表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソロ神官のVRMMO冒険記 ~どこから見ても狂戦士です本当にありがとうございました~  作者: 原初
四章 初イベントと夏休みの終わり編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

191/250

リバイヴ・オブ・ディスピア 夕食

一日目、終了

 リュー達の特訓は日が暮れるまで行われた。

 【フラグメント】のメンバーはみな、対空戦闘の技量がこの時間だけでかなり上がったであろう。それだけ空飛ぶリューとサファイアのコンビは厄介だったのだ。

 手の届かない遥か高み(物理的に)から降り注ぐ無数の魔法と、縦横無尽に飛び回る魔力の剣。その二つが妙に息の合ったコンビネーションで放たれるのだ。パーティープレイのできないリューであるが、その不調を上回るほどのフォロー力をサファイアが発揮した結果であった。

 それは、リューと自然に、なおかつ長時間密着できたサファイアの調子が絶好調であったことも関係しているのかもしれない。サファイアは努めて無表情を保とうとしていたが、唇の端っこがぴくぴくとしていたことはリュー以外の全員が気づいていたのだった。

 

 そして、アポロが三十七回目の空中浮遊(強制)を楽しんだあたりで訓練はお開きとなった。外はすでに暗く、月が出ていた。



「……ここって、あの骨野郎の作った異空間何ですよね? 今更ですけど、この空とか月とか、どうなってるんですかね?」


「さぁ……古代の魔法によるものと思われますので、私にもさっぱりです」



 夜空を見上げながらそんなことを話しているリューとイーリス。戻って来た執務室の窓から見上げる夜空はまさに満天の星空と呼ぶべき見事なもので、じっと見つめていると思わず感嘆のため息が口から漏れてしまうほどである。

 そして、イーリスはふとあることに気が付いてしまう。



「(あれ……? もしかしてこの状況……なんか……恋愛小説っぽくないですか!?)」



 自分の思考に、思いっきり赤面しそうになるのを必死にこらえるイーリス。

 なんかアホっぽい思い付きだが、シチュエーション的にはあながち間違っていない。

 狭い室内で若い男女が二人っきり。時刻は夜。二人で一緒に綺麗な星空を窓から眺めている。確かに今から告白シーンに移っても何らおかしくない感じではある。

 実はこの聖女様、教会にある自室の本棚には聖書や宗教関連の本よりも恋愛小説などの娯楽小説の方が多くしまわれていたりするのだ。聖女とは言えども年頃の女の子だということだろう。

 ともあれ、リューはイーリスくらいの子供相手にそういった感情を抱くロリコン野郎ではないので、ここからラブストーリーちっくな展開が繰り広げられることはなかった。

 イーリスがちょっぴり残念そうにため息を吐いたのを見て、リューは不思議そうに首を傾げるのだった。







「はい、できましたよ。いっぱい食べてくださいね」


「「「「「「「うぉおおおおおおおおお!!」」」」」」」



 城の中にある、イベントに参加したプレイヤーたちが全員集まっても大丈夫なほど広いホールでは、炊き出しが行われていた。

 ギルド【クラフト】に所属する料理人や、各ギルドに所属する専属の料理スキルもちなどが集ってプレイヤー達にふるまう料理を作ったのである。

 作られたのはカレーや豚汁といったいかにもな感じのもの。どこかのお祭りでしか見たことのないようなデカい鍋がいくつも並んでいる光景は壮観であった。

 プレイヤーたちは一糸乱れぬ動きで列を作ると、次々に料理の入った皿を受け取っていく。受け取った後は思い思いの場所で、思い思いの相手とその料理に舌鼓を打つのだ。なお、ホールの隅っこの方で一人寂しくカレーをぱくついているプレイヤーもいたが、誰にも相手にされていなかった。



「ふわぁ! リュー様、これ、美味しいです!」



 その中に混じっていたイーリスは、カレーを一口食べると、目を輝かせてリューにそう言った。そんなイーリスの様子に微笑みを浮かべながら、「そうですね」と同意を示す。

 イーリスの微笑ましい様子に、周りのプレイヤー達も自然と笑顔になる。聖女様の神聖さではなく、イーリスという一人の少女の可憐さがいかんなく発揮された結果であった。



「私、こんなに大勢の人と一緒にご飯を食べるの、初めてです。それに、こんなに賑やかなのも」


「そうなんですか?」


「はい。教会での食事は基本的に私一人ですから。それに、食事は静かに行うものだと教えられてきましたから……」



 そういって儚げに微笑むイーリスの脳裏には、普段教会で食事をするときの光景が流れていた。静謐な食堂で、世話係の人間に見守られながら並べられた料理を口にする。そこに会話などは一切なく、機械的なものだった。

 


「こうしてリュー様や皆さんと一緒の食事は……すごく、楽しいです」


「……そうですか。俺も、イーリス様と一緒に食事ができて、嬉しいですし、楽しいですよ」



 本当に嬉しそうに、満面の笑みを浮かべて言うイーリスに、リューは優しい言葉を返す。周りにいたプレイヤー達も、口々に同意を示し、誰もが笑顔になった。

 こうして、イーリスを中心にしてホールはどんどん騒がしく、にぎやかになっていく。それがどんちゃん騒ぎになるのも時間の問題であった。


 こうして、イベント一日目の夜は、明るい喧騒と共に過ぎていくのだった。


 その裏に潜む、悪意の存在を隠しながら……。



 

感想、評価、ブックマを付けてくださった方々、本当にありがとうございます。


新作『彼岸の華が咲く頃に』もよろしくね!

https://ncode.syosetu.com/n5579ev/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ