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男の娘が美醜貞操逆転のあべこべファンタジー世界から脱却しようと足掻く話 ~それでもスカート履くのを止められない~  作者: シエスタさん


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14話 家族?を守ってみよう

「ここは……」

 

 窓を覆うカーテンに、テレビ台の上に鎮座するテレビ。

 あたりを見渡せば慣れ親しんだはずの電話、コンセントに繋がれたままの掃除機。

 上を仰ぎ見れば眩い照明。隣の部屋には冷蔵庫も見える。

 生活感のある現代的な部屋。

 そして、身体を包む心地よいソファの感触。


「あ、あれ?ここは……。電話にテレビ……掃除機。冷蔵庫まで……」


「だー?あーう」

 

 気が付けば腕には赤子を抱いていた。

 いや、違う。我が子だ。愛する我が子を抱いているんだ。

 

 「寝ぼけていたのかな……おー、よしよし……可愛いなぁ」


 何か――大事な何かを忘れている気がする。

 そんな不安定な感覚に一瞬陥るが、愛する我が子に自然と意識は向く。

 まだ生えたての金髪に頭部からぴょこんと生えた二対の狐を彷彿とさせる耳。尻尾もしっかりとあり、僕の手の中で微かに揺れる。

 手も足もまだ小さく、関節より先は愛らしい毛皮に覆われ、肉球がちょこんと顔を覗かせている。



「あれ?そういえば、ママは?」


 そうだ。忘れていた。愛する我が妻。この子のママだ。

 隣のキッチンから聞こえる軽やかな包丁と水の音。

 ああ、我が子と比べる事の出来ない程の最愛の妻。

 なんだ。簡単な話だ。赤ん坊の世話をしている間に寝ぼけていたのだ。

 そう、我が愛しの――。


「……っ!」


 ぴしりと頭が痛む。愛しの……誰だ?

 名前を忘れてしまったのか?

 そうか、そりゃそうかもしれない。

 何せパパとママになったのだ。癖でママと呼び続けたせいできっと忘れているだけ。

 きっとそうさ。そうに違いない。



「あーう。んぁむ、ちうちう……」


「ああ、指咥えちゃ駄目だよ。お腹が空いているんだね、おーよしよし」


 きっともうすぐご飯の時間だろう。

 この子だってお腹を空かせている。きっとミルクの時間だ。

 僕の指をしゃぶるのをさせたいようにさせる。

 それで気が紛れるなら安いものだ。


「ねえ、ママ。そろそろご飯出来るかな?ほら、この子。お腹空かしちゃって僕の指を哺乳瓶だと勘違いしているんだよ」

 

 可愛いね。そう呟きながら赤子を抱え、キッチンを覗く。


「あら。ごめんなさいね、あなた。もう少しで出来るから待っていてくれるかしら」


 そこには子供を産んでなお可憐な女性、……愛すべき我が妻がいた。

 ……見惚れる程美人な顔つきだ。キリッとした、三白眼。

 

「だうー。んー、ちゅぱちゅぱ……」


 ……余程空腹なのだろう。可哀想だがご飯はもう少し。だから待っていてね。

 指をしゃぶる勢いはエスカレートするが、そのままにさせておく。

 ……嗚呼、美しいブロンドのロングヘアー。二対の狐耳。――うちの子はママ似なんだね。

 

 僕より少し高い程度の、背丈。

 肉球の手で器用に料理の工程を進めている。その手際にまた見惚れてしまいそうになる。

 

「ああ、ごめん。急かすような真似をして」


 チュパチュパ、レロレロ。


「でもこの子がほら、お腹空かせちゃったっぽくてさ。泣かないのは偉いけど指を哺乳瓶だと勘違いしているんだよ。可愛いね」


「あら、そうね。大変。でももう少し……。そう、もう少しだから待っていてくれるかしら?」


 確かにもう少しで食事の準備は終わりそうだ。

 これ以上台所でママの邪魔をする方が良くないだろう。

 だからね。


 レロンレロン、ブチュチュチュ……。


「そんなに舐めたらパパの指ふやけちゃうよ。いい子だからもうちょっとまってね」


 そう我が子をあやし、リビングへ戻ろうとする。

 遠くには自動車のエンジン音が聞こえ、つけっぱなしのテレビからはよく知らない芸能人のニュースの音声が流れてくる。


「ここは……日本なんだな」


 ……?

 さも当然の事が自然と口から出る。

 それが妙に引っかかる。


「ここは……日本?日本なのか――?」


「ちぃ、なんなんスかこの記憶……!整合性取るのがチョー難しいッス……!」

 

「……?何処からか声が?」


「さ、さあ?気のせいじゃないかしら?ほら。リビング?で待ってて」


 空耳だろうか。空耳に違いない。

 なんたってこの家には僕と妻、そして我が子しかいないのだから。


 「わかったよ。じゃあリビングでこの子見てるね」


 そう踵を返そうとした時。


 ドゴンッ!


 家に一つの穴が開いた。

 いや、壁やドアに穴が開いたわけではない。

 そのままの意味だ。

 ”何もない”キッチンの余白の空間。そこに穴が開いた。

 穴は深いのか、漆黒の闇が広がるばかり。


「え?何?何、これ?」


 ママと我が子と穴、それぞれを交互に見渡す。

 ママは真剣な眼差しで穴を見つめており、我が子はもう一心不乱に指をしゃぶっている。

 なんて胆力のある子なんだ。きっと大物に育つに違いないぞ。

 

「ちょっとルル……早く先行ってよ……!後がつっかえてる……んだからぁ!」


「そうは言うけど、この穴狭い。ルルだって努力はして……あっ、抜けた」


 そうこうしている間に一人の少女が穴から飛び出してくる。

 褐色の肌に二対の角。まさに小悪魔と言わんばかりの先端がスペード状の尾。

 自分の常識の埒外の存在が突如現れた。

 そしてもう一人いるのだろう。穴から足が這い出ようとしているのが見える。

 

 何なのだこれは。

 何故キッチンの何もない空間に穴が?

 そこから人間とも”獣人”とも思えない醜――。……っ?可愛らしい少女たちが?

 

 兎に角この子は守らねばと、赤子を固く抱きしめた。

 ふひひっという小さくも気味の悪い笑い声がどこからともなく聞こえ、自然と身体が強張る。


「ルル、参上。同じくお兄さん、助けに来た」


 助けに来た?一体何を言っているんだ?家に大穴を開けておいて?

 住居侵入罪どころの騒ぎではない。

 

「な、なんなんだ君たちは……?こ、この家から出て行ってくれないか……!」


 まず第一警告。警察に電話しようにも頭が真っ白で家具の配置すら全く思い出せない事実に内心歯噛みする。

 それでも家族を守るために虚勢でもいいから張り続けるんだ!


「む。これは厄介。リリ、リリ。ヘルプ。聞こえるー?おーい、リリー」


「なんべんも呼ばなくたって聞こえてるわよ!というかそんなにお尻叩かないで!」

 

 だがしかし闖入者の少女は妙なマイペースを見せる。

 呑気にお尻までは出かかっている片割れの少女をぺしぺしと叩きながら、何かしらのコンタクトを取ろうとしている。


「やっぱりお兄さんは幻術耐性高くない。リンゲージで戦闘力上がっているわけじゃないし、一般ぴーぽーレベル。早く早く」


 この隙に警察に電話を……?

 いや、妻や我が子を置いて目を離すのも危険だ。


 僅かな、それでいて長い、長い時間が経つ。ようやくもう一人の少女が穴から完全に抜け出した。

 最初の少女よりもハツラツとした雰囲気の少女だ。


「ふっふっふ!精神攻撃でリリを嵌めようったってそうはいかないわ!おにーさん、助けに来……」


 こちらを見据え、ビシリと構える少女。

 しかし何故かそのまま固まってしまった。

 

「……え?何?何その子。その女……」


 何?何だって?突然家に押し入って来て何という言い草だろう。


「何って、僕の……僕の愛する妻と子供だ!ゆ、指一本触れさせないぞ!」


 そう啖呵を切ってみせる。

 愛する家族は僕が守って見せる。自信はないけれど、やるしかない。

 強く……睨みつけようとしたが表情が上手く作れない。

 が、怯むものかと目の前の少女を見据える。


「ね……」


 が、少女はふっと俯き、そのままわなわなと震えはじめた。

 

「ね?」

 

 ね?ねってなんだ。一体なんなのだ、この少女たちは……。


「寝取りじゃないのよ~~~~!」


 そう思ったのもつかの間。部屋中に響き渡る絶叫を奏で、少女は仰向きに倒れ込んでしまった。

 顔を覗き込むと口から泡を吹いて気絶している。


「リリがやられたか……。しょうがない。ここからはルルの出番。ルルの性癖は広い、まだ無傷。……だからお兄さん。助けてあげるね」


 そう宣言し、妙に気の抜けた構えを見せるぽわぽわした雰囲気の少女。


 だから一体なんなんだ。この少女たちは……?

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