ファイッ! (プロローグ)
何と無く……なんとな~く始めてみました。
別に意味は無いんです……はい。
最初に言っとくが俺は金持ちじゃない。
つーか寧ろ貧乏なのでどこかの漫画みたいに……。
『〇〇……アレを』
『はっ、畏まりましたお嬢様』
みたいな金持ち風景なんざ見せられない。
そこを踏まえた上で見て(?)貰いたい。
start up
俺の朝は別に早くも無ければ遅くも無い……んにゃ、寧ろちょいと遅いのかもしれない。
「零様……朝でございます」
「あ~? …………あ、うん」
同居人のある人に起こされる事から俺の朝は始まる。
あ、俺の名前は霧生零……え? どっかで聞いた事があるだと? ……。多分気のせいだよ、こんな中学二年生が6月辺りに急に電波的なのが入っちゃった奴が考えそうな名前なんて正直珍しい方だしね。
……まぁ命名したのは親だけどサ。
「お着替えです」
「ん……」
一体誰に対して言い訳じみた説明をしてるのか自分でも分からなくなって来た所て、無茶苦茶綺麗にアイロンやら何やらをされている制服を持った同居人にその制服を渡される。
「あ、自分で着替えるのが面倒なら私が着替えさせましょうか?」
「朝からんなサービスいらねぇよ。さっさと部屋から出てけ」
「……は」
ニマニマしながら言ってくる同居人に少し乱暴気味な言い方をして部屋から出て行かせた後、渡された制服に着替える。
「よし」
着替えもちゃちゃっと済ました俺は、あの同居人が飯を用意してくれたんなら先に顔とか洗っておこうかしらという考えが先に出た為、洗面台で顔を洗いつつ髪をセットする。
「う~む、今日もそれなりにイケてるね、俺」
うむうむ、自分で言うのもアレだが俺の容姿はそこら辺の男よりかは上だと思うんだよね~! 蒸発しちまった親に唯一感謝出来る事だよ。
「あの……」
「うっ!?」
てな感じでナルシーになってた俺の後ろから同居人が登場。
表情を余り変化させないのがコイツの特徴なのだが、この時ばかりは心なしかヒキ気味なツラをしてた気がした。
「早く朝食を召し上がらないと時間が……と思ってたのですが、どうやら忙しいみたいなので後にします」
「ちょっと待て! ……どっから見てた?」
「顔を洗って鏡を見ながらニヤつい――」
「全部かよっ!」
いや別に見られてもちょっぴり恥ずかしい思いをするだけだから良いんだけれども、コイツがニヤつきながら言ってくるのがムカつく。
「……」
「……ククッ!」
「おい……」
「は、何でしょうか?」
それに、コイツに変な所を見せてしまうと飯を食ってる間もずっと笑われてしまうのだ。
ぶっちゃけさっきのアレは自分でも“無い”と思っているだけに、コイツが一々思い出し笑いをしてくれるだけで自分のハートを穴空けドリルみたいなもんでこじ開けられる心境だ。
「もう……忘れてくんないかな? テメェが笑う度に俺のハートがズタズタにされちまうんだが……」
「は、それは失礼しました。以後気をつけます……ククッ!」
「気をつける気がねぇだろ?」
気をつけるとか言っときながらも横向いて吹いてるコイツに、もう良いや……という気分になる。全くもってブルーな気持ちになる朝食だった。
☆★
朝食を済ませた俺は、今日これからある一日を思い出す。
両親が居ない俺は、一般的な暮らしが微妙に難しい、というのも叔父やら叔母が断ってるのに援助をしてくれてるからだ。余り他人から借りを作りたく無いから最初は断り続けてたんだが、妙にハイテンションなあの叔父夫婦に押し切られ、今では援助を受ける事に甘んじてしまっている。
だが、援助を受けるだけなのはいくら何でも図々しいと思うので、一応叔父夫婦が経営しているカフェの手伝い……というより給料無しのバイトをしている。
「学校が終わったら今日はそのままバイト行くから」
今日の予定は学校とバイトのみ!
そう同居人に伝えると、何故か不思議そうな表情になる同居人はそのまま俺に質問をする。
「私は行かなくても?」
どうやら自分もバイトだと思っていたらしいが。
「……。お前は学校終わったらそのまま帰って飯作って待ってろ」
「何故でしょうか? 私としましては主を働かせておいて自分は家にいる……というのは駄目な様な気がするのですが……」
「主じゃねぇよ。同居人だろ? 大体、主だったらもっとだだっ広い豪邸にお前みたいなのを後20人位雇ってる奴の事を言うんだよ」
「む、まだそのような事を……」
「いやいやいや、何故睨むよ? まぁ確かにお前にゃ飯作って貰ったり部屋の掃除をして貰っちゃってる俺が言う資格は無いのかも知れないケドさ? お前って俺と同い年だろ? 同居してぶっちゃけ一年位経つけど、未だにお前が俺に対して敬語なのに慣れない訳なんだよね」
「……」
「まぁ誰にでも対して敬語使ってるみたいだからそうするように育って来たんだろうからもう言わないけど、俺を……ええっと、なんつーか“ご主人様”扱いするのは止めてくれ……正直背中が痒くなるからさ」
黙って聞く元・メイドさんに散々した説明を再びする。
この女……一年程前のある大雨の中出会い、ちょっと色々あって助けてやった果てに一緒に住む事になったんだが、生粋の仕え体質なのだろうか、俺をどこぞの金持ちみたいにご主人様呼ばわりしてくるんだ。
だが、俺からしたらそんな甲斐性も無い餓鬼の一人なので、ご主人様呼ばわりされるのには抵抗がある……助けたのも運と気まぐれな訳だしな。
「ですが私は――痛っ!?」
「本当に強情だなオメーは?」
これだけ言っても曲がらない目の前の餓鬼の額を軽く小突いてやる。
「……」
「な、何を……」
いきなり額を小突かれた目の前の元・メイドが軽く驚くが、それを気にせずそのまま口を開く。
「俺にそんな趣味はねぇんだよ、そんなに誰かを上に置きたいんなら、俺以外の奴の所にでも行きな。世の中そういう“趣味”が好きな奴がゴロゴロいるんだしよ」
コイツとは対等でいたいのが俺の本音……だから最低限の事は自分でやっている。
『私の立場がありません』とか言われるが、コイツと俺が立派に独り立ちするまでは、あくまでもお互いに利用し合う……いや助け合う関係でいたいのだ。
「嫌です。私が仕えるのは零様……貴方様だけです。貴方に『死ね』と言われるまで……貴方の身勝手で『殺される』まで貴方に仕えるのが私の生きがいなのですから」
だが、俺の考えているのとは裏腹にコイツはあくまでも俺に仕え切りたいらしい。
曰く俺は『初めて自分の意思で人に使えてみたい』と思った人間らしいのだ。
正直、何をしたからそこまでの考えに至ったのか俺には全く身に覚えが無い、それだけにコイツがこう考えているのはちょっとだけ怖かったりする。
「……。チッ、この話はまた今度だ。とにかく、今日お前はバイトに出ないで飯作って待ってろ。“命令”と言ったら聞くか?」
「……。は、零様がそうおっしゃるのなら……」
「よし。長々と喋ってたから時間が結構押してるしな……行くぞ零!」
「……はい!」
話を一旦止めにして、俺達は学校に向かう事にした……長くなったら遅刻しちゃうし。
これは、ちょっと運が良い少年 霧生 零と、半分“ヤンデレ”に片足突っ込み掛けてる位に零に仕える事に固執しまくる少女 霧島 零……限り無く名前が似ている他人同士が送る無茶苦茶な話である。
「あ、そういや叔父さんと叔母さんがお前連れてけって煩かったのを思い出しちゃったんだが……」
「それならやはり今日は私も行った方が良いのでは?」
「…………。だな、あの二人は子供が居ないからお前が娘か何かに見えてしょうがないんだろうしな……悪いがそうしてくれるか?」
「畏まりました。フフ、相変わらず零様はあのお二人に頭が上がらないようで?」
「ああ、俺はともかくお前の生活費まで出してくれてる相手だからな、あの二人に足を向けて寝れんよ……」
続いたら……良いなぁ。