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男の娘が美醜貞操逆転のあべこべファンタジー世界から脱却しようと足掻く話 ~それでもスカート履くのを止められない~  作者: シエスタさん


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10話 初心者向けダンジョンに挑もう

「あっははっ!悍ましきリリとルルの姿に刮目せよ!そして怯えろ竦めぇ!グルームリゾナンスぅ!」


 リリと対峙した狼型のモンスターは暗い魔力の本流に包まれると一様に戦意を喪失していく。

 群れで狩りを行う危険な集団であるはずが、ものの数秒で無力化されてしまう。

 リーダーであるはずの狼も腰が引けているのが遠目からでもわかる。

 

「ざんねん。ルルの姿……捉えること叶わず。しぱぱっ……!」


 その隙をついて駆け出したルル。

 素早く一番近い個体へ掌底を打ち込んだと思いきや、残りの個体に目では追えぬ速度で蹴りや拳を叩きこむ。

 不幸にも渾身の掌底を喰らった最初の個体はあっという間に魔力の塵となり、消えてしまった。

 残る取り巻きも、ダンジョンモンスター特有の生態か、身体を維持できずに崩壊する。

 姿を見ろと言ったり見せないと言ったり連携を取っているのか取っていないのかイマイチわからないが、ただひたすらに敵を圧倒してゆく。

 

 

「いや、二人とも強くない……?」


 その様子を僕、アウリィは遠巻きに眺めていた。

 ここは初心者用ダンジョン。パッと見ではのどかな平原でしかない。

 ダンジョンというのは魔力が自然と蓄積してしまう魔素溜まりの事を指す。

 そういった場所は自ずとモンスターという人類に敵対的な生物が発生するのだそうだ。

 どういうメカニズムか未だ未解明だが、無から生まれたモンスターは倒れると何かしらのドロップ品を落とす。

 それらは一般的に倒したモンスターに近しい品である傾向が強い。

 今回はきっと毛皮や牙がドロップしているのだろう。

 また興味深いことに、彼らモンスターにも感性や感情があるので精神魔法やフェイントが通用するのだとか。

 


「うーん。二人にだけ戦ってもらうのは心配だけど、あそこに加わると邪魔になるよなぁ……」


 先に粉砕されたウサギ型のモンスターからドロップした肉。

 ご丁寧に解体された状態でドロップしたものを都市で買っておいた串に通し、香辛料を振りかけつつ観戦を続ける。

 最後の一匹となったリーダー狼は完全に戦意喪失し、逃走を図ろうとしたらしいが明らかに腰が抜けている。

 リリの放った火球が背後から炸裂し、決定打となる。ここら辺一帯でもかなりの脅威レベルを誇るフォレストウルフの群れをあっという間に殲滅してしまった。

 平原なのにフォレストウルフ?と疑問に感じたが、職員が言うにはそれくらいに場違いなモンスターが沸くからこその脅威なのだそうだ。

 本来ならば開けた平原なので、縄張りに近寄らない、逃げるといった選択肢が初心者冒険者の常である。



「いえーい!らくしょーう!何が出たかなー!」

 

「まだまだ暴れ足りない。力が溢れる……ふんす。あっ……でもドロップ品は集めないと」


 それがあの様である。

 ドロップ品の回収も無防備になる瞬間なので、お兄さんは見ていてと釘を刺されてしまった。

 確かに狼の残党が一匹でもいて襲われたらと思うと、それは妥当な判断なのだろう。


「ご飯の準備も終わっちゃったし……暇になってしまった」

 日課の表情筋マッサージでもしよう。

 前世では美容に無頓着だったし、効果は出た試しがない。

 それでも頬を上へ下へ、右へ左へと、てのひらで動かしてみる。

 ぐいぐい、むにむに、くいっくいっ。


「これがリンゲージの力なのかな?それとも二人とも実は強かった?うーん……」


 あの実力があれば、冒険者同士のいざこざでもそれほど遅れを取らないように思える。

 しかし、一人にらめっこをしながら考察を重ねるが答えは出ない。


「おにーさん、終わったよ……?な、なんでそんなえっちな顔を……」


「ドロップ品がっぽり。ところでその顔は……チューのあれ?」


「あっ」

 

 気が付けば作業を終えて戻ってきた二人がこちらの顔を凝視していた。

 頬を強く押して唇を突き出した状態。いや、えっちでは無いでしょ……。

 恥ずかしいので表情筋マッサージはこれから寝る前だけにしよう。

 リンゲージの力は未知数だが、学びは一つ得た……という事にしたい。


 

 焼き目の付いた肉からハーブと香辛料の香ばしい香りが立ち上る。

 刷毛で丁寧に表面に塗ったオリーブオイルが鮮やかな照りを生む。


「ん~!おにーさんの料理、やっぱり美味し~!」

「うむ。最高、美味。これから毎日お兄さんの手料理が食べたい。検討求む」

 

「はいはい。落ち着いて食べなさいな」

 

 初のダンジョン攻略でこれほど気を抜いてもいいものなのだろうかとは思うが。

 鎧袖一触とはまさにあのことを言うのだろう。


「それよりどうだった?三人……といっても僕は見ているだけだったけど」


「んー、楽勝。って感じ?」

 

「楽勝だったよね~!負ける気どころかひやりとすらしなかったもん!」


 確かに遠目に見ていても何一つ苦戦した様子はなかった。

 これならば……もっと上を目指してもいいのかもしれない。

 そしてゆくゆくは……。

 

 愛を知らない人――。

 私を見つけて――。

 あの声の主を……。

 

 

 ……?

「そういえば……」

 

 愛を知らない?今更になって思うのだが、異性愛とは無縁の人生だった。前世含めて。

 むしろ前世の方が酷かったかもしれない。

 彼女ら亜人と同じく、蔑み、嘲笑された事も確かにある。

 だけれども、”僕”は知っているはずだ。


 家族愛、友愛、敬愛。

 前世の人生を象る上での人々との関りを鑑みれば、愛を知らないだなんて。

 落ち着いた環境だからだろうか。今更ながらに少し腹が立つ感覚と憐憫の情の二つが沸き上がってきた。


 勝手に愛を知らないと評されたことに対する反論したい気持ち。

 だが、それ以上に彼女の声は……。



「――さん?おにーさん?どしたの?リリたちはもう一仕事やってこようと思うんだけど!」


「ぼんやりしてる。大丈夫?疲れた?」


 二人の声を受け、ハッと現実に引き戻される。

 いくら二人が強いとはいえ気を抜きすぎだ。

 

「ああ、ごめんごめん。ドロップ品の仕分けはこっちでやっておくから行っておいて。怪我だけはしないようにね」


 せめて足を引っ張らないようにしないと……。反省。

 

「はぁ~!その声援と美味しいご飯だけでやる気十分!さっきより力が溢れてくるよ~!」


「任せて、お兄さん。ルルたち、強さのギア、上がった」


 食後のストレッチをしながら二人は気合を入れている。

 その動きのキレはただのストレッチでありながら見惚れる程だ。


「あはは、そんな急に強くなるなんてことあるかい?」

 

 そんなまさか。

 と思った束の間。直感でわかる。

 明らかに二人が自分に向ける感情が大きくなっている。それがわかる。

 これが力の源だとすればプラシーボ効果やただの気分の高揚ではないのだろう。

 


「強くなった気がするもーん!試してくる!ルル、次はあっち!あっち探索しよう!」


「おーけい。先鋒は任せて。じゃっ、お兄さん行ってくる……といっても目の届く範囲には、いるね」

 

 尻尾を揺らめかせながら二人は平原を駆けていく。

 

 ただ、食事を振舞い、常識の範疇で気にかけてあげる。

 それだけで亜人である彼女らは心から感謝し、好意を寄せてくれている。

 それが今までの歪な人生経験から来るものだとしても。

 

 見知らぬ地へ僕を誘った謎の声の主。膨れ上がる二人の想い。扱いづらいはずのリンゲージが齎す過剰な力。

 これらがどう絡み合い、どこに僕を連れて行くのか。

 未だにそれはわからない。

 わかるのはこのダンジョン攻略が大成功を収め、明日以降もきっと彼女たちは強くなるのだろう。

 僕への気持ちと共に。

 

「応援しているよ、頑張ってね」


 曖昧な笑み……にもならない無表情が今は有難かった。


「それでも」


 それでも、だ。


「それでもこの表情筋を何とかしてからじゃないと”あの娘”にガツンと言ってやれないよね」


 前言撤回。僕は表情筋マッサージをこっそりと再開したのだった。

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