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3.大切な仲間

 数日後の深夜を回った時分。かくしてヘズ帝国の王都、高級住宅街のような地区に忍んでいた。イヴィアナの奔放さに従順になるしか道はなかったのだ。イヴィアナは実家に侵入し、魔法図鑑を失敬した後仲間の戦士と邂逅する予定らしい。

 とんでもない犯罪行為だと思うだろう?正にその通りだ。


「帝国には夜間警備隊がうじゃうじゃいるから、絶対見つからないようにしないとダメよ」

「分かった」

「見つかったら、即死ぬから。帝国の夜間警備隊は乱暴なの。ほらあの朱殷(しゅあん)色の軍服を着た人達」


 こんな事を言われたため、俺は小刻みに震えながらイヴィアナの背中を追随している。イヴィアナの実家は想像以上に広大な敷地を有していた。王都内とは思えないほどの豪邸だ。その豪邸から魔法図鑑を数十冊抱えて帰還し、目的の仲間の送迎に向かった。


 数十分走った所にまた壮大な豪邸の前で止まり、イヴィアナはここだと呟く。道中で何度も夜間警備隊に見つかりかけて、生肝を抜いた。上手く警備を掻い潜れたのはイヴィアナの俊敏性と狡猾さの賜物だろう。


 いとも容易く豪邸の中に侵入し、ある部屋の前でイヴィアナが扉を不規則に叩いた後「好きな食べ物は帝国風焼き魚」と囁いた。恐らく仲間との合言葉だろう。


 戦士の仲間はイヴィアナに見合う美男子だった。オレンジがかった茶髪で所々焦げ茶色のメッシュが入っている。襟足は長いが放蕩さを感じさせない佇まいであった。隆々とした体つきで体裁は似つかないが瞳の色はイヴィアナと同じ翡翠(ひすい)のようだった。


「お待たせ、グレイ」

「イヴィ…待ってないよ」


 二人からのやり取りは知己とぎこちなさを感じた。戦士の仲間という彼からは辟易(へきえき)も見える。


「分かってるよね?君は今言わば指名手配犯も同義なんだよ。僕の元に来てなんだって言うんだ」

「嫌そうな顔して、本当は嬉しいくせに!」

「冗談は辞めてくれイヴィ。僕はクリーエ家の誇り高き帝国騎士としての名声を守らなきゃいけないんだよ」

「それじゃあグレイは魔族から人々を守りたいと思わないの?」

「……思ってるさ。でも君のやり方には賛同できない」


「ね、リアト。この人が私たちのパーティの戦士グレアム・クリーエ」

「ちょっと、イヴィ!」


 仲間だと言っていたグレアムはイヴィアナの腕を掴んで引き寄せた。


「君を警備隊に受け渡す」

「またまた可愛い冗談だね」


 空気が物々しく変化し、グレアムは険のある面持ちになった。イヴィアナが振りほどこうと微動だにせず、流石に不安が募っていく。


「イヴィアナ!」

「平気だよリアト。そんな大声出さなくても、そろそろ警備隊は来るから…」

「警備隊?!」

「そう。クリーエ家直属の夜間警備隊…」


 イヴィアナは陰険に笑って、グレアムに少量の炎を浴びさせて追い払った。


「私は魔道士なんだから、手で繋ぎ止めておくのはむりだよ。グレイ」

「非魔法使いを見下げ果てた言い方だね。なら僕と戦うかい?」


 居心地の悪すぎる静寂が過ぎり、当人ではない俺が固唾を飲んだ。戦端が開かれると思えば、開かれたのは扉の方だった


「イヴィアナ様!いたぞ!!やはりグレアム様の私室にいる!」


 その一声を皮切りに廊下からこちらに接近する数多の足音が聞こえた。クリーエ家の夜間警備隊が集ってきた頃合いを見て、イヴィアナは話しだした。


「違うの!グレアムは私のことを匿おうとしてない!私を助けるために内部情報を漏洩しないし、私が上手く逃げられるように抜け道を教えてくれたり、お金を渡したりなんて、絶対してない!」

「は?!」


 イヴィアナの白々しい演劇が開幕し、グレアムも俺も驚愕していた。演技は目を見張るものだが、必要以上にかまととぶっている。


「グレアム様…そんなことを……」

「無理もない。イヴィアナ様はグレアム様の大切な幼馴染だ。想い人を救おうとするのは道理にあっている」

「私でも同じことをしたと思う」

「なんと高尚な徳義心を持ったお方なのだ…だが、反逆者に手を貸すのはどんな理由であれ……」


 追っ手の警備隊からはこのような同情の言葉が飛び交った。イヴィアナは高貴な帝国魔道士と豪語していたが、やり口が狡猾だ。


「イヴィ、謀ったな?!」

「ねえグレイ。これから捕まって謹慎処分を下されるのと、私と冒険するのどっちがいい?」


 勿論グレアムは後者を選んでクリーエ屋敷から出奔(しゅっぽん)した。

 しかしグレアムは苦情を言いながらも準備は万端だったようで、手持ち金や食料、武器の手入れ材も備えていた。到底イヴィアナを警備隊に突き出そうとした人だとは思えない装備である。


 帝国の追っ手から逃れ、無償で救済を施したり、冒険者協会の依頼を引き受けてお金を稼いだりして冒険者生活はさし詰め安定していた。


 騎士のグレアムは──彼曰く戦士ではなく騎士がいいそうで──先天性の魔力欠如だとは思えないほどの実力を有していた。上級魔物でさえグレアム一人で片付くことは多い。人は魔力で気配を感知するのが一般的だが、グレアムにはそれが出来ないため第六感で敵を察知するらしい。


「グレアムの武器ってなんか諸刃の剣って感じするよな…俺が使ったら一瞬で自分に刺す自信ある」


 グレアム武器は斧のように見えるが、柄の下の部分は刀のような刃が仕込まれており、見た目で言えば上と下どちらにも刃物が備わっている斧剣を使用している。彼を斧使いと呼ぶべきか薙刀使いと呼ぶべきか難題だ。


「これ?慣れだよ。僕はこれが一番なんだ。集団戦に強いからね」

「さっすが名誉騎士グレアム・クリーエ!」

「揶揄うのやめてくれる?イヴィ」

「名誉騎士?」


 俺の興味津々な声に、イヴィアナは万遍の笑みで頷いた。


 どうやらグレアムは多くの魔物を討伐し、人命を救った功績で帝国騎士の中でも更に高位に座しているらしい。つまりグレアムは最上位の帝国騎士だ。自分より遥かに体格の大きい魔物を一撃で仕留めてしまう実力があるのだから、当然かもしれない。


 イヴィアナは帝国内でたった5人の帝国魔道士に選ばれ、グレアムは帝国の名誉騎士。

 で、なんでこの2人が帝国の反逆者になったんだっけ?


 期待されていた万能魔法については俺なりに使いこなせている。イヴィアナの実家から失敬した魔法図鑑をみて種々の魔法を学び、実践でも使えるようになった。またイヴィアナが魔法は自由の権化と言うため、俺の想像力で魔法を顕現させることも出来た。今や俺の得意魔法は能力無効と重力魔法になっている。


「マズイ、ここって…監獄島プリゾネイじゃない!」

「え?は?!どういう事?なんかめっちゃ導かれてんじゃん俺たち!」

「だから航海の知識なしに海に出るなって言ったのに…」


 冒険の途中、大陸を越えてユミルテ王国に赴くために向かった船舶が監獄島という物騒な異名を持つ島に辿り着いてしまった。

 イヴィアナは呑気に「あちゃー」と言ってるし、グレアムは慣れた雰囲気で溜息を吐いていて、焦燥しているのは俺だけだ。


 イヴィアナとグレアムから聞いたところ、プリゾネイは帝国の犯罪者が収容された島で、一度入れば二度と出られない島だという。

 とは言っていたものの、監獄島には犯罪者を収容する刑務所しかない訳ではなく、陰々鬱々を予想していた俺たちの予想を裏切った。文明は(おもむろ)だが開化されており、清廉潔白な民も居住していた。プリゾネイで生まれ育って暮らす者もいるという事だ。


 ただしこの島から脱出するのも難儀で、犯罪者の奸計を疑うためどのような立場の人間であれ島の外に出ることは不可能だと言われていた。


「すみません。ご迷惑をおかけしました。私はシェリロルと申します」


 そんな抜差しらならない状況の中、シェリロルと出会った。

 青空さながらの水色をした髪で、手入れが行き届いていないからか癖毛が目立っていた。髪を団子に結いまとめているところを見るに、お洒落を気にする年頃の女の子であることが分かる。


 彼女は四大精霊の一角である大地の精霊(ディーダ)と秘泉と呼ばれる憩泉の精霊(ユーチー)、数々の恵を施す援樹の精霊(ユーシュ)と契約しており、ヒール適正の高い優秀な精霊使いだ。しかしシェリロルは自身の能力の高さに気がついていない様子だった。

 プリゾネイの独特な文明や学習形態によって精霊に関する知識が皆無なのだ。


 そんな世間知らずのシェリロルは冒険する俺たちへの羨望を語った。外の世界を知ればどんなに楽しいかと目を輝かせた。そんな事を言われては、俺の返す言葉はひとつしかないだろう。


「俺達ヒーラーが欲しかったんだ。良かったら、一緒に脱出して冒険しない?」


 ということでシェリロルは俺たちの新しいパーティーメンバーとして堂々採用した。


 かくして俺の錬成魔法を利用して小舟を生成し、シェリロルの精霊の力でなんとかプリゾンイルから脱した。もちろん看守という追跡者がいたが、俺たちのパーティーにはイヴィアナとグレアムという超火力要因の反逆者が居るのだから心配するまでもない。


 そして本来の目的地であるユミルテ王国に到着した。ユミルテ王国は魔竜の巣が近辺にあり、暴徒化した魔竜の被害が世界一多い国である。ちなみに魔竜などの魔物を生み出したのは400年前の最凶と謳われた魔王であり、討伐しきれないほどの魔物がこの世界に存在する。


 とある城塞都市を襲った魔竜を4人で退治したことから、ユミルテ王国との交流が始まった。ちなみにイヴィアナの謀略通りらしい。

 そこで邂逅したのは、後に仲間になる竜討伐団団長のエリィだ。

 彼は花紫色の直毛で、真っ赤なタッセルのイヤリングをし、眼帯に右目をした少年だ。淡々としているが金色(こんじき)の瞳は燦然と輝いており、笑うと八重歯が見える可愛らしい所もある。


 エリィは暗黒騎士で死神と契約して右目を喪う代わりに刀に死の魔法を纏えるようになった。この刀で少しでも斬られてしまうと並の人族や魔族ならば即死らしい。俺を超えるチート能力の出現で頭を悩ませた。


 そんなエリィにも討伐できない魔竜はいた。魔力を身体に纏うことで魔法や攻撃を受け付けない最強の盾を持った魔竜である。この難攻不落の魔竜は時折王都を襲い、ユミルテ王国は多大なる被害を被っているらしい。

 これまたチート能力を使う魔竜だったが、俺の能力無効化の魔法には及ばず、ご自慢の盾を破壊された後は呆気なく終わった。魔竜にも畢生があるだろうが、人様に迷惑をかけるのは宜しくない。


「リアト。お前のパーティに入れてくれないか?」


 淡白で孤高の騎士だと思っていたエリィの口から出た言葉だと思わず、俺は二度見した。エリは顔を赤くして頬をかいている。やはり可愛らしい側面がある。


「でもエリィ、ユミルテ王国の事は…」

「国王陛下には承諾を得てる。リアト達となら、上手く戦えると思ったから。多分だけど…」

「いいじゃんいいじゃん!入ってよエリィ!グレイも前線が増えると嬉しいと思うし」

 イヴィアナはエリィに駆け寄り、明朗に肩を組んだ。


 拒む理由なんてない。元より勧誘したかった所を、竜討伐団団長という高官の立場があり憚られていたのだ。


 かくして俺リアトと、魔道士イヴィアナ、名誉騎士グレアム、精霊使いのシェリロル、暗黒騎士エリィの五人パーティとなった。

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