閑話2 召集
「祐次さん、身体、大丈夫なんですか?」
心配そうに顔をしかめる嘉穂に祐次は呆れたような表情を向けた。
「香穂ほどじゃないよ」
あの事件で最も痛めつけられた嘉穂は未だ病院のベッドの上だ。本来祐次達も入院していなければならないのだが、今は悠長にしていられる時ではない。あの「九我俊輔」が姿を消したとの連絡を受けたのは今日の朝早くだった。その連絡がなければ祐次もまた病院のベッドに縛り付けられているところだったのだから、喜んでいいのかもしれない。……いなくなったのがよりによってあの兄というのがとてつもなく嫌な予感しかしないが。今日退院していったという宮乃原姉妹には監視の目がつくはずだったが、こちらの準備が整う前に姿を消してしまったらしい。その捜索も兼ねて未だ回復しきっていない精霊使いも駆り出されている。絶賛人手不足中なのだ。
「2人ひと組で捜索にあたりましょう」
双子の捜索にはあの日幽閉されていた7人が充てられた。今動いている中で最も体力を使わなくてすむからという一条夏樹の気遣いらしい。あの人は本当に身内に甘い。ぎりぎりまで消費しても誰も文句を言わないだろうに。
「ああ。じゃあ……」
頷いた祐次の表情が凍りつく。自分の中から意図せず力が溢れてくる。それほど強い力ではないが、何かを訴えかけるような、切羽詰まった力だ。
「煉」
水の霞がひとところに集まり、男の姿を取る。自分と似たような姿形で、今にも消えてしまいそうな霞の姿を見るのは久しぶりだった。彼の存在を傍に感じることは多々あるが、その存在が目の前に形となって形成されることはほとんどない。それが未だかつてないほどはっきりと形作っていた。
「祐次さん?」
不思議そうに首をかしげる徹ではなく目の前で揺らめく煉の姿を見る。
《……力を、貸して下さい。……あの方の、王の意向です》
頭に直接響く声と映像に祐次は軽く息を呑んだ。
「ウンディーネ……の?」
「祐次さん?」
「悪い。ウンディーネが呼んでいるらしい」
告げた言葉に同時に頷く姿があった。萩尾晶。たしか、祐次と同じように水の精霊と契約をしていると言っていた気がする。
「祐次さん、行こう」
「ああ」
晶の手を取り力を込める。移動しようとする二人を止める声はない。この状態でウンディーネからの呼びだし。明らかに尋常ではない事態を物語っている。
2人だから、というには余りに強すぎる力で飛ばされる。まるでウンディーネが力を貸してくれたみたいだ。それゆえに、よけいにとんでもない事態が待っているような気がして怖かった。
トンっと降り立ったのは予想通りの部屋。ただの一度も足を踏み入れたことのない、一条夏樹の住む部屋。その中で胸にナイフが刺さった状態で倒れている美冬の姿に息を呑んだ。
状態を理解する間もなく美冬を囲む輪の中に連れてこられた。ここにいる全員が水の精霊使いなのはすぐにわかった。そして、なぜ呼ばれたのかも。
宮乃原美冬を生かすために、治癒の力に長けている水の精霊使いが招集されたのだろう。
理解すればもう、考える必要はない。祐次も晶もすぐに輪に加わり力を込める。神家の戦いに巻き込まれ、死にかけているこの少女を殺してはいけない。何があっても助けなければならない。
今まで一度も使ったことがないほど強い力が輪の中央に向かって流れていく。目を焼くほどの光が部屋の中を満たした。




