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22.やり直している理由


 やにわに斬撃が何かに切り裂かれ、一刀両断されるだけだった俺の体躯(たいく)はまだ無事だった。あれほどの魔力が凝縮された斬撃をどう分解したんだ。


「大丈夫か?まだ魔王との戦い終わってなかったのか?」


 クリファイドは周囲を確認し、動揺をみせる。彼が俺の窮地を救ってくれたみたいだ。魔王がどこにいるか探している。


「クリファイド、魔王はもう倒したんだ。確実に。でも、別の何者かがシェリロルを殺った」

「どういう事だ。マルシュから聞いてたが、正夢になるとはな」


 大剣を構えた勇猛なクリファイドでさえ盲目の魔族の居場所が特定できず、「気持ち悪い」と罵る。


「リアト、間に合ったみたいで良かったわ」


 クリファイドに続いてマルシュが到着し、黒魔法で斬撃魔法を消滅させながら、俺に近づいた。脅威的な斬撃を一蹴できる2人はあの魔族との相性がいい。やはり救援を事前に懇請(こんせい)しておいてよかった。


「俺はいいから、早くイヴィアナとグレアムとエリィを連れて逃げてくれ」

「何言ってんの!リアト!!」

「イヴィアナ、先に行っててほしいだけなんだ。頼む。足止めなら余裕でできる」

「私の方が強い魔道士なんだから、そこは譲れないよ!」

「俺はイヴィアナより弱いけど、この魔族相手ならイヴィアナよりも立ち回れる自信がある」


 イヴィアナはこの盲目の魔族のような、隠密が上手(うわて)の敵が苦手なのは自身でも分かっているはずだ。証拠に図星を突かれ拳を握りしめている。


「それなら私も足止めできるわ。リフ、3人を連れて逃げて」

「分かった」


 クリファイドはマルシュの指示通り、動き出した。


「まってマルシュ、危ないからいいよ!」

「1人で相手する方が危ないに決まってるでしょう?そろそろホワステルもくるから、勝てるわ」

「でも……」


 マルシュの綺麗な肌に斬撃が少しずつ被弾し、流血していた。熟練の魔道士──宮廷魔導師ですら感知できない斬撃は、次こそは心臓を切り裂くかもしれない。何度も斬撃をいなすマルシュの動きも鈍くなってきている。


「平気よ。イヴィアナより繊細に魔法を使えるから。火力はそこまでだけどね」

「あぶない!」


 マルシュに斬撃が迫った瞬間、俺は咄嗟に押し倒した。ちょうど斬撃が視界の正面から襲いかかっていたから、感知できたのだ。


「ご、ごめん……"打ち返す(ルクシオン)"が効かないから、なんの魔法使えばいいか分からなくて……」


 床ドンならぬものをしてしまった。真っ赤な瞳が俺を見つめる。慌てて身体を起こして、顔を手で隠した。絶対に赤面している。


「大丈夫よ。ありがとうリアト」

「う、うん」


 指の隙間からマルシュの顔をみた。彼女の顔が綻ぶ度に何度も感じるこの心地良さと、至福の感情は、俺には勿体ないものだ。


 ふとマルシュの笑顔の背景で斬撃が通り過ぎようとしていた。


 こういう大事な場面ではこの世界の動きがわかり易く緩慢(かんまん)になる。いや、これは今回の旅で学んだ魔法の一つ『|重要な時だけ時間を遅らせる《レイタルト》』だ。無意識の無詠唱でも魔法が発動するとは思わなかった。一度しか使わなかった汎用性のない魔法がここで発揮するなんて…………とんだ僥倖(ぎょうこう)だ。


 斬撃の向かう先では、イヴィアナとグレアムが話し合っていた。あれだけ切迫する斬撃に、2人は勿論マルシュとクリファイドさえ気が付かない。


 このまま時が無常に流れれば、イヴィアナとグレアムが斬撃に直撃する。


 俺は何のためにやり直している?何のために2度目を経験している?自分が生きたいから?──違う。


 仲間を──イヴィアナとグレアムとシェリロル、エリィを救うためだ。


 慎重に狙いを定めろ。グレアムとイヴィアナ2人を救い出すんだ。誤差であってもズレは許されない。2人同時に入れ替えるのは初めてだが、大丈夫なはずだ。こういう場面では失敗しないのが物語として決まっているだろう。


 これでいい。俺はこの為にやり直したんだ。


入れ替われ(ヴェルチェン)


 この魔法を使った時の時空移動の不快感はいつになっても嫌いだ。


 血飛沫が俺の視界に(ほとばし)る。俺の位置に移動したイヴィアナとグレアムが絶望的な形相をしている。


「「リアト!」」


 二人の声が重なり、(こだま)して、くぐもって、哀しく聴こえた。


 俺がいない世界でも、お前らが幸せであればそれでいい。俺は楽しかった旅を回顧して永劫に眠っていよう。


 無知な勇者は再び死した。


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