リバイヴ・オブ・ディスピア 理由
ハイ、決闘終わり。
《チーム:オロボスが全滅しました》
《勝者、プレイヤー:リュー! おめでとうございます!》
《バトルフィールドを解除します》
感情を欠片も感じさせない機会音声がリューを祝福し、闘技場から元の草原に景色が戻った。
「ん~~~! 楽しかった! いろいろ試せたし、中々に有意義な戦いだったなぁ」
大きく伸びをしながら、オロボスたちが聞いたらまた怒り狂いそうなことを言うリュー。ほっからかしにしていたアーツの検証や、魔法封印下での戦闘の体験などができたことにご満悦である。
特に、最後に使用した《狂信の聖戦士》のアーツ【自己本位的教義】は、効果がピーキーすぎて、今まで使う機会が無かったのだ。
このアーツ、最初に教義と定めた行動に大幅な補正が入り、それ以外の行動に強烈な弱体がかかるというもの。今回リューは【戦棍での打撃】を教義と定め、その結果、一度ぶち抜けなかった防御を突破できたり、相手の攻撃アーツと素の打撃で撃ち合えたりしたわけである。ちなみに、回避行動や防御行動にまでが弱体化されるので、最後の方は完全に紅戦棍での攻撃一辺倒になっていたのだ。
戦いが終わり、ほっと一息ついたリューに、ずっと戦いを見守っていたイーリスが駆け寄る。
「リュー様! おめでとうございます! 凄かったです!」
興奮した様子で言うイーリスに、リューは戦闘中のものとは違う優し気な笑みを浮かべ、「ありがとうございます」と言った。
「本当に、リュー様は強いんですね。昨日のボスモンスターの討伐で、それは分かっているつもりでしたけど……それ以上でした」
そう言ってリューをまっすぐに見つめるイーリスの瞳は、ものすごくキラキラしていた。まるで、憧れのヒーローを前にした子供のような瞳だった。
そこからイーリスは、リューの何処がどうすごかったのかを矢継ぎ早に説明し始めた。「かっこよかった」だの「素敵でした!」だの「思わず、目を奪われてしまいました」といったムズかゆくなりそうなセリフがポンポン飛び出してくる。
最初は、笑顔で対応していたリューだが、その内恥ずかしくなったのか頬に赤みがさしていく。それにお構いなく賞賛を続けるイーリス。正直、戦闘中よりもダメージを受けているリューだった。
「……クソッ! クソクソクソクソォ!! なんなんだよアレ……。何なんだよぉおおおおおお!! ありえねぇだろ! こっちは十二人もいたんだぞ!? なのに、なんで……なんで俺らが負けてんだよ!?」
そして、リューとの決闘に負けたオロボスは、癇癪を起こすように、自身の不満を言葉に変換してあたりにぶちまけていた。
彼の中で、今回の決闘は絶対に勝てるものだった。自分が負けることなど微塵も考えていなかったのだ。しかし、現実とは非情である。負けは負けで、彼の『ギルドをもっと有名にして、トップギルドの仲間入りを果たす』という夢想は、夢のままで砕け散った。
そして、砕け散ったのは彼の夢だけではなかった。
「あは、あはは……。神官って……神官って……」
「笑った顔が……迫ってきて……うぅ!?」
「人を……ゴミみたいに投げ飛ばしやがって……チクショウ……」
「……オレ、何もできなかったよね……。気が付いたら……転がって……ぶん殴られて……」
「笑顔怖い。メイス怖い。神官怖い」
「何が起きたのか分からねぇと思うけど、俺にも分からねぇ……いきなり、頭上から降って来たんだ……。こう、口元が三日月みたいにニタァって裂けてるんだよ。あれは……神官なんてチャチなもんじゃねぇ……。もっと恐ろしい何かの片鱗を味わったぜ……」
「アイツ、癖になってんのかな……人殴りながら笑うの……」
「「…………あれが、私たちと同じ、神官職ですか…………」」
「なぁ……俺の体は……ゴム鞠か何かなのか……?」
「…………………………」
リューを相手にした【ライトイーター】たちは、全員が全員、何かを砕かれていた。常識、自尊心、戦う前まであった自信……。もはや、欠片も残っていない。
代わりに彼らに植え付けられたのは、『二度とアイツとは戦いたくない』という強迫観念染みた決意と恐怖の感情。きっと、向こう三日は彼らの夢に笑う神官が顔を出すことになるだろう。
「「「「…………………………」」」」
そして、決闘騒ぎを聞きつけて集まって来た野次馬たちは、皆無言でリューと【ライトイーター】を見つめている。彼らがリューに向ける視線にこもっている感情は、畏怖。そして、【ライトイーター】達には憐れみとか同情の視線が集まっていた。
オロボスたちが先にリューに絡み、その結果こうなったことを知っていても、思わず同情せずにはいられないほどに、今の決闘は酷かったのだ。もはや戦闘の体を成しておらず、リューが【ライトイーター】たちを笑顔で叩き潰していく光景は、彼らの頭の中に『蹂躙』というワードを嫌でも連想させた。
「それでですね! リュー様が……」
「い、イーリス様! そのくらいにしてください! そろそろ恥ずかしくて死にそうなんですけど!」
とはいえ、野次馬に衝撃を与えた当の本人はそんなことを気にせず、聖女様とイチャコラしているだけなのだが。独り身男性プレイヤーたちから『チッ』という音が響く。向けられる視線が、半分くらい殺気立ったモノに変わった。
褒め殺しをしてくるイーリスを何とかなだめたリューは、彼女に「少し待っていてください」と告げると、いまだにへたり込んでいるオロボスたちの方へ歩み寄った。
すわっ、追い打ちっ!? と野次馬がざわめく中、自分たちを蹂躙した張本人の接近に、オロボスたちの顔面が蒼白になる。
「な、ななななな何だてめぇ!? ま、まだやり足りねぇってんのか!?」
「え? 何? もっかい戦ってくれるの?」
「「「「「いやほんとマジで勘弁してください」」」」」
即座に土下座。皆で土下座。同じギルドに所属しているというだけでは生み出せない脅威のシンクロ率。おなじ恐怖を味わったものとしての本能があってこその行動だった。
そんな彼らに若干引きつつ、リューは真剣な表情で「一つ、言っておきたいことがある」と告げた。
「な、何だよ。言いたいことって……」
「雑魚じゃないからな」
「……はい?」
どんな恐ろしい事を言われるのか。例えば、「あれくらいじゃ足りないなァ……命が」とか言われるんじゃねぇの!? と、戦々恐々としていたオロボスたちは、リューが放った言葉の意味が分からずにきょとんとする。
そんな彼らに、リューはもう一度、今度はより分かりやすく告げた。
「アポロは、雑魚じゃない。あと、イーリス様を怖がらせてんじゃねぇよ。最重要人物だぞ」
「言いたいことはそれだけだ」と最後に占め、もう用はないとばかりに背を向けるリュー。オロボスたちはポカーンとした表情で、それを見送った。
今回の決闘、リューにしては相手を叩きのめすことを優先した戦闘だった。その理由が、これである。
異端の神官は、下の子への害意を絶対に許さない。
つまりは、そういうことだった。
この後、【フラグメント】の訓練中にいきなり乱入し、アポロに対して驚異的なシンクロ土下座をかますオロボスたちの姿が見られたそうな。
次は……けいじばんかな?
感想、評価、ブックマを付けてくださった方々、本当にありがとうございます!
『彼岸の華が咲く頃に』もよろしくね!
https://ncode.syosetu.com/n5579ev/




