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アンリ・トゥールーズの独白

 

 その澄んだ心を滾らせろ


 僕がはじめて賢王から賜った言葉




 ひいお祖父様のお姉さんのこどものそのまたこどもが、僕のお父さん。本来なら次の次の次のそのまた次くらいの王様。


 だからかぼくはよくいじめられる。

 


 意地悪されていじめられて人を恨み

 いじめられて見ぬふりされて人を羨み

 見ぬふりされて避けられて人を妬み

 ひとりになって死にたくなって自分を呪う


 お腹の中が真っ黒なんだ

 記憶の中も真っ黒なんだ

 誰の名前も呼べないし

 誰にも名前を呼ばれない

 朝が来るのがイヤなんだ

 夜が来るのもこわいんだ


 贅沢なごはんはたっぷり用意されていて

 綺麗な衣裳はあつらえて作られて

 豪華な場所に住んでいる

 そして最高の先生に最上の教えを受け

 魔法の不思議を伝えられ

 世界の仕組みを知らされて


 けれども僕がほんとうに知りたいのは

 いつだって友だちの作り方だった



 はじめて会った王様はとにかくとても忙しそうで、僕のことなんて気づきもしないだろうって思っていたら


「おめぇさん、アンリだろ?なんだか姉貴にソックリだなぁ」


 田舎の漁師みたいなしゃべり方で、執務室に迷い込んだ僕を、同じ瞳の色で見つめて捕まえた。


「細っこいなぁ、飯食ってんのか?」


 この御方は、確かひいお祖母様の弟君だよね?この国で一番偉くて大切な人…


「なんだよ、びびってんのか?」

「おそれ多くもお忙しい陛下にあらせまして、直答賜るわけには」

「げ、なんだよ⁈ちびっこだろ〜。そんなんこっちがびびるわ」

「あの、お忙しいのでは?」

「ライラの曾孫なら、オレの曾孫も同然よ、ひいじーちゃんと話してみたくねぇか?」


 これ以上楽しい事は無いというようにニヤリと笑う王様に、僕の心がぽわりと暖かくなってびっくりして動けなくなる。


「可愛い曾孫と話しするより、大事な仕事なんてねーよ」


 そう言ってその場にいた側近たちを部屋から追い出すと、僕の体を軽々抱え問答無用で自分の膝の上に乗っけた。


「なまっちょろい顔しやがって、おまえさん、なんかから逃げて来たんだろう」


 怖るべき慧眼、賢王の称号は伊達ではない。

 僕をいつも1番いじめるヴィンセント・ウィレムから逃げてここに迷い込んだのです。

 彼はこの国の宰相の遅く出来た初孫らしく、溺愛されワガママ放題らしい。最初はすごく優しかったのにある時からなぜか急に辛くあたり出し、その原因にまったく思うところもなく、理由がわからなければ謝ることも叶わずに困り果てているのです。

 良い機会なので賢王のお知恵を拝借してみようと、僕は自分を取り巻く状況をかいつまんで説明してみました。


「ふーむ、バティストの孫か、何と無く理由は判るんだがこの推測をアンリに言うのもなぁ」

「さすがです、推測でも構いません、もう耐え切れないのです」

「いや、推測が外れてもっと拗れたらよけいに悲惨だろ?相手のこと考えられるなら、直接聞かなきゃならんと思うぜ」

「それはそうなのですが…」


 もう二度と会いたくない、ここ最近はずっと逃げ回っているのです。そんな勇気はどこを探しても見当たりません。黙って下を向き細かく震え出した僕の肩を、宥める為にぎゅーっと抱きしめて、


「あー、ごめんな。どれだけ辛いのかなんて本人しかわかんねぇもんな」


 僕が落ち着くまで、背中を優しく撫でて下さいました。


「けどな、すれ違いってほんとに悲しいぞ、これはオレの経験談なんだがひとつ参考として聴いてくれないか?」


 そして彼の、最初で最後の恋物語をゆっくりお話しして下さったのです。













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