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自由戦争 -兵器と異能が戦火広げる世界大戦の果てに-  作者: 夜求 夜旻
第2章 世界大戦の引き金

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No.31 防戦からの方向転換

憂希は決定打を打った後でも次の手を考える。グレード1が複数人いるという推測が濃厚である以上、奇襲において複数の策を用意しなければすぐにリスクが逆転する。


「...」


憂希は爆発の周辺を氷結させ、いくつもの巨大な氷柱を形成する。


「っ...」


花菱はすかさずその氷柱に爆発を付与する。ただ、まだ起爆はしない。


「一度視界をクリアにします」


噴き出すような黒煙を風で拡散させ、地上の状況を確認する。


「っ...」


そこには爆破直前まではなかった建造物が形成されていた。


「なぜ、あの場にシェルターが」


爆破に使用した憂希の地面を隆起させた壁の内側に形成されたブラストウォールと、さらに内側に形成されたシェルター。爆炎の余波の中で顕然と佇んでいる。



「あっぶなかった~」


ニコの能力は何も攻撃する武器や兵装だけではない。軍事利用されるすべてがその対象となる以上、防御に特化した施設や兵装もその対象になる。


「よく反応し、対応しましたね。自分も少し反応が遅れました」


「いやぁブラストウォールとシェルターの同時展開っ。ロマンだよねぇ~」


「...敵の能力は爆破のようです。少々厄介ですね」


「めっちゃ上から接近されてたけど、飛行みたいな能力でやってきたのかな?」


「そこは今は重要ではありません。爆破をあの距離から発動できるということは、爆破対象を認識できていれば発動できると捉えていいでしょう。...距離を離す必要があります」


「とりあえず牽制するよ?エコーロケーションとサーモグラフィ起動。敵位置補足後、ライフル弾の弾倉を持ってきて」


シェルター内に配置された索敵機をフル活用し、上空の敵位置を確認する。


「おっけ...。めっちゃ上空にいるなぁ。ま、関係ないね!」


そのライフル弾を装填することなく、弾倉から直接発射される。フルオートのようなファイアレートで上空に向けて射撃される。


「さぁて、囲みますかっ」


そのライフル弾は隊列を成し、ただ直線的に進むのではなく、いくつかの集団で直線のほかに迂回する集団を作り、音もなく敵を囲むように接近する。


「ニコ、煙幕などでこのシェルターを隠せますか」


「え、どうして?」


「視認が条件で爆破できるとすれば、このシェルターすら起爆剤になります」


「うわっ、それやばいね。おっけ!」


ニコはすぐに煙幕を展開する。しかし銃弾とは違い、その煙までは操作できない。


「え...なんか全部風で流されるんだけどっ。そんな少ない量じゃないのに」


「...私がコントロールしましょう」


その流される煙を風ごと制御し、シェルターの周囲を囲みながら旋回するように保つ。


「ありがとっ。よし、いけ!ねぇっ、敵軍の本隊ってあの陸地から動けないよね?あそこにも牽制するよ?」


「何を放つ気ですか?」


「ナパーム弾とクラスター弾をかなり上空で起爆して、爆撃するっ。でもそのブラフに対岸ミサイルは継続投入したいっ」


「...いいでしょう。敵軍の総力を一気に削り、上空の先兵にも動揺を与えましょう」


「ならすぐに発射!!」


もはや重火器を使用せずに弾丸や砲弾を放つニコの能力はその能力自体が軍事力を体現するようだった。発射時の轟音や発光がないだけで、敵の予測はその弾丸や砲弾の感知でしか対応できない。


「いけっ!」


その煙幕すら利用した奇襲への反撃が狼煙のように天へ舞い上がった。



「っ...何か来ますっ」


大気に張り巡らせていた風の対流を切り裂いて接近する何かを察知し、憂希は警戒する。その数と四方八方へ散る挙動に明らかな思想が見える。


「周囲の大気に接触爆破を仕込みます。空気の対流を一定距離を空けて切ってください」


「了解です」


流れ、拡散と分散による爆発力の低下が、空気を対象とする爆破の弱点。しかし、それを完全に制御できる憂希の協力があれば、それは弱点にはならない。


「っ!?」


その数瞬あとに二人の周辺が次々に爆発し、連鎖反応のように爆発が広がる。

しかし、それでは捉えきれない銃弾がその迎撃網を抜けて接近してくる。


「っ」


咄嗟に氷結の壁でその銃弾を防ぎ切る。


「...」


憂希は自分で防御のパターンが固定されてきていることに危機感を覚えた。咄嗟にできることにそこまで応用を差し込めるほど余裕はないが、それでもその一辺倒に付け込まれれば防御を予測された攻撃で防御もろとも貫通される。


「ありがとうございます。武器の性能を無視した狙撃とは....かなり厄介ですね。本隊も振動少佐がいなければこの距離からの攻撃に反応することは難しいでしょう」


「...」


感知スキルの高い振動と、銃弾の速度をギリギリで感知できる憂希が別れたことは日本軍側の好手であったと言えるだろう。


「花菱中佐の能力は視認していれば爆発可能なんですか?」


「ええ。基本的に視認が必須です」


「爆発規模やその対象の大きさで消耗はかなり違いますか?」


「ひとつの対象に大規模な爆発を付与するのは消耗が激しいですが、複数の対象に小さい爆発を付与し、連鎖的に爆発を起こすのはそこまで」


「……」


憂希は考える。現状を打破するのは自分たちの役目だと考え、それを全うする策を探す。


「っ!?何だ!?」


煙の中から突如、いくつもの物体が弾け飛ぶように天へ向かって一直線に飛んでいく。憂希たちから距離が開いており、その正体は視認できない。


「っ……日本軍側に」


「大丈夫です。本隊には和日月総司令を始めとする我々の総力がいます。たかだか砲弾ごときに遅れを取りはしません。……神崎上等兵、次の策をお伝えします」


「はい」


花菱は憂希ばかりを頼ってはいられないと感じていた。腐っても隊長の任を受け、指揮系統をまとめてきた自分のこれまでの経験と、責任が許してはくれない。臨機応変かつ応用の幅の高い憂希には感銘を受けたが、そのままでは中佐の階級が廃れる。そう思うほどには花菱も軍人なのだった。



『上空で何かが起爆し、落下してきますっ』


振動の伝令で和日月は空を見る。その視認できる距離に落下物は見えない。


「っ……」


能力の過剰な行使は体力を削り、大規模な能力行使を不可能とする。その前提を深く理解する和日月だからこそ、自分の能力のみで凌ぎ切るのは困難と推測した。


「各隊、迎撃態勢。敵軍からの迫撃および爆撃を迎撃する」


「敵砲弾はまだ確認できておりませんが」


「急ぐな。今にわかる」


そう兵士に言うと和日月は一度目を閉じ、瞑想のように数瞬集中する。


「見切り」


そう静かに、力強く呟いた瞬間、目を見開く。


「……クラスター弾と…火炎…?」


和日月の視界には肉眼どころか振動もまだ感知しきれない落下物が千里眼のように見えている。対象の存在を認識しなければ使用できない上に、多用は禁物となる応用。しかし、その対象を確認し、理解するという万能感を感じさせる能力は、このタイミングにおいて好手と言えた。


「上空よりクラスター弾とナパーム弾などによる火炎を確認。各隊、迎撃せよ」


拡散されたクラスター弾とナパーム弾に対しての迎撃は非常に困難である。クラスター弾は拡散後の多数の小型爆弾は捉えにくく、それらすべてを撃ち落とす手段はないに等しい。

ナパーム弾は拡散後、ゼリー状の可燃物質が燃焼しながら落下する。砲弾ですらないそれは降り注ぐ雨のようにばらける。


「傀、上空への砲弾に凝固を付与しろ。矢場大佐の能力にもだ」


「了解っ」


「適当な岩石をありったけ射出するっ」


砲弾と合わせてその脆弱性を傀の能力で補いながら数と拡散力を出すため、岩石を上空に射出する。


「一斉に...撃てっ」


日本軍側の迎撃が一斉に放たれる。


「...っ!?」


しかし、すぐにその異常が目の前に広がる。放ったはずの砲弾たちが、綺麗な弧を描いて上昇から落下に切り替わっていく。


「何!?」


誰しもがあまりにも低い位置での砲弾の落下に目を疑う。まるでボールを空めがけて投げた放物線のように、目に見える高さで推進力が重力に負けたように落ちてくる。


「まさかっ」


頭によぎるのは敵軍にいると思われる武装を掌握する能力。敵味方関係なく武装や兵器であれば制御化にするという推測。

そしてその推測通り、たった今迎撃を放った装甲車の砲口が制御を奪われ、日本軍側に向けられる。


『装甲車の制御不能っ。発射態勢に入っておりますっ』


振動の能力を介さない通信が戦場を走る。その言葉の絶望が余波のように足元から染みてくる。


「仁野っ。砲門をすべて搗ち上げろっ」


「おっけっ!!」


仁野は一瞬ですべての装甲車の砲身を九十度向きを変えるように下から上へ叩く。

その瞬間、セレモニーのようにすべての砲弾が上空に向けて発射される。しかし、その砲弾は落下してくる砲弾に合流し、そのまま砲撃に移行する。


「うちがっ」


仁野はそのまま全力を込めた突きを上空に向けて放つ。その突きが生む衝撃波は爆発を越える破壊で天を穿つ。

全砲弾に加えて、ナパーム弾の可燃物質もすべて薙ぎ払い、霧散させる。


「もう兵器は使用できん。仁野、お前が迎撃を担えっ」


「おっけ!」


「っ……!?」


身構えた瞬間、周囲の兵士や拠点から銃や砲弾がひとりでにふわふわと浮かび始める。それらにまるで意志があるようにすら思う。


「やばい...」


純粋な恐怖と危機感が一瞬、皆の思考を支配する。目の前で広がる絶望に似た現象に、拒否反応を示すように。


「っ...」


それに一番最初に反応したのは仁野だった。最速かつ漏れなくすべてに対処できる唯一の存在とも言えた。

仁野が出せる最速で浮かび上がる銃や砲弾をすべて粉砕する。起爆や暴発すら許さない速度と徹底的な破壊で対処する。


「あっぶな....」


普通の人間にはすべてが同時に破壊されたかのように見えるその動作は衝撃と暴風を生み、周囲の兵士が必死にそれに抗うように立つ。


「くっ....接敵すらままならないというのに、一方的に武装までも失うか。各隊、撤退準備っ。ここでの待機は敵に引き金を引かれるっ」


日本軍側の現状はかなり厳しい。奇襲したが、敵の主力は削り切れず、敵の能力の範囲拡大により、自軍の兵装すら利用される。対抗手段は能力兵しかいないが、他国に比べてその層は厚くない。敵軍のグレード1における反射と推測する能力の詳細は未だ不確かな状態。対策すらまともに考えられていない。


次の一歩を憚るその時間を破壊するように、敵の陣地が開戦直後のような大爆発が発生する。対岸の日本軍にすら届くその爆発は再び噴火のような炎と黒煙を吐き出した。


「...憂希君」


仁野見つめる先には、自分の届かぬ場所で戦う憂希の姿がある。その歯がゆさと悔しさに仁野は唇を嚙んだ。



「はぁ...はぁ...」


乱れること自体が少ない花菱が息を荒げる。対象を敵のシェルターを隠すように取り巻いていた煙すべてとし、殻ごと中身を爆発させる強行手段。対象物が大規模かつ個を捉えきれない流体のため、これまでの能力行使が蓄積され、花菱の体力を蝕んだ。


「っ...」


しかし、その爆破は異常だった。火炎や黒煙の吹き上がる先があまりにまとまっており、一方向に交通整理をされているように上空へ向かって束になりながら噴き出しているようだった。


「いやまじで殺意やばいって日本っ。どんだけ爆破してくるんだよっ。ネスメヤナっ、見えなかったら大丈夫なんじゃなかったのっ!?」


「見えるものはすべて爆破できるということでしょう。強力な能力です。ですが、能力が爆発と理解できれば、私が対処可能ですので」


「やっぱすごいなぁ~、ベクトル?方向?の操作って」


ネスメヤナの能力は物体に存在するベクトルの掌握。あらゆる動作、行動、作動にはそのほとんどに方向性が存在し、何かが何かに向けて動く。意志の有り無しに関係なく、世界には何かしらの方向が存在している。すでに発生している方向を支配するだけでなく、停止するものに任意の方向を付与し、念動力のように動かすことすら可能。風も水も、火も爆発も、斬撃も衝撃も。こと戦闘において、攻撃防御双方にベクトルは付き物である。動かぬ城ですら自壊し、止まらぬ軍隊ですら退ける。


「あなたの能力こそ、戦闘においてはかなり有用だと思いますよ。指揮官クラスの戦術と戦況把握を身に着ければ、あなたは一人で一国の軍隊となれるのですから」


「別に軍隊とか戦争したいわけじゃないって言ってるじゃん。まぁ戦争しないと武器使えないから仕方ないけどさあ」


「無駄話もここまでです。...さて、爆発以外に一人、確実に飛行ではない能力者がいますね」


「ライフル弾防がれたとき、なんか急激な温度変化があったんだよなあ」


「...温度変化。先日対欧州戦でAZが破壊された際に確認された欧州軍の能力者と似ていますが....」


「でも温度変化はAZの特権でしょ?似てるにしても限度があるじゃん?...せっかくAZ使えるの楽しみにしてたのになあ」


「とりあえず、下に降りてきてもらいましょう」


ネスメヤナはまるで画面をスワイプするように、空で指を切る。


「ぐぅっ....!?」


気流に乗って浮かんでいた憂希たちの体が、腰に紐を括りつけられて引っ張られたように地面に引き寄せられる。


「っ....くそ」


風量を増やしてもその勢いは殺しきれない。


「っ」


地面に衝突する瞬間に爆風を放出し、飛行機のスラストリバーサーのように無理やり減速する。


「くそっ...!!」


憂希は発生した土煙に乗じて、花菱を抱えてその場から離脱する。憂希は敵の能力を推察しながら、消耗した花菱を避難させ、拳銃を預けた。


「出てきなよお~!サーモグラフィーで見え見えだって!速すぎて見えなかったけど~」


「...」


ネスメヤナは瓦礫の影に隠れた敵影を冷静に見つめる。


「っ」


憂希は自分に集中している意識を逆手に、上空から細かい氷塊を加速して弾丸のように撃ちだす。

しかし、それらはまとめて敵の一定範囲に入った瞬間に、憂希へと方向転換し、乱射してくる。


「無駄です。今、私たちに向けられるあらゆる攻撃をあなたに向くように制御しています。...あなたは詰みです」


外側から発生するあらゆる殺意を自らの能力で武器に換え、その切れ味をそのままに敵の喉元を掻っ切る攻防一体の能力。


「くっ....」


憂希はかつてない焦燥と危機感の中にいた。ここから打破する策を必死で考える。しかし、敵はそんな時間を与えてくれるほど優しくはなかった。


「ニコ、あの一帯をハチの巣にしてください」


「おっけ~!」


冷徹な砲身が静かに憂希たちへ向く。その銃声は躊躇などなく、敵を貫通するためだけに放たれる。



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