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「本当に……夢が……叶うんだな?」
自分の前世が伝説の極道であったことなど疑わしい、その記憶を呼び起こす指輪など疑わしい、何より自分で自分を鬼と言っちゃう奴など疑わしい、これは巧妙な罠だろう、きっと遠慮したい裏があるに違いない。そんな声が、その声を喉の奥に引き摺り込む。それでも仁は、相沢仁は――黒いウェディングリングを凝視したまま、語尾のみならず、その言語そのものを上擦り出す。
「ああ、お前の悩み事も解決できるだろう。まぁ、ものは試しだ。先ずは騙されたと思って、その玩具で遊び半分に遊んでみろ。それじゃあな――ボーイズビーアンビシャス」
鬼は言った。何度聞いても気障ったらしい物言いだ。仁は顰めた顔を持ち上げる。が――外灯に明かされることのない夜闇に還ったかのように、その影は形を消していた。故に、その興味も消え去った。形なき故に、消え去った――
「夢が叶う―」
仁は言った。その黒き髑髏を―形を成した夢を、俯瞰して。
そして歩き出す。爪先が子離れ知らずの父親が待つ自宅に針路を取ろうとも、その瞳には、踏み締めるべき表彰台の頂が映っている。そしてその足も、スニーカーに羽でもついているかのように、歩みを宙に浮かせていた。傍から見れば、ただの制服を着た酔っ払いである。そんな快楽に身を投げた者は、駐車場に進入して来た車にも、容易くその身を投げかける。ヘッドライトとクラクションが、バケツの冷水のようだった。
「どこ見てんだクソガキ!」
そして罵声も浴びせかけられた。もはや原型を残さぬ程に改造されたサツマイモ色の日産セドリックから、二人の男が、その柄の悪い姿を現した。しっちゃかめっちゃかにボルトが刺さっているようなドレッド頭と、ネット包帯のようなラインを施した坊主頭の、そんなどうにも痛々しい頭と頭とが、車中から漏れる愉快な音楽の中でぶらぶら踊る。「未成年の癖に酔っ払ってんのか?」そして酒臭い威気を吐く。故に二人は、強面で体格のいい相手に臆することもなく、身体を擦り付けんばかりに詰め寄ると、下から上へ舐めるようにガンをつける。故に仁は、産毛を剃ってくれるような視線にではなく、そのうらぶれた公衆便所のような口内にのみ着目する。そんな嘲笑を、恐慌と見てしまうのがこういう輩。ドレッドと坊主は、更に声高く、大人を侮る子供のような悪口を撒き散らす。いつもの仁ならば、大きな身体をダンゴ虫のように丸め、坂を転がるようにして、あくまでも戦略的に、撤退を決め込むシーンである。
しかし、今宵は違った――
今宵からは――違った。
『その玩具で遊び半分に遊んでみろ』鬼の言葉が、頭の中でファンファーレのように鳴り響く。仁は、右手の玩具に注いだ視線を、やがて眼前の玩具に突き刺した。
「安っちぃ舌で、謳ってんじゃねぇよ、このプロンカー」




