翼のない悪魔
この世界には人間、悪魔、天使など様々な種族が存在している。特に恐ろしいのは悪魔だ。人間の心に漬け込み、喰らう。そんな悪魔に対抗すべく人間は魔術を編み出した。そして人間達は18歳になるまで学園で魔術を習うことになる。そんな中、僕は魔術をまともに扱えない凡人だった。
殴打の音が響き渡る。僕はいじめられていた。どうしてこんな事になってしまったのか、それは僕が落ちこぼれの凡人だからだ。昔は魔術は人を守るものだったが、今ではそれが階級となった。僕からしたら人間の方がよっぽど悪魔だ。
「なぁ、雪よ。お前もう消えろよ。」
いじめっ子の一人がそう呟く。彼は僕の事を目障りに思っているのだ。何故ならば…
「何やってんの!」
彼女は凛城楓。僕の幼馴染だ。そして、魔術の天才。16歳にて準3級魔術師の称号を持つ。そんなエリートが僕のような凡人に構っているのだ。そりゃあ嫉妬もする。
「あんた達…次雪に手を出したら容赦しないわよ。」
楓は威圧しながらそう言った。正直僕は甘えていた。いつでも、どんな状況でも彼女が助けてくれると思っていたからだ。僕はその甘い考えに気づきすらしなかった。幼少期の時から楓を頼っていたから。
「大丈夫?雪…」
彼女は優しく手を差し伸べ、慈愛に満ちた表情を見せてくる。あまりにも眩しい笑顔だった。
「ありがとう。楓。」
僕は楓の手を取った。楓は僕をおぶり、部屋に連れて行ってくれた。本当に有難い、まるで女神のような女性だった。
「くそ…なんで、凛城は…あいつなんかに…」
───カワイソウニ
「そうだよ。俺は可哀想だよ。」
───テツダッテアゲヨウカ?
「手伝う?それはいいな、なら雪を殺してくれ。」
───ワカッタ。契約成立だ。
私は雪の部屋で寝ていた。すると、窓が開かれるような音が鳴る。その音と同時に飛び上がった。
「誰かいるの…?」
辺りを見渡しても誰もいない。しかし、気配がある。圧倒的な悪の気配が漂っている。
いつ襲ってくるのか分からなかった。正直恐怖を感じていた。そして、部屋の隅で何かが動いた。私はそれを正確に打ち抜いた。
「なん…で…」
その生き物は、私を掴んでいた。そして、何かを突き破った。
僕は目を覚ます。その瞬間異変に気づいた。部屋が荒らされ、楓が倒れていた。そして、僕はひどい頭痛に襲われる。
「アァ、ナンテコトダ。」
この感覚、授業で習った。悪魔同士の共鳴。しかし、僕は人間だ。ならなぜ共鳴しているのか分からなかった。
体が熱い。血液の流れ、細胞の働き、心臓の鼓動、体のすべての事象を感じ取っていた。
「モウシワケアリマセン。アナタノタイセツナヒトヲ。」
殺意が湧いてくる。人を喰らいたいと思い始める。まるで悪魔のような衝動が湧き始める。目の前にいた怪物に手を伸ばし、力を吸い取る。気分が良くなった。力がみなぎる。先程までの傷がすべて治っていた。
「楓…」
楓は気絶しているだけだった。下半身から血が出ているが、医療塔なら全てを治せるだろう。そう思い、僕は楓を抱き抱え、医療塔へ向かう。
僕が医療塔へ向かっていると、背後から魔術を放たれる。魔術を放った張本人は、いじめっ子の1人だった。
「正気を失っている…?」
まともな人間の顔では無かった。これはもう確定していい。悪魔がこの学園にいる。この男は何かに当てられた。だからおかしくなった。
「だが、丁度いい。」
今は気分がいい。力が溢れてくる。この力を存分に試したい。まるでこれだと僕が悪魔のようだ。
殺気を感じ取ったのか、いじめっ子は自身の持つ最大限の魔術を放った。確かこいつは準6級魔術師だ。例え最弱の階級でも当たれば即死。だが、なぜか遅く感じる。まるでスローモーションだ。
「弱いねぇー。あんなにイキっていた男が、こんな雑魚だったとはなぁぁぁア。」
僕はいじめっ子の足を蹴飛ばし、転倒させる。そして犬の糞を見るように見下した。
「あぁ、でも殺したら投獄されるなぁ。じゃあ辞めとくか。」
こいつの相手をするより優先するのは楓の治療という事を忘れていた。楓に何かあったら僕は生きていけない。だから僕は全力で走る事にした。




