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ソロ神官のVRMMO冒険記 ~どこから見ても狂戦士です本当にありがとうございました~  作者: 原初
三章 蒼の嫉妬と長い一日編

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終わりの夜 終幕

えーっと。はい、どうも、原初です。お久しぶり? です。


更新、滅茶苦茶遅れました。

マジですみません。

海よりも深く反省いたします。



とまぁ、謝罪はこのくらいにして、長かった蒼編も、これで最後です。


流と蒼、二人の関係は、どうなるのでしょうか?

 俺は、蒼の真意を測りかねていた。

 

 どうして、いきなり不機嫌になったのか。

 どうして、いきなり甘えようとしてきたのか。

 どうして、恋愛話なんてしようと思ったのか。


 俺が困惑していると、蒼は「じゃあ……わたしは?」と、ぽつり、つぶやいた。


 蒼は……俺にとって蒼は、幼馴染で、腐れ縁で、手のかかる妹で、大切な家族。今までだってそうだっし、これからもそうだと思う。


 血はつながってなくても、手のかかる、大切な、妹。


 そう、言葉にして蒼に伝えた。



「…………そっか、やっぱり」


「やっぱりって……。俺が何を言うか、分かってたのか?」


「ん。流にぃのことなら、なんでもわかる」



 そう言って微笑む蒼。けれど、やはりその笑みは普段のそれとは違っていた。そして、そのどこか違う笑顔は、否応なしに俺の心をざわつかせる。


 その後しばらく、俺も蒼も一言も発することのない、静寂が訪れた。

 聞こえるのは微かな息遣いと、虫の鳴き声。心地の良い静けさに、ついつい瞼が落ちそうになる。……もうすぐ、零時。日付が変わる。


 俺は左肩を下に体を横にして、蒼の方を向く。蒼も、俺の方に体を向けていた。


 ベッドの上で蒼と二人、無言で見つめ合う。


 俺の顔を映すその瞳は、混じりあう感情で揺らいでいる。俺に向けられる視線は、俺の不安を煽る。どうして……。



 沈黙に耐えられず、俺は言葉を漏らした。



「蒼……。俺に、どうしてほしいんだ?」



 ――何かを、求められている。



「俺に、何をして欲しいんだ?」



 ―――たぶんそれは、とても大切で、かけがえのないもの。



「俺に、何を知ってほしいんだ?」



 ――――たぶんそれは、俺の知らないもの。まだ、俺の中にないもの。



「俺には、お前がどうしたいのかが分からない。分かってやることができない」



 ―――――俺が、『 』を知らないから、理解できないから、持っていないから。

 


 ……お前は、そんな風に悲しそうな色を瞳に映すんだろう? 




「だから、教えてくれないか?」



 お前のことを分かってやれない馬鹿な俺に。



「蒼が俺に求めるものを」



 お前の望みを。



「蒼が俺にして欲しいことを」



 叶えてやる、なんて言えやしないけど。



「蒼が思ってることを」



 お前の笑顔を曇らせる原因を。



「はっきりと、俺にも分かるように」



 お前自身の言葉で。



「蒼――」





「――――――――教えてくれ」



 俺に、『 』を。



 

 ―――流が、そう言いきった瞬間。カチリ、と音がした。


 それは、時計の長針と短針が触れ合う音。


 時計が示すは、午前零時。


 すなわち……『今日』が終わり、新しい『今日』が来たということ。


 そしてそれは……………、


 

 終わりの、始まりだった。


 



 ――――ドサッ。



「なっ!?」



 驚きに目を見開き、それを見つめる。



「い、いきなりどうした……蒼」



 それ……俺の腰あたりに馬乗りになり、俺を見下ろす蒼。圧迫感はあるが、蒼の体は軽く、苦しくはなかった。


 急に人の上に乗って来た理由を問うたが、返答はない。

 

 少しうつむいており、前髪のカーテンがその顔を隠し、その表情を見ることはできない。


 しかし、なにか……。何か、嫌な予感がした。



「蒼……」



 妙な胸騒ぎに意識を奪われそうになりながらも、蒼に再度声を掛けようとした。



「えっと、何を……」


「流にぃ」



 それは蒼に遮られる。それ以上は口をつぐみ、ただ視線だけを蒼に向ける。これから告げられることを、聞き漏らしてはいけない。そんな気が、なぜだかした。


 前髪の影で隠れた蒼の顔。その中で唯一うかがい知れる口元が、きゅっと結ばれる。まるで、何かを決意するかのように。


 そこから放たれる言葉は、一体………。



 蒼が、ふっ、とうつむかせていた顔を上げた。


 そこに浮かんでいる表情を、俺はとっさには言葉にはできなかった。


 瞳は潤んで熱を帯び、それでいて強い覚悟の光を放っている。


 頬は紅に染まり、しかし口元は緩まず真剣さを表すように一文字を描いている。


 蒼と一緒にいた十五年と数か月。ほぼ毎日顔を合わせている彼女の、初めて見せるその表情に、俺は胸をかきむしりたくなるような衝動が走るのを感じた。

 けれど、動けない。

 蒼の視線によって縫い付けられたかのように、体は動かず、視線は蒼にだけ向けられていた。


 蒼の言葉の続きを、聞きたい。けれど、聞きたくない。


 幼馴染で大切な妹。そんな彼女の自分に見せたことのない表情に、そんな相反する思いすら抱いてしまう。


 

「流にぃ、わたし……」



 一文字に閉じられていた唇から、震え声が紡がれる。聞いているこっちまでも揺さぶられてしまいそうな声音に、俺は頷くことで言葉を促すことしかできない。


 完全に俺は、蒼の雰囲気に飲み込まれていた。


 蒼の口が開かれる。



「わたし、流にぃの妹を、やめる」



 そこから零れ落ちた言葉は、雨垂れのごとく俺に当たり、弾けた。

 はじけ飛んだ欠片が、俺の耳に当たる。耳の中に侵入してきたそれは、じわり、と染み込むように、脳内に入り込んだ。

 けど、そこで理解が止まる。



「…………え?」


「だから、わたしは流にぃの妹をやめる。兄妹関係、抹消」


「えっと……? それはあれか? 反抗期的なアレか? それだったら俺、お前の教育に関して一から考え直さなくちゃいけないんだが……」


「そうじゃない」



 えっと、反抗期じゃないなら、どうして妹をやめるなんて言ったんだ……? というか、実際血はつながってないんだから妹ではないんだけどね?


 困惑する俺をよそに、蒼は言葉を連ねていく。



「妹じゃ、駄目。妹じゃ、わたしの求めるところに行けない」


「…………蒼?」



 蒼が何を言いたいのかが、分からない。その真意を、まるで見抜くことができない。


 そんな俺に追撃をかけるかのように、蒼は言葉を重ねようとする。

 その顔は、最上級に赤くなっている。蒼はためらうように何度か呼吸すると、意を決したように告げた。



「流にぃ。わたしは、流にぃが好き」


「…………俺も、蒼のことは……」


「流にぃの言う『好き』と、わたしの『好き』は違う」


「……好きが、違う?」



 ……どういうことだろうか?


 蒼は、そんな俺を見て、あきれたようにため息を吐いた。



「うん。分かってた。流にぃは、それが分かってないって」


「……それってなんだよ?」


「大抵のことは見ただけで覚えられる流にぃが、これだけは知らないもの。分からないもの。見たことも聞いたことも在るのに、理解できないものがある」



 蒼はそこで言葉を切ると、ベッドに突けていた手を俺の胸元に添えた。そして、ゆっくりと体を前に倒し、顔を近づけてくる。


 そして、



「っん」


「……!?」



 ちゅっ、と。


 俺の唇に、蒼のそれが重ねられた。


 一瞬で、頭の中が真っ白になる。


 唇に感じる柔らかさとか、頬に当たる熱い吐息とか、そんなものを考える余裕は一切ない。


 優しく、触れるだけのキス。


 けれどそれは、俺と蒼の間にあった、『兄妹』という関係を、完膚なきまでに砕く威力を持っていた。



 ……………時間にすれば、十数秒。

 それだけの時間が、俺には無限よりも長く感じられた。


 蒼の唇が、俺から離れた。離れる瞬間に蒼が漏らした「んっ」という吐息混じりの声に、心臓が跳ね上がりそうなほど高鳴った。



「……………こういうこと」



 俺を見下ろす体勢に戻った蒼は、そう言って、真っ赤な顔で悪戯っぽく笑った。


 けど、俺にそれを認識する余裕なんてない。 



「な、なななななななな……」



 『なんで』。そう口にしようとしても、実際に出るのは壊れたスピーカーみたいな『な』の連打。

 

 動揺とか、そんなレベルじゃなかった。

 

 頭の中でいろんなものがぐちゃぐちゃに絡まりあい、修復不可能なほどにぐっちゃぐちゃになっていた。


 顔は、火が出るんじゃないかってくらいに熱い。見るまでもなく、真っ赤になっているだろう。


 目が回っているのか、視界がぐるぐるする。


 なんだこれ。


 本当に、何なんだ、これは。

 

 さっきから、自分の感情が、自分じゃないような動きをする。未知の感情の奔流に、飲み込まれそうになる。 


 分からない。こんなの、知らなかった。




「流にぃ、わたしは、貴方が好き」




 耳に入ってくる蒼の言葉が、どこか遠くに聞こえる。




「この好きは、親愛でも友愛でもない」




 知らなかった何かが、俺の中で形を成す。




「これは、『恋愛』」




 蒼の言葉が、俺の中に沈んでいく。




「燃え上がるように熱く、蕩ける様に甘く、斬り裂かれるほど切ない。これは、そう言う『好き』」




 ……ああ、そうか。




「わたしは、流にぃに、この気持ちを知ってほしい。……その気持ちの向く先が、わたしだと嬉しい」




 何もかもがぐちゃぐちゃな思考の隅で、一つ、確かに分かったことがあった。




「流にぃを狙うとなるとライバルはいっぱいいるけど……。わたしが、勝つ」




 今、俺の視線の先で、言葉を重ね、想いを伝えている蒼は。




 ――――蒼は、幼馴染。




 真っ赤になって、恥ずかしそうに。それでも、しっかりと話す彼女は。




 ――――蒼は、大切な妹。




 まっすぐに俺を見据える彼女は。



 

 ――――そう、思っていた。けれど……。






 蒼は、一人の女の子なのだ。





 ……今更だ。本当に今更で、酷い話だけど。


 今、この瞬間から、俺の中で蒼は、『女の子』にカテゴライズされた。


 

 そんな俺の内心など知る由もない蒼は、幾分か赤みが抜けた頬を緩ませ、笑みを浮かべ、



「だから、もう流にぃの『妹』はやめにする。妹じゃ、恋人にはなれないから」



 最後まではっきりと、そう言いきった。


 ……不思議な気持ちだ。引っかかっていた物が取れたような解放感と、何かに囚われるような圧迫感を同時に感じる。


 少しだけ落ち着いた俺は、蒼の言葉に「あ、ああ……」と短い返事を返した。



「ふふっ、流にぃ、真っ赤」


「うるさい……。今は余裕がないんだよ……。ぐちゃぐちゃしてぐるぐるして……。何が何だか、さっぱりだ……」


「流にぃがそんなんじゃ、返事、貰えそうにない」



 ……返事。返事か。


 そうだよな。俺、蒼に告白されたんだよな。それに……き、キスも……。


 うう、顔が熱い。思い返すだけで、どうにかなりそうだ。



「……ヤバい。顔真っ赤で照れてる流にぃヤバい。襲いたい欲求がむらむらと……」



 蒼が何か変なことを言った気がするけど、それどころじゃないから聞こえなかった。


 蒼からの告白。その返事をどうするか。


 告白……つまり、好きと言ってくれるのは素直に嬉しい。それに、俺だって蒼のことは好きだ。


 ……けど、その好きは、今のところ、蒼の言う『恋愛の好き』とは違うもの。


 

「……やっぱり。流にぃは違うんだ」


「……ああ。悪いけど、俺はお前に『恋』していない」


「っ! ……ん。知ってる」



 はっきりと否定すると、蒼の表情が分かりやすく歪んだ。チクリと胸が痛んだが、嘘をつくわけにもいかない。



「流にぃ。わたしは、あきらめない。絶対に、流にぃをわたしの虜にして見せる」


「……そうか。俺からは、なんにも言えないな」



 泣き笑いの顔で言う蒼に、俺は曖昧に微笑むだけだ。頑張れ、というわけにもいかない。まだ、俺自身の気持ちに整理がついていないのだ。何かを言うのは愚策だろう。


 

「けど……。うれしかったよ」



 それでも、これだけは伝えたかった。

 いまだに俺に馬乗りになっている蒼の顔を見上げ、笑みを作りながら告げる。



「蒼に告白されて、知らなかったものを教えてもらって。凄くうれしかった。ありがとな、蒼」


「……流にぃは、やっぱりズルい」



 ふいっ、と顔を逸らす蒼。拗ねたような横顔からは、泣き跡は見て取れなかった。


 

「……むぅ。わたし、そろそろ自分の部屋に戻る」


「くくっ。なんか、しおらしい蒼って新鮮だな」


「からかうのは禁止。……わたしは、流にぃに甘えないって決めたから」


「……もしかして、今日やたらと甘えてきたのって、最後だから派手にやってやろうとか、そんな感じだったのか?」


「ん。流にぃと一緒にお風呂。久しぶりで嬉しかった」



 お風呂、と聞いて、思わずあの時見てしまった蒼の裸を思い出しそうになり、慌ててそれをかき消した。



「……流にぃ、想像した?」


「な、何のことだ? ほ、ほら、もう部屋に戻るんだろ? 明日もどうせFEOをやるんだし、早く寝た方がいいぞ?」


「……ふふっ、流にぃ、照れてる」


「~~~~~~~ッ! か、からかうのは禁止だ!」


「さっきのお返し」



 心底楽しそうな笑顔を浮かべる蒼を直視できなくて、ふいっ、と視線を逸らす。壁とにらめっこをしていると、ギシッ、と音がして、身体が軽くなった。


 振り返ると、ベッドから降りた蒼が、俺を見下ろしていた。



「流にぃ、最後に一つだけ」


「……なんだ?」


「わたしは流にぃの妹をやめた。だから……」



 そこまで言った蒼は、髪をかき上げながら身をかがめ……ちゅっ、と俺の頬にキスを落とした。


 ビシッ、と固まった俺に、悪戯っぽい笑みを浮かべ、「お休みのキス」とつぶやいた蒼は、くるりと踵を返し、部屋の扉を開けて廊下に出た。


 そして、扉の影からぴょこんと顔を覗かせ、



「流にぃのこと、これから『流君』って呼ぶ。……じゃあ、おやすみなさい」



 そう言い放ち、パタン、と扉を閉じた。


 蒼がいなくなった俺の部屋。硬化が解け、動けるようになった俺は、熱を帯びた頬を抑えながら、ベッドから体を起こした。


 そして、蒼の出ていった扉を見つめながら、ポツリ、



「……………………ふいうちはずるいだろ」



 極力感情を抑えた声で、そうつぶやいた。







 ――――こうして、蒼の不機嫌から始まった長い一日は終わった。



 たった一日の間に、いろんなことがあった。



 とても大きく、重大な変化もあった。



 けど、この時俺が考えていたことは。




「今日は、眠れそうにないな」




 ただ、それだけだった。

ちなみに、蒼は部屋に戻った後、流にキスしたことを思い出してニヤニヤし、告白したことを思い返してゴロゴロするという、流とは違った意味で眠れない夜を過ごすことになります。



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[良い点] 空気中の糖分濃度高すぎでは?ご褒美です。
[一言] 甘すぎて胸焼けしたわ。 これが異世界転生ものならハーレム展開かもやけど現実やから風呂やキスまでして告白したのに断れたんだから正直、蒼には諦めてほしかったかな~ 後々面倒くさいキャラにならない…
[一言] あー口の中が甘ったるい
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