9.勇者と呼ばれるワケ
前回と同じように、シェリロルとエリィに会うまでの長い3人の旅が始まった。
グレアムとイヴィアナはよく2人で楽しく話している。2人の身長差は30cmくらいあるのだろうか。後ろから見ていると視覚がおかしくなりそうだ。
まあ、俺が170cmあると言うのにそれより10cm以上も高いグレアムが大男すぎるだけだろう。
「リアトは"万能魔法"の使い手なんだ?」
「そうだよグレイ!どう?いい仲間見つけたでしょ!」
イヴィアナは普段から天真爛漫だが、グレアムと会話する時はさらに幼稚になる。幼少からの付き合いで気兼ねなく接せる間柄なんだろう。
「ならリアトは"勇者"かもね」
グレアムは鷹揚な翡翠の瞳を俺向けて言った。
そういえばこれは俺が勇者と呼ばれる濫觴になった会話だ。
今考えても勇者という称号は歯がゆい。それに勇者が魔道士というのもどこか風采が上がらない。
「勇者?俺が?」
「うん。結構本気で言ってるよ。だって異邦人で万能魔法の使い手なら、伝説に似てるから」
「名無しの勇者ね〜……」
そう言うと、イヴィアナは俺の頬を人差し指で突っついた。
イヴィアナに出会った時に聞いた逸話を想起した。
400年前。万能魔法の異邦人である"名無しの勇者"が、黒魔法使いの魔王をたった1人で討伐した。そして魔王の側近はイヴィアナの羨望の的──同じく万能魔法を使う"大賢者様"が相手をし、魔王領を席巻したと言う。
この叙事詩が童話や伝説となって現代に伝承し、"名無しの勇者"と"大賢者様"が後世で崇拝されるようになった。
「ふう〜ん。じゃあリアトが勇者なら…………私たち、勇者パーティーってやつ?」
「それに力が見合うといいけどね」
「グレイと私なら大丈夫でしょ!リアトに見合うよ!」
「なに言ってんだよ!俺より何百倍も強いじゃんか」
この一件を経てイヴィアナが俺を勇者と喧伝し始め、対して強くもない勇者の名が広まった。
その後、順序立てて監獄島プリゾネイに漂泊し、同じようにシェリロルとみかんを発端に出会った。夕焼けさながらの瞳を見るのは本当に久しぶりだった。やはり幻想的で唯一無二の美しい瞳だ。
絶海の孤島からの脱出は2度目と言っても肝が冷える体験だった。前回と異なり、魔法の修練が進んでいたおかげで危機が半減したのは良い点だ。
「なぜユミルテ王国に行くんですか?」
「それはね……冒険に"なぜ"なんていう考えは必要ないんだよ!シェリロル」
ユミルテ王国までの航海中での雑談だった。イヴィアナは外の世界を知らないシェリロルに夢を与えたいらしい。
「正当な理由でいうと、魔竜の動向を探るためだよ。ついでに魔竜退治」
「ちょっとグレイ!浪漫ってものを知らないの?」
「シェリロルだって困惑してるだろう?」
当のシェリロルは夕陽さながらの目を輝かせて「これが冒険……!」と呟いていた。
純粋無垢で無知蒙昧なシェリロルはいわば真っ白なキャンバス同然。俺たちの言行をなんでも受け入れ染み込ませていく。
前回もこの出来事から、自分たちの言動を省みることにしたんだった。
「それはともかく!シェリロルのこと、シェルって呼んでもいい?」と、イヴィアナがシェリロルの手を取る。
「え?シェル……とは?」
冒険心に胸躍らせていたシェリロルはようやく困惑の様相を呈した。
「ただの仲のいい証!名前を崩して呼ぶのが主流なの」
「仲良しということですか……?初めての体験です。是非!」
「ほんと?やった〜!じゃあ今日からシェルね。私たちのことは好きに呼んで。リアトは未だに愛称で呼んでくれないけど」
イヴィアナの薄目がこちらを凝視する。彼女は元いた俺の世界で言う"陽キャ"ポジションで距離感の詰め方が異常だ。それは置いといて、愛称で呼ばない理由は別にある。
「俺はイヴィアナとグレアムの名前が好きなんだ。もちろんシェリロルもね。だから好きに呼ばせてくれ」
俺が背を向けて話すと、イヴィアナは横から覗いてきた。俺の表情を見るなりイヴィアナまで顔を赤くして引っ込めた。照れ返しするなら端から覗かないで欲しかった。
その後順調にエリィと再会──邂逅を果たして前と同じパーティーメンバーでの冒険が始まった。
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