記憶喪失のあいつ
はっきり言って、私の彼はどうしようもないダメ男だ。
それに気づいたのは、私たちが付き合いだした頃だった。大学で知り合った彼は、初対面の私にいきなりこう言ってきた。
「は、はじめまして! 鷽貝茄子(うそがいなすび)です! ……唐突ですが、付き合って下さい!!」
本当に唐突だ。私が予想外の告白に何も言えないでいると、友達の夕ちゃんが助け舟を出してくれた。
「ちょっと、浅海(あさみ)引いちゃってるでしょ。この馬鹿茄子!」
この一言で周りが笑い出したお陰で、鷽貝の告白は笑い話として片付けられた。私も単なる冗談だと思って一緒に笑っていた。真面目そうに見えるからなのか、からかわれることはしょっちゅうあったし、鷽貝が真面目にこんなこと言ってるわけがないと思っていた。
すると数日経って、また鷽貝が告白してきたのだ。そう何度も来られても困るから、今度ははっきりと言うことにした。
「ごめん。気持ちは嬉しいけれど、私いまのところ彼氏作るつもりないんだよね。それに私、鷽貝くんのこと何も知らないしさ」
彼は少し悲しそうな顔をしたけれど、意外なことを言ってきた。
「じゃ、じゃあ、一緒に住もう! そしたらお互いのことがもっとわかるし!」
「いや、順番おかしいから。普通付き合ってからすることだし、それ」
しかしそれ以来、何度も何度もしつこく言ってくるので、仕方なく付き合うことにした。これ以上来られて、友人に冷やかされるのにはうんざりしていたから。
彼がおかしいことに気づいたのはそれからだった。
ある日、風邪をひいたという彼の見舞いに行くと、彼は嬉しそうに玄関に出迎えに来た。健康そのものという様子で。
「元気そうだね。風邪はもう治ったのか」
私がそう言って帰ろうとすると、急に咳き込んで
「ごほっ……ね、熱出てきたかも…………」
と言って ベットに倒れこんだのだ。一応持ってきた食材でお粥を作ると、美味しいと言いながら完食した。しかし私が「じゃあこれ飲んで寝ててね」と言って薬を出した瞬間、
「あ、もう治ったかも。看病のお礼に今度どこかに連れて行くよ。あと、少しゆっくりしていかない?」
と言ってゲームを取り出してきた。その瞬間に仮病だったことを悟った。
つまり、彼は周りの目が自分に向いてないと気がすまない、『かまってちゃん』ならぬ『かまってくん』だったのだ。
それ以来、鷽貝は嘘や仮病を日常的に使い、あらゆる手で私の目を自分に引きとめようとした。しかしそれに反して、嘘をつかれるのが嫌いだった私は、鷽貝と距離を置くようになった。多分彼も気づいていたのだろう。徐々に嘘がエスカレートしていった、そんな時だった。
ある日、私の家に来た鷽貝は、真剣な顔をして言った。
「浅海、俺……記憶喪失になったみたいなんだ……」
「ダウト」
「嘘じゃない! ……信じられないよな。急にこんなこと言われても。俺だって信じられないんだ。でも、朝起きたら何も覚えてなくて……もう……お前しか頼れなくて…………」
「そう。それでも、私の名前だけは覚えていたのね」
「それは……け、携帯に名前があったから……」
「じゃあどうやって私の家にたどり着いたの?」
「それは…………」
「それは?」
鷽貝は少しの間口を閉じていると、小さな声で言った。
「……勘?」
半分疑問形で答えるなよ……。
そう呆れる私に鷽貝は更に自分は記憶喪失だと主張し続け、最後にこう言った。
「そういうわけで、浅海の家に住まわせてくれないか?」
「いやいやいや、どういうわけよ」
流石に同棲するのはどうかと思い、鷽貝には家に帰るようにと言った。鷽貝は渋々帰ったものの、「また来るから」という台詞を残していった。
こうして、鷽貝との奇妙な生活が始まったのだった。
初投稿!(^-^)
因みに作者は恋愛未経験者です。
だからこの小説に関しては「こんな男いないわ!」と突っ込みながら楽しんでいただければと思っています。




