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男の娘が美醜貞操逆転のあべこべファンタジー世界から脱却しようと足掻く話 ~それでもスカート履くのを止められない~  作者: シエスタさん


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9話 宿屋に泊まろう

 纏まったお金を手にする事が出来た。自堕落に過ごすには全く足りないが、冒険の初期資金としては過不足ないだろう。

 後の話は簡単だ。まず裏通りの冒険者ギルドへトンボ帰り。


 受付のおじさんに頼み素早く三人の冒険者としての登録を済ませてもらう。


「ほいじゃ、アウリィ・クロム。リルラリルリリ、リルラリラルル。お前ら計三名の冒険者登録、並びにパーティー登録はこれで受理だ」


 フルネーム、そんな名前だったのか。

 横目で二人を見ると、「人間の名前の方がリリ達からしたらヘンテコなんだからねっ」と釘を刺されてしまった。

 

「それにしても生まれたこのかた初めてだな。男と亜人がパーティーを組む光景を見るなんてな。ま、同性のよしみで応援してやる。頑張れよ」


 ねぎらいの言葉を背にその後は装備の確保。

 残念ながら自分に握れるまともな武器は無さそうだった。

 どうしても簡素なメイスですらまともに振れないのだ。

 情けなさを痛感しつつ、調理用のナイフを苦し紛れに新調し、ディアンドルの内側にインナープロテクターを仕込むだけに終わった。

 ちなみにこれだけでもかなり重い……。

 

 辞退しようとする二人には適切な装備を買い与えた。

 これ以上お財布に負担は掛けられないよ!と固辞する二人に、僕を守って欲しいと説得を試みる羽目になった。

 こんな小さな子たちを矢面に立たせようと三文芝居を打つのには自尊心が削られる思いだったが……。


 それなら!と本気で装備選びを始めた辺り、対応としては正解だったらしい。

 最終的にリリはワンドといかにもな魔導士服、でもなぜかミニスカ。

 ルルは魔闘技というスキルを活かす為だと、魔法の伝導率の高い素材で出来たバンテージと動きやすい防具を選んだ。こっちもミニスカ。

 なんでそんなに防御力をおざなりにできるのだろうかと疑問だったが、二人とも装備選びに絶対の自信を見せていたので何も言わない事にした。



 後は買い食いで食事を済ませ、宿を取った……のだが、正直これまでの間非常に注目を浴びてしまった。

 男性が裏通りに居る事自体が珍しく、それも亜人の少女たちと並んで歩いているのだ。

 どこへ行っても警戒2割、興味8割の奇異の視線を向けられることになった。


「流石に手は出してこないよ。下手したらおにーさんの証言次第で一発有罪だもん」

「興味はあるけど、男性保護に比重を置いた法は……亜人には脅威」


 だそうだ。

 宿はそれなりにしっかりした場所を選んだ。

 一人部屋と二人部屋を取り、素泊まりで銀貨八枚。ギルドの登録料と照らし合わせると、一枚辺り凡そ千円と言ったところだろうか。

 渡された部屋鍵と部屋に念入りなチェックをすることをリリとルルは欠かさなかった。

 明日からは簡単なダンジョンの攻略だ。今日は酷く疲れた……。

 

 

 

 「でさルルぅ~、おにーさんのこと。実際どう思うの?」


 アウリィの寝静まった夜。二人部屋を取ったリリとルルはガールズトークに花を咲かせていた。

 一つのベッドに身を寄せ合い、互いのぬくもりを感じながら語らいあう。

 

「ん、顔良し、最高。性格は多分……亜人に偏見が無い。極上、言う事なし」

「だよねだよねぇ~!このリンゲージ?っていうの?も凄いじゃん!魔力が溢れてくる~!ってなるし、おにーさんがリリを想う真心だって……きゃっ」


「リリは調子に乗り過ぎ。それルルも感じてる。なんならマナまで注入されてしまったルルは最早半分はお兄さんで出来ていると言っても過言ではない」

「そりゃ過言でしょあんた……」


 興奮冷めやらぬと言った様相で会話は更にヒートアップを重ねる。

 部屋も違えばぐっすりと熟睡しているアウリィに聞こえるはずも無いのだが。


「でもおにーさんのパ……パンツ!あれは惜しかったなぁ……!」

「惜しかった。そしてとってもえっちだった。あれを装備すれば負けなしだったのに」


 ちなみに既にその最強の装備候補は雑巾になっていたりする。

 未使用だからと何の感慨も無くボロ雑巾のように扱われたえっちな下着。

 宿屋に設置されたテーブルを拭くために犠牲となったのだ。


「はぁうぅあぁ~~!……リリね。決めたよ。リリはおにーさんの”メスガキ”になるっ」


 甘ったるい空気から一転。真剣な表情をしたリリが一つの宣言をする。

 

「まだそんな事言ってる……。私達インプ族が人間と友好的共存関係を築いていたなんておとぎ話の世界」

「いーや!お婆様の書斎で読んだんだもん!インプ族は遥か昔、人間の横に立つ、厄介で愛おしい隣人だったんだって!」


 

「人間を全面的にサポートする妖精族と違い、時には助け、時には悪戯を仕掛け、老いた後ですら健やかな精神を保つ手助けを行う。精神とマナは混じり合い、最期はパートナーと共に逝く」

「そう、それ!はぁ~!伝説の”メスガキ”!憧れるぅ~」


 両の手を組み、満面の笑みで天井を仰ぎ見るリリに対し、ルルはどこまでも冷ややかな反応を示す。

 

「ん、妖精族だって今では覗き見常習犯の鼻つまみ者。やっぱりその文献は御伽噺……」


 インプ族に伝わる御伽噺。太古の昔、人間と亜人が仲良く共存していた時代。

 インプ族は伴侶となる人間を見つけ、時に助け、時に難題を課し、そうやって共に成長し、共に朽ちたのだと言う。

 そうやって伴侶を見つけたインプ族を”メスガキ”と呼び、インプ族から羨望の眼差しを浴びていたのだとか。


「うーん。馬鹿馬鹿しい」

 

 今では集落に引きこもって人間と関わるインプ族なんてごく一部だ。

 今では誰もそんな寝物語を信じるインプはいない。リリ以外は。

 この思い込み一本で開拓都市まで出張ってきたのだからリリのバイタリティは凄い。

 本人に直接言うと調子に乗るから言わないけど。

 

「んもう!浪漫ないなぁルルは!そういうルルはどうなのよ!」


「ルルは……ルルもお兄さんと最期まで有りたいと思う。メスガキかどうかはわからないけど」


「やっぱりそうじゃん~!」


「だってリンゲージは凄い。相手が自分を想う心がそのまま入ってくる。こんなのに当てられたら離れるなんて選択肢、ない」


 お兄さんが私を慮る気持ちが痛い程伝わってくる。

 そして逆もまた然りなのだろう。こうして想いが、ドキドキがどんどん大きくなるのを感じるんだ。

 私も最期までお兄さんと共にありたいと決意を語る。


「決定ね!これから当面の間はおにーさんと一緒に冒険、するよ!ルル!」


 私とリリはどちらともなく固い握手を結んだ。

 

「わかった。一緒にお兄さんを守ろう。お兄さんにはお兄さんの目的がありそうだけど……」

「そうなんだよねぇ、誰なんだろ?声しかわかんないって」

 

「さあ?正直それは考えても今は無駄だと思う」

 

 寝かしつけるようにわざとらしくリリをぽん、ぽんとリズミカルに叩く。

 気になると言えば気になる。

 だけど、お兄さん本人も良く分かってなさそうだったのだ。

 考えても答えは出ないだろう。

 もしかしたら冒険者を続けていくうちに真実を知ることになるかもしれない。

 それでもリリと私は、お兄さんから離れないだろう。

 

「だよねぇ~、ふわぁ。眠くなっちゃった」


 あくびで返したリリはもう限界のようだ。

 私もいい加減眠くなってきた。

 

「ん、もういい時間。そろそろ寝るべき」


 茶化してあやすような動作をすると普段は怒られるけど、今日はもう限界みたい。

 先ほどよりも少し温もりを増した感覚と、かすかな寝息だけが返ってくるのを聞き、私も瞼を閉じた。

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