分と弁えた発想だね。まあ、君の認識は確かに間違ってはいない」
「...そう思っているなら、うちの総司令官や将校にコンタクトを取られては?」
「いや、私は政治的なコミュニケーションは好きじゃないんだ。お互いが隠し、探り合うなんてストレスだよ」
「...」
自分とのファーストコンタクトは完全に政治的だっただろ、と憂希は思ったが言わなかった。これ以上、目の前の不審者に踊らされる訳にはいかなかった。
「それで、本当にこちらの要求を叶えに来たとでも?」
「...さすがに警戒心が強いね。...まあ半分はそうだ。欧州から見ても日本軍はかなり苦しい状況に見える。ただでさえ、島国であり隣国が敵対国という苦しい立地だ。米軍とは領土的距離と超能力者開発前の力関係により、フラットとは言えない協力関係。米軍の真の思惑は定かではないがね、それでもスムーズな支援はない。ここで恩を売るのも後々に我々の利益となると踏んだまでだ」
「...もう半分は」
「日本軍に我々の刺客を潜入させたくてね」
「っ...」
堂々と言い放ったその言葉に、憂希はさすがにたじろいだ。何も隠さぬその言動が憂希へのはったりか揺動か。一瞬で様々な思考を巡らせたが、それらを切り裂くようにジェイムスと名乗る男性は続けた。
「言葉通りの意味だ。疑うことも無いよ。我々は日本軍の動きにも敏感でね。...知っているかどうかはさすがに私も把握していないが、日本軍はこの戦争における過激派だ」
「...過激派?」
「各国がこの戦争の終止符をどう付けるつもりか、知っているかい?」
「...いや」
「それでは日本軍は?...ああ、これは探りではない。私は知っているよ」
憂希の頭に浮かぶは和日月に何度も言われている言葉。超能力者の撲滅。
「知っています」
「そうか、では話が早い。...単刀直入に言う。日本だけなんだよ、能力者を減らす方針を固めている国は」
「...なっ」
衝撃だった。それしかないという頭になっていた憂希にとって、和日月の方針こそが少数派であるという事実。
「基本的に新しい技術により、人類の進化に至ったこの状況は有効活用するのが定石だ。本来、より発展と繁栄を目指して技術を活用するのが最も賢い選択だが。独占や管理、それぞれの国が思惑を巡らせ、世界大戦にまで発展している。人間の愚かさというべきか、生物的な本能というべきか。...なんにせよ、混乱の種であってもそれを抹消することはしない。核という技術が兵器ではなく、発電所などのインフラに活用されているようにね」
「...他の国も本当に」
「もちろんだ。我々の国は各国の中で最も能力者を活用した世界構築を検討している。故に軍備拡張においても能力者を中心としている」
「...」
各国の真意までは把握できない状況ではあるが、それでも憂希に明確な揺らぎが生じていた。
「だから、軍備増強に乗じて刺客を入れ、監視したいんだ。...わかっているかい。超能力者の撲滅という意味が」
「...」
「戦争が仮に区切りがついたところで、日本軍のみがまだ戦争は終結していないと主張し、超能力者狩りを行う。敵意や戦意に関わらずだよ」
「っ....」
超能力者がいなくならない限り、戦争は終わらない。もちろん長い目で見れば必ずそれは火種になる可能性を秘めている。核兵器が抑止力となっていたかつての世界と同じ。しかし、日本軍は超能力者を撲滅するまで戦争を終わらせないつもりとなれば、それは最早戦争ではない。
「それが予測ではなく事実だとすれば、日本軍が仮にこの世界大戦に勝利した場合、間違いなく虐殺が始まる。...私はそう考えているんだ。どうだい、協力してくれる気になったかい」
「まだ信用できないです。...が、無視もできない。...軍備増強の申し出は正式にお願いします。政治的交渉が嫌いでも何か考えてください。...ただ、こちらに何か危害を加えるようであれば、俺はあなたを一番に敵対視します」
「もちろん、全部鵜呑みにしろとは言わんさ。増援についても日本を崩すことを目的に投入する訳ではない。人選は慎重に検討したつもりだ」
「また、俺としても他の国か日本と同じ意思ではないと確証がないので、勝手に探ります」
これは憂希のブラフだった。そんな宛もパイプも持ってはいない。反応を探るためのほんの少しの抵抗だった。
「ああ、いいとも。それでこそ私がコンタクトを取った相手だよ」
しかし、ジェイムスと名乗る男性は何も気にすることなく、その忠告を受け入れた。
「では、本題だ」
これまでの重要かつ機密性の高い問答が、前置きだという事実に憂希は動揺する。必死にリアクションが漏れ出さないように押し殺す。
「その投入予定の兵士を君に紹介したい。また、彼女との面会を兼ねて、作戦に協力してほしい」
「っ……相手はまたロシアですか」
憂希としてはロシアとの連戦は避けたかった。取り逃したグレード1の二人には顔も見られている。AZ戦とは異なり、日本軍の関与が露見する可能性がある。
しかし、そんな憂希の心配は杞憂に終わった。
「いや、次の相手は米軍だ。前線付近の小競り合いだけどね。紹介する兵士たちを見極めるにはちょうどいいコミュニケーションになるだろう」
「っ……」
戦闘した相手どころか協力関係である米軍。能力が割れている軍との戦闘。ロシアや中国よりも情報を隔絶する難易度は高かった。
「大丈夫だ、敵軍の規模は大きくはない」
心配してるのはそこじゃない。憂希は心の中で怒鳴ったが、憂希に選択肢は無かった。
ご拝読ありがとうございます。
皆様の娯楽として一時を楽しんでいただくきっかけとなれましたら幸いです。
素人の初投稿品になります。
これからも誠心誠意精進いたしますので、ブクマや☆での評価・応援、どうかよろしくお願いします。
感想もお待ちしております。




