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閑話休題 改め最終話「オレとボクの物語」



 2015年10月15日から更新せずに放置状態となっており、誠に申し訳御座いませんでした。

 このまま更新せずに放置するのも忍びないので、完結済みとさせて頂きます。

 ブックマークをして更新を待つ続けて頂いた読者様には重ねてお詫び申し上げます。           2016年2月24日


元の前書き

【元々第7夜の予定で書いていたエピソードですが、ストーリーに絡まないので、閑話休題として公開します。

 どうして主人公が“ボク”と言うのか?が明らかになります。

20151015公開】

 オレは目の前の女子社員を睨む様に見ていた。

 短い髪の毛は染色の欠片も無い黒髪だ。

 整った顔だが、髪型の印象も手伝ってボーイッシュという感じを受ける。

 入社7年目で昇進をしていないという事は、“出来るヤツ”ではないのだろう。

 今の店の状況を変え得る戦力にはなりそうに無かった。

 

 たいていの従業員は、オレの視線にさらされると10秒ももたずに目を伏せる。

 だが、コイツは平然とオレと目を合わせていた。


「本日付けで配属になりました衣笠五月きぬがささつきです。ご指導ご鞭撻、よろしくお願いします」


 そう言って綺麗に頭を下げた。

 その動作には媚びる気配は無い。

 そして一拍置いて、コイツは優雅に頭を上げた。

 オレはちょっとだけ評価を上げた。

 これだけで目の前の転勤して来た女子社員が只者では無いと分かる。

 綺麗に頭を下げて優雅に頭を上げるという事は、きちんと速度をコントロール出来ている証拠だ。

 新人や、心に余裕の無いヤツは両方ともに同じ速度になったり、溜めも作れずに慌てて頭を上げたりする。その所作にもぎこちなさが出る。

 基本通りにゆっくりと頭を上げるのは、特にオレの前でするには難易度が高い。


「オレが店長の中島知平なかじまともひらだ。この店に来たからには、オレの流儀に従って貰う」

「中島店長の武勇伝は色々と聞いています。このお店に配属されると聞いた時にはガッツポーズしたくらいです」


 そう言い放つ衣笠の表情にびも、へつらいも無かった。

 有るのは、純粋にこの配属を楽しもうという表情だけだった。


「担当コーナーは前の店と同じでいいんだな?」

「別にどこのコーナーでも構いませんが、すぐに成績を上げるのなら慣れたコーナーの方が確実です」


 ここまで自信を持って部下に言い切られた事は初めての経験だった。


「余程自信が有る様だな。よし、今月から早速、前年比120%を期待する。期待に応えろよ」

「分かりました。店長の期待には、ボクの全力で何とかします」


 驚くほど自然な笑顔で衣笠は答えた。

 後で思い返すと不思議だったが、女子社員である衣笠が発したボクという言葉が余りにも自然だったので、違和感を感じずに答えていた。


「ああ、期待しているぞ」


 衣笠は有言実行だった。

 その月、途中から配属されたにも拘らず、彼女の担当コーナーは前年比で135%という成績を残した。

 店の実績がなんとか前年キープに留まった事と、彼女が担当したコーナーが既存店ベースで93%だった事を考えると異常な数字だった。

 現在、オレの店は停滞期に入っていた。

 オレが会社初の20代の店長として赴任してからの1年間は全店トップの予算達成率だったが、更に期待された2年目は全く伸びなくなった。

 勿論、原因は分かっている。ライバル店が安売りで必死の抵抗をしているが、本当の理由は店内に有った。

 情けない事に、店員が満足してしまったのだ。

 オレにしごかれ、尻を叩かれ(勿論実際にそんな事はしない。パワハラ・セクハラに繋がる事は細心の注意を払って行っていない)、実績を出した事で燃え尽きてしまったのだ。

 売り上げが上がれば、その分だけ忙しくなる。店員1人当たりの平均売上額が全店でトップになったにも関わらず、会社は追加の店員を補充をしなかった。その様な状況下、店員は全店でトップの生産性を維持するだけで満足してしまっていた。

 そんな中、新婚の女子社員が産休に突入し、補充としてやって来た衣笠が実績を出した。 

 

 2カ月後、本部から社員の人事考課の依頼が来た。

 半年に1度の定例の査定なのだが、ここ1年間は昇進させようと思える社員は皆無だった。

 オレの期待に応えられる社員が居ないのだから当然だった。

 だが、今回は違う。

 衣笠が担当するコーナーだけは相変わらず既存店の実績から考えると驚異的な実績を叩き出していた。

 人事部から回って来た考課表を見た限り、どうして彼女が未だに平社員なのか理解に苦しむ。

 明らかに2年以上は担当コーナーと個人の売上予算を達成していた。

 オレは、ヤツを主任に推薦する考課を下した。


 8か月後、再び人事考課の季節がやって来た。

 衣笠は今では、オレの店には欠かせないポジションを築いていた。

 女性ならではの視点に立った売り場の改善に、朝礼を使った商品勉強会の定例化、レジを含む業務の効率化、更にはパートやアルバイトの相談に乗ったりと、チーフを超えた仕事をこなしていた。

 おれは迷わずに、ヤツを部門長に推薦した。

 普通、部門長には2年以上の実績が必要となるのだが、オレは強引に無理押しして、ヤツの昇進を認めさせた。


 15カ月後、衣笠の異動辞令が出た。

 ヤツが来てから、オレの店は再び上昇気流に乗っていただけに痛い人事だった。

 その頃のオレの店に異動する事は、一種の出世コースと見做される程になっていた。

 野心的な社員からは“中島道場”と呼ばれる程、全店の注目を浴びていた。

 だが、社長自ら介入した人事には逆らえなかった。

 人事部の同期のリークによると、どうやら我が社初の女性の店長にするレールが引かれたそうだった。

 そして、衣笠の送別会は異常なほどの人数が参加した。

 なにせ、辞めたパートがわざわざ参加した程だったのだから・・・・・ 

 

「てんちょー、てんちょーは、ジブンにもキビシイですけど、もーすこし、タニンにヤサしくしたほーがいいですよぉ」


 目の前でくだを巻いている衣笠の言葉に、周囲が異常に盛り上がっていた。


「大丈夫か、衣笠? もう、これ以上、飲むのは止めた方がいいぞ? 漢字が1つも入っていないぞ?」


 オレの言葉はあっさりと流された。


「ボクこと、きぬがささつき、てんちょーのしたでハタラけて、しあわせえデシタ。また、ゼッタイ! ゼッタイに、もどってきます!」


 周囲では何故か拍手が湧き起っていた。


「で、ですね! きぬがさは、てんちょーにいいたい! これからは、ジブンのことをボクっていうコトを!」


 おい、どうして、みんな盛り上がっているんだ?

 結局、根負けしたオレは衣笠に約束してしまった。

 約束したからには、オレ・・・ ボクは必ずそれを守る。 守れる筈だ・・・

 結局、慣れるのに半年以上掛かった。

 


 21カ月後、衣笠は副店長として戻って来た。

 

 24カ月後、衣笠は古くて小さい店舗の店長として栄転して行った。

 そして、オレは・・・

 いや、ボクは衣笠にプロポーズをした。


 36カ月後、お互いに忙しい身だったが、無事に結婚式を挙げた。

 結婚して分かったが、五月は重度のオタクだった。

 ボクにも布教して来る。

 おかげでやたらとアニメに詳しくなったし、気が付けば嵌まっていた。

 店では、最近の店長は仕事面では相変わらず厳しいが、結婚してから雰囲気が柔らかくなったと言われている。

 自分自身ではよく分からないが、多分、五月の影響なのだろう。





 60カ月後、五月は若い頃に患った病気が再発し、他界した。



 



 彼女の最後の言葉は・・・・・



「てんちょー、ごめんね・・・・・ そして・・・・・ ありがとう・・・・  子供を産めないボクと結婚してくれて・・・・・                             ボクにオンナの幸せをくれて・・・・・  ありが・・・・・・・」




 ボクは、一度、壊れた。

 何もする気が起きなくて、会社も辞めた。

 五月の居ない自宅で、彼女の遺品を整理している時に、その手紙を発見しなければ、再び働く事は無かっただろう。



 もしかすれば、五月は自分の運命を覚悟していたのだろう。

 病気の再発が発見された日よりも前に書かれた手紙には、謝罪と感謝とボクへの思いやりが込められていた。

 そして、彼女の手紙は最後に、ボクが働く姿を見るのが大好きだったと結ばれていた。



 ボクはその思いに答える為に、再び働き始めた・・・・・・・

 

  

 

 

  

ご迷惑をお掛けし、誠に申し訳御座いませんでした。



元の後書き

【如何でしたでしょうか?

 五月ちゃん・・・・・

 安らかに・・・・】

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