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38.伝説のパーティー


「アイユイユの魔力は気持ち悪いから気付くわよ。あなたの誘いに応じた時点で負けていたのは私ね。質問に答えなくたってアイユイユの慧眼(けいがん)は私の全てを見透かすものね」


 まずい。私がマルシュに対して執拗に疑念を抱いていることが露呈してしまった。


「そう……だね……」


 これ以上踏み込んだ質問は出来ないな。大胆な行動を起こせば、ここで密会している私も、それを覗くアイユイユもマルシュに殺されてしまうかもしれない。だから琴線に触れないようなギリギリを攻めた質問をしているつもりだった。


「イヴィアナの言う通り、私は伝説のパーティーの1人よ」

「ほ、ほんと!?!?握手して!」


 本当は触れたくもないが、伝説のパーティーに憧憬を抱いているのは嘘ではない。


 大賢者様や名無しの勇者様は遠い昔の英雄だが、伝説のパーティーはたった数年前に出没した正体不明の冒険者パーティーだ。こんな魅力的な肩書きに惹かれない人はいない。


「マルシュが魔道士の1人でホワステル様が神官でしょ?あとは銃使いの戦士と精霊使いともう1人の魔道士!わぁ、目の前に本物がいるだなんて……」


 演技をしている時点で私もこの女も、大して変わらないのかもしれない。もう、ただ純粋に伝説のパーティーに憧れていた私には戻れない。


「少し違うけどね。ホワステルは神官じゃないから、私たちのパーティーは3人が魔道士よ。あとは銃使いの戦士と、精霊じゃなくて星神(せいしん)使いね」

「えっ、キャメリチスと同じ星神使い?凄いね……マルシュも黒魔法使いだし、やっぱり伝説のパーティーって格が違うんだ……」

「そんなことないわ。私が1番"普通"で、1番弱いわよ」


 "普通"──どういう意味だろうか。それに1番弱いとは聞き間違いか?


 400年前、世界の覇権を握った黒魔法を使うマルシュがパーティーの中で1番弱いとは、治癒系の魔法を主体とするホワステル様よりも弱いというのか?


「言わなくてもわかると思うけど、私が伝説のパーティーだってこと言わないでね」マルシュは悲壮感を漂わせて続けた。「私たちのパーティーは今や世界で名を馳せる伝説のパーティーになっちゃった。そのパーティーに黒魔道士がいたら、皆の憧憬(しょうけい)も一瞬で冷めるでしょう?私はあなたみたいな純粋な憧れを持つ子の夢を壊したくないのよ。ホワステルみたいな真っ当な天才が讃えられるだけでいいの」


 ホワステル様以外が姿と名を眩ませているのも、マルシュのように隠さなければいけない理由があるのだろうか──そう勘繰った。


「純粋な疑問言ってもいい?」

「いいけど、これで最後ね」


 マルシュの一瞥(いちべつ)には抑圧感があった。少し踏み込みすぎたか。


「伝説のパーティーはどうして魔王を討伐しなかったの?」

「聞かれると思った」と言い、マルシュは魔王領の方角を向いた。「……"別の目的が出来たから"よ。今もその為に頑張ってるの」

「別の……?」


「ええ」と言い、マルシュは逃げるように暇乞いをして立ち去った。


 "別の目的"か── まだ伝説のパーティーがマルシュの裏切りに関与しているとは決まっていないが、怪しさが増した。


 マルシュたちは恐らく"魔王を討伐出来ない何かしらの理由"のため、私たちに討伐させようとしている。


 災厄の根源を倒すことに躊躇はないが、マルシュたちの思惑通りに動くつもりもない。

 今回はそう易々と魔王討伐に行ったりしないから。


 マルシュと話し合った後アイユイユと落ち合い、カフェでお茶をした。アイユイユは私の好物をよく知っている。私が何も言わずともテーブルの上には私の好みのスイーツや飲み物が乗っていた。


「こんな感じでしたね」


 アイユイユはハーブティーを嗜みながら話した。彼によると、マルシュが人族だと主張した所と伝説のパーティーであることを肯定した場面を含め、全て嘘偽りない真実を告げていたという。


 災禍の四柱ディアルキャルと気脈にあるため、魔族である可能性が高いと思っていたが、まさか人族だったとは──人族で魔族と結託しているのはどういう風の吹き回しだろうか。


「アイユイユはマルシュが伝説のパーティーだってこと知ってたの?それとも宮廷の遣いは知ってたり?」

「いいえ、伝えられてませんでしたよ。ただワタクシは魔法を発動しなくても無意識に真実と虚実を見分けられてしまうので」


 本当に羨ましい魔法だ。アイユイユの魔法さえあれば、私もマルシュの陥穽(かんせい)に落ちることはなかったかもしれない。


「それより気になったのはイヴィアナ嬢の方ですよ」

「それは秘密にして」とそっぽを向いた。


 無意識に発言の真偽を識別できるなら、私の嘘で塗り固められた言行も全て露見しているだろう。


「私、マルシュとちょっとあって、苦手意識を持ってるの」

「そうですかぁ……」


 虚言でない私の言葉を視て、アイユイユは不貞腐れながらもこれ以上追求してこなかった。


 少し不機嫌になったアイユイユを、その後の散策で機嫌を直した。彼はデートなんて戯けたことを言っていたが、決してそういう行為ではないと何度も否定しておいた。


 アイユイユと出掛けた理由は協力のお礼だ。変人研究者ではあるが、連れて行ってくれる場所は至って平凡で、心地の良い場所で、想像以上に一日を満喫できた。また今度一緒に出かけるのもありかもしれない。


「おかえりイヴィ、遅かったね」

「ただいま」


 宿屋に戻ると私以外の4人は晩食をとっていた。グレアムに続いて皆が「おかえり」と言う。


「夜ご飯いらないの?」

「アイユイユと食べてきたから大丈夫」

「え?結局アイユイユと出かけたのかい?」

「ちょっと用事があってね。心配しなくても結構楽しかったよ」

「えー」なぜかグレアムは頬を膨らまして不機嫌そうだ。「明日は一緒に出かける?」

「エリィの鞘まだ見つけてないんでしょ?そっち優先にして。ただでさえ大太刀なんて希少な武器なんだから」


「あれだけブツブツ言ってたくせに、2人で出かけてこいよ……」というリアトの呟きが聞こえたが、無視することにした。やかましい。


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