No.30 存亡の決戦
No.30 存亡の決戦
和日月の能力は絶大だが、それでも現状維持では日本軍側に有効打はなかった。敵の能力を分析し、それに対策しないことには勝利はない。
『振動より伝令。敵軍への効果は現時点で絶大です。敵連隊は半壊。こちらの戦力と拮抗する数まで削ったと思われます』
現時点で戦力が拮抗しているということは、逆に言えばまだ敵の出方次第でいくらでもひっくり返る可能性があるということ。
「神崎上等兵、一度本隊と合流しましょう」
「……」
憂希は花菱と提案に対して沈黙する。砲撃や雨の反射がこちらの位置を把握した上での行動なら、すぐにでも追撃が来そうなものだが、今上空にいる2人には何もしてきていない。
「……俺ら二人はまだ敵にバレていないと思いませんか?」
「……それは不明確です。状況判断力できる材料が少なすぎます」
「それなら敵も同じではないですか?ここで先に優位をとれた方が…戦況を支配できるんじゃ」
「…それは逆も然りです。仕掛けた作戦に完全に対応されれば、その対策をこちらが用意していないと一気に崩れます。ここで軽率な動きはリスクが大きいです」
「…対抗策が少ない奇襲側が、敵の反撃に対策して追撃までできますか?時間を与えるだけだと思います」
「……それが幾度となく危機を超えてきたあなたの強みですか。危うくもその判断の早さと臨機応変さが突破口をこじ開けたのですね。」
花菱は少し悩む。敵軍の反撃は和日月の能力で無力化できたと言ってもいい。だが、それは軍全体への対応であり、個人までは到底感知できないだろう。ましてや、本隊と別れて行動している自分と憂希の二人を常に把握し、バックアップできるほど本隊側に余裕はなかった。
「まずはあなたが考える策を教えてください」
「はい」
憂希は自分の推測を花菱に話す。
「雨は降った空に、射撃は撃った側に戻りました。射撃に関してはまだわかりますが、雨が完全に重力を無視して浮き上がるように上空へ舞い上がってきました。それしか情報はないですが、そこだけ見た推測として、事象の反射もしくはそれに紐づいた能力かと」
「...反射。確かに的を射ているかは不明確ですが、方向性は合っているかと」
「その推測を前提にする作戦ではありますが、反射できない攻撃を仕掛ければ突破できるかと」
「反射できない....。言うのは簡単ですが、それは困難では」
敵軍に対して何かを仕掛ける、何かを攻撃するということは自分たちから敵に何かを放つ行為だ。それには方向と勢いが必ずと言っていいほど付随する。
「はい、敵に認識されればそれは対応されると思います。ただ、雨を認識したかまでは不明です。全部反射した可能性もあります。仮にそれを把握したうえでの対抗手段をしていたとしても、その感知は視認だと思います。...なら、視認されない攻撃を仕掛けます」
「...視認されない。それは可能ですか?」
「はい、俺と花菱中佐の能力があれば可能だと思います」
憂希はゆっくりとまっすぐな目線を向け、はっきりと言った。
「わかりました、その作戦で行きましょう。責任は私が」
「ありがとうございます」
花菱は感じた。憂希の能力である自然現象の掌握と、憂希の臨機応変さやその発想力はかなりのシンパシーがあることを。戦争に対して能動的ではないと振動から聞いていたが、仮に憂希が戦略を学び、戦争に対してより積極的かつ軍人的になった場合、本当に和日月が言う通り、危険因子になり得るのではないかと。
「では、始めます」
「わかりました。詳細を」
上空での作戦会議が始まった。この圧倒的不利から始まった戦いを勝利につなげるため。
ロシア側の連隊は、日本軍側から思わぬ奇襲を受け、混乱を極めていた。
「え~どうしよ、何にもやってこなくなっちゃったよ。じゃあこっちからやってもいいんじゃない?」
「...それで前回失敗したのでしょう。あなたは学びを知りなさい」
「だってなんもしないままなんてつまんないよっ」
洗練されたロングの茶髪をなびかせる女性に少女が噛みつくように話しかけている。
「ネスメヤナ少尉、どうされますか」
男の軍人が女性に問いかける。
「一度牽制を。地理的有利があるのは我々です。海上で足場を作ろうが、そこから何もできないのであればただの的。何をしてくるか様子を見ます」
「それじゃあ、やっていいんだよね!」
その判断に男の軍人が反応する前に、少女が身を乗り出すように反応した。
「えぇ、最低限の牽制です」
「わかったよ、わかったってっ。いや~何を使おうかなぁ」
少女はあたりを見渡し、ずらっと並ぶ兵器や武器を眺め、恍惚とした表情を浮かべている。
「よし決めた!K-300Pと3K60をメインに対岸を爆撃!Tu-160を複数発進して、無人機で索敵と敵軍の規模を確認しながら爆撃!爆撃祭りにしよう!寝かせる爆弾ほど、もったいないものはないよね!」
「ニコ、牽制という話だ」
「相手に能力者がいることはもう前提でしょ~?てかこっちが爆撃されてんだから爆撃でしょ!」
周辺でロシア軍の兵士たちがひそひそと会話している。これだからゴルべフは。なんであいつに兵器の使用指揮を。そんな文句が飛び交うが本人はつゆ知らず。
「よし、コントロールは任せて!」
そう言っても少女はそれらの戦闘機や兵器に搭乗することはない。その場から動こうともしない。
「それじゃあいくよ!全機発進!」
中にパイロットや操縦士のいない兵器がひとりでに発進する。まるでミニチュアがコントローラーで操作されているように日本軍に向けて迷いなく飛んでいく。
K-300Pと3K60は発射態勢に入り、照準を日本軍に合わせて次々と爆撃するミサイルを発射する。
「さぁ!パーティだね!」
ニコはまるでおもちゃで遊ぶ子供のようにそれらを扱う。
「構造理解と動作理解が兵器すら掌握するか」
ネスメヤナは横でいつも通りに感心する。幼くもその知識と流れるような動作、操作は才能と言える。戦争において重要となる軍事力。その要ともいえる兵器や武装を掌握する能力。それでも単純ではあるが、その種類や数を操作できるのはニコ自身の知識によるものが大きい。
「さて、どう出るでしょうか」
ネスメヤナは対岸を見つめる。表情を一切変えることなく、冷静を越えて冷徹さを感じさせる眼光は金属のような冷たさを感じさせる。
次々に発射される弾道ミサイルは空を切り裂くような発射煙を撒き散らしながら日本軍に向かっていく。
『敵軍より弾道ミサイルの発射を確認っ。続いて戦闘機と思われる飛翔体も発進っ。』
敵軍の動きを察知し、日本軍全体に緊張が走る。
「迎撃は私が対処する。こちらの迎撃を敵に利用される可能性がある」
和日月は日本軍側に迎撃態勢を取らせない。
「振動少佐、詳細の感知を」
「了解。……弾道ミサイル、数十一。着弾までおよそ三十秒。……偵察機、数三。はるか上空に敵機を捕捉。数ニ。おそらく爆撃機と思われます」
「承知した。……」
和日月はまるで居合の達人のように目を閉じ、集中する。刀を構えることはなく、その場に仁王立ちのまま堂々と立っている。
「斬」
ゆったりと静かに、それでいて力強く。一言だけ呟いた。
その瞬間、キンッと甲高い金属音のような音が緊張が張り詰めた空間に響き渡った。
しばらくして、地面や海上にいくつもの衝撃と爆発が雨の飛沫のように跳ね上がった。
「全部…切り落としたのか」
傀がその現実離れした能力に言葉が口を出る。
「…兵器武装の類であれば私が切り落とす。消耗戦であればこちらが優位だ」
数と位置を正確に把握すれば、切断対象は無制限。対象のすべてを無視して両断を押し付ける。
「え、嘘。全部一息に堕とされたんだけど」
その事実にニコは混乱する。迎撃されたならまだわかる。何かで対処されたにしてもバラバラならまだわかる。
「ネスメヤナっ、全機堕とされた!やばいやつがいる!」
「それで次の手は?」
「え、えっと…んー」
頭に手を添えてニコは考える。
「……あっ。大きいから堕とされたのかも!なら!」
ニコが手を自分の体を中心にぐるりと回すように周囲をかざす。かざしたところから次々と、歩兵武装が浮かび上がる。まるで宙に釣られてるようにふわふわと。
「放てっ!!」
AK-12を始めとするアサルトライフルから、RPG-7対戦車ライフル、手榴弾、AGS-30グレネードランチャーなどの様々な歩兵武装が一斉に射撃を始める。しかし、当然本来は対岸砲撃には到底対応できない代物だ。
「射程距離無視の威力最大っ。これならどうよ!!」
従来空気抵抗と重力で徐々に地面へ落下するはずの弾丸たちは等速直線運動のごとく、その速度と高さを維持して目標へ一直線に向かっていく。
「数測定不能の亜音速飛翔体がこちらに向かってきますっ。その速度、風切り音から弾丸などの射撃による遠距離攻撃と思われます。前回の戦闘にみられた弾丸や手榴弾操作の可能性あり」
「……」
数や正確な位置の把握が難しい敵の次弾は、初撃とは異なる複雑さを生み、一筋縄では対処させない。
「皆、その場にしばらく伏せよ」
『各員、姿勢を低くしろっ』
振動の伝令で日本軍皆がその場にしゃがみ込む。避難訓練のような光景は、戦場において不気味さを生んだ。
「風切り」
和日月がそう静かに言い放った瞬間、納刀の鍔鳴りのような金属音が響いた。その音が風に乗るように広がり、風自体が斬撃の切れ味を纏うように触れるものをすべて細切れにしていく。木々や波、大気でさえその風に両断され、向かってくる凶弾たちはそのまま姿を賽の目状に加工される。
「空切り」
またその言葉の後に鍔鳴りような音が響く。和日月の追撃は一太刀の斬撃を放つ。目に見えぬその斬撃は海を割り、大気を断ち、陸を両断する。速度とその切れ味は空気抵抗すら切り裂き、音速を越える。
「さあ、この一太刀どう受ける」
「え、全部堕とされた。嘘、やばいって。各弾倉三つは使ったのに。てかここにある武器全部使ったよね?千なんて余裕で越えてるよっ」
「何をされたか分析なさい。あなたの能力なら破壊された銃弾さえ把握できるでしょう」
「っ……、やばいバラバラにされてるっ。迎撃とか防御じゃないっ。完全に能力だっ。何されたかわかるように弾幕張るっ」
継続射撃を行い、そのまままるで歩兵部隊がいるかのような一斉射撃を放ち続ける。
「っ!?やばい!どんどん堕とされる場所が近づいてる!」
「何かが接近しているということですね」
「うん!でも何かはわからんないっ」
「いえ、まずはそれで十分です」
ロシア側から見れば弾丸ではない何かという不確定要素しかない状況。それでもネスメヤナは十分と言い切った。しかし、それは強がりでも嘘でもない。
「さて、反射が通用するかですね」
ネスメヤナの能力は反射ではない。反射のみであればグレード2にも満たないだろう。自ら何かを発しない状態の上書きでしかない。強力だが、それで国は滅びない。
反射された斬撃と切り裂く風が踵を返したように日本軍側に漏れなく方向転換する。迂回など何もなく、まるで鏡写しの虚像のように。
『和日月総司令っ。敵への攻撃が途中で方向転換し、こちらに跳ね返ってきます!』
周辺状況の感知要員として全能力を集中している振動はその異常にすぐ気付く。
「こちらから放つすべてが到達することなく反転するか」
跳ね返された斬撃すべての効果を切る。言葉遊びでも効果を得る切断はイメージの押し付け。切断の応用を極限まで広げ、弱点を消し去り、優位を作り出す。それこそがグレード1が展開する戦争。
「能力者を直接叩かなければ、何も解決しないか」
日本もロシアも、攻撃に対応されるままでシーソーゲームのような攻防では決着の決め手にはならない。
「こちら神崎っ。これよりロシアに奇襲を仕掛けます!」
『こちら振動っ。何をするつもりだっ。君は無理に動いては』
「敵は条件不明で反射してきますっ。敵に気づかれない攻撃をする必要がありますっ。俺と花菱中佐の能力ならやれますっ」
『……花菱中佐。勝算は』
「五分は越えています。このタイミングで仕掛ける効果はその勝算をさらに上げる効果があるかと」
『…和日月だ。花菱中佐がそこまで言うなら賭けよう。作戦の続行を許可する』
「了解っ」
二人は空中から落下しながら接近する。能力は使わないまま自然落下を利用した隠密行動。敵軍が集中しているところを的確に捉えるため、把握されないギリギリを狙う。
「花菱中佐っ、いきますっ」
「はい、いつでも」
「神崎っ、作戦開始しますっ」
「…何もしてこなくなった……?」
ロシア側も様子を見る。しかし相手の動きはない。その嵐の前の静かさに似た不気味さが緊張を生む。
「っ!?」
「うわぁ!?」
「ぐあぁあ!?」
突然地面が隆起し、ロシア軍を囲む壁を生み出す。その隆起の勢いで幾人かの兵士が吹き飛ばされる。
「どこから」
ネスメヤナは反応する間もない攻撃に違和感を覚える。明らかに自分達の位置を狙った攻撃。偵察機や能力使用は感知できていない。そしてこれまでと違う自然物を使った攻撃。爆撃や砲撃といった兵器の使用ではない。かと言って斬撃の能力でもない。全く別の能力。
「っ……」
周辺を見渡してもその当事者は見当たらない。急激な攻撃の変化は対策しないと痛手になる。
「……まさか」
はるか上空に目線を移す。肉眼でギリギリ捉えられるかという距離に点を見つける。空にあるはずのない影。
「……っ、人か。ニコ、上空にすぐに攻撃を」
「え!なに!撃てばいいのね!」
銃を象るように手を空に伸ばす。すぐに武装たちが地面に自立するように天へ銃口を向け、射撃を開始する。
「今です!」
「了解」
しかしその銃弾は大規模な爆破に巻き込まれ、大地から飛び立つことは許されなかった。ロシア軍を囲んだ壁と、踏みしめていた大地のすべてが破裂するように火炎と爆風を撒き散らす。火口のように噴煙と火炎を噴き上げ、再びロシア軍は火の海の中に沈んだ。
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