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男の娘が美醜貞操逆転のあべこべファンタジー世界から脱却しようと足掻く話 ~それでもスカート履くのを止められない~  作者: シエスタさん


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13話 野菜泥棒を追い詰めよう

 晴天の元、青々とした作物の間を気持ちの良い風が駆け抜ける。

 ここは野菜泥棒に悩むとある農村。開拓都市から見て僕の生まれ育った農村とは真逆に位置するダンジョンも近い村だ。

 ダンジョンと言えども、草原タイプのもの。

 遠くを見渡してもただただ爽やかな緑の絨毯が広がるばかりの長閑な光景だ。

 遠くには農作業をする屈強な女性や、甲斐甲斐しく汗を拭いたり差し入れをする小柄な男性の姿が見える。

 


「うひひ……、こんなめんこい子が依頼で来てくれるなんてねぇ。まだまだ死ぬには早かったよ」


 僕の後ろに控えるリリとルルには目もくれない、依頼主である老婆の村長。

 交わした握手から極々自然な動作でねっとりと両の手で差し出した右手を撫で回される。

 後ろでみしりと何かが軋む音が聞こえるが、聞こえないふりをして話を促す。

 

「い、いえ……依頼とあらば。それよりも、犯人が潜伏しているという廃屋は東ですよね?」


「おお、おお。そうだった。そうだよ!あの野菜泥め!聞いてくれるかい?あんたらが来る少し前に今度は村の男の子までもが毒牙にかかってしもうた……」


 一転して憤慨した様子を見せる村長。

 その隙をついて手を引っ込めると一瞬惜しそうな表情をした後に語り始めた。


「よせばいいのに今では度胸試しの場になっていてね。昨日、村の女らに紛れて肝試しだと入っていったんじゃ。そしたら女連中は今まで通り亜人になるだとかうわ言を呟くようになり、男の子は何と気の毒な事に……」


「気の毒な事に?」


 男の子。他人事では無い。自然と生唾を呑み込み身構えてしまう。


「お嫁さんが出来た!お嫁さんが出来てしまった!とびっきりの不細工で恐ろしいの!怪物が!と泣きじゃくるようになってしもうたんじゃ。おお、くわばらくわばら……」

 

「成る程、そんな事が……」


 人間の女性は亜人にされるとうなされ、男性は恐ろしい怪物との婚姻。

 亜人は居もしない男性パートナーとの別れ。

 自分たちが敗北した時には一体どんな恐ろしい目に合うというのだろうか。


「ありがとうございました。注意して廃屋を調べてみようと思います」

 

 野菜泥棒の正体は未だに掴めず。正体不明さに拍車がかかる一方だ。

 かといって明確な対策が浮かぶわけでもない。自然と身体が強張るのを感じる。


「無事解決したらまた寄っておくれ。今度はご馳走でも拵えてお祝いさせて貰うよ」

 

 老いてなお衰えない筋肉。力こぶを作ってアピールする村長に礼を返し退出する。あまり長く見ていたいものではない。

 村長宅を出るやいなや、リリは握られた右手を念入りに拭き取ってきたし、ルルは左手を撫で回そうとしてきた。


「うへぇ~、嫌なお婆さん!どうせご馳走だって一食分しか無いんだよきっと。もうこないからねーっ」

「もしかしたらジャガイモ1個だけとかかも。……お兄さん、左手出して。中和作業」

 ――いや、それは意味がわからない。



「それにしても気味の悪い話だよねー。人間の男女と亜人で後遺症?が違うんでしょ?」

「確かに不可解。リリが扱うような精神魔法の類は――これまでの話から考えづらい、要警戒」


 盗まれる野菜の量は精々が毎度人一人分。

 村人の中にはもう厄介な害獣が現れたようなものだと諦めるべきだとの声も上がっているのだとか。

 だがしかし、僕達冒険者は依頼を受けた以上、被害の大小に関わらず遂行する義務がある。

 それに純粋に困っている人を見捨てるのも座りの悪い話だ。

 


「うーん。結局犯人像も特徴も何一つ掴めなかったね。出来れば万全を期したかったんだけど……」


 たかだか野菜泥棒とはいえ、戦闘になるかもしれない。

 相手はモンスターとは違うのだ。冒険者ギルドで聞けるモンスターの弱点などが簡単に共有されるわけではない。

 だがギルドからの指名は、僕たちのパーティーが解決出来ると見込んでの抜擢なのだ。

 慎重になるのは良いが、臆病になりすぎるのは良くない。

 ここはいつも通りの実力が発揮できるように適度な緊張感で臨むべきだろう。

 

「大丈夫だって!おにーさん!だってリリ達には……ねぇ?」

「ふんす。リンゲージがある。この絆の前には精神攻撃なんてそよ風に過ぎない」

 


 そうこうしている内に件の廃屋へとたどり着いた。

 村の外れといってもそう遠い位置ではない。

 そもそもがそれほど大きくない農村なのだ。

 いよいよもって、何故こんな場所で野菜泥棒を続けられるのか疑問ではある。

 


 廃屋はその名の通りボロボロで至る所に隙間が空いており、屋根があるだけ野宿よりマシと言った風情。

 持ち主が居なくなり放棄された残骸。

 まるでそこだけが時が止まったかのように沈黙を貫いていた。


「いるね……」

「いる……」


 真剣な顔つきでアイコンタクトを取り合うリリとルル。

 気配という奴だろうか。凄いな、僕にはさっぱりわからない。

 まだ外から廃屋全体を見ている状態でしかないのにも関わらず、気配を察知して見せるのは今までの戦闘経験によるものか、はたまたリンゲージの効果か。


 「おにーさんは少し遅れて入って来てね」

 「まずルルが先行して鎮圧する、任せて」


 声を潜め、軽いミーティングを済ませる。

 準備は整った。

 未だに僕にはわからないが、廃屋に野菜泥棒がいる以上、決着は近い。


 身を屈め、素早くドアに近づくルル。その勢いのままにドアを蹴破り突入。

 俊敏な身のこなしでリリが続く。

 

「御用だ御用だー、神妙にお縄を頂戴しろー」

 

「さあ出てこい、野菜どろぼー!ギルドからの依頼であなたを拘束するわ!」


 威勢のいい口上を聞き、慌てて自分も内部へ突入する。

 中には野菜泥棒が……。



「あれ?誰もいない……?」


 いない。廃屋の中は何もない伽藍堂だ。

 寂しく隙間風の通り抜ける音だけが響く。


「む?不在?気配はあった、謎」


「おかしいよ、おにーさん。注意して」


 嫌な汗が頬を伝う。

 警戒してと言われても、狭い廃屋だ。

 何もないと一目見ればわかる。

 何もない。それこそが恐怖を増幅させるのを今実感しつつある。

 一体何が起きている……?



「ふっふっふ。またノコノコと迂闊な冒険者がやってきたッスね~!」


「声!?」


 どこから?いや、これは――。


「しまった、お兄さん、リリ、後ろ」

「後ろぉ!?」


 背後だ!背後に居る。

 どういうわけか入り口側から声が聞こえてくる。

 慌てて振り返ろうとするが――。


「うわっぷ!なにこれ煙?」


 どこからともなく立ち上る煙。無味無臭ではあるが、水蒸気というわけでもないらしい。

 吸い込んでも煙たくはないが、兎に角立ち上る煙が邪魔をして人影の姿が捉えられない。


「シッ!」


 この場で最も反応の早かったルルが地面を蹴り、人影に飛び掛かった。

 しかし煙の向こうからは何の音も返ってこない。

 完全なる無音だ。

 

「遅いッス。ふっふっふ――コレはさっき言ったッスね。くっくっく……さあ!ここからは一流術師ナズナの独壇場ッスよー!」


 場違いに陽気で軽薄な声が響き渡る。

 成る程。この声の主が野菜泥棒か。

 しかし、状況の確認すら叶わない状況に焦りが募る。

 腕を振ってみた所で煙が晴れるわけでもなく虚しく空を切るばかり。

 意識が朦朧としてきた。これは――煙の……。

 

「くっ……。リリちゃん……!ルルちゃん……!」

 

「お、おにーさん……」


 掠れゆく意識の中、二人を呼ぶが辛うじてリリの掠れた声が届くだけだった。

 誰かが倒れる音を遠くに聞きながら、僕自身も意識を手放した。

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