バケーション!①
更新だオラァ!!!
……ええと、一年と三か月? ぶりの更新ですね。ハイ。お待たせしてしまって申し訳ございません。
というわけで、作者もあんま覚えていなかった本作の更新です。
とりあえず、一度区切りをつけるまで書こうかなぁ……。
森の中にひっそりとたたずむコテージは、木々の隙間から漏れ出る陽光がまるでスポットライトのようで、幻想的な美しさがあった。
全員で中に入り、まずはコテージの探索から始める。
「うぉ! すごいなこのキッチン。ウィンドウ呼び出しでいろんな機能が使えるのか。現実でもこういうの欲しいなぁ」
「……リュー君。セリフが完全に主夫。わたしはこのソファが気に入った。座り心地が良すぎて、動きたくなくなる。……ぐぅ」
「広いお風呂もついていましたよ! ヒノキ風呂でした! 風情があっていいですね」
「寝室のベッドも信じられないくらいふかふかだったっす。いやぁ、お昼寝がはかどりそうっすねぇ」
「おーい! ロフトあったぞロフト! 天窓から空が見えるし、最高の秘密基地じゃね!?」
普通に設備が豪華だった。全員でコテージの中を見て回り、あれやこれやと大騒ぎ。
現実で泊まるとなると、一体どれくらいかかるんだろう……うん、やめておこう。
今は目一杯楽しむことだけを考えればいい。VRバンザイってな。
それが終われば、食事の時間だ。
備え付けの冷蔵庫(の形をしたマジックアイテム)には、見覚えのある食材から奇妙で奇抜でファンタジックな食材と様々なモノが揃っており。
「この『不死鳥の胸肉』ってのがちょっと気になるな。唐揚げにしたらどんな味がするんだろう」
「そもそも、不死鳥からお肉って採れるんですかね? 死んだら灰になって復活するか、火山の火口に飛び込んで復活すると聞いたことがありますし……お肉、取れなくないですか?」
「確かに……。そうなるとこの肉は……生きたままはぎ取った、とか?」
「こ、怖いこと言わないでくださいよ!」
冷蔵庫から取り出した黄金と真紅輝くというなんとも奇怪な発色をしている肉塊を前に、肩を並べたアッシュと軽口を叩く。
コテージの探索の後は、近くにある湖畔で水遊びをしながらバーベキューの予定である。
定番も定番のド定番であるが、普段インドアゲーマーなメンバーたちにとっては物珍しいらしく、これが結構喜ばれた。
なお、バーベキューセットもコテージの物置にあった。それ以外にもレジャー用品は大体そろっている。本当に至れり尽くせりだな。
準備をするのは俺とアッシュ、そして助手としてアヤメだ。
サファイアは上達してきているとはいえ、まだまだ手早く作るのは不可能。
アポロ? 元から期待していない。
そんでもって後輩なのだが……うん、コイツに関しては俺が「バーベキューの準備をするんだけど……」と言い掛けた瞬間に、ハンモックをひっつかんでコテージからエスケープしやがった。
もう、「バーベキューのじゅん」あたりで動き出していたからな。行動が無駄に早すぎる……。
とはいえ、普段受験生として結構頑張っているみたいだし、こういう息抜きの時くらいゆっくりさせてあげよう。それが先輩からの優しさってもんである。
冷蔵庫からひょいひょいと食材を取り出し、調理台の上で下ごしらえ。
うーん、調味料も色々揃っているから、料理本で見て試してみたかったあれやこれやをやりたくなってしまう。
まぁ、そんなの時間がいくらあっても足りないので我慢我慢。
そんなことを考えつつ、アッシュと二人でキッチンで肩を並べバーベキューの準備を進めていく。
アヤメは盛り付けと運搬係である。小さな身体で下処理を終えた食材をせっせと運ぶ姿は、危なっかしい気がしつつもとても可愛らしい。
なお、サファイアはリビングのソファの住民と化し、アポロはロフトを俺色に染める! とテンションを上げて天井裏に引き籠っている。
後輩は木々の間に吊るしたハンモックの上で優雅に読書をしていた。黒サングラスかけて頭の後ろに片手を置くポーズはシンプルにウザかったとだけ言っておこう。
作業も進み、肉を切り終わり海鮮物の殻剥きを始めた俺の肩が、ちょいちょいと突かれる。
視線をそちらに向けると、エプロンを着たアッシュが小瓶を片手にこちらを見ていた。ん、なんか見覚えがあるような……。
「リュー、少しいいですか?」
「ん、どうしたアッシュ。下処理で分からないところがあったのか?」
「いえ、そうではなくてですね。この『ザ・ソース』という調味料なんですが、見たことがないなぁって」
なんでそんなものまであるんだよ!? スコヴィル値(物の辛さを示す値)710万(タバスコが600~1200)の化け物調味料だぞ!?
何かの動物を象った像のイラストと、シンプルに『THE・SOURCE』と印字された瓶を片手に小首を傾げるアッシュに、戦慄の眼差しを向ける。
「えっ、なんですかその反応。これ、そんな変なモノなんですか!?」
「ああ……下手をすれば人が死ぬかもしれない」
「ひええぇ!? ど、毒か何かですか!?」
「ううん、調味料」
「調味料!? 人が死ぬ調味料ってなんなんですか!?」
摂取量によってはマジで死人が出る代物だからなぁ。ゲームの中だからその辺は緩和されているだろうけど……されているよな?
まったく、運営も何を考えてこんなモノを用意したんだか……。モンスター相手に使うと、ダメージが与えられたりして。
自分が持っているモノの正体を知ったアッシュは、焦った様子で瓶を持った手をわたわたと動かしし……。
「はわわわわ、きゃあっ!」
って、バランス崩したぁ!?
マズイ、怪我はしないけど、あの瓶を落としたら大変なことになるぞ!?
「アッシュ、危ないっ!」
俺は咄嗟に転びかけたアッシュに駆け寄り、背中から倒れそうになっている彼女を受け止めようとする。
伸ばした手がアッシュの背中を支え、そのまま彼女の身体を抱き留めた。
瓶は!? ザ・ソースは落ちてないよな!?
慌てて劇物の無事を確認すると、瓶はアッシュが両手でしっかりと掴んでいた。どうやら倒れる直前にこれだけはと握りしめたようだ。
「はぅう~……」
「はぁ、良かった……。大丈夫か、アッシュ」
「は、はひぃ……大丈夫――――ぴやぁ!?」
ぴやぁ?
転んだ拍子に閉じていた目を開いたアッシュは、俺と目が合うなり素っとん狂な声を上げてピシリと固まってしまった。
みるみるうちに顔が赤く染まっていき、プルプルと全身が震えだす。
「ア、アッシュ?」
「リュ、リューぅ……。ち、近いですぅ……」
近い……? あっ。
よくよく考えると、この体勢って……お姫様だっこ?
慌ててアッシュを立たせて、バッと距離をとった。
「ご、ごめん、アッシュ! その、不躾だった!」
「い、いえ! 私こそ、不注意でした! ご、ごめんなさい!」
そして、二人してペコペコと頭を下げあう。傍から見ると滑稽な光景だった。
アッシュは顔を真っ赤にして、視線を逸らしつつもチラチラとこちらを見てくる。
その、そこまで思いっきり意識されると、こっちも恥ずかしくなってくるんですが……。
「……………………」
「……………………」
気まずい沈黙に、俺も自然と視線をそらしてしまう。
ちらりと視線を相手に向けては、すぐに逸らす。
うっかり目が合ってしまった時は、バッと勢いよく。
そんな奇妙な静寂が流れ、どうしようかと悶々と考えていると……。
「……なに、してるの?」
「「!!??」」
ひょっこりとキッチンのカウンター越しに顔を覗かせたサファイアが、胡乱気な眼で俺たちを見ていた。
「ど、どうしたサファイア? 準備はまだ終わってないぞ?」
「も、もう少しゆっくりしててもいいんですよ?」
俺とアッシュはそろって何でもない風を装うが、サファイアはさらに目を細め、「……ふーん」と全く信じていないような反応をした。
「さ、さぁて。さっさと残りも終わらせちゃうか。あんまり待たせるのも悪いからな」
「そ、そうですね。そうしましょうっ!」
「……じゃあ、わたしはここで見てる」
サファイアの言葉にぎょっとして、思わず彼女の方を見てしまう。
アッシュも俺と似たような反応をしており、視線の温度を下げたサファイアはカウンターの端を両手でつかんで、梃子でも動かない様子を見せる。
説得する言葉も思いつかず、その状態で準備を再開したのだが……。
「……じー」
((き、気まずい……!))
ひっじょーにやりにくかった。肉を切り分けている時も、海鮮を串に刺している時も、サファイアの視線が全身に付きまとってくるようで、妙に動きがギクシャクしてしまう。
というか、なんで誤魔化したりしたんだよ、俺ぇ……。普通に説明すりゃ良かっただけだろうに……。
自分の行動に内心で首を傾げつつ、極力サファイアの視線を気にしないように、俺は準備を進めるのだった。
「……じーーーー」
「「……………………」」
「………………(きょとん?)」
俺らを見つめ続けるサファイアと、黙々と準備を進める俺たち。
お皿を運びに戻ってきたアヤメは、そんな光景を見て不思議そうに首を傾げるのだった。
読んでくれてありがとうございました!
久しぶり過ぎてちゃんと書けてるか分かりませんでしたが、どうでしたかね?
ここからは作者の別作品紹介
『TSしちゃったからスパチャ暮らし求めてVRゲームの実況者になります ~見た目メスガキ、頭脳は修羅~』
https://ncode.syosetu.com/n2841hb/
突然TSしてしまった主人公が、配信者になってVR世界であれやこれやするお話。
ソロ神官のリュー君がメイスブンブン丸なら、こっちのTSロリのヴェンデッタちゃんは大鎌ブンブン丸です。
興味がある方はぜひに読んでいただけると幸いです。
ではでは、またいつか。




