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「理解できたか――大葉恭司は相沢仁の前世であり、相沢仁は大葉恭司の生まれ変わりだ」
過去を思えば、秀一の野郎に、『いつから銀幕デビューしたんだよ』と、TSUTAYAでからかわれたことがある。全然似てねぇよと、吐き捨てた。が、今を思えば、DVDのパッケージが、曇りのない鏡へと成り変わる。鬼を名乗る者は、鏡を覗き込むカリスマ美容師みたいに、得意気だった。
「言っただろう、俺は鬼だと。お前達人間が言うところの、あの世とやらからやって来た。そんな世界は、霊界と呼ばれ実在する。そしてそこには――お前達人間の空想も、地に足着けて実在する」
新興宗教よろしくの託宣だったが、その口調に淀みはない。
「前世と生まれ変わりを繋ぐものは記憶。転生とは―記憶の継承のことなのさ」
そして鬼は――指差した。
「その指輪、ブラックリングは――本来魂の奥底に潜在的に眠っている前世の記憶を、呼び起こし、そして顕在化させる。最初に指を通した所有者たる者の、前世の記憶をな」
仁は――黒き髑髏に、目配せする。
母親に尻を叩かれた記憶、田舎で芋を抜いた記憶、煙草を嗜んだ記憶など、これまで経験したことがないと断言できる数多の記憶は、やはり大葉恭司のものらしい。前世の記憶を呼び起こす指輪。随分と、イタコ泣かせな代物だ。
「さて、堅苦しい新説を教授する、そんな親切はここまでだ――」仕事を終えたサラリーマンが部下を馴染みのバーに誘うようにして、鬼を名乗る者は、次の話を切り出した。案内されるがままカウンター席につき、お薦めの酒を頂くことに、一滴の躊躇もなかった。
「ブラックリングには、前世の記憶の顕在化の他に、ハッピーなプレミアムがついている。いや――そっちがメインかもしれねぇな。いずれにせよ、その機能を発動させるには、とある条件の達成がキーとなる。俺達鬼は、この人間界に、この加護江市在住の五人の人間に、ブラックリングをもたらした。五人に鏤められた五つのリング。その全てを集めることこそ、その条件だ。お前は最後にリングを授けられた所有者だから、遅れをとっちまった形になるが、まぁそんなハンデは、大して派手なもんじゃねぇだろう。さて、肝心のその機能だが――」
差し出されたグラスに注がれた酒は――
「願い事、つまりは――夢が叶う」
甘く、熱く――美味かった。
意識は融解し、液体になり、蒸発して、気体となって拡散する。新鮮な果実のように全身が汗で濡れそぼり、皹割れた大地のようなその喉は、更にその酒を渇望する。
夢が――叶う。
ファミリーレストランでオーダーをする際、あまりの優柔不断さに、秀一をイラつかせる仁だったが、無限の品揃えを誇る品書きを手渡されても尚、この瞬間に至っては、既に注文を決めていた。この美酒が最も引き立てる、唯一無二の佳饌を頼む――
初めての恋を、失いたくはない――
俺は――
山野井千尋と――相思相愛になってみたい。