バカンス前にひと騒ぎ
お久しぶりです。
数日後、アトリエ『モノクロ』に、俺たちは集まっていた。
メンバーは、俺、アポロ、サファイア、アッシュ、マオ、アヤメの六人。
いやぁ、急な誘いだったのに、こんなに早く予定が合うとはな……みんな暇だったのか? いや、アポロとサファイアは確実に暇だけど。昨日も一昨日も普通にFEOしてたし。
今日はいつもより早くFEOにログインして、時間通りに全員集合したわけだが……。
「バカンスに、行きたいかー!」
「「おーーッ!!」」
「お、おー」
「…………(ぐっ)」
馬鹿みたいに叫んだアポロに、他の面々も追従する。こういうことをやらなさそうなアッシュまで……と言うか、アヤメ―? お前はそっち側に行ってほしくないって、俺思うなー?
ああ、楽しみなのはわかるが、なんだそのハイテンション。先が思いやられるにも程があるぞ……ちょっと、帰りたくなってきた。
「どうしたリュー? もっとテンション上げてけよ~!」
「……リュー君、寝不足? 楽しみ過ぎて寝れなかった?」
「先輩先輩、なーに暗い顔してるんすか? 今は、やなことなんてパーって忘れて楽しむ時っすよ! 具体的には、受験勉強とか!」
「…………ああ、うん。そうだね」
ダメだこいつら、すでに頭をやられている……! 完全に言動が浮かれポンチだ。
ハイテンション三人組の騒がしい声を脳味噌の端っこに追いやった俺は、救いを求めてアッシュの方へ視線を動かす。
アッシュとなら落ち着いて話せるはず。アポロのアホに乗せられてたのも、周りに合わせているという感じだったし――――はい?
一瞬、思考が停止する。頭の中に入ってくる情報が処理しきれない。
「ア……ッシュ? アッシュ、だよな……?」
「はい、そうですよ? ふふっ、リューはおかしなことを聞きますね」
くすり、と上品に微笑んで見せたアッシュ。うん、いつもの可愛いらしいアッシュだ。
テンションもいつも通り……なのだが。
「あの、アッシュさん? その格好は、一体……?」
「ああ、これですか?」
そう言って、その場でくるり、と一回転して見せたアッシュ。
さっきまで、いつもの作業服を兼ねた装備を着ていたはずのアッシュは、いつの間にか……本当に、視線を逸らした数分の内に、装いがガラリと変わっていた。
大胆に肩と胸元を露出した純白のワンピース。頭の上には涼し気な麦わら帽子。足元にはサンダルが。
それだけなら可愛らしい夏の装いなのだが……肩に掛けた浮き輪と手に持った水鉄砲、そしてそのやけにファンキーなサングラスは何? どういう方向性なの?
「どうですか? バカンスに行くと分かった日から超特急で作った夏用装備一式は! ちなみにこの浮き輪は投擲武器で、水鉄砲は杖装備に分類される装備アイテムなんですよ! サングラスは炎耐性を付与するアクセサリー装備です! ちなみに、皆さんの分もちゃんとありますよ?」
「え、見た目装備じゃないのか、それ!?」
「ふふん、驚いてくれたようで何よりです!」
そう言って珍しくどや顔をするアッシュ。サングラスをくいっ、とやる仕草がなんともイラッと来るな。
というか、バカンスに行くと分かった日からって……え、この短期間で作ったのか? な、なんという技術の無駄遣い……いや、凄いんだけどね?
「……むっ。アッシュ、何それ。楽しそう」
「はぇー、それアッシュが作ったんすか? 相変わらず生産能力とコミュ力が反比例しているようっすね。ちょっと見せてくださいっす……って、わぁお。かんっぜんにネタ装備なはずなのに、前線でも使えそうな性能してるぅ……」
「ふふん、どうです二人とも? すごいでしょう?」
「……うん、すごい。ある意味」
「いやぁ、凄いっすよ。こういうのを無駄に洗練された無駄な技術って言うんすねぇ」
「そうでしょうそうでしょ……あれれ? なんかおかしくないですか?」
はて、と首をかしげるアッシュ。二人には完全に呆れられてるけど……まぁ、何も言うまい。
そんな他愛もないやり取りをしつつ、「皆さんの分もありますよ?」と言ってくれたアッシュに倣って、装いを変えることに。
まぁ、せっかくのバカンスだ。格好から入るのも悪くないだろう。
アッシュから装備を受け取り、皆でそれに着替えた……のは、良いんだけど。
あの、お前らは何をしてるの? 人の前で奇妙なポーズをとったり、妙にムカつく顔をしたりして、いったい何がしたいの? ねぇ?
思わず向けたジト目に、返ってきたのは。
「……感想、求む」
「はぁ~~。空気が読めてないっすねぇ、先輩。可愛い後輩ちゃんが可愛い格好に着替えたんですよ? 先輩としてやるべきことがあるってもんでしょう! さぁさぁ、先輩? 思う存分後輩ちゃんの可愛さを堪能して、そして盛大なる賛美を送るっすよ!! 分かったっすか? 理解できたっすか? だったら早くするっす! ハリーハリー!」
頭が痛くなるようなセリフだった。
め、めんどくせー……。妙なポージングをしながらどや顔を決めるサファイアも、胸を張って早口でまくしたてる後輩も、思わず張り倒したくなるほど面倒だ。
お前ら、あっちでサングラス三つ掛けとかアホなことしてるアポロよりずっとめんどくさいぞ? 良いのかそれで。
……ただ、まぁ。素直に認めるのが癪に思える程度には、二人の格好は魅力的だった。格好は。
サファイアはアッシュと同じく白を基調としたワンピース。
ただ、アッシュがノースリーブのシンプルなものなのに対して、サファイアのはやけにフリフリした袖が付いていたり、裾にフリルが施されていたりと、全体的にふんわりとしたもの。
普段はサイドテールにしている髪を下ろしており、一見すると良家のお嬢様に見えなくもない。
無い胸を反らし、片手を頭の後ろに当ててせくしーぽーず(笑)をしていなければ、だけどな。
ちなみに、背伸びをした子供に対する微笑ましさすら欠片も湧いてこない。ただただウザいだけである。
そして、ウザさの化し……後輩。
赤いチューブトップに丈の短い半そでのシャツ、デニム生地のやけに丈の短いパンツと露出度がやけに高い。正気度と共に布面積まで失わなくても……。
髪型は高い位置でくくったポニーテール。健康的で明るい雰囲気は、真夏の太陽を思わせる。鬱陶しいところとか特にそっくりだ。
前かがみになってこちらにウインクし、拳銃の形にした指先を向けるというアメリカンなポーズをしていなければ、素直に褒める気にもなるんだが……。
「……リューくんが、じっとわたしを見てる。見惚れちゃった? きゃっ」
「先輩も私の艶姿に夢中みたいっすねぇ。後輩ちゃんにメロメロっすか? きゃっ」
「…………はんっ」
「「鼻で笑われた(っす)!?」」
ギャーギャーと喧しくなった二人はとりあえず放っておこう。あそこでビーチパラソル二刀流とかやってるアポロも放置だ。
ん? そういえば、アヤメは……?
そう思ってあたりを見渡そうとしたその時、とんっ、と腰の後ろあたりに軽い衝撃が走った。
「おっと……ん、アヤメか?」
「………………(じー)」
振り返って見下ろすと、そこには服の裾を両手でチョコン、とつまみながら上目遣いで見つめてくるアヤメの姿が。例にもれず、その装いは変わっていた。
綺麗な朱色の生地に、白い花が描かれた模様の浴衣。黒い帯に真紅の飾り紐が揺れている。
丈は短く、太ももの半ばあたりで切れている。無表情だけど見た目相応に無邪気でやんちゃなアヤメにはこっちの方がいいというアッシュの配慮だろう。
うん、素直に可愛い。さすがアッシュ、いい仕事をする。
「アヤメも着替えたのか? よく似合ってるぞー」
「………………(ぴこぴこ)」
くしゃり、とその白銀の髪を撫でてやると、ワンコ……否、狼耳がピコピコと揺れる。その可愛らしい姿になでなでを継続すると、今度は尻尾まで揺れ始めた。
「うりうりー」
「………………(♪)」
「ははっ、アヤメは可愛いなぁ」
そうやってアヤメを愛でていると、ふと、背中にぐさっぐさっと強めの視線を感じた。
肩越しに振り向くと……うわぁ。
「……ひいき」
「あれはえこひいきっすねぇ……」
「……リュー君は、アヤメにだけ甘い。もしかして……ロリコン?」
「アヤメちゃんはさすがに事案っすよ、先輩。年下が好きなら、可愛い後輩ちゃんとかにしとかないっすか? お買い得っすよ、私」
「……わたしも、ちっちゃいよ?」
ジトォ……という瞳をしたサファイアと後輩が、好き勝手なことを言っていた。うん、これはちょっと放置しすぎたか?
でもなぁ、あそこで下手に褒めでもしたら、確実にウザさが跳ね上がってたと思うし……バカンスに行くのに疲れるのはマジで勘弁なんだが。
はぁ、と溜息を一つ。アヤメの頭を撫でる手は止めず、半眼シスターズと化した二人に向かって口を開く。
「はいはい、二人とも似合ってるよ。可愛い可愛い」
「「雑!?」」
ギャーギャー騒ぐ二人からさっと視線を逸らし、もう一度溜息。
出発する前からコレとか……向こうではこれ以上? マジで言ってる?
行く先に待ち受ける混沌に憂鬱な気分になった俺は、こてん、と小首を傾げるアヤメの姿に癒しを求めるのだった。
漫画が発売されるらしいので、記念というわけではないですが更新です。
明日も出来たら更新します。




