ナナホシ、成長
更新が遅れて申し訳ありません。
もう少し、もう少しで『この一日』が終わるはず……。(蒼が不機嫌になってからまだ一日経過していないという驚愕の事実)
「……ふぅ。まぁ、このくらいにしとくか。結構いい時間だしな」
「はい……。ありがとう……ございまし……たぁ……」
息も絶え絶え、といった様子で地面にうつぶせに倒れているのは、さっきまで俺とドンパチしていたナナホシだ。VR内で肉体的な疲労を感じることは無いので、ナナホシがぜーはー言ってるのは精神的な疲れからだろうが……。うん、ちょっとやりすぎたかな? まさかここまで疲労困憊になるとは……。
けど、丸一日ぶっ通しで戦い続けた成果はこれでもかというほど出ている。モンスターと戦わせてみないと分からないが、今のナナホシなら恐れに身を竦ませることなく立ち向かえるだろう。最後の方は受け身になるのではなく、自分から攻めてこれていたし。
まぁなんにせよ、ナナホシが成長したのは紛れもない事実だ。……ホント、頑張ったよ、こいつは。
「ナナホシ」
「は、ふあい!」
声をかけると、ナナホシはガバリと勢いよく起き上がり……「あれ?」。そのまま、ふらりと頭から倒れそうになった。
「よっと……。大丈夫か?」
「あ……。あ、ありがとう、ございます。リューさん」
とっさにナナホシの後ろに回り込み、両腕で背中を支えるようにして受け止める。うーん、やっぱりやりすぎだったみたいだな。反省反省っと。
内心で自分の行いを悔い改めながら、腕の中にいるナナホシにねぎらいの気持ちを込めて微笑みかける。
「よく、頑張ったな。今日、初めて会ったときとは比べ物にならないくらいに成長したな」
「ふぇ!? そ、そうなんですか!? ぼ、ボク……成長、できてたんですか?」
「ああ、間違いないぞ。最後の方は自分から向かってこれてたし、武器を怖がって無駄が多い回避をすることもまれになった。戦闘中におどおどすることもなくなったしな。今のお前を、その幼馴染たちとやらが見たら、きっと驚くと思うぞ?」
「……本当、ですか?」
「そんなに俺の言葉は信用できないか?」
「い、いえ! そんなことは無いです! ……けど、『ボク』が成長できた……変われたっていうのが、信じがたくて……」
「ふぅん……。そっか、それなら……もう少しだけ、頑張ってみようか」
「…………え?」
やっぱり、長年付き合ってきた自信のなさとの決別は、そう簡単にはいかない様子。それならば、とナナホシをゆっくりと立ち上がらせ、その手を引いて歩き始める。
「え? ちょ、ど、どこに行くんですか……?」
「付いてくればわかる」
困惑した様子のナナホシに、振り返って微笑んで見せながらそう言う。着いてからのお楽しみ……というか、見つけてからのお楽しみ、だな。
サファイアもナナホシの後ろからてくてくとついてくる。
「……むぅ、ずるい。ナナホシ……やっぱり危険……?」
「ちょっ!? りゅ、リューさぁん!? さ、サファイアさんが! サファイアさんの目が!」
「おん? サファイアの目がどうかしたのか……?」
サファイアの方を振り返る。うん? 特に変わったところはないよな? いつものサファイアだ。
「なんともないぞ? 脅かさないでくれよ、ナナホシ。あれか? 訓練がきつすぎた意趣返しか?」
「違いますよ!? さっきまでサファイアさんのボクを見る目が殺し屋みたいに……って、あれぇ!? なんともない!?」
「……ナナホシ、あなた、疲れてるのよ」
「酷くないですか!? というか、変わり身早すぎ…………」
「………ナナホシ?」
「イエ、ナンデモナイデス」
「ん、それでいい」
「……何だったんだ、一体?」
「ナンデモナイデス。リューサン。ナンデモアリマセン」
「ん」
……まぁいいか。それに、そろそろ目的地に到着する。それなりに近い場所にいたから、時間がかからなくて済んだしな。このだだっ広い草原の隅の方にいたら、すでに夕暮れになっているこの時間からじゃたどり着かなかっただろうし。
そんなわけで、到着。
「というわけで、ついたぞ」
「………………えっと、リューさん? なんかすごい嫌な予感がするんですけど……ここって?」
ナナホシが頬を引き攣らせながら聞いてくる。その視線の先には天空を仰ぎながら咆哮を上げる、ハンマーをもった巨人――――『大樹の草原』のボスモンスター、ギガントがいる。
「うん? ボスエリアだけど?」
「帰らせてください!」
「却下。ここが一番分かりやすくナナホシの成長を感じられる場所だからな」
踵を返そうとしたナナホシの首根っこを掴み、そう微笑みかける。
絶望、といった感じの表情を浮かべるナナホシ。……いや、そんなに怯えなくてもいいじゃん? 大丈夫大丈夫、今日頑張ったナナホシならこのくらい余裕だって。あんなデカいだけのウドの大木なんて相手にもならないと思うぞ?
「別に、ナナホシ一人でやれってわけじゃないしな。ちゃんと俺も一緒に戦うぞ? サファイアも手伝ってくれるか?」
「ん。構わない」
「……そ、そうなんですか? で、でも……」
ギガントを前にして、委縮したように身を震わせるナナホシ。俺と戦っていた時は取れていた体の硬さもまた元通りになってしまっている。やはり、人と戦うのとモンスターを相手にするでは勝手が違うのだろうか?
……ふむ、少し、発破をかけるか。
「ナナホシ」
「は、はい!?」
厳しめの口調で語り掛ければ、ビクンッ! と反応して直立不動状態になる。
「安心しろ。あれは俺一人に負けているモンスターだ。要するに、俺より弱い」
「リューさんより、弱い……?」
「そうだ。そんなヤツが相手なんだぞ? 俺に向かってこれたナナホシがアレを怖がる必要がどこにある? 確かに図体は少しばかりデカいが、その分動きはとろい。身体がでかい分動きも分かりやすい。分かりやすい弱点も存在する……ほらな? 怖がる要素なんぞどこにもないだろ?」
「…………た、確かに!」
「そうだ。それでいい。あれはデカいだけの的。もとい、お前が前に進むための踏み台に過ぎない。怖がるな、恐れるな、慄くな。お前ならできる。戦ってみせろ、ナナホシ」
「………………!!!」
そういってから、ナナホシの背中を押す。よろめきながら前に出たナナホシは、俺が押した勢いで前のめりになっていた顔を上げる。
そこに、さっきまでの怯えは存在していなかった。
代わりに、浮かんでいたのは―――――――――――笑み。
自分を奮い立たせるかのような、力強い笑みが、そこには存在した。
「行けるか? ナナホシ」
「ええ……。援護はお願いします、リューさん、サファイアさん」
「任せろ」
「ん」
ナナホシが剣を構えるのに続いて、俺も片手に紅戦棍を、もう片方の手に【ソードオブフェイス】で作り出した大剣を装備する。サファイアも杖を取り出し、その切っ先をギガントに向けた。
「リューさん」
「なんだ、ナナホシ」
「……先陣は、ボクに切らせてください」
「よく言った。構わん、全力でやれ!」
「はいッ!!」
ダンッ、という力強い踏み込みで加速したナナホシが、ギガントに向かっていく。その背に追随するかのように、俺も草原を踏みしめる。
俺より前を走るナナホシの背中を見て、笑み――いつも戦闘中に浮かべているものとは違う――を浮かべる。
迷いないその背中は、とても、かっこよく見えたのだった。
「はぁああああああッ!!」
「おりゃああああああッ!!」
ナナホシと同時に武器を振るい、巨人にそれを叩きつける。もう、視界には敵のことしか映っていない。
……だから、それに気が付かなかった。
俺とナナホシを後ろで見ていたサファイアが、とても思いつめたような表情を浮かべていたことに……。
感想、評価、ブックマを付けてくださっている方々、本当にありがとうございます。




