第97話 僕とアイツの奇妙な関係
「やあ、美里ちゃん。今日も可愛いね」
あうー。
僕は今、壁からチェーンが伸びた首輪をはめた、下半身裸の若い女性の前にいる。
”あの日”以前にこのセリフを聞く者がいたとしたら、きっとエロいことを想像するに違いないが、残念ながらそうではない。
美里ちゃんは、僕の隣人なのである。
なんだ、やはりエロいじゃないかと思われるかもしれないが……まあ、特殊性癖だとか「僕は病気とか気になりません」って感じの変な人から見ればエロいっちゃあエロいのかもしれないが、僕としてはとてもそんな気分にならない。
だって ぞんび だもの。
み〇を。
……そう。この娘は、”あの日”初期から対面の部屋である304号室で養っているBカップゾンビちゃんなのである。
美里ちゃんと言う名前は僕が趣味で付けたんじゃないぞ。
彼女の部屋から見つけた、彼女の学生証とか通帳に記載されていた名前がそれだったって話なのだ。
そうと知っていても、僕の中では彼女の呼称は「Bカップ娘」もしくは「Bカップゾンビ」であった。しかしながらここ最近では、本名であろう「美里ちゃん」と呼んでいた。
今までは成り行き上と言うか、自分でもよくわからない責任感で世話をしてきただけなのだが、最近では会いに行くのを楽しみにしている自分がいたりする。「美里ちゃん」と愛称で呼びだしたのも、その辺りの心境の変化があったからであろうか。
ペットとかに覚える、情の様なものと同じなのだろうか。
少なくとも女性に対して覚える類のものではないと思うが、人の姿をしている分、世話をしながらも色んなことを話しかけてしまう。
今日あった出来事とか、茶々丸のイタズラの話とか、元カノの話とか、マヌケな玉置さんのこととか。
ゾンビに話しかけたって会話どころか理解さえしてくれないと分かってはいるし、この行為は傍から見れば頭を疑われることは理解している。しかしながら、これが僕のストレス発散となっていることは間違いなかった。
美里ちゃんが下半身裸の理由であるが、以前も述べたかと思うがエロ目的ではないぞ。
ゾンビというのはそれっぽい容姿や習性からそう言ってるだけであって、彼女たちは死体が動いてる類ではない。脈拍や新陳代謝等が低下してるとかエネルギー効率が良くて少量の食事でもなかなか餓死しないとかヒトとしての機能は違ってしまえど、生物としてはちゃんと生きているのだ。
要するに、食事をすれば排泄もするのだ。パンツとかいちいち履かせていたら、脱ぐこともしない故に逆に不潔で仕方がない。
故に、下半身は何も身に付けさせず、垂れ流された排泄物はすぐに洗い流せるようにユニットバスで養育している状態なのだ。
この方法は僕がなんとなく考え付いたものではあるのだが、ラジオから聞こえてくる放送の中で「感染者の介護」というものがあり、そこでも介護環境作りの一例として紹介されているくらいの方法であった。人間、考えることはだいたい同じらしい。
ただ、この放送からは色々役に立つ情報を得ることができている。
なるべく排泄の回数や量を減らしつつゾンビにとって生きながらえれる程度の食事量とか、今でもスーパー等で手に入る素材を使ってかつ日持ちするゾンビフードの作り方とか、怪我をさせない為のゾンビケア(怪我をしてもゾンビは何処吹く風なので放置すると腐って大変)とか。
美里ちゃんと遭遇した当初にこの情報を得ていたとしたら、「ぐえー、面倒臭いやんけ」とばかりに、頭をカチ割ってからとかまでしないでも、簀巻きにして他のゾンビたち同様に庄内川に投げ捨てていたであろう。変な感じではある。
そんな感じで、美里ちゃんは何もしなくてもご飯にありつけるし、風雨を凌げる屋根もある。人間に突然頭を割られることもない。
ただ、そんな僕に「飼われている」状態が、彼女によって幸せなのかどうかは分からないな。ゾンビは喋れないからね。
また、もし僕がどこかのコミュニティに旅立つことがあるとして、そこが「ゾンビお断り」だった場合に連れて行ってやることはできない。他の飼い主を探すなんててまず無理だから、その時は野に捨てるか、この手でケジメをつけてやらないといけないだろう。そう思うと、ギューッと胸が締め付けられる感じになるのだ。
……とか、何だよこのペットを愛する飼い主のエゴとジレンマみたいなのは(苦笑)
「じゃあ、美里ちゃん。また明日だね」
あうー。
まあ、何はともあれ、僕と美里ちゃんの奇妙な関係は、これからも続くのである。




