21. 2度目?の魔法討伐
また魔王を討伐した。
前と同様魔王の死体は微動だにせず、暫くすると消滅した。
俺は緊張感と達成感で呆然としていた。手が小刻みに震えている。恐怖も追加しておこう。
「イヴィ、君の願いが……ううん。僕たちの願いがやっと叶ったね。これでイヴィの望む世界が見れるかな」
グレアムは前と変わらず天を仰いで呟いた。
「そう……なるかな」
イヴィアナは空虚に呟く。
「これで僕もイヴィのワガママから解放されるね」
「うるさい」
イヴィアナと遭逢してから始まった2回目の冒険が再び終着点についた。イヴィアナとグレアムの夢も2度目の成就だ。
俺は2人の幸福を最期まで絶対に見届けたい。
突如、頭痛が走った。あの時の迸る血がフラッシュバックした。
「リアトさん、大丈夫ですか?少し休んでから帰りましょ!憩泉の精霊を呼びます」
俺の言動の変化で、周囲の仲間たちの言動も変化する。運命の変動は繊細だ。
「偉大なる精霊王よ、吾が御名と魔力をもって憩泉の精霊の御加護、賜らんことを!」
いつも通り大仰な召喚詠唱を宣い、憩泉の精霊が出現した。
精霊と対話出来るのは精霊使いだけで、俺たちにはただの光の集合体のようにしか見えないし、音を発しているようにも聞こえない。
「とりあえず俺がおぶろうか?そこの柱にでも」
「辞めてくれよエリィ恥ずかしい」
「遠慮はいいって」
「自分で歩けるよ」
エリィが俺の腰に手を当てたところで素早く回避した。すると彼は眉を下げた子犬のような顔をするので、手を掴んで例の柱まで連れて行ってもらった。
「ユーチー、リアトさんを癒してあげてください」
ユーチーによる治癒で、俺の暗鬼も疲労も消し去ってくれた。今ここで寝れるかもしれない。
「何やってるの?休むなら帰ってからにして。こんなとこでのんびりしてたら、残党に敵討ちされちゃうでしょ?」
イヴィアナの発言は前回と同じ意味合いで、少し脱線した運命を引き戻してくれた。イヴィアナの言う通りこの場は直ぐに離れた方がいい。幸いまだ襲撃は来ていない。今のうちに離れなければ。
「ま、イヴィの言う通りだね。リアト、大丈夫そうかい?」
グレアムの呼び掛けも前と同じだ。
「大丈夫。早く帰ろう、駆け足で」
シェリロルを引き寄せた。前回は次の瞬間にシェリロルが斬首される。
「どうしたんですか!?リアトさ──」
前回同様斬撃がどこからとも無く襲来した。今回も魔力の気配を感じ取れない。
シェリロルに安否の確認をしようと下を向くと、シェリロルはなぜか赤面していた。いつも同じ部屋で寝ているのに今更どうしたのだろうか。
(いや、本当に何もないけど)
「みんな!一応物陰に隠れて!」
イヴァアナの果敢な叫びにエリィとグレアムが脊髄反射で動いた。
「なんなんだこれ」
「さぁね、ほんとなんなのか私も知りたいよ!」
エリィとイヴィアナの掛け合いの声がする。 ひとまずはシェリロルがまだ存命なことが運命の変異になっているはずだ。歪みが出来れば運命の歯車は少しずつ狂い出す。
「イヴィ、リアト、敵は見えた?」
グレアムの問いにイヴィアナと俺は首を振った。
この斬撃は"記憶を辿る"で見た通り、盲目の魔族による魔法だ。
「ねえリアト、これってもしかしてアイユイユとマリオネを襲ったあの魔族と同じ?」
イヴィアナは翡翠の瞳に焦燥を浮かべる。
「そうみたいだな」
「最悪の相手……私じゃ相手にならないかも」
隠密する魔族と繊細な魔力コントロールを不得手とするイヴィアナとでは相容れないのは仕方ないだろう。魔族の姿さえ見えればイヴィアナの大火力の魔法で一網打尽にできるというのに。
「やっぱり大魔族か……」
魔王城の番人ネベルブリーヤと不可知のユーペスと、魔王直下の大魔族は既に屠っている。これほど精密な斬撃を繰り出す魔族が高名ではないことに疑問を感じた。
「もしかすると、昔の大魔族だったりしますか?私見たことあります……!かつて最恐の魔王が存在した時の、災禍を起こす4名の大魔族がいたと……」
シェリロルの類推に全員が首を傾げた。
「童話かなんかの話じゃないの?そんなの聞いたことない」
イヴィアナの否定を皮切りにグレアムもエリィも首を振った。もちろん俺も知らない。
「え?そうでしたか……すみません」
シェリロルは変に気を落とした。いつもと少し変わった雰囲気が漂う。
「訳の分からない敵と戦うより、逃げた方がいい。撤退しよう!みんな」
戦おうとしても無駄なことは前回で痛いほど学んでいる。みんな俺の提案に無言で頷いた。
「私が少し足止めをします!そのうちに逃げましょう。偉大なる精霊王よ──」
「シェル!やめて!!」「シェリロル!!まて!」
イヴィアナと共に怒号を響かせたが、叫びも虚しくシェリロルは突如現れた斬撃に腹部を切り裂かれた。
シェリロルが力なく倒れる。指のひとつも動かなくなっていた。
「グレアム、エリィ!絶対動くな!」
善人のグレアムなら絶対に動きを見せると悟り、先手を打った。
やはり盲目というデバフのせいで、魔力で敵を探知している。シェリロルは精霊使いで元から魔力も高く、精霊を召喚する時には更に魔力を高める。魔力に敏感なあの盲目の魔族の格好の餌食なのだ。
障害物に隠れていても埒が明かない。そもそもあの魔族は絶対に──
「イヴィ!」
そうだ。絶対に障害物なんて関係がない。
ちょうど今イヴィアナが隠れていた柱が豆腐のように簡単に真っ二つになった。
危急を理解したグレアムが持ち前の瞬発力でイヴィアナを救出していた。魔力も何もないグレアムが第六感で攻撃を感じ取れる才能は、盲目の魔族に引けを取らない化け物である。
「どうすれば……」
何かを案出しなければ、じきに斬撃が全てを破壊する。アイユイユとマリオネが死んだあの現場を見れば一目瞭然にわかる。この盲目の魔族はまだ手加減している。
一か八か、やるだけ試してみるしかない。
中央の開けている場所に躍り出た。
「リアト、なにしてるの!!!」
イヴィアナの裏返った叫び声に、聞こえないフリをした。
前回も死ぬのは嫌だった。こんなにも最高の仲間たちと冒険できる果報を感じている中、不本意に死ぬなんて辛かった。
今回も死ぬのは嫌だ。今回死んだら次があるとは限らない。
だけど、人生は挑戦の連続だ。2度目でも1度目でも臆する暇があれば、当たって砕けるべきだ。そっちのほうが俺としても成長する。
斬撃が思わぬ方向から建物を切り裂きながら切迫する。今回は何とか反応できた。
打ち返せ。この死を刻む斬撃でさえ、俺に及ばないと思え!
『打ち返す』
杖に込めた詠唱と魔力が斬撃を受け止める。単純なほど圧倒的な魔力が凝縮された斬撃だ。
俺の杖にヒビが入り、崩壊していく。イヴィアナとグレアムに貰った思い入れのある魔法の杖が、硝子のように砕け散った。
"打ち返す"は対象の魔力を受け止められるか否かで成功率が決まる。イヴィアナのように魔力量も莫大にあるわけでもない。未熟者の俺では無理だった。
こんな不本意に死ぬのか……
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