第5話 鮮血に染まる月
魔剣の持つ、所持者を操る能力は凄まじいものだった。
今までわたわた動いていたカノンの足取りは無駄のないモノになり、剣を握る手も無駄な力が抜け様になっている。キラーハウンドが牙を剥いて襲いかかってきても物怖じせず魔剣の腹で受け止め弾き返している。
その立ち振る舞いはさながら熟練した剣士だ。
「すっご! 剣士ってこんな動きができるんだ!」
『がはは、凄かろう! これが私の力だ!』
自分の力を褒められて魔剣は嬉しそうに笑う。それに呼応しカノンの剣を振るうスピードも速まるが、中々キラーハウンドには命中しなかった。
『む、奴らビビって近づかなくなってんな。早めに決着をつけなきゃいけねえのに』
魔剣のその意味ありげなセリフにカノンは引っ掛かりを覚える。
「へ? 早く倒さなきゃいけない理由でもあるの?」
『いいか、今私は小僧の身体を無理やり動かしてるんだ。つまり普段は出来ない限界を超えた動きをしていることになる』
「う、うん」
『当然身体への負荷はデカい。今小僧の身体の骨は軋み筋肉は悲鳴を上げているだろう。このまま戦闘が長引けば……お前の身体は限界を迎えて爆散するだろう』
「ば、爆散っ!?」
魔剣から出てきた物騒なワードにカノンは吹き出す。
突然手にした強大な力、なんの代償もないとは思ってなかったがまさかそこまで重い代償があったとは想像していなかった。
最悪の事態を想像し魔剣を握る手に汗が滲む。
するとそんなカノンの不安を察したのか魔剣は優しく宥めるように話しかけてくる。
『なあに安心しな、とっととこのつまんねえ戦いを終わらせればいいだけの事だ』
「そんなこと言ってもあいつらは逃げ回るから攻撃が当たらないじゃないか」
『簡単な話だ……神の血を使えばな!』
「エリクサー……ってあれのこと!?」
魔剣がエリクサーと呼んでいるのはカノン特性トマトジュースのことだ。
確かにアレのおかげで魔剣は意識を取り戻し封印から解放された。しかしそれでもアレが魔剣の力になるとは信じられなかった。
『くくく、気づいているぞ。お前がエリクサーを持ってきていることは。それを早く私に飲ませろっ!』
「うう……仕方ないか」
カノンは何かに使うかもしれないかと懐に忍ばせていたトマトジュース缶を取り出す。
これで本当にこの窮地を脱することが出来るとは信じ難いが頼れる物はこれしかない。覚悟を決めたカノンはその缶を上に軽く投げ、魔剣で缶を斬りつける。
「ええいっ!」
カノンが魔剣を振ると、宙に浮いたトマトジュース缶は綺麗に真っ二つに割れる。
そしてその中から真紅の液体が飛び散り、魔剣の刀身へと吸い込まれていく。
『キタキタキタキタァ!!』
神の血を吸った魔剣の刀身は真紅に染まり、赤黒いオーラを纏う。その様はとても恐ろしく、本当に血を浴びたみたいだ。
『カノン! 大技を出す、しっかり合わせろよ!』
「え、あ、うん!」
カノンは魔剣から伝わってくる命令にシンクロするように身体を動かし、魔剣を自分の頭上に振り上げる。
すると魔剣から尋常ではないほどの魔力が放たれ、辺り一面に濃厚な魔力が充満する。
それに驚いたキラーハウンドたちは目の前の存在が自分たちより遥かに上位の存在だということに気づく。急ぎ尻尾を巻いて逃げ出そうとするがもう遅い。既に魔力は溜まっている、後は振り下ろすだけだ。
『「鮮血二染マル月」!!』
魔剣から放たれたのは全長十メートルはある巨大な三日月型の衝撃波。
鮮血のように鮮やかな赤色をしたそれは一瞬のうちに逃げるキラーハウンドを飲み込み、辺りの大地ごと無に返してしまう。
巨大な破壊の嵐は大地、岩、木々、それら全てを根こそぎ消し去り、カノンの目の前は地形が変わってしまう。
『がはは、中々いい攻撃だったぞ!』
「は、はは……」
自分が手にした力の強大さに驚き腰を抜かすカノン。
絶対にこの力を間違ったことに使っちゃいけない。彼は心の中でそう誓うのだった。
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